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○10-00212-01:桂林怜夜:世界忍者国 ○「作品タイトル」 ○テキスト文字数 1960字 深い深い森の中。小さな村の更にはずれから、もっと森の奥に入ったところに綺麗な泉が湧いていた。泉の傍らには小さな祠があって、その祠の正面に大きなクルミと小さなクルミが何年も仲良く暮らしているのだ。 クルミの子供は母さんが大好きだった。森のどのクルミも、母さんほど大きな葉っぱは見たことが無いし、赤い綺麗な花を咲かせるのも母さんだけ。クルミの子は母さんと同じ形の小さな小さな葉っぱが自慢だった。 母さんは毎晩、月が昇って森の動物達が眠る頃、クルミの子供にお話を聞かせてあげる。鹿のじいさんが大昔に泉に映った月を飲み干そうとしたこと、去年巣立った鳥が今年も母さんの頭に巣を作ったこと。母さんは何でも知っていた。 ある晩、クルミの子供は母さんに尋ねた。 『母さんの母さんはどこにいるの?』 クルミの子より小さな木も生えてたけれど、母さんより大きなクルミはどこにもなかった。 『さあてねぇ』 母さんは淋しそうに微笑んだ。 『母さんがお前くらい小さな木だった頃に、嵐で折れてしまってね。立派な木だったから、そのまま人間が村に持ち帰って、きっと箪笥にしちまったんだろう』 クルミの子供は悲しくて泣いてしまった。 『およしよ。あたし達森の木は動けないけれど、たくさんの動物を養ってやってるだろう?人間もそのうちの一つなのさ。動物達はいつかはあたし達を助けてくれるんだよ。子リスが埋めた実がお前になったようにね』 クルミの子は驚いて自分の足元を見たけれど、にわかに信じられないことだった。 『それにね』 母さんはにっこりと笑って言った。 『死んだ木の精は、満月の夜にまた新しい木に宿るんだよ』 それが、母さんが最後に話してくれた物語になった。 翌朝、村人達が幾人も泉にやってきて、「立派な幹だ」と褒めそやし、母さんをばっさり切り倒し、そのまま村人が運んで行った。 「これでいい嫁入り道具を作ってやれるぞ」 と、年かさの男が大喜びで笑っていた。 後に残ったのは大きな切り株だけ。 『母さんはきっと、母さんの母さんみたいに箪笥にされてしまったんだ』 クルミの子は何日も何日も泣き続けた。リスの子が慰めても、鹿のご老人が宥めても、風の精が優しく撫でても、ずっと泣いていた。 七日七晩も泣いた頃、いつもは静かな泉の精が『クルミやクルミ』と声をかけた。あんまり珍しくて、クルミの子が泉を覗き込むと、そこには母さんと同じ赤い小さな花が一つだけ咲いていた。 やがて小さな花は小さな実をつけて、ぽとん、と地面に落ちた。早速リスが集まりだして、あっという間に実は無くなってしまったけれど、母さんがいなくなって初めて、子リスが微笑んだ。リスの母さんも微笑んだ。つられてクルミの子も微笑んだ。鹿も鳥も微笑んだ。月もにっこり微笑んだ。 それからクルミの子は泣くのをやめた。 しっかり背筋を伸ばした。枝には小鳥が止まり、雨が降れば葉っぱの下で森の動物は雨宿り。花が咲けば、泉の精が踊りだす。秋には、リスの一家が食べきれないほど実をつける。クルミの子は今では立派な大木だ。 遠い森から鳥と風に運ばれた、見知らぬ種が芽を出して、咲いて枯れてを繰り返し、若木をとうに越えた頃。クルミはすっかり年老いた。枝には花もつかず、リスの一家は引っ越して、残るは太いだけの幹。クルミは本当に一人きり。泉も濁り、月も無く、黙って枯れるのを待っていた。 ある日村人がやってきた。何年ぶりかの村人が。大きな男と小さな息子。男はクルミの側に来て、コツコツ幹を叩きだした。 「父ちゃん、すっかり枯れてるよ」 「いやいや、生きてるさ。幹は立派だぞ」 男は笑って斧を持ち、鋭い刃をうち当てた。幹は見る間に細くなり、枝も殆どなくなった。 男は幹に薬を塗り、足元の草を刈りだした。 「父ちゃん、どうして切らないの?」 退屈した子が見上げて言った。 「お前も、俺も、じいさんも、同じ木のゆりかごで育ったんだ」 にっこり笑って、男は子供と帰っていった。 やがて森に春が来て、クルミはすっかり元気になった。余分な枝もなくなったから、まあるい明るい月が澄んだ泉に輝いている。そのほとりには小さな小さな若木が覗いていた。 [No.75] 2008/06/20(Fri) 02:00:45 |