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○32-00645-01:椚木閑羽:越前藩国 ○「力の在り処」 ○テキスト文字数 1754文字 作業に追われて食堂へ行くタイミングをすっかり逃してしまい、腹の虫をブドウ糖でごまかしながら黒埼は仕事を続けていた。 不意に、山積の書類の間から顔を出したのは一輪挿しの花瓶。 そこには白いカーネーションがひとつ、ひそやかにたたずんでいた。 誰が活けたのだろうと首をかしげているところへ、刀岐乃が食事を差し入れに来た。 盆を受け取って刀岐乃に一輪挿しのことを訊ねると、 「閑羽ちゃんですよ」 という答えが返ってきた。 無理やり作業に区切りをつけて、花を眺めつつ食事に取り掛かる。 仕事に没頭したら、なかなか食事に手をつけない自分の性格を配慮してか、さめても美味しく食べられるものが選ばれていた。だが、やはりまだ湯気の立っているうちは、一味違う。 次の食事は、手を休めて食堂に行こう。 黒埼は食事を終えて箸を置くと、盆の端にのっていた小皿の中のブドウ糖を、ざらざらと口の中に放り込んだ。 ///// 少し早めに作業の区切りがついたが、ここで「もう少し」とやってしまうと、結局また食堂に行きそびれるのが目に見えていたので、空いた食器の乗った盆を持って、執務室を出た。 食卓の上にも花が飾ってあった。 時期なのか、そこに飾られているのもカーネーション多く、自分の執務室に飾られていた白いもののほかにも、ピンクやオレンジといった明るい色の花、青や紫の変わった色の花が混在していた。 流しの洗い桶に水を張り、食器に軽く水を当ててから沈める。油落ちをよくするために、新しく水を張ったら、洗剤を2〜3滴落としておくことも忘れない。 食器を全部水につけてしまい、お茶でももらおうかと、戸棚に目をやると、2枚の張り紙が目に入った。 一方は食事当番表。 日付けと、その日の食事当番を請け負う藩士の名前のほかに、「じゃがいも使い切ってください」という書き込みがあれば、「ポテトサラダにします」と返答が書き込まれていたり、「藩王様の釣ってきたかにがたくさんあります」という書き込みに「かにたま!」「甲羅酒!」と、希望らしきものが書き込まれていたりと、ある意味伝言板のような役割も果たしているようだ。 もう一方は「摂政さまのごはんの注意」と書いてあり、その中身は、「冷めても食べられるおかずにする」「食べるのに時間がかかるものはダメ」「栄養のバランスを考えて、カロリーは抑え目に」「ごはんをもって行くときはお仕事の邪魔をしないこと」などの文面が並んでいた。 文字の主はおそらく刀岐乃だろう。 一番下にご丁寧で赤文字で、「ブドウ糖を忘れないこと!」と書き込んだのは、夜薙だろうか。 「結局ブドウ糖かい!」 思わず張り紙にツッコミを入れる黒埼だった。 ///// 藩国のどこそこで何があっただの、藩国民のだれそれが結婚するだのと、他愛のない雑談を楽しむ。 部下の藩士たちの話を通して、国民の生活ぶりや、国内のちょっとした事件を知る。 何か問題が見つかれば、互いに意見を出し合い、誰かのために出来る何かを考える仲間たち。当然その中には自分も藩王も含まれる。 食事が済むと、それぞれが自分の仕事へと戻っていったが、黒埼だけは食事当番に 「少し待っていてください」 と、引き止められた。 30分もしないうちに、夜食になるよう具材を工夫したパンケーキが焼きあがり、それを渡される。熱湯が満たされた小さいポットと、粉末状のドリンクと、黒埼専用のマグカップ、ブドウ糖の乗った小皿もあわせて。 執務室に戻った黒埼は、椅子にかけてなんとなく窓の外を眺めた。 次々に舞い込む仕事、対処しても対処しても発生する文殊の不具合、罰金に次ぐ罰金で潤わない財政…。 それでも頑張れる自分の力の在り処が何処なのか、解ったような気がした。 ///// 数日後、カーネーションの花言葉が「あらゆる試練に耐えた誠実」であると知った黒埼が 「試練が付きまとうのはデフォルトかーい!」 と叫んだことは、公式記録には残っていない。 ///// 越前の民の幸せは、こんな摂政の苦労にに支えられているのかもしれない。 そして越前の民の笑顔は、そんな摂政をはじめとする藩士たちのの力の源であり、彼らが抱えた仕事の向こうに見る、最高の報酬なのだ。 [No.73] 2008/06/19(Thu) 22:35:43 |