太陽が西に傾き、街が茜色に染まっていく。夜と言うには少し早いこんな時間に、そそくさと紛れ込むカフェで飲む一杯のアイスコーヒー。 不意に耳に飛び込んできた懐かしい曲。シューベルト作、アヴェ・マリア。この曲が何百年も後に、誰かの「ケの日」を「ハレの日」に変える曲になるなんて、シューベルトは思ってもみなかっただろう(笑)。 アヴェ・マリアのSEがフェイドアウトして、最初の一音が鳴り響く前の一瞬の静寂の中に、私は見る。耳に聞こえない音をたてて、目に見えない扉が開かれていくのを・・・。楽園に続く扉が開かれていくのを・・・。 こっちだ。こっちに来ればいいんだ。 と、音楽が私に呼びかける。自由だ。自由過ぎる。一片のくもりもない純粋無垢な楽しみが、みんなの一番の笑顔が、そこにあった。生きていると悲しみや悩みや不安もあるけれど、この楽園にいる時は・・・、音楽を聴いている時は・・・、それらを忘れてもいいのだ。そんな事を彼らは教えてくれた。 アヴェ・マリアが流れる夕暮れのカフェで、三宅さんを思う。聴いていると映像が浮かんでくるような歌詞を書くライターだった。次々と差し出される美しい街並みや切ない心情に、みんなが酔いしれた。今も三宅さんはその美しい歌詞や歌声で誰かを楽しませているだろうか。 一瞬に現れ一瞬で消えていく花火のように、空間に音楽で絵を描いてくれたグリーンスリーヴス。 楽し過ぎる自由過ぎる楽園の扉は閉ざされてしまったけれど、今も、そしてこれからも、あの残響は私達の胸の奥で途切れる事はないだろう。 太陽と月が入れ替り、街は茜から闇へと暗転していく。見上げる夏の夜空には一つまた一つと星がきらめきだす。 皆さんが素敵な夏を過して下さいますように。 星に向かって祈る私の願いは叶っているだろうか。 アヴェ・マリアを聴いているうちにすっかり氷が溶けて薄くなったアイスコーヒーを飲む。溶け出したのはほろ苦い思い出だけじゃなくて、未来へ向かって歩き出す勇気にも似たフレッシュなアロマも混ざり合っているはずだ。 |
No.993 - 2010/07/03(Sat) 02:00:21
|