![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
○42-00236-01:黒霧:星鋼京 ○「甘くないケーキ」 ○テキスト文字数:1993 13歳の誕生日は、とても苦い物だった。 そのころ、私は何も知らない女の子だった。もう中学生なんだからと、その日、両親は誕生日を祝ってくれなかった。そして気付いたら、私は怒って、泣いていた。だけど両親にもっと怒られて逃げ出した。 私は大好きな祖父に泣きついた。 祖父はいつも優しかった。このときも祖父は「よしよし」と頭を撫でてくれて、誕生日プレゼントを渡してくれた。 それはブローチだった。銀縁の四角い物で、綺麗なエメラルドのはめ込まれている。今なら高そうだと思っただろうけれど、そのときはただ、綺麗だな、と思った。 たったひとつの誕生日プレゼント。私は嬉しくて嬉しくて、ありがとうと言って、また泣いてしまった。 それが、無き祖母の形見だとも知らずに。私はただただ喜んだ。 ある日、私は学校の帰り道に、捨てられた子猫を見つけた。私はそれを連れて帰ることにした。誕生日も祝ってくれない両親とは違う。私は優しいんだと、それを示したくて。 案の定両親には怒られた。今すぐ捨ててきなさい、猫なんか飼えませんと顔を真っ赤にして怒鳴られた。 それを無視して、祖父のもとに行った。優しい祖父ならわかってくれる。私のことを褒めてくれる。私は、誕生日さえ祝ってくれない両親とは違う、優しい子だから。 だけど。祖父は、厳しい顔をして、褒めても、頭を撫でてもくれなかった。 「おまえは子猫をどうするつもりだい?」祖父は今まで聞いた事の無いような淡々とした声で言った。 「も、勿論、飼うの……面倒を見るの」 「どうやって? 餌は? お前が学校に行っている間は?」 「……お、お祖父ちゃんは、反対なの?」 「質問に答えなさい」 あくまでも静かに祖父は問う。両親のようにがなりたてるのでもなく、じっとこちらを見て、答えを待つ。 私は、でも、祖父の問いの答えをひとつも持っていなくて。 「で、でも、可哀想……」 「そうだな。だが、可哀想だから? お前は、何をする? 可哀想だから子猫を拾った。その気持ちは、とても優しいものだと思う。だが、そこから先は?」 「先?」 「父さんや母さんに迷惑をかけるのは優しさか? 何でもかんでも私に頼るのは、優しさか?」 「そんな……でも!」 なんで褒めてくれないの? 捨て猫を拾ってくるのは良い事でしょう? それに、祖父も言ってくれた。その気持ちはとても優しいって。 だけど……祖父は、褒めてくれない。頭も、撫でてくれない。 「私が言いたいのは、そこなんだよ」祖父は首を振った。「お前はお願いとだけ言って、全てを押しつけるのかい? それがお前の思う、優しさなのかい?」 「そんなことない!」 だけどここで猫を捨ててくるようでは、誕生日を無視した両親と同じだ。それはひどい事だと、思う。 そこで、ふと、気付いた。 祖父は何も、子猫たちを捨ててこいなんて言っていない。 祖父はなんと聞いた……? 「……」 ゆっくりと考える。乾いた唇をしめらせる。どくんどくんと、うるさい心臓。ぴりぴりとしびれる瞳を瞬きさせて、私は小さく息を吸う。 「それなら……」 思えば三年前の話なんだと気付いて、私は苦笑した。 座卓を挟んで向こうには、今や髪が真っ白になってしまった祖父。その手元には、誕生日にもらったはずのブローチが収まっている。 私は封筒を祖父に渡した。祖父は受け取り、代わりにブローチを返してくれる。 「三年分の世話代となると、流石に大変だったわ」 「だが、おまえはちゃんと集めたじゃないか」 祖父はくつくつと笑い、肩をすくめて見せた。私も苦笑して同じようにした。 三年前の誕生日。猫を飼ってもらう代わりに、私は、祖父にブローチを返した。 唯一の誕生日プレゼント。大事な大事なブローチだった。 だけど、だからこそ、それしかないと思った。 『それなら、大きくなったら、私が世話をする。それまでのお礼もする。だからそれまで猫を預かってほしいの。――約束する。ブローチにかけて』 そうして三年後、私は見事、約束どおり猫の世話代を稼いで祖父に返したのだ。 「お祖父ちゃんも厳しいよね。私あのとき、まだ中学一年生だったのに」 「なぁに」祖父は小さく笑った。「優しいだけでは、優しくできないんだよ。わかっただろう?」 「うん。優しいってさ、暖かいだけじゃなくて……実は苦い物だったり、痛い物だったりするんだね」 あのとき、ブローチを返した私はその後ずっと泣きじゃくっていた。あのときの気持ちは、今でもすぐに思い出せる。 そしてそれを慰めようとした優しさの代償に、祖父は形見のブローチを譲った。 その傷みを思って、私は言った。 「おじいちゃんはすごいね」 「違うよ」 「え?」 「すごいんじゃない」祖父はゆっくりと首を振る。「ただ、がんばっただけだよ」 おまえと同じにね。祖父はそういって、小さく笑う。 私は笑って、敵わないなぁ、と思った。 [No.22] 2008/06/09(Mon) 20:53:35 |