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○16-00307-01:戯言屋:フィーブル藩国 ○「6月のアイスクリーム」 ○1997文字 /*/ 14歳の北国人。イクス・トーラシア。 彼は旅行者だった。かなり大きな旅行用トランクを持って、宰相府藩国の春の園にいる。 桜を見に来たのだ。 ……その眼差しは、尋常ではない。 立ち尽くして桜を見ているのだが、酷く真剣だ。 何かに悩んでいて、その答えを桜に探しているような雰囲気だった。 だから彼は、少女の接近に気付かなかった。 14歳の西国人。レイレイ・ケレネア。 彼女は逃亡者だった。息を切らせて、宰相府藩国の春の園を走っている。 桜を見る余裕もない。むしろ逃げる場所として不向きな桜の園にいるのを後悔していた。 ……その眼差しは、尋常ではない。 逃げ切ってやる。どんなことをしても絶対に生き延びてやる。 彼女は追っ手が来てないか振り返って、そして偶然、桜を見て立ち尽くす少年と衝突した。 「きゃ!」 「うわっ!?」 あっさり倒れるイクス。 レイレイも転倒しそうだったが、なんとか耐えた。 顔を上げる少年と、何気なく彼に視線を向ける少女。目を見開く。 よく晴れた昼下がりの午後。 吹き抜ける風が、桜の花弁を伴って、二人の間を駆け抜けた。 /*/ 6月のアイスクリーム /*/ 「ちょっと、貴方!」 レイレイが、イクスの腕を引っ張って立たせた。そして走り出す。 イクスは突然の出来事に目を白黒させながら、腕を引っ張られて否応なく走るしかない。 「痛っ。痛い! な、なんだお前はっ!?」 「うるさい! 死にたくなかったら走って!」 拳銃をちらつかせるレイレイ。うわあ、という表情のイクス。 「なんなんだ!? 俺をどうする気だー!」 生活ゲームでもあまり見ない理不尽な展開だった。 「いいから走って! というか遅っ! 体力ないの貴方!?」 「……ぜえ、ぜえ……死ぬー!」 走り出して5秒。貧弱である。 レイレイ、目を血走らせて周囲を確認。 公衆トイレを発見。加速。女子トイレの個室に彼を連れ込む。 幸い二人以外に誰もいなかった。鍵を掛けてイクスを便座に座らせ、拳銃を向ける。 「OK。荷物を全部出しなさい。今すぐ」 「白昼堂々、こんな方法で強盗っすかー!?」 「引き金は軽いの。急いで」 あわわわ、とこんな状況でも手放さなかった、かなり大きな旅行用トランクを開けるイクス。 狭い個室では扱いにくかったが、どうかお命ばかりはーっ! と、恭しく中身を見せた。 レイレイ、問答無用で中身を全部捨てた。 「ああっ、お気に召しませんでしたかーっ!?」 かなり本気で涙目なイクス。レイレイは真剣すぎる血走った眼差しで彼を見た。 「私を、そのトランクに詰めなさい」 ……………。 沈黙が生まれた。 どん引きするイクス。変態を目撃した気分。 レイレイ、少し冷静になって、ちょっと慌てた様子。 「いや違う、違うからっ」 「世の中には、斯様な趣味を持った方もおられるのですね……」 「違うって言ってるからっ! そんな若くして奇抜な趣味に目覚めた人を見る目で見るなっ!」 こほん、と可愛らしく咳払い。 「実は私、追われてるの」 「自分の趣味に対する現実からの視線に?」 BANG! 「実は私、追われてるの」 「追われてるなんて大変っすね!? お気持ちお察し致しますー!」 壁に空いた銃痕にガクブルしながら何度も頷くイクス。必死だった。 しかし、レイレイも必死だった。 「……その。私、悪い奴等に騙されて。追われてて。狙われてて」 ぽつぽつと語り始めるレイレイを、疑わしそうに見るイクス。 ダメだ。 こんな嘘っぽい理由では、とても信じて貰えない。 トランクに隠れるのはいい手段だと思ったが、運び手のことまでは考えていなかった。 もうダメだ。もうダメだ。 レイレイは、瞳に涙を浮かべる。 追いつめられて必死になっていた気持ちが、切れそうになる。 「私、死にたくない……故郷のアイスクリームが食べたい……」 もはや説得ではなく、心の底からの言葉だった。 アイスクリームが食べたいとか、幼稚な言葉だと彼女も言いながら思ってはいたが、しかし、今まで人生で一番楽しかった想い出は何だろうと考えると、故郷の遊園地で食べたそれぐらいだったのだ。そんな生き方をしてきた、少女であった。 「…………」 目を細めるイクス。 「分かった。協力する」 イクスを見るレイレイ。 「ただし聞け。聞くんだ」 「今が最悪だなんて思ったらダメだ。本当の最悪は、もっと酷い」 「だから、諦めたらダメだ」 大真面目なイクスの言葉に、レイレイは、笑った。 自分を慰めようとしていると思ったのだが、それにしても酷い慰め方だと思ったのである。 それで、不覚にも笑ってしまった。 「……うん。分かったわ」 手で涙を拭う。まだ笑えるなら、まだ大丈夫なはずだ。 諦めてはいけない。どんな時でも。 /*/ この物語は、余命あと僅かと宣告されて、残りの人生の使い方を考えていた少年が、不幸な嘘吐きの少女に笑顔を取り戻させるまでの、儚い物語である。 [No.87] 2008/06/20(Fri) 19:04:10 |