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No.7に関するツリー

   作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ - 2008/06/04(Wed) 15:00:13 [No.7]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - Jack Ma - 2018/09/02(Sun) 21:49:46 [No.243]
投稿を締め切ります - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ - 2008/06/21(Sat) 05:05:50 [No.109]
地を掘るニワトリ - 四方 無畏@羅幻王国 - 2008/06/21(Sat) 00:07:09 [No.107]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 霰矢蝶子@レンジャー連邦 - 2008/06/21(Sat) 00:06:22 [No.106]
おいしい時間 - 吾妻 勲@星鋼京 - 2008/06/20(Fri) 23:58:52 [No.105]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 嘉納@海法よけ藩国  - 2008/06/20(Fri) 23:45:48 [No.104]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 黒野無明@無名騎士藩国 - 2008/06/20(Fri) 23:42:26 [No.103]
3本目 - 西田八朗@アウトウェイ - 2008/06/20(Fri) 23:29:53 [No.102]
可愛い子には鍋をさせよ - 銀内 ユウ@鍋の国 - 2008/06/20(Fri) 23:29:37 [No.101]
約束をした青年 - 里樹澪@ビギナーズ王国 - 2008/06/20(Fri) 23:27:30 [No.100]
二本目 - 西田八朗@アウトウェイ - 2008/06/20(Fri) 23:25:21 [No.99]
ある旅人のお話 - 那限逢真・三影@天領 - 2008/06/20(Fri) 23:22:26 [No.97]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 西田八朗@アウトウェイ - 2008/06/20(Fri) 23:21:40 [No.96]
よろこびのうた - 00-00778-01:エド・戒:天領所属 - 2008/06/20(Fri) 22:18:47 [No.93]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 志水高末@たけきの藩国 - 2008/06/20(Fri) 21:54:45 [No.92]
魔王の子守唄 - 下丁@になし藩国 - 2008/06/20(Fri) 21:52:52 [No.91]
なんにもできない女の子 - たらすじ@後ほねっこ男爵領 - 2008/06/20(Fri) 21:30:27 [No.90]
Mimie the Funny Cat - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 - 2008/06/20(Fri) 20:39:50 [No.89]
天から降ってきたコイン - みぽりん@神聖巫連盟 - 2008/06/20(Fri) 20:31:35 [No.88]
修正しました - みぽりん@神聖巫連盟 - 2008/06/20(Fri) 22:20:00 [No.94]
ふけない涙 - 空馬@レンジャー連邦 - 2008/06/20(Fri) 13:46:40 [No.86]
…@ずーっと友達でいます。 - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 - 2008/06/20(Fri) 13:17:21 [No.84]
僕とカボチャ怪人 - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国 - 2008/06/20(Fri) 13:06:31 [No.82]
影の薄い子 - 藻女@神聖巫連盟 - 2008/06/20(Fri) 12:12:06 [No.80]
コロの里 - 南天@後ほねっこ男爵領(代理投稿) - 2008/06/20(Fri) 02:26:50 [No.77]
クルミと月夜の物語 - 桂林怜夜@世界忍者国 - 2008/06/20(Fri) 02:00:45 [No.75]
廻る世界は夢を見る - 小野青空@よんた藩国 - 2008/06/19(Thu) 22:37:36 [No.74]
幸せの花 - 小野青空@よんた藩国 - 2008/06/19(Thu) 22:32:21 [No.72]
男の子と女の子とペンギンのお話し - YOT@ゴロネコ藩国 - 2008/06/19(Thu) 20:34:43 [No.71]
りゅうにつかえるいちぞくのおはなし - 月光ほろほろ@たけきの藩国 - 2008/06/18(Wed) 00:27:50 [No.68]
りゅうじんさまのおはなし - ソーニャ@世界忍者国 - 2008/06/15(Sun) 22:51:56 [No.56]
t:→次のアイドレス=執筆依頼(イベント) - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ - 2008/06/16(Mon) 01:15:24 [No.57]
掃除をした猿 - ウル@ゴロネコ藩国 - 2008/06/15(Sun) 19:22:13 [No.55]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - 槙 昌福@よんた藩国 - 2008/06/14(Sat) 00:18:33 [No.47]
龍と姫君 - 月光ほろほろ@たけきの藩国 - 2008/06/13(Fri) 01:31:48 [No.45]
翼を欲しがった少年 - 月光ほろほろ@たけきの藩国 - 2008/06/12(Thu) 00:44:58 [No.42]
ボク - 皆見一二三@リワマヒ国 - 2008/06/11(Wed) 20:43:34 [No.40]
ごみ姫さまのお話 - あんどーなつ@天領 - 2008/06/11(Wed) 18:32:09 [No.39]
ふたつの光 - 薊@リワマヒ国 - 2008/06/11(Wed) 08:39:10 [No.37]
冬を追い払った男の子の話 - 深夜@後ほねっこ男爵領 - 2008/06/11(Wed) 02:39:37 [No.35]
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 - アム@ゴロネコ藩国 - 2008/06/10(Tue) 20:19:58 [No.29]
月の果ての物語 - あんどーなつ@天領 - 2008/06/10(Tue) 19:31:09 [No.28]
文字数 - あんどーなつ - 2008/06/11(Wed) 07:29:54 [No.36]
ナデオニ - 沙崎絢市@天領 - 2008/06/09(Mon) 21:23:52 [No.23]
甘くないケーキ - 黒霧@星鋼京 - 2008/06/09(Mon) 20:53:35 [No.22]
虫愛でる姫君 - 槙 昌福@よんた藩国 - 2008/06/09(Mon) 19:00:01 [No.21]
男の子と星降る夜のお話 - 多岐川佑華@たけきの藩国 - 2008/06/09(Mon) 13:53:21 [No.20]
子供たちに贈りたい物語 - 二郎真君@たけきの藩国 - 2008/06/08(Sun) 23:55:56 [No.17]
たいそう大きな黒猫の約束 - ヒオ・スクル・ヒルダ@愛鳴之藩国 - 2008/06/08(Sun) 23:44:21 [No.16]
星の願いごと - 相葉 翔@アウトウェイ - 2008/06/08(Sun) 20:42:28 [No.13]
ヴィオラと吼える谷 - テル@るしにゃん王国 - 2008/06/08(Sun) 18:35:37 [No.11]



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作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (親記事) - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ

こちらは、『子供たちに贈りたい物語』部門の作品投稿所です。
テンプレートの書式の下に、本文を直接張り込んでください。

【テンプレート】
○国民番号:PC名:藩国
○「作品タイトル」
○テキスト文字数

(以下、テキスト本文)
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   ・
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※こちらのBBSはテキストファイルの添付には対応しておりませんので、
 ファイルにて提出ご希望の方は、以下のメールアドレスにご送信ください。

○スタッフ:舞花・T・ドラッヘン@天領
 keikodck☆hotmail.com(☆⇒@に置き換えてください)
 


[No.7] 2008/06/04(Wed) 15:00:13
ヴィオラと吼える谷 (No.7への返信 / 1階層) - テル@るしにゃん王国

○01-00005-01:テル:るしにゃん王国
○「ヴィオラと吼える谷」
○テキスト文字数:2000文字

 るしにゃん王国、森と湖の国に小さな村がありました。
 丘陵を臨む山地には、巨大な爪か、もしくは強大な雷で抉られたように、大きく深い谷が佇んでいます。人々は険しい谷を背に、山の木々に抱かれるように静かに暮らしていました。
 狩猟と採取は男の仕事、女は谷から溢れる水を汲む仕事を受け持っていました。皆は7つになった日から村の仕事を分担し、協力して暮らすのです。

 三日月が輝く夜、ヴィオラは7つの誕生日を前に眠れずにいました。
 それはけしてわくわくとした期待や、新しい仕事に対する緊張が理由なのではありません。
 新たな仕事を受け取るにあたって、子供達はお手本を受けます。まず簡単な仕事を。例えば背の低いりんごの木を習ったり、歩き易い近くの泉を習ったり。
 ヴィオラもお隣のお姉さん達に連れられて、村から一番近い泉へと案内される筈でした。
 谷への道にあの咆哮が響くまでは。
「魔法使いの災いよ」
 お姉さんが指差したのは、ヴィオラ達が目指す谷。
 その方向から歪んだ声が聞こえてきたのです。
 災いの後から響くようになった咆哮を村の人達は皆恐れていました。

 かくしてヴィオラの初仕事は無期延期となりました。


 翌朝。
 お祝いの上等なパンを焼く匂いで目覚めたヴィオラは不機嫌そのものでした。
 夕食までには戻って来なさい、という母親に生返事を返し、ヴィオラは家を出ました。お隣のホルンが『おめでとう』と言ってくれましたが、ちっともおめでたい気分じゃありません。

 本当なら、今頃1人で谷を歩いている筈なのに。

 ヴィオラはいつの間にか谷への道を歩いていました。
 声を聞いたのはこの辺りだわ。
 大丈夫、何も起こらないわ。
 そう言い聞かせて歩いていたヴィオラの耳に、足下からがさりと物音が飛び込みました。驚いたヴィオラはしかし、物音の主に目を細めました。
「まあ」
 それは見たことのない動物でした。
 ヴィオラがそっとしゃがみ、顔を近づけても逃げる気配はありません。毛並みを撫でようとして、その小さな動物が怪我をしている事に気付きました。
 どこかでひっかけたのか、それとも何かに裂かれたのか。尾から後ろ足にかけて鋭く傷が走っています。
 洗って薬をつけないと。
 水が手に入る一番近い場所はこの先の泉。しかし、谷からは大きな咆哮が浴びせられ、ヴィオラは身を竦ませました。
 振り返ると背後には元来た道。二刻かけて村まで戻るか、それとも……。

 獣を仕舞った桶を握り、ヴィオラは険しくなる谷への道を歩きました。時折響く咆哮は、近づくにつれ恐ろしい声を上げましたが、足は鈍りませんでした。
 いよいよ咆哮がヴィオラの髪を逆立たせるほど大きくなった頃。岩陰の向こうに光る泉を見付けヴィオラは思わず駆け出しました。
 獣を取り出し冷たい清水で傷口から土を落とすと、ヴィオラは小袋の薬を一塗りして、最後にハンカチで包んでやりました。
「もう大丈夫よ」
 目を細める獣にヴィオラはにっこりと笑い、漸く崖の傍の人影に気付いたのでした。
 裾の長い星の意匠を飾った衣服。傍らには曲がった杖がありました。
 魔法使いだ。
 ヴィオラにはひと目で分かりました。
 では彼がここから咆哮をあげていたのでしょうか。
 男がゆっくりとこちらへ近づいて来るのが分かって、ヴィオラは身構えました。
「友を助けてくれたか」
 男の声は穏やかでした。ヴィオラは消え行く恐れに代わって、今生まれた好奇心で男へ話しかけました。
「この子はあなたの友達?」
「ああ」
「お名前は?」
「ネコリス」
「魔法使いなの?」
「ああ」
「ここで吼えるのがお仕事?」
 ヴィオラの思わぬ質問に男は少し驚いたように目を見開きました。
「ここで吼えていたのは風だ。私はそれを調整しに来たんだよ」
 魔法でね。
 男はそう言うと谷のずっと上を見上げました。

 先の災いで幾ばくかの山が削れ、風の通り道が変わったこと。
 その風が咆哮を上げているのだと、男は語りました。

「風は吼えるだけ? 害はないの?」
「いや」
 男は首を振りました。彼の杖が喚び戻されます。
「もう奏でるだけだ」
 道を整えたのだと男は続けましたが、ヴィオラには良く分かりませんでした。

 色んな話を聞き、そうして日が天頂の半分を下った頃。
 日が落ちるまでに戻るという約束を思い出し、ヴィオラは立ち上がると桶に新しい水を汲みました。小さな獣は男の肩に乗っています。
「さようなら、ネコリスさん!」

 帰り道、丘から吹き上がる風が森の木々を撫で、山上へと駆け上がってゆくのが見えました。
 また、谷が吼える──
 ヴィオラが身構えたとき、谷からは美しい角笛の音色が長く、長く響き渡りました。
 きっと魔法使いの仕業だわ。
 ヴィオラはどこか誇らし気に胸をはり、帰り道を急ぎました。
 家族に、お隣のホルンに、そして昨日怯えていたお姉さんにも教えてあげなくっちゃ。

 『魔法使いネコリス』さんの偉大な魔法を。


[No.11] 2008/06/08(Sun) 18:35:37
星の願いごと (No.7への返信 / 1階層) - 相葉 翔@アウトウェイ

39-00712-01:相葉 翔:アウトウェイ
「星の願いごと」
519文字

静かにいつもこのそらに輝いている

この輝きが届く場所ではどんな思いで見ている人がいるのだろう

笑顔?期待?

絶望?不安?

悲しい思いでは見て欲しくないと願う

出来るのは輝くことだけ

でもそれだけしか出来なくても

太陽みたいに心を照らせる

真っ暗な中でいくつも輝き

月と一緒に照らしてる

悲しみを出さないように

優しく

いつも優しく

でもそれは夜明けまでのお手伝い

夜があければ太陽が力強く照らしてくれる

強く

とても強く

太陽にある強さと月や星の優しさ

それが見ている側に届いているのだろうか

届かないのなら

夜空を切り裂いて振り向かせる

誰かがそれは命を尽きるときというけど

そうじゃない

一つの輝きだと届かないけど

みんなの輝きが振り向かせる

それは手が届きそうで届かない

夢の世界

太陽にはかなわないけど

小さな希望の光を見せて上げられる

太陽よりも小さく

だけど暖かな光

もう少ししたらそらに輝ける川を見せよう

そしたら今度は月がきれいに輝く

その後はこの輝きをはっきりと見せよう

いつも力強く照らす太陽とは違うかもしれないけど

届いて感じて欲しい

輝きでしか見せられない

小さな優しさを

それが星たちの願い

どこにいても夜の暗さに負けない明るさを放つ輝き

それは人の心と同じだと信じているのだから


[No.13] 2008/06/08(Sun) 20:42:28
たいそう大きな黒猫の約束 (No.7への返信 / 1階層) - ヒオ・スクル・ヒルダ@愛鳴之藩国

○43-00397-01:ヒオ・スクル・ヒルダ:愛鳴之藩国
○「たいそう大きな黒猫の約束」
○テキスト文字数:1994

昔々たいそう大きな黒猫がいました。

体がおおきく、生まれつき力が強かったので他の猫たちをよく怖がらせて遊んでいました。

だからどの猫も怖がってそのたいそう大きな黒猫に近づきませんでした。


ある日たいそう大きな黒猫は人間の女の子と会いました。

たいそう大きな黒猫はその人間の女の子にいいました。


「おれは強いぞ。怖いだろう。」


人間の女の子は首を振ります。


「あなたを怖いとはおもいません。」


たいそうおおきな猫はたいそうおおきな体をさらに大きくしてなぜだと問いかけました。

人間の女の子は答えます。


「私にはあなたよりもこわいものがあるからです。」


たいそうおおきな猫は目をまんまるにしてそれはなにかとききました。

人間の女の子は答えます。


「それは内緒です。あなたは旅にでて世界をみてみるといいでしょう。そして他の猫たちを怖がらせるのではなく力を貸してあげてみて下さい。」

「それをつづけて一年後またここで合いましょう。そのときその答えをあなたに教えると約束します。」

「一年後だな。わかった。約束だ。」

たいそう大きな猫はその日から旅に出ることにしました。


塀をつたい、木に登り、家々の屋根を飛び移り、旅をしていきます。

ある日。

長く歩いてきたのでたいそう大きな黒猫は、おなかが空きました。くんくんと鼻をかぐと、大好きな焼きメザシのにおいがします。

一目散に駆け寄り、焼かれていたメザシを全部食べてしまいました。

「うまいメザシだ。満足だ。」

満腹になった猫はごろんと寝転がり寝てしまいました。

そこへ家の主人猫が帰ってきて、たいそう大きな黒猫は箒でたたき起こしました。

「お前がメザシを食べたのだな。子供が楽しみにしていたのに!」

主人猫は何度も何度もたいそう大きな黒猫をたたきました。

騒ぎに気づいたその家にすむ小さな子供猫が、

「父様、あの猫様が可哀想だよ。ご飯は残念だけど、また作ればいいから許してあげて。」


と言いました。

主人猫はたたく手を止めました。

その隙にたいそう大きな黒猫は一目散に逃げ出しまいました。


そして幾日。

たいそう大きな黒猫は、かつて出会った人間の少女を思い出していました。

なぜ怖がらないのか、俺よりも怖いこととはなんだろうか。

いつも考えていました。


たいそう大きな黒猫はすこし前のことを思い出します。

お腹がすいていたのでおいてあったメザシを食べた。その持ち主だろう猫に箒で追いかけられた。

あのとき助けてくれた小さな子供猫には悪いことをした。

一目散に逃げ出してそれから会っていない。

たいそう大きな黒猫は、なにかあの子にしてあげたいと思いました。

この気持ちはなんだろう。たいそう大きな黒猫は首を傾げます。


ある日、次の街にいこうと山を越えていると七人の狼におそわれている猫の二人組を見つけました。

たいそう大きな黒猫は少女の言葉を思い出します。


手を貸してあげて下さい。


たいそう大きな黒猫は気高くにゃーんとひとなきして七人の狼を飛びかかりました。

キラリとひかる研ぎあげた爪で鼻をひっかき、真っ白な強くしっかりした牙で尻尾をガブリとかみつきました。


これはたまらんと思った七人の狼は逃げて行きます。


「黒猫様ありがとうございます。もうだめだと思いましたが夫婦ともに助かりました。」

「命を救っていただいたお礼としてはなんですが私どもがひとさまに誇れるのは料理だけでございます。この先に私どもの屋敷がございますので食事を振る舞わせてください。」


たいそう大きな黒猫は自分の食べ物以外のものを食べて大変な目にあったのを思い出して、その誘いは断りました。


そのかわりに質問をします。


「何故食事を振る舞おうとおもったのだ。」

「あい。黒猫様に命を救っていただいて感謝を形にしたいと思いました。」

「そうか。」


夫婦猫と別れて、たいそう大きな黒猫は考えました。


「きっと俺もあの猫達と同じ気持ちを持ったのだろう。」


そういって助けてくれた小さな子供猫を思い出します。


感謝のこころ。ありがとうと言う言葉。そして自分ができる手助けの答え。その糸口を見つけたと、たいそう大きな黒猫は思いました。


たいそう大きな黒猫が旅に出てから一年がたち、生まれ故郷の町に帰ってきました。

懐かしいと思いながら歩く故郷の道。程なくして人間の少女に出会った場所につきました。

そして行儀よく座り、少女を待つことにしました。


・・・


一週間後、人間の少女はまだ現れません。


・・・

1ヶ月後、人間の少女はまだ現れません。

一年が過ぎました。たいそう大きな黒猫は、人間の少女を探そうと考えました。


どうしても約束を果たしたかったのです。


色々なところを周り、人間の少女を探しました。


旅の間もたいそう大きな黒猫は約束を忘れません。

困っているものがいれば手をかし、いさかいがあればそれをどいにかする努力をしつづけました。


いつかあの少女との約束を果たすため。

たいそう大きな黒猫は今も世界を旅し続けているのです。


fin...


[No.16] 2008/06/08(Sun) 23:44:21
子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 二郎真君@たけきの藩国

○26-00498-01:二郎真君:たけきの藩国
○「ある勇者のお話」
○1114文字程度

以下本文

/*/

むかしむかし。とはいえないぐらいの、ちょっと昔。

ある世界に、正義の勇者がいました。
彼は己の正義を貫き、悪を退治する、まっすぐな人でした。
倒した悪は数知れず、彼は悪を倒す剣を振りかざし、人々によくこう言いました。
「悪は必ず滅びる。そして、人に迷惑をかけるヤツは俺が許さない」

その勇者はあるとき、人々の集まるところで正義を語りました。
「北の大国に人々を苦しめる悪い王様がいると聞く。そんなヤツは許せない。皆もそう思うだろ?」
『そうだ。どんな理由があっても、民衆を苦しめる王様なんて悪いヤツに決まってる。いつものように成敗してください』
人々は勇者の事を良く知っているので、迷惑そうにしながらも、表面上は笑顔で口々に言いました。大人ってこんなもんです。

実は、この勇者は、ちょっとでも悪い人をみるとすぐに暴力を振るうひとだったのです。
買い物をするのに順番を守らない人とか、拾ったものを交番に届けない人とかをも、悪人と見る人でした。
普通なら、警察に捕まるところなのですが、この勇者はとっても偉い人だったので、どうにもできなかったのです。

結局勇者は、人々がどんな気持ちで言ったか、気づきませんでした。人の気持ちが分からない人かもしれないですね。
さて、その勇者は人々の声を聞いて、いつものように悪を成敗しようと北へ出発しました。
途中、盗賊などを退治しながら、ようやく北の大国に着きました。悪い人じゃないんですよ。

北の大国について早々、勇者はまっすぐな人なので、大声で人々に告げました。
「私は悪を退治する者。人々よ、君達を苦しめるという王は私が成敗してくれよう」
勇者の近くにいた人々は、最初、あっけにとられていました。
しかし、彼の表情が本気であることを見ると、多くの人は笑い、その他の人は、可哀想なものを見る目をしました。
人々の反応にびっくりした勇者は聞きました。
「何がおかしい?」
大人達は関わりたくないと、そそくさと離れていきました。残った子供が答えました。
「ウチの王様は、僕らを苦しめたりしないよ。どこかと間違えたんじゃないの?」
「そんな筈はない。この国の王は、剣や鎧を集めて戦争の準備をしていると聞いたぞ。戦争を企むなんて、悪いヤツだろう」
「なんかよく分からないけど、知らない人を悪く言うのは良くないって、母ちゃん言ってたぞー」
勇者は子供に対して、呆れながら言いました。
「悪いヤツを悪いと言うのは良い事だぞ?」

//////////////

さぁ、この物語を聞く子供達よ。
皆はこの勇者をどう思うかね?皆で感想を言い合ってみようか。
そして、この話の続きを皆で作ってみよう。よく話し合い、よく理解し合うんだよ。
そして、ネコリス達に聞いてもらうと良い。喜んで聞いてくれるだろう。

/*/


[No.17] 2008/06/08(Sun) 23:55:56
男の子と星降る夜のお話 (No.7への返信 / 1階層) - 多岐川佑華@たけきの藩国

○26-00058-01:多岐川佑華:たけきの藩国
○「男の子と星降る夜のお話」
○テキスト文字数1172文字

 世界は7の月になると星が降って滅びるんだよ。
 そう言われていた頃がありました。
 その話を聞いていた一人の男の子がいました。
 男の子はその話を「面白い」と思いました。世界が滅びる瞬間に立ち会えるなんて。
 男の子は毎晩空を見上げて星が降るのを待ちました。
 望遠鏡を覗いては、星が降るのを待っていました。


 そんなある夜の事です。
 今日も男の子は星を見ていました。
 何かが光りました。
 男の子はびっくりして光る方向を望遠鏡で覗き込みました。
 望遠鏡から円盤状のものがフラフラと落ちてくるのが見えました。
 男の子はその円盤状のもの何なのか知りたくて、近付いてみる事にしました。
 近くで見る円盤状のものは、ちょうど子供一人分の大きさでした。
 蓋らしいものがぱっくりと割れました。
 中には女の子が入っていました。
 気を失っているようで、女の子は目を閉じていました。
 男の子はこんな狭い所に入っていてはよくないだろうと、女の子を引き摺り出してあげました。
 女の子の目が覚めました。
「君だれ?」
 男の子は女の子に聞きました。
「世界を救いに来たのよ」
 女の子は当然のように言いました。
「世界は星が降って滅びるのよ。それを変えるためにやってきたの」
 女の子は大人ぶった物言いをしました。
 女の子は円盤状のもの(どうも女の子の乗り物のようです)から何かを取り出しました。
 太い太いホースが見えます。
「何をするの?」
 男の子は聞きました。
「世界が星で滅ばないように、星を全部吸い取るの」
 女の子が引っ張り出してきたものは、大きな大きな掃除機でした。
 女の子がスイッチを押すとウィーンと音がしました。
 女の子がこけました。掃除機はうねりをあげて、ひとまず近くにあった岩を吸い込んでいきました。女の子はうまく掃除機が扱えないようで、掃除機が勝手にあちこちのものを吸い込み始めました。
 男の子の立てていた望遠鏡も吸い込もうとしだしたので、慌ててスイッチを止めました。
「一人でやったら危ないよ!!」
「でも星を吸い取らないと、世界は滅びるのよ?」
「一緒に持って吸い込めばいいよ」
 男の子は女の子と一緒にホースを持ちました。
 スイッチオン。
 空がキラキラ光り始めました。
大きな星がたくさん降り始めたのです。
 掃除機はシューシュー音を立てて星を吸い込み始めました。

 こうして一晩かけて、星を全部吸い終えました。
 掃除機はすっかり重くなったので、女の子は掃除機を開けて星くずをばら撒きました。
 辺りはキラキラ瞬き、星くずはハラハラと落ちていきました。
「手伝ってくれてありがとう。おかげで世界は滅びずに済んだわ」
 女の子は男の子にそうお礼を言いました。
 女の子はそのまま円盤に乗って帰っていきました。
「ありがとうさようなら」
 男の子は手を振りました。
 まさか掃除機で世界を救ったなんて、誰も思う事はないでしょう。
 後に残されたたくさんの星くずだけが知っている話です。


[No.20] 2008/06/09(Mon) 13:53:21
虫愛でる姫君 (No.7への返信 / 1階層) - 槙 昌福@よんた藩国


○13-00274-01:槙 昌福:よんた藩国
○「虫愛でる姫君」
○文字数:1158文字(スペース含む)

♯パス1234


これは僕の夢のお話です。

その日、僕は蝶でした。

春の日差しをその背に浴びて、風とワルツを踊ります。

甘い花の香りに誘われて、僕は一人の姫君に出会いました。

それは虫愛でる姫君と呼ばれる、可愛らしき姫君でした。

姫君は私を手に乗せて

「ちょうちょさん。ちょうちょさん、あなたの羽はどこまで飛べるの?」

と言いました。

「そんなの分からないよ。」僕は答えました。

姫君は少し悲しそうな顔をして

「そう、私にもあなたの様な羽があったらよかったのにね」

と言いました。

僕は不思議に想い、くるりと触覚を丸めて尋ねます。

「どうしたのさ。どこか行きたいところがあるのかい?」

姫君は言いました。

「どこへでもいいの。私が『変わってる。変な子ね。』と皆に言われない所なら」

姫君の瞳から、ほとほと涙がこぼれ、触覚を伝い、私の口へと入りました。

それはとても寂しく悲しい味でした。
僕はこんなことは間違ってると、そう思いました。

だから、僕は言いました。

「僕は僕がどこまで行けるか知らないんだ。だからそれを確かめに、旅に出ようと思う。」

姫君は頷きながら言います。

「そう、あなたの旅が良い旅になることを祈ってるわ」

僕は羽を広げて言いました。

「なにを言ってるんだい?どこまで行けるか知りたいんだろう?じゃあ一緒に来てくれなくちゃ!」

そうして、僕らは悲しき運命を砕く旅に出ました。

/ * /

7つの海を越え、4つの大陸を渡り、幾つもの季節が過ぎました。

姫君は美しく成長しましたが、虫愛でる国はついに見つかりませんでした。


「もう、駄目かもしれないわね」姫君はいつかのように悲しげな表情で言いました。

そのときです

「お前なんか出て行っておしまい!」

1匹の、人の大きさもあるような巨大な芋虫が、大きな大きな家から追い出されていました。

芋虫の名はザムザといいました。彼はある朝目覚めたら芋虫になっていたのです。

姫君は倒れたザムザを助け起こして言いました

「大丈夫ですか?お怪我は?」

ザムザは、その言葉に身を震わせると、おいおいと泣き始めました。

虫になって以来、初めてやさしい言葉を掛けられたのです。


/ * /


僕の夢はそこで覚めました。


そうして僕は思うのです。

『考え』が人と違うからといって、『姿』が人と違うからといって

幸せになれないのは嘘ではないかと。嘘にしなければならないと。

だから、子供達よ。お休みなさい。

そして、もし夢で彼らに会えたなら

そっと、僕に教えてください。

姫君達が今、笑って暮らしてるのかを。


おわり


[No.21] 2008/06/09(Mon) 19:00:01
甘くないケーキ (No.7への返信 / 1階層) - 黒霧@星鋼京

○42-00236-01:黒霧:星鋼京
○「甘くないケーキ」
○テキスト文字数:1993


 13歳の誕生日は、とても苦い物だった。
 そのころ、私は何も知らない女の子だった。もう中学生なんだからと、その日、両親は誕生日を祝ってくれなかった。そして気付いたら、私は怒って、泣いていた。だけど両親にもっと怒られて逃げ出した。
 私は大好きな祖父に泣きついた。
 祖父はいつも優しかった。このときも祖父は「よしよし」と頭を撫でてくれて、誕生日プレゼントを渡してくれた。
 それはブローチだった。銀縁の四角い物で、綺麗なエメラルドのはめ込まれている。今なら高そうだと思っただろうけれど、そのときはただ、綺麗だな、と思った。
 たったひとつの誕生日プレゼント。私は嬉しくて嬉しくて、ありがとうと言って、また泣いてしまった。


 それが、無き祖母の形見だとも知らずに。私はただただ喜んだ。


 ある日、私は学校の帰り道に、捨てられた子猫を見つけた。私はそれを連れて帰ることにした。誕生日も祝ってくれない両親とは違う。私は優しいんだと、それを示したくて。
 案の定両親には怒られた。今すぐ捨ててきなさい、猫なんか飼えませんと顔を真っ赤にして怒鳴られた。
 それを無視して、祖父のもとに行った。優しい祖父ならわかってくれる。私のことを褒めてくれる。私は、誕生日さえ祝ってくれない両親とは違う、優しい子だから。
 だけど。祖父は、厳しい顔をして、褒めても、頭を撫でてもくれなかった。
「おまえは子猫をどうするつもりだい?」祖父は今まで聞いた事の無いような淡々とした声で言った。
「も、勿論、飼うの……面倒を見るの」
「どうやって? 餌は? お前が学校に行っている間は?」
「……お、お祖父ちゃんは、反対なの?」
「質問に答えなさい」
 あくまでも静かに祖父は問う。両親のようにがなりたてるのでもなく、じっとこちらを見て、答えを待つ。
 私は、でも、祖父の問いの答えをひとつも持っていなくて。
「で、でも、可哀想……」
「そうだな。だが、可哀想だから? お前は、何をする? 可哀想だから子猫を拾った。その気持ちは、とても優しいものだと思う。だが、そこから先は?」
「先?」
「父さんや母さんに迷惑をかけるのは優しさか? 何でもかんでも私に頼るのは、優しさか?」
「そんな……でも!」
 なんで褒めてくれないの? 捨て猫を拾ってくるのは良い事でしょう? それに、祖父も言ってくれた。その気持ちはとても優しいって。
 だけど……祖父は、褒めてくれない。頭も、撫でてくれない。
「私が言いたいのは、そこなんだよ」祖父は首を振った。「お前はお願いとだけ言って、全てを押しつけるのかい? それがお前の思う、優しさなのかい?」
「そんなことない!」
 だけどここで猫を捨ててくるようでは、誕生日を無視した両親と同じだ。それはひどい事だと、思う。
 そこで、ふと、気付いた。
 祖父は何も、子猫たちを捨ててこいなんて言っていない。
 祖父はなんと聞いた……?
「……」
 ゆっくりと考える。乾いた唇をしめらせる。どくんどくんと、うるさい心臓。ぴりぴりとしびれる瞳を瞬きさせて、私は小さく息を吸う。
「それなら……」


 思えば三年前の話なんだと気付いて、私は苦笑した。
 座卓を挟んで向こうには、今や髪が真っ白になってしまった祖父。その手元には、誕生日にもらったはずのブローチが収まっている。
 私は封筒を祖父に渡した。祖父は受け取り、代わりにブローチを返してくれる。
「三年分の世話代となると、流石に大変だったわ」
「だが、おまえはちゃんと集めたじゃないか」
 祖父はくつくつと笑い、肩をすくめて見せた。私も苦笑して同じようにした。
 三年前の誕生日。猫を飼ってもらう代わりに、私は、祖父にブローチを返した。
 唯一の誕生日プレゼント。大事な大事なブローチだった。
 だけど、だからこそ、それしかないと思った。
『それなら、大きくなったら、私が世話をする。それまでのお礼もする。だからそれまで猫を預かってほしいの。――約束する。ブローチにかけて』
 そうして三年後、私は見事、約束どおり猫の世話代を稼いで祖父に返したのだ。
「お祖父ちゃんも厳しいよね。私あのとき、まだ中学一年生だったのに」
「なぁに」祖父は小さく笑った。「優しいだけでは、優しくできないんだよ。わかっただろう?」
「うん。優しいってさ、暖かいだけじゃなくて……実は苦い物だったり、痛い物だったりするんだね」
 あのとき、ブローチを返した私はその後ずっと泣きじゃくっていた。あのときの気持ちは、今でもすぐに思い出せる。
 そしてそれを慰めようとした優しさの代償に、祖父は形見のブローチを譲った。
 その傷みを思って、私は言った。
「おじいちゃんはすごいね」
「違うよ」
「え?」
「すごいんじゃない」祖父はゆっくりと首を振る。「ただ、がんばっただけだよ」
 おまえと同じにね。祖父はそういって、小さく笑う。
 私は笑って、敵わないなぁ、と思った。


[No.22] 2008/06/09(Mon) 20:53:35
ナデオニ (No.7への返信 / 1階層) - 沙崎絢市@天領

○00-00655-01:沙崎絢市:天領
○「ナデオニ」
○1298文字(スペース含む)

(以下、テキスト本文)
 目が合った。
ネコリスと。

 ごちそうさまと食器を洗い場に置きに行って、ふと目の前を見たら目が合っ
た。星空の見える窓、そのガラスの反対側に手乗りサイズのネコリス。
 窓は開けられない。
目を合わせたままゆっくりと廊下まで戻って、まだそこにいることを確認して
から一気に駆け出す。廊下から玄関を飛び出し、裸足で家を半周してあの窓の
外側へ飛びつく。
 が、ネコリスはもういなかった。
負けた。
ダッシュ力が足りないのか。今度の体育の授業は50m走を練習しよう、そう
しよう。


 天気のいい日は気分もいい。
ふと空を見上げると、目が合った。
ネコリスと。

 屋根の上に、子猫ぐらいのネコリスがいた。昼寝中だったのか寝そべってい
て、顔と目だけがこっちに向いていた。
 チャンス。
クラス一の早業でランドセルを脱ぎ落として塀の上によじ登り、一気に屋根の
上へとジャンプする。
 が、ネコリスはもういなかった。
負けた。また負けた。
相手には寝そべっているハンデがあった。こちらは屋根に飛びつくまでは良か
ったけど、屋根に上がる時に少し手間取った。腕力が足りないのか。今度の体
育の授業は懸垂の練習しよう、そうしよう。


 先生は言っていた。
何度負けたかは問題ではない。最後に勝てばそれでいいのだ。
じゃあ最後のテストでいい点取ればいいんですか?と聞き返したら、微妙に違
うと言われた。とりあえず普段の点数もいいと先生嬉しいんですよ?かなり真
剣に、とも言われたけど、よく分からないので返事だけ「はい」と言っておい
た。大人の言うことは難しくていけない。
 とりあえず、次こそは勝とう。そうしよう。


 雨上がりの、学校帰り。
水溜まりに映った雲と風を見ていたら、目が合った。
ネコリスと。

 親猫ぐらいの大きさのネコリスは、こちらに尻尾を向けながら散歩中だっ
た。目が合って数秒、ネコリスはたったかと逃げ出す。あっという間に距離が
開く。相手が断然有利な状況。
 そのネコリスを真っ直ぐに追いかけ、なかった。真横へと進路を取る。塀を
登り越え、人の家の庭を疾走し、小川を飛び越える。
 ずささささーっ!
そして再び道へと戻る。
ネコリスが目前で急停止する。大きく驚いている目と目が合う。このネコリス
は知っている。前に追い掛けた時に、十字路を右に曲がって逃げたヤツだ。だ
から、道沿いに追い掛けないで人んちの庭を近道したのだ。
 勝った。ついに勝った。
目の前で固まっているネコリスにゆっくりと手を伸ばす。やっと……やっと…
…。


 ずさささささーっ!
背後で土煙。
思わず振り返ったら、目が合った。
ネコリスと。
ただし、でかい。

 人間の大人よりも大きいネコリスは、何か勝利を確信した様な瞳の色をして
いた。ゆっくりとその前脚が伸びてくる。撫でられたら、負けだ。
 体育の授業で練習した華麗な竹馬ステップで前脚をかわすと、親猫ネコリス
と一緒に一目散に逃げ出す。どしんどとんと追い掛けてくるBigネコリス。
 攻守逆転。
昨日の敵は今日の友。
互いの無事を祈って敬礼を交わすと、親猫ネコリスとは十字路で左右に散って
逃げ別れた。
仲間の数が足りないのか。今度は友達を連れてこよう、そうしよう。


 勝利への道は遠く険しい。


[No.23] 2008/06/09(Mon) 21:23:52
月の果ての物語 (No.7への返信 / 1階層) - あんどーなつ@天領

00-00804-01:あんどーなつ:天領
「月の果ての物語」

そこは今から遠い遠い未来の月。人という人、生き物という生き物はとうに滅び、人間達が作り出した知性の結晶と呼べるオートマチック・インテリジェンス・ロボット達だけがその遠い遠い未来の月に国や町を作り、住んでいました。

ロボット達は人間の真似をするように作られており、それは人間そのものと言ってよいほどの文化を持っています。恋愛や結婚はもちろん、何か植物ロボットを育てたり、音楽を聞いて楽しんだり。宗教までもロボット達の文化に含まれています。そんなロボット達に唯一無いのが死というものです。ロボット達はエネルギーがある限り生きつづけ、どこか故障しても部品を取り替えればいいのですから、わたし達の身近にある「死ぬ」という概念がロボットには理解できないのです。

ある日の事、作られてから何百年も立ち、これからも永遠に生き続けることに疑問を持ってしまった一人のロボットが、高い高いビルの上から飛び降り、修理できないほどに壊れてしまいました。それはロボット達が初めて体験する「死」というものでした。それまでただ一体も自分で自分を壊そうとは思わなかったのです。この事件の衝撃はロボット達が住む月全体を駆け巡り、やはり、作られてから何百年も立っているようなロボットが相次いで永遠の生に悩み、自分を壊すという出来事が起こりました。こうなってしまうともう止まりません。この動きは遂に「死、こそが真の自由ではないか」とするロボット達により戦争となってしまいました。合い違うもの達が争い、どちらかが生き残るというものではなく、ただただ自らを壊すための戦争です。ロボット達には痛みがありません。痛みを感じる心もありません。だから、人間なら一瞬で焼き溶かすような、ロボットでも体がバラバラになってしまうようなミサイルが月全体へ降り落ちました。毎日毎日、まるで雨のように。

炎の雨が止んだ頃、ロボット達が住んでいた月は、ロボット達とロボット達が作った建物の残骸で溢れかえる廃墟となりました。バラバラになったロボット達は、残っている頭や手や足を、がきがきと動かしているだけです。辛うじて頭も手も足も残っていたロボットは月全体で1体だけでした。名前をエーテルと言います。エーテルの親となるロボットが炎の雨からエーテルを庇ってくれたお陰でエーテルは助かったのです。エーテルはまだ作られて6年も経たない子供のロボット。外で何が起こっているのかわかりません。母親も父親も炎の雨でこなごなになってもう、いません。何をしたらいいのかわからないエーテルは仲良しでいつも遊んでいた女の子型のロボット、アンナを探そうと思い立ちました。アンナのことを思うとエーテルはいつも胸が苦しくなります。胸という部品はありますが、思考によって調子が左右することはありません。でも確かに胸が苦しくなるのです。ただ苦しいだけではなく、どこか甘く、いとおしくなる様な。いつしか自分の唯一の存在としてアンナのことを思っているエーテルがいました。

エーテルはアンナが住む家へと向かいました。しかしアンナが住む家もまた炎の雨でこなごなになってありません。アンナの姿もありませんでした。

エーテルは急に悲しくなりました。どうしてこんなに悲しくなるのかわかりません。自分の思考にエラーが生じたのか調べてみましたが、どこも壊れているところはありません。でも、とても悲しいのです。そのまま一年間、悲しみにくれて、ふと地面を見たとき、エーテルはアンナがいつも付けていたリボンを見つけました。ボロボロになっていましたが確かにアンナのものでした。エーテルはアンナが近くにいるかもしれないと探しましたが、アンナ自身の体はどこにもありません。でもエーテルが見つけたアンナのリボンはエーテルに希望の灯を燈しました。この世界のどこかにアンナの欠片があるはず。だからそれを全部拾い集めて、アンナを直そう。

エーテルの長い、長い旅が始まりました。

エーテルは、何年も、何十年も、何百年も、歩き続けました。雲の海から湿りの海へ、眠りの沼からコーカサス山脈へ、カルパチア山脈から虹の入江へ。旅の途中、皮膚はボロボロとはがれ、指は朽ち、左腕は捥げ、右足が動かなくなりましたが、それでもエーテルは歩き続けました。どこへ行ってもあるのは自分と同じロボットの残骸と廃墟があるばかり。アンナの欠片は見つかりません。旅の終点がどこかもわからず、ただ、アンナへの想いだけを頼りにエーテルは歩き続けたのです。その姿は歩くことすら不思議なくらいでした。

エーテルは今も歩き続けています。


[No.28] 2008/06/10(Tue) 19:31:09
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - アム@ゴロネコ藩国

○35-00682-01:アム:ゴロネコ藩国
○封印された怪物
○1885文字
昔ある世界に醜い怪物が住んでいました。耳まで裂けた大きな口に火の玉のような紅い目、鎧も盾も簡単に貫いてしまうであろう大きな牙。暗闇のような漆黒の毛皮を持つ巨大な怪物でした。その泣き声は木々を揺らし寝ている赤ん坊はみな目を覚ましエンエンと泣き出してしまう恐ろしい声でした。住処の森のそばに暮らす人たちは恐怖で夜も眠れませんでした。その話を聞き近くの神殿の高僧が怪物に勝負を挑み怪物を洞窟に封印しました。人々は大いに喜んだとさ。
それから百年が過ぎようとして人々は怪物のことをすっかりと忘れていました。しかし怪物はこの百年少しずつ少しずつ高僧のかけた封印を破りもう少しで自由になろうとしていました。怪物は一つの楽しみがありました。封印された洞窟の隙間から見える町の景色を見ることだった。そこには魔法使いでも勇者でも人たちが与えられた命を輝かせながら自分にできることをして、ささやかな幸せを作り守り生きていました。怪物は醜く恐ろしい姿でしたが。人間のことが大好きだったのです。怪物はわかっていました醜く恐ろしい姿だから人間は私を恐れ封印されたのだと。人間は自分達を護るために相手の話や相手の立場を考えられるのに、それを忘れて取り返しのつかないことをすることもあるということを。しかしだからと言って怪物は人間のことを嫌いにはなりませんでした。悪いとこ含めて人間が好きだったのです。百年前は人間と共に生きたいと声をあげたが、逆に脅かしてしまった。今度は静に生きよう、この封印をといたらイロイロな町や村の暮らしを静に見守っていこうと考えていました。
ある日、町が騒がしく人々の笑顔がなくなりました、戦争が始まったのです。町からも多くの若者が兵隊として町から旅立っていきました。それとともに町はどんどん活気を失っていきました。そして町からでて行った若者が戦死したと言う報告が町にもたらせるたびに町は悲しみに包まれました。ささやかな幸せを作り護ってきた、それが戦争の前で無力に壊されていくことに怪物は我慢できませんでした。怪物は大きく暴れて封印を壊しはじめました。さらにしばらくすると町は戦場になりました。町からは悲鳴が溢れました。幸せが全て壊れた景色に怪物は完全に怒りました。そして封印を破り洞窟から出て町に一気に走っていきました。物凄い速度で迫ってくる恐ろしい怪物に兵士たちは敵味方問わず脅えました。そして木々を揺らす怪物の鳴き声で兵士たちは敵味方問わず逃げ出しました。怪物は一人廃墟と化した町の広場に立ち火の玉のような目から涙を流しました。大好きな人間が互いに殺し合い互い幸せを奪い合う姿を見たくないとそして怪物は戦争を終わらせようと決意しました。
それから怪物は戦争をする両国の戦場という戦場に現れました。怪物は危害を加えませんでしたが姿と声だけで兵士たちは逃げました。敵味方関係なく逃げました。転んだり逃げ遅れた兵士を敵国の兵士が担いで逃げたり戦場で睨みあっていた両国の将軍が並んで逃げていきました。恐ろしい怪物が暴れまわっていると言う報告は両国の王様にもたらされました。両国の王様は困りましたそして、そして戦争を終わらせて共同で怪物を退治することにしました。それを聞いた怪物は進んで姿を現し討伐軍の攻撃に身を任せました。投石器の石が当たり立派な牙が折れ、矢が喉に刺さり木々を揺らす声を失いました。傷つきなから大声で叫びました。「人間たちよ、よく聞け、私は与えられた命を精一杯輝かせ。自分にできることをして、ささやかな幸せを作り護り生きていくと言うのなら我は二度と現れないだろう。だがそれを忘れて互いのことを考えずささやかな幸せを護ることを忘れ世界が憎しみで覆われたときまたこの地に現れるそれを忘れるな。」
 そう叫び怪物は消えていきました。怪物に脅え協力することを思い出した両国は互いに手を取り合って繁栄していきました。怪物の消えた場所には怪物の言葉が刻まれた石碑が建てられ、怪物の言葉を忘れないようにしているとさ。
 ところで消えた怪物は死んでしまったのでしょうか。いいえ生きています。漆黒の体を夜の闇に隠して人々の静かな眠りを見守り闇と共にくる悪しき夢を狩り続け大好きな人間の笑顔を静に護り続けているのです。今夜あたりあなたの夢にお邪魔するかも知れません醜いかも知れませんが怪物は人間の幸せを願っています。人間の幸せのためなら身を犠牲にできます。だから楽しく遊んでくださいそして、怪物が悲しまないように多くの人と手を取り合いささやかな幸せを作り護っていきましょうね。(おしまい・おしまい)


[No.29] 2008/06/10(Tue) 20:19:58
冬を追い払った男の子の話 (No.7への返信 / 1階層) - 深夜@後ほねっこ男爵領

○14-00288-01:深夜:後ほねっこ男爵領
○「冬を追い払った男の子の話」
○1998文字


これはどこか遠くの、ずっと昔のお話。
冬は長く雪が降り、春と共に小川は流れ、夏の日差しはすぐに消え去り、秋が訪れる頃には山は冬支度を始める。
そんな、北の国のお話。

その国の冬は長く、そして、毎日のように雪が降りました。
お日様が照る日は少ないのに、雪はあとからあとから降ってきます。
ですから、その国に住む人たちは、冬の間、ずっと肩を寄せ合って、暮らしていました。
だけど、そんな暮らしがどうしても嫌になった一人の男の子がいました。
だって、雪が降っている間は、外で遊べませんし、友達にも会えません。
雪が降らない日は、色々な用事を、急いで済ませてしまわなければいけません。

男の子は思います。
あんまりにものんびりやってくる春がいけないんだ。
すぐに何処かに行ってしまう夏がいけないんだ。
せっかちに冬を招く秋がいけないんだ。
だけど、何よりも悪いのは、間違いなく冬です。
何一つ楽しいことの無い、長くて暗い季節。

男の子は、冬にしては珍しく晴れた日に、旅へ出ました。
冬を追い払うための旅です。
引き止めるみんなの腕を振り払い、後ろも振り返らずに。
雪の上に残る男の子の足跡だけが、てんてんとその後を追いかけていきました。

男の子は、真っ直ぐに冬のいる北には向かわず、夏のいる南を目指しました。
なぜなら、男の子の住んでいる国より北は、あまりにも寒く、そして、沢山雪が降るため、とても歩いていける場所ではないからです。
男の子は、夏の力を借りようと、思ったのです。
北の国の人たちが一番待ち望むのは、春の訪れですが、一番楽しむのは、夏の強い日差しだからです。
優しい夏ならば、きっと、男の子を助けてくれると、そう、思ったからでした。

雪が降っても、山があっても、気にせず男の子は南を目指します。
やがて、雪は雨になり、はっきりとわかるほどに暖かくなっていきます。
どんどん暖かくなり、やがて、服が必要ないほど暑くなった頃、男の子は太陽が降り注ぐ海辺にたどり着きました。
そこが、夏のすみかでした。

夏に会って、男の子は言います。

「夏さんにお願いがあります。
 僕の国は、冬にいじめられています。助けてください」

 夏は言いました。

「君たちを助けるといっても、冬は私の友達だ。
 どういうわけがあるにしても、冬の邪魔は出来ない」

男の子は困ってしまいました。
まさか、夏と冬が友達だとは思わなかったのです。
それを見かねた夏は言いました。

「私には、冬が君たちをいじめるとは、とても思えない。
 きっと、何かの間違いだと思う。
 会って話せば、誤解も解けるかもしれない。
 私の力を分けてあげるから、冬と直接話してきなさい」

そう言うと、夏は男の子に、自分のかけらを分けてあげました。
男の子の身体は、ポカポカと温かくなり、それだけで冬の寒さを遠ざけました。
その温かさに、力をもらい、男の子は、今度は北に向かって歩き始めました。
来た道と、同じように、山があり、やがて雪が降り始めましたが、今度はへいちゃらです。
なぜなら、男の子から伝わってくる夏の力を恐れて、一歩進むごとに、雪と寒さは男の子の周りから逃げだしてしまったのですから。
簡単に男の子は、北の国に帰りつき、そして、更に北の、冬のすみかを目指します。

雪と風はドンドン強くなり、寒さも厳しくなっていきます。
気が付けば、周りは、降り続ける雪で真っ白な壁に囲まれたようになり、吐く息さえ凍って、男の子の邪魔をするようになりました。
しかし、ここで帰ってしまっては、今までの苦労も全て水の泡です。
男の子は、歯を食いしばって歩き続けました。

とうとう男の子は、冬のすみかにたどり着きました。
男の子は、冬に言いました。

「お前のせいで、僕の国は迷惑してるんだ。
 お前なんか、どこかに行ってしまえ」

冬はビックリして言いました。

「まさか、そんな風に思われているとは、思いもしなかった。
 知らぬまに人を苦しめていたなんて、私はなんておろかだったのだろう」

ごめんよ、ごめんよ、と泣きながら、冬は何処かに行ってしまいました。
ひときわ寂しい場所に住んでいた冬は、誰かに面と向かって怒られた事がなかったのです。

こうして、冬はいなくなりました。
いきようようと男の子は北の国に帰りました。
そして、一年、二年と、年は過ぎていきました。
男の子は、すぐに自分の間違いに気が付きました。

春の訪れの喜びは、ぼんやりとしたものになりました。
夏の日差しは、ただ暑いだけになりました。
秋の実りは、前よりも美味しくなくなったような気がしました。
そして、冬に肩を寄せ合って分け合った暖かさは、もうどこにもありません。

なくしたものを元に戻すため、男の子は、再び旅に出ました。
もう一度、冬を見つけて、今度は謝るために。

これで、このお話はおしまいです。
え? 男の子が冬を見つけられたかって?
もちろんです。だって、あなたの家にも、ちゃんと冬がくるでしょう?
それが、男の子が冬と仲直りできた証拠です。


[No.35] 2008/06/11(Wed) 02:39:37
文字数 (No.28への返信 / 2階層) - あんどーなつ

全部で1872文字になります。

[No.36] 2008/06/11(Wed) 07:29:54
ふたつの光 (No.7への返信 / 1階層) - 薊@リワマヒ国

〇34-00430-01:薊:リワマヒ国
〇「ふたつの光」
〇本文1134文字


遠い昔。遠い世界のどこかに、人と星が共存する世界がありました。
その世界の国々には光が溢れ、花も虹もきらきらと輝いて見えました。
しかし、いつの頃からか世界には少しずつ影が広がり始め、国は次第に闇に覆われていきました。


月の住む国も、闇に覆われた国のひとつでした。
常闇の中ではどれほど明かりを燈そうとも光が広がることはなく、光源を離れた光は深い闇に吸収されてしまいます。
暗闇で過ごす日々が続く内に花や作物は枯れ、人の心も荒んでいきました。
この闇を晴らすためにはとても強い光が必要だったのです。


月は輝けぬ我が身を嘆き、光を捜しに旅に出る決意をしました。
今の自分にできることはそれだけだと。
どこかにきっとこの闇を退けられる光がある。そう信じて月は旅立ちました。


いくつもの国を渡り歩き、月は世界の現状を見て回りました。
周辺のいくつかの国は同様に闇に覆われてしまっていましたが、どうやら強い輝きを放つ恒星の住む国では闇に対抗することができていたようです。
月は行く先々で話を聞き、強い光を持つ星を捜し求めました。
そして光溢れる国でひときわ強く輝く星、太陽と出会ったのです。

月は太陽に縋りました。
おねがいします。助けてください。
太陽は月の必死な懇願に動かされ、月の故国へとやってきました。


深い闇の中で、月の願いと人々の期待を一身に受け、太陽はまばゆい光を放ちました。
すると国を覆っていた闇は太陽の光を吸収しきれずに消滅し、やがて夜へ、朝へと変わっていきました。

人々は心から太陽に感謝しました。
月も涙を浮かべながら太陽にお礼を言いました。
ありがとうございます。あなたのお陰で国に光が戻りました。


しかし、ひとしきり喜ぶと人々は不意に闇の恐怖を思い出し、震えました。
そして国を去ろうとする太陽を引き止め口々に願い出ました。
どうかこの国に留まり私たちを護ってください。

太陽は言いました。
あなたがたのように闇に苦しめられている人がいるのはこの国だけではないのだろう。
だから私は自分を必要としている大地を照らすために旅をしようと思う、と。

共に行かないかと差し出された太陽の手を、月はとることができませんでした。
近づく者すべてを焼き尽くしてしまいそうなほどの、あまりにも眩しい光を知ってしまったから。


月は言いました。
私は語部となりましょう。
あなたが去った後も人々があなたを忘れぬように。
あなたの光を私が人々に語り継ぎましょう。

月は太陽と別れ、その身に受けた太陽の残光を大地へ伝えることを選びました。
人々が闇に怯えぬように。
太陽の輝きを忘れてしまわぬように。


太陽は今も力強く輝き、闇を払い続けています。
月は太陽の後に続き、柔らかな光で大地を照らしています。
希望の光は確かにあるのだと人々に伝えるために。

<了>


[No.37] 2008/06/11(Wed) 08:39:10
ごみ姫さまのお話 (No.7への返信 / 1階層) - あんどーなつ@天領

00-00804-01:あんどーなつ:天領
「ごみ姫さまのお話」
文字数478


わたし達は生きている限りゴミを出します。食べ物やその容器、ポリ袋、いらなくなった電化製品やおもちゃ、その他いろいろ。それらのゴミは廃棄物処理場に運ばれてるのはみなさん知っていることでしょう。ごみになる前は何かしらの夢だったもの。例えば飛行機のラジコンは少年にとっての夢だったでしょう。それらがごみとなり運ばれる場所はいつしかドリーム・アイランド、つまり夢の島と呼ばれるようになりました。

そんなところに住んでいる女の子が一人。髪もぼさぼさで服はぼろぼろ、顔や足は汚れ、歯抜けの顔で笑い、近寄るだけでひどい匂いがします。たった一人しか住んでいないからそこは彼女にとっての王国。彼女は夢の島のお姫様でした。名前を付けるとしたら、ごみ姫様でしょうか。

ごみ姫様にとって夢の島はとても楽しい遊び場です。いろんな物を大量のごみの中から見つけては、そのごみの物語を考えるのがごみ姫様の一番楽しい遊びです。今日はお人形を見つけたようです。彼女の王国にまた一人住人ができました。彼女の王国には何もかもがあります。

ごみ姫様はいつもそうしているのです。

これからも、ずっと、ずっと。


[No.39] 2008/06/11(Wed) 18:32:09
ボク (No.7への返信 / 1階層) - 皆見一二三@リワマヒ国

○34-00771-01:皆見一二三:リワマヒ国
○「ボク」
○1857文字

ここはともて暗い世界、ボクしかいない、なにもない世界
どこか暖かい世界、なぜかはわからないけど暖かい世界
ボクしかいないから考えたことなんて、考えるなんてしたことないけど

ほんのり暖かい―――

たまにボクを呼ぶなにかが聞こえる、意味はわからないけど
ボクしかいないから、聞こえてくるのがなんなのかわからないけど、聞こえてるのかもわからないけど

感じる―――

ボクは手探りで周りを探ってみる、でもやっぱりなにもない
考えたことなんて一度もないから、考える必要なんてない世界だから
ただ漠然と思っただけかもしれない

ここから出てみたいな―――

そのときはじめて世界が変わった気がした
知らなかっただけかもしれないけど、知ろうともしなかったけれど


目の前で白いのがボクを興味深そうに見ている
「はじめまして、ボクは***、今日はボクの日、月溶日。きみの友達さ」
白いのがボクに向けて言ってくる、言っているのかわからないけど、あってるのかわからないけど
「今日はボクの日、月溶日。お話しを聞かせてあげる、今は分からないかもしれないけれど」
「いつか君は分かってくれる、きっと君は思い出す、どんなに暗くてもボクは君と共にあるから」
何を言ってるのだろう、よくわからない、わからないってなんだろう、でも

うれしいな―――

お話しを終えた白いのはボクに
「今日はボクの日、月溶日―――月溶日の終わりはボクの終わり。でもまた会えるから、だからそれまでバイバイ」
そして、白いのはボクの胸のなかに飛び込んで消えてしまった
また一人ぼっち、胸がしめつけられる気分、これはなんだろう

寂しいな―――

そんなボクの前に、今度は赤いのがぐるぐる、ボクのまわりをぐるぐる
「やあやあ、ボクは***、今日はボクの日、火溶日。友達になってあげる」
さっきのとは何かがちがう、何が違うのだろう、あれは何だろう
「今日はボクの日、火溶日。お話しをしようか。今は分からないだろうけど。」
「いつか分かるよ、ボクは君の友達で、協力者。君のこれからの協力者、だからきっと思いだす。」
赤いのは笑ってる、笑うってなんだろう、わからないけどなんだか

うれしいな―――

お話しを終えるとと赤いのはボクに
「今日はボクの日、火溶日―――火溶日の終わりはボクの終わり。でもまた会えるんだ、だからそれまでバイバイ」
赤いのはボクの頭を撫でてくれた気がした、笑いながらボクの胸に飛び込んで消えてしまったけれど
また一人ぼっち、胸はぽかぽかしてるけど、心が震えてる、これはなんだろう

寂しいな―――


青いの、緑の、ピカピカの、薄汚れたの、次々に現れてボクにお話しを聞かせてくれた
お話しが終わるとみんなボクの胸に飛び込んで消えていってしまう
結局ボクは一人ぼっち、寂しいな、寂しいってなんだろう、わからないけど

寂しいな―――

そしてボクは思うことを覚えた


そんなボクの前にまぶしいのがひょっこり現れて言った
「ようこそ、ボクは***、今日はボクの日、日耀日。ボクは君の友達。」
またいなくなっちゃうのかな、それは寂しいな、ボクは心の中で思ってる、思うことを覚えたから
「ボクはいつでも君の友達。さぁお話しをしよう、今は分からないかもしれないけど。」
「ボクは必ずそこにあるから、迷ったときはボクを探してくれればいい。ボクはいつも君とある、ボクは迷うことはないから。」
わからない、わからない、わからないけど

うれしいな―――

お話しが終わるとボクは寂しくなって

いなくなるのは寂しい、だから―――

まぶしいのはけらけら笑っている
「今日はボクの日、日耀日―――日耀日が終わってもボクは終わらない。ボクは常に輝いてるから、さぁ行こう光ある世界に。」
ボクにそっと、まぶしいのが手を伸ばしてくれた
ボクは目を閉じその手をとる

一人は嫌だ、寂しいのは嫌だ―――

一人は寂しい―――



ボクが目を開けた時、目の前には知らないのがいっぱい
「生まれてきてくれてありがとう、本当によかった」
なんだろう、なんて言っているんだろう、聞こえるけどよくわからない
よくわからないけど、喜んでくれているみたい
どうやら、ボクのまわりにはよくわからない、知らないものだらけ、でもみんな喜んでいる

うれしいな―――

うれしいから、どうすればいいんだろう、どうすればいいのかわからないから
ボクはとりあえず思いっきり泣いみてようと思う


[No.40] 2008/06/11(Wed) 20:43:34
翼を欲しがった少年 (No.7への返信 / 1階層) - 月光ほろほろ@たけきの藩国

○26-00500-01:月光ほろほろ:たけきの藩国
○「翼が欲しかった少年」
○テキスト文字数 1718文字

あなたには誰にも負けないものはありますか?
自慢できるものが無かったら、それはいけないことなのでしょうか?

*―*―*―*―*

昔々、鳥に憧れた少年がいました。その子は空を夢見て、自由に空を羽ばたくことを願いました。自分は地面に足がついていて、ひどく、こう、不自由な感じがしました。
(あれだけ自由に飛べたら楽しいだろうな)と思いました。
(空を飛べたら、みんなもすごいって言ってくれるぞ)とも思いました。
少年には他の友達のように自慢できるものが無かったのです。走るのも一番じゃないし、頭もそんなに良くない、と思っています。
(あぁ僕が鳥だったら空を飛べるし、楽器だったらキレイな音で鳴るのにな…)
でも少年は鳥でも楽器でもありません。だから一番になるためにも、まずは空を飛びたかったのでした。でも、悲しいことに飛べなかったのです。
少年は方法を考えました。僕にも翼があればいいのだろうか、と。
少年はさっそく自分の羽根布団の中からふかふかの羽をたくさん取り出すと、のりを使ってぺたぺたとホウキに貼り付け始めました。2本あるホウキは、白い羽毛におおわれます。両手に持つと本当に翼が生えたみたいで、少年は嬉しくて笑いました。そうしてそのまま、靴を履いて外に出ます。そう。空を飛ぶために。

空は吸い込まれそうな青。
夏の高い雲は、そこにあるだけで胸が高鳴ります。少年はじっと真上の空を見上げます。
目の前全てが空になると、まるでそのまま上っているかのよう。
遠くに鳥が見えました。
少年は気持ちを固めると、勢いよく両手を動かし、羽ばたき始めました。
空を、飛ぶために。

時間が経ち、太陽が沈みかける時間になって、夕日に照らされた少年は手を動かすのを止めました。
目は未だに空を見据えています。そうしないと、たまった涙がこぼれてしまうのでした。
何が悪いかは良く分かりませんでしたが、飛べなかったことはよく分かりました。
ホウキについた羽はほとんど飛び散ってしまって、そのことも気持ちを沈ませます。
(お母さんに、あやまらなきゃ)
少年は歯を食いしばりながら帰りました。大声で泣きたい気持ちを我慢して。

家の前に、少年のお母さんが待っていました。怒られると思って身構えた少年でしたが、お母さんは怒らずに言いました。
「どうしたの?お母さん、今日掃除できなくて困っちゃったじゃない。あなたのすることだから、なにか意味はあると思うけど。話してみて」
少年は最初から全部しゃべりました。空が好きなこと。他の友達のように自慢できるものが無いこと。空を飛べたら、みんながすごいだろうと思うこと…話しているうちに悲しくて、お母さんの笑顔があったかくて、少年はずっと我慢していた涙をぽろぽろとこぼしていました。
全部をしゃべって、そのまましゃくりをあげる少年に、お母さんは言いました。
「みんな違って、だからこそ素敵なのよ」と。
少年はよく意味が分かりません。鼻をすすりながら、お母さんの顔を見ていました。
お母さんは言います。
「あのね、あなたは空を飛ぶことはできないけれど、鳥はあなたみたいに地面を早くは走れないわ」
「でも、僕は楽器みたいにキレイなおとは出せないよ」
少年の言葉に、お母さんはにっこり笑って言いました。
「あなたは楽器のような綺麗な音は出せなくても、楽器よりもたくさんの歌を知っているわ。みんな違って、だからこそ素敵なの」
「みんな違って、だからステキ?」
お母さんは少年を抱きしめて言います。
「ええ。みんなできることも違うし、得意なことも違うわ。でもそれは良いことなのよ。
あなたにはあなたにしかできないこともあるの。だから7つの世界にはたくさんの人がいるのでしょうね」
少年はお母さんの良い匂いに包まれながら、星の出ている空を見つめました。
不思議と、もう空を飛びたいとは思わなくなっています。
(だって、僕にもみんなと違うところがあるだろうし)
お母さんは扉を開けて、少年を招きます。
(みんな違って、だからステキなら、僕だってステキなんだ)
そうして少年は、彼の居場所である地上に戻ってきました。

*―*―*―*―*

あなたがそこにいるだけで、助けられている人はいるんですよ。
みんな違って、だからこそ素敵なのです。


[No.42] 2008/06/12(Thu) 00:44:58
龍と姫君 (No.7への返信 / 1階層) - 月光ほろほろ@たけきの藩国

> ○国民番号:PC名:藩国
26-00500-01:月光ほろほろ:たけきの藩国

> ○「作品タイトル」
龍と姫君

> ○テキスト文字数
1901

昔々の事、まだこの世界に今よりもたくさんの種族が存在していたころのお話です。
とある王国の姫君が不治の病に犯されてしまいました。
姫君は穢れとされ、国に災いをもたらすと占い師は言います。
王国を守る為に病に冒された姫君は王様の命令でイケニエにされました。
地にあまねく生き物の中でも一番の邪悪と言われる黒龍にです。

洞窟の入り口に姫君を降ろすと、王国の兵士達は帰っていきました。
姫君は悲しい自分の運命を受け入れ、洞窟の奥へと向かいます。
その奥には、噂どおりの黒い1匹の龍がいました。
その鱗は深い夜のよう。その瞳は輝く月のよう。
黒い龍は姫君を見ると『死の匂いがするね。君は死の病に冒されている』と人族の言葉で言いました。
姫君はその声が思ったよりも優しいことを感じて、思い切って質問しました。
「黒い龍よ。貴方は私を喰らうのですか?」
龍は答えました。
『食べたいとは思わないよ 』
そうして、自分の前足に傷をつけると、血を姫君に飲ませます。
『これで病は快方に向かうだろう。飲み過ぎてはいけないよ。龍になってしまうからね』
事態が把握できず、首を傾げる姫君。でも心なしか、胸の奥がすっきりと澄んだように感じます。
龍は言いました。
『それよりも僕の友達になってはくれないだろうか。ここには話し相手がいなくて、僕は寂しかったんだ』
姫君は驚きました。そうして思います。
(こんなに大きな身体をしているのに、この龍はまるで子供みたいなことを言うのね)と。
姫君は少し微笑んで、頷きました 。 黒い竜も笑い返しながら言います。
『君の瞳はとても綺麗だね。空から見た、この星のようだ』
姫君は、こんな風に心を込めて褒められたのは初めてでした。
王宮の人たちは王様が怖くて姫君を褒めますが、それは心のこもっていない、ただの言葉でした。
(これからは自分の青い瞳を、もっと好きになれそうだわ)と姫君は思い、言葉を返します。
「貴方の瞳も、とても素敵。夜空に輝く、あの月のようね」
『嬉しいなぁ。それじゃあ、僕の瞳を見に行こうか』
黒い龍はそう言うと、姫君に背を差し出します。姫君が恐る恐る乗ると、落とさないようにゆっくりと、龍は洞窟の横穴から、夜空に羽ばたきます。
夜空には満天の星空。遠くに小さな黄金の月。
夜の空気を胸いっぱいに吸い込んでも、もう姫君が咳き込むことはありません。
空を舞いながら確かにその時、龍と姫君はお互いの思いを感じていました。
喜びに姫君が歌い、龍も音階をあわせます。
信頼は種族を超えて、歌となり大空に響きました

一人と一匹は仲良く暮らしました。
暮らしていく中で、たくさんのことを話しました。
これまでの事を、そしてこれからの事を。
次第に惹かれて、離れられなくなっていきます。
『今が永遠に続けば良いのにね』
一人と一匹は同じ事を考えていました。
今まではお互いがいなかったことなんて信じられない、とでも言う風に。

しかし、そんな幸せを突然響く大砲の音が引き裂きます。
王国の軍隊が無差別砲撃とともに現れたのでした。欲の深い王様は、姫君がまだ生きているなら他国への貢物に使おうと思ったのです。
無差別砲撃から姫君をかばう時に、龍は両目に深い傷を負います。
近くに生きる森の生き物をかばう時に、龍の翼はズタズタに引裂かれました。
驚く姫君の悲鳴が、何と言うことか、王国の軍隊に姫君の場所を教えてしまいました。
追っ手が迫ります。
潰れた瞳で龍は言いました。
『大好きな君を守りたい。けれども僕の力は強すぎて、兵隊を皆殺しにしてしまうだろう。我慢をするから、君だけはどうか逃げて。別れは本当に悲しいけれど』
目を潰されて、翼を引裂かれて、それでも相手を殺したくないと願う龍を見て、姫君の心は決まりました。
姫君は言います。
「いいえ、優しい私の思い龍。貴方のいない世界に、どんな意味があると言うのでしょう。
人族には愛想がつきました。私も龍になりましょう」
そう言うと手をとり姫君は龍をかばいました。
そこに王国の砲撃が迫ります。
しかし大砲の弾は、突如現れた白い竜によって弾かれました。
姫君は人族であることを恥じ、白く輝く龍になりました。
それは人族が龍の血を飲みすぎた結果です。
龍の血は姫君の病を治すと同時に、その身体を龍に作り変えていたのでした。
白い龍は黒い龍を守るように包むと 大空に飛び立ちました。人の手の届かない、遠く、遠くへ。

今でも空の果てには、白と黒の2匹の龍が仲むつまじく歌う歌が響くと言います。

/*/

種族も、年齢もその他の何もかもも、愛の前には霞んでしまうという、これはそんな物語―。


[No.45] 2008/06/13(Fri) 01:31:48
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 槙 昌福@よんた藩国

○13-00274-01:槙 昌福:よんた藩国
○「未来を生きる君達へ」
○文字数:1790文字


ジジ様は、体を震わせながら、とうとうと語りました。

それは、苦い過去と、未来への希望を乗せた言葉

これは、そんなお話です。


/ * /


 ジジ様が、君たちと同じように子供だったころ

 ジジ様には仲良く遊ぶ仲間がいました。いつも日が暮れるまで、泥だらけになって遊ぶ。そんな仲の良い友達でした。


 夏のある日、ひとつの事件がありました。


 みんなで作った秘密基地。あと少しで完成するはずだったそれは、何があったのでしょう。


 昨日までピカピカだったそれは、めちゃくちゃに壊れていました。


 それを見つけたジジ様たちは、しばらく、壊れた秘密基地を見上げていました。


 やがて、ある子が大声で言いました「いったい、だれがこんな事したんだよ!」


 誰に向けた言葉でもありませんでしたが、いやな雰囲気がその場を包みました。


 別の少年がぼそりと言いました「昨日は、雨も降ってないし…誰かがやったんだろう…ね」


 いちばん小さな女の子が泣き出します。場の空気はいっそう険悪になりました。


「また、作ればいいじゃない。次はもっと頑丈でカッコよくしようよ」ある少女が言います。


「お前、悔しくないのかよ!」別の少年の目は怒りに包まれていました。


「そうじゃないけど…」少女は、その迫力に俯いて黙ってしまいました。


 やり場の無い暗い空気は怒気へと姿を変え、粘ついた黒い水のように皆の心に広がり


『犯人探し』へとその力を向け始めました。


 ジジ様は、それを止めることが出来ませんでした。
なぜなら、ジジ様の心の中にも黒くてもやもやした気持ちがあって、誰かがやったんだと考える方が楽だったからです。そして皆と違うことを言う事が怖かったからです。

疑われるのが怖かったのです。

そして…どこかで『犯人探し』を楽しんでいる自分がいたからです。


/ * /

「お前がやったんだろう!」大柄の少年が、金髪の少年を突き飛ばしました。

「僕、しらないよ…」金髪の少年は怯えながら答えます。
彼は隣国から越してきたばかりの新参の少年でした。
いえ、幼年といってもいい歳です。


 どのグループにも属していないという理由だけで、皆と同じ外見をしていないという理由だけで犯人の候補となっていました。


 少年は怯えた眼で、助けを求めるように周囲を取り巻くジジ様達を見上げます。


 怒りに囚われた者は少年を睨み、それ以外の者は目をそらします。
だれも助けることはできませんでした。ジジ様はただ俯くことしかできませんでした。


 しばらくの沈黙の後、証拠もないので、その子は開放されました。

 
 ただ、最後の最後に、ジジ様は言ってしまいました。

「ちぇ、これだから、よそ者は信用できねぇよなぁ」


 金髪の少年は動きを止めてジジ様を見つめ、何か言いかけた後、走ってその場を去りました。

 その夜ジジ様は、少年の瞳が忘れられず、チクチクとした胸の痛みで眠れませんでした。


 翌日、胸の痛みに負け、独り謝りに行ったジジ様が見たものは、がらんどうになった少年家族の家でした。


 言葉は抜身の刃です。その傷は長い長い時間、ひょっとしたら死ぬまで消えません。


 ジジ様は、そこで初めて、自分の罪を知り、その大きさに、涙しながら野を走りました。そうせずには、いられませんでした。


/ * /


 ジジ様は言います「私は、今でもあの瞳が、忘れられない。どれほど悔やんでも、あの少年に謝ることは叶わない。なんと愚かな事をしたものよ。」

 そうして、大きく息を吐くと、続けて言いました。

「いいかい、子供たちよ。大人になっても、この黒い心を捨てることは出来ないよ。
世の中には、疑ったり、妬んだり、怒ったりしたくなる事が沢山ある。
黒い心に負けそうになる。でもね。子供たちよ。恐れてはいけないよ。
もし、黒い心が表れたら、それをこそ疑ってみて欲しい。それはとても怖いことだ。足がすくんで、ひざが震えるほどに。
だからこそ、人は、その心を忘れないように、それに名をつけたんだよ。」


 その名は『勇気』黒き心を打ち砕く銀の剣。


 だから、子供たちよ、勇気を持ちなさい。後悔しないように。


 それにね。『勇気』『愛』『優しさ』『慈悲』人には良い所がたくさんある。


 それを大切に育ててあげなさい。


 それが、この愚かな老いぼれからの、最後のお願い。未来への遺産だ。


 なぁに、人生は捨てたものじゃあない。
 

 君たちの未来が燦然と輝くのが、私には見えるよ。

 
 そうして、頷く子供たちを見たジジ様は


 歯を見せて笑って、ゆっくりと、目を閉じました。



おわり


[No.47] 2008/06/14(Sat) 00:18:33
掃除をした猿 (No.7への返信 / 1階層) - ウル@ゴロネコ藩国

○35-00688-01:ウル:ゴロネコ藩国
○「掃除をした猿」
○テキスト文字数:1867文字

(以下、テキスト本文)
遠い遠い場所のお話。

 そこには多くの猿が住んでいて、とても便利な国でした。しかしその国は便利を求めるあまり、汚れがどんどんひどくなっていったのです。そこで猿の王さまは、一匹の猿に国の掃除を命じました。
「我が国は非常に有害なゴミが溜まっている。君にはそれを取り除いてもらいたい」
 一匹の猿は、王の命ならとそれをありがたく受け入れました。
 まず一匹の猿は王宮と街の掃除をしました。
 王宮と街はみるみるうちにきれいになっていき、王さまはとても喜びました。街の猿たちも大喜びで、一匹の猿をほめたたえました。
 次に一匹の猿は川へ行き、岸辺や川の中を掃除して、魚が住めるようにしました。これに漁師たちは大喜び。これでまた魚が取れると一匹の猿に感謝しました。
 その調子で猿は、旅をしながらどんどん国をきれいにしていきました。

 しばらくして一匹の猿が街に戻ると、街はとても汚れていたのです。
 王様と街の猿たちは声をそろえてこう言いました。
「早く掃除をするんだ。このままじゃ大変なことになる」
 街の猿たちは、一匹の猿が掃除するのをいいことに、自分たちは掃除をせず、便利ばかりを求めていたのです。そのせいで、街だけでなく川も森も海も山も汚れてしまっていたのでした。
 一匹の猿は言います。
「まずは、自分たちの場所を自分たちで掃除してみてはどうでしょうか? みんなでやればきっとすぐにきれいになりますよ」
すると、猿たちは言い返します。
「何を言っているんだ。掃除は君の仕事だろう。私たちは便利になりたいだけなんだ」
 それを聞いた一匹の猿は打ちひしがれ、悲しみのあまりその場を逃げ出してしまいました。
 逃げる一匹の猿を捕まえようと、街の猿たちは追いかけました。しかし、汚れた地面は猿たちの足止めをし、一匹の猿は足元のゴミをうまくよけながら逃げて行きます。
「追いかけろ、追いかけろ。とにかく捕まえるんだ」
 猿たちは躍起になって追いかけますが、とうとう一匹の猿を見失いました。

/*/

 夜がすぎ、朝がすぎても、息を切らせて一匹の猿は走り続けました。深い森に入ってしばらくすると、一匹の猿は森の空気が変わっていることに気付きました。
 いままで淀んで汚かった空気が、いつの間にか澄んでいたのです。
 一匹の猿は走るのを止め、ゆっくりと歩いて辺りを見回しました。
「どうしてだろう。今まであんなに汚かったのに、ここはとてもきれいだ」
森を抜けると、美しい湖が広がっていて、何匹かの猿が湖のほとりでくつろいでいました。
 一匹の猿は驚きました。そこには汚れのない、綺麗な自然のままの場所が残っていたのです。
 なぜこんなにもここはきれいなのかと尋ねたところ、森の猿たちは当然のように答えました。
 「そりゃあ、自分たちで掃除しているに決まっているじゃないか。君は猿の国からやってきたのかい? だとしたら不思議に思っても無理はないね。あそこは誰も自分で掃除しなかったからさ」
 森の猿たちは、むかし国に住んでいたが汚いのが嫌になって出てきたんだ、と一匹の猿に話しました。
 一匹の猿も事情を説明すると、すぐに森の猿たちは一匹の猿を褒め、感謝しました。猿の国にも自分たちのように掃除をする猿が出てきたことが、とても嬉しかったのです。
 森の猿たちはここでしばらく過ごしていくと良いと一匹の猿を歓迎し、寝床を与え、一緒に暮らすことを提案しました。一匹の猿はその提案に感謝し、一緒に仕事もさせてほしいと頼みました。
 森の猿たちの暮らしは、とても当たり前なものでした。朝早く起きて田畑の手入れをし、交替で食事を作って、それをみんなで片付けたあと、また仕事に戻る。森を切り開いたり、逆に種を植えたりして、自然と共存していました。
 その当たり前なことが、一匹の猿にはとても素晴らしいことのように思えました。当たり前のことを当たり前にするのは、実はとても難しいからです。

 数週間の後、一匹の猿はこの森に住むことを決め、それを森の猿たちにお願いしました。
 森の猿はそれを喜び、その日の晩に湖のほとりで宴会が行われました。そしてその席で、一匹の猿は森の猿たちにこれから一緒に歩んでいく仲間として受け入れられたのです。
 その後、一匹の猿は一匹ではなくなり、森の猿の一員として暮らし始めました。大変だけど、とても楽しい当たり前な日常を過ごしました。

/*/

 …ちなみに猿の国はどうなったか? 国は汚れすぎて一度滅びました。でも、何匹かの猿がその跡を掃除して住み始めたらしいですよ? 今はどんな国になっているのか。
 君たちは綺麗な国と汚い国、どっちの方が好きですか? きっと、それが答えです。


[No.55] 2008/06/15(Sun) 19:22:13
りゅうじんさまのおはなし (No.7への返信 / 1階層) - ソーニャ@世界忍者国

○10-00040-01:ソーニャ/ヴァラ/モウン艦氏族/スターチス:世界忍者国
○「りゅうじんさまのおはなし」
○2070字

/*/

日本の竜は、水と関わりの深い存在で、河や泉を守る守護神として、あるいは雨を呼ぶ神様としてあがめられていました。

これから話すお話もそんな中の一つ


熊本の人里離れた山奥にその竜は水源を守ってひっそりと暮らしていました。
かつては、人と共に暮らし川を守っていたのですが、時の政府の命令で、神仏を敬う事を禁じられてしまい、人里を追われてしまったのです。

それから何年も、何十年も時が過ぎ。人は神と共に暮らしていた日々を次第に忘れて行きました。

そんなある日のこと。
道なき道を歩き通して一人の男が竜のもとを訪ねてやってきました。

男は、この山から流れる川の支流で、田畑を耕す農夫でした。

男の村はここ数年で川が干上がってしまい、水不足に悩まされ、村人達は途方にくれていたのです。
男は、どぎゃんかせんといかん(どうにかしなくちゃいけない)と思いながら日々を考えを巡らせていました。

ある日、村の長老は、『かつて竜や神様を追い出した報いが来たのだ』と頭を垂れてつぶやいた。それを聞いた男は、『それなら俺が呼び戻しに行こうか?』 といって、男は竜の住処へと向かったのです。

しかし、人里離れた竜の住処までの道なんてないから何度も山で足を踏み外しそうになっては、命からがらやっとの思いでそこまでたどりつきました。
話を聞いた竜は怒った、『人間たちの都合で追い出しておいて、今度もまたそなたたちの都合で私を連れ戻そうというのか?』

まったくそのとおりで、返す言葉もなく男はがっくりと肩を落として、帰って行きました。

ところが、その翌日

男は再びやってきて、村で採れた作物を持って竜に献上しようとしたのです。
それでも竜は動じなかった、むしろ聞く耳すら持ちませんでした

さらに翌日、また男はやってきました。竜はよくまぁこんな辺鄙な場所まで何日も通おうとするものだと半ば感心したものの、無視していました。

どうせ何時かはあきらめるだろう………と

ですが、男は翌日も、その翌日も翌々日もやってきた。気がつけば一月のあいだ毎日欠かさず男は竜のもとを訪ねたのです。竜は無視していたけれど、男は、竜の住む祠の前に座り毎日他愛もない話をしていきました。

ある時は長老達から聞いた竜と人が一緒に暮らしていた頃の話

ある時は村の祭の話、ある時は自分の子供が生まれた話

時には、独楽を回して披露したり、旬のものが手に入れば上機嫌に竜の祠に供えて、また明日と言って帰って行く

そうして男は雨の日も、嵐の日も一日と欠かすことなく竜の前に姿を見せにやってきました。

気がつけば季節が一回りしていました。

それまでだんまりを決め込んでいた竜は男にこう言いました『何故こんな事を続けるのか』と

男は答えました、『昔は、竜や神様がごく身近にいて近所のお隣さんのごつしとったて、そんなら、おる(俺)も、ご近所さんとして付き合わなんて思うたとです』

竜は、しばらく考えた後、大声で楽しそうに笑いました、こんなに遠くにいるのにご近所さんとは、なんともおかしなものだと。

それからというもの竜は男と話をするようになりました、時には竜も自身の分身たる竜達の物語を語りました。日照りがあった村を救う為に命を投げ出し三つに裂かれた竜の話、欲深い兄弟を戒める為に木に宿った竜の話、あるいは人々と共にあった日々の思い出。

そして月日は更に流れて、男は孫が出来る年になっていました。髪は白髪が増え、顔や手はしわくちゃでしたが、毎日竜の元を訪ねては、楽しそうに会話をしていました。

しかし、孫が生まれたという話を聞いた翌日、男は何時になっても現れませんでした竜は不安にかられながら一夜を過ごしました、翌日も、その翌日も男は現れません。

三日三晩待っても来ない男が気になるあまり、とうとう竜は祠を飛び出して人里に下り始めました。

そこで竜は驚きました、人を寄せ付けぬかのようにうっそうと茂っていた森には、男が長い月日をかけて踏み固めて作った道が出来ていたのです、どんな時も迷わぬ様に標や塚が立てられ、所々に休む場所も作られていました。

男の作った道のお陰で竜は迷わず男の家にたどり着きました、竜が軒先から顔をのぞかせると、そこには病に伏した男が床についていました。

竜の姿を見た男は、見舞いに来てくれたことを大層喜ぶと、自分はあの祠まで行く事が出来ない体になった事を詫びました

竜は言いました。
「もう二度と、人里には下るまいと思っていたのに、そなたと過ごした日々に負けた、そなたの願い事を叶えようぞ」

するとどうでしょう、竜が這って来た道から水がこんこんと流れ出し一つの小川が生まれたのです、小川の水は、乾いてひび割れた田畑を潤しました。

男は、もう一つだけ竜に願い事を言いました、『我が家の隣の林を切り開いて、社を建てました。もしよければ、そちらにお住み頂けないだろうか、もう一度私達とご近所付き合いは出来ないでしょうか』と、竜はその願いを真摯に受け止め、社に身を置き再び人と共に暮らす事になりました。

やがて、男が息絶えたその日、なきがらを背にのせて竜は天高く舞い上がって行きました。

/*/

http://soniaidress.blog103.fc2.com/blog-entry-96.html

こちらのログで使用したおはなしの完全版です。


[No.56] 2008/06/15(Sun) 22:51:56
t:→次のアイドレス=執筆依頼(イベント) (No.56への返信 / 2階層) - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ

ご投稿いただき、ありがとうございます。
ソーニャさんがこの作品で参加してくださるとは、
予想外の喜びでした。感激しております!

が、大変残念なことに文字数規定に引っかかっております。

このお話はソーニャさんご自身が報告なさっているように、
生活ゲームですでに公開されている作品であります。
今回、無理に文字数を削って規定に合わせるのは、
かえって作品の風合いを損なってしまう気がいたします。

いかがでしょうか?
人気投票とは別個の扱いで、ネコリス童話集(仮)への寄稿作品として
改めてこちらから、執筆をお願いすることはできないでしょうか?

じつは、私がこの企画を思いついたのは、ソーニャさんが
ゲームの中でエミリオとネコリスたちにこの話を語っている様子が
本当に臨場感があって生き生きと楽しそうだった、というのが
大きく影響しているのです。

きっかけとなったそのお話を、完全な形でこの童話集に
掲載させていただけるのでしたら、これ以上の喜びはありません。
もしご承諾いただけるのでしたら、
改めてご相談に伺わせていただきたいと思います。

ぶしつけなお願いではありますが、よろしければぜひ!


他の投稿者の皆様にも、人気投票とは別の扱いとなる旨を
ご理解いただけたらと希望します。
皆様、どうぞよろしくお願い申し上げます。


舞花・T・ドラッヘン@スタッフ


[No.57] 2008/06/16(Mon) 01:15:24
りゅうにつかえるいちぞくのおはなし (No.7への返信 / 1階層) - 月光ほろほろ@たけきの藩国

> ○国民番号:PC名:藩国
○26-00723-01:でいだらのっぽ:たけきの藩国

> ○「作品タイトル」
○「りゅうにつかえるいちぞくのおはなし」

> ○テキスト文字数
○1209文字

ある所に、とても武に長けた、強い強い一族がありました。
彼らは闘争を繰り返し、だんだんと勢力を伸ばしていったのです。
次第に一族の領土は拡がり、大きな国をつくるまでになりました。
その国は平和でしたが、野蛮な部分も残っていました。
彼らの長は、最も武に長けた、一族で一番強い者でなければならなかったのです。
だから、この一族の長となるため、人はみな来る日も来る日も、己を鍛え続けたのです。

この国には、一つの伝説がありました。
どこかの山奥に、世界で一番の力を持った、恐ろしい姿をした龍が宝を守って隠れている、という伝説です。

あるとき、一族の長となった若者が龍を探しにいきました。
彼は一族で一番強かったので、戦う相手がいなかったのです。誰も彼もが、彼を恐れていたのです。
彼は孤独を感じて、自分を恐れることのない龍と会いたいと考えたのでした。
彼は旅の果てに、龍の住み処を見つけました。
そこは、人の踏み入ることのないような、とても静かな場所でした。

若者は龍に会うため、進もうとしましたが、呼び止められました。
呼び止めたのは、一人の女性です。彼女は自分のことを龍の巫女だといいました。
若者は龍に会わせてほしいと頼みましたが、巫女は許しませんでした。
若者は龍に会うことを諦めず、そこで暮らし始めました。

若者は気付きませんでした、巫女は彼のことを恐れてはいなかったのです。

毎朝、巫女に挨拶をして、狩りに行き、時折食事を共にして、色々な話をして、そんな日々が過ぎました。
しばらく時が経ち、彼はそこで暮らし始めてから、寂しくなくなったことに気付きました。
龍に会えなかったのは残念でしたが、彼は満ち足りていました。

あるとき、龍の宝を求めてきた者たちがやって来ました。
巫女を押し退けて、無理矢理通ろうとした彼らを若者は力付くで追い返しました。
若者は、いつのまにか、龍とその巫女のことが好きになっていたのです。

彼は会ったこともない龍と、巫女のことを、この静かな場所を、長い長い時が過ぎても守り続けると決心しました。
若者は家族を連れて来ようと考え、一度国へ帰ることにしました。
いつの間にか、国の長は変わっていました、一番強い長が、長い間留守だったためです。
しかし、長ではなくなりましたが、彼はもう自分の大事なものを見つけていたので、ただ新たな長を祝福するだけでした。

彼は、小さな集落でやっと家族を見つけました。
家族は彼の無事を喜び、彼と共に、龍と巫女のいる土地に移り住みました。

この噂を聞いた、一族の者が時折、龍の住み処へとやって来ます。
この場所へ来た者は、なぜか、以前ほど若者を恐れたりはしなくなりました。

彼の顔付きが優しいものに変わっていたからです。

そうして、ここには村が出来て、長い時を龍を守り続ける一族となったのです。


誰も気付きませんでしたが、龍は彼らと共にありました。

巫女は龍の化身だったのです。

龍も人と仲良くしたかったのかもしれませんね。



/*/

作者携帯参加のため、代理投稿いたします。


[No.68] 2008/06/18(Wed) 00:27:50
男の子と女の子とペンギンのお話し (No.7への返信 / 1階層) - YOT@ゴロネコ藩国

○35-00681-01:YOT:ゴロネコ藩国
○「男の子と女の子とペンギンのお話し」
○989文字

あるところに、男の子と女の子とペンギンがいました。
男の子はいじめられっ子でした。
女の子はとても元気な子で、男の子がいじめられてるといつも助けにきてくれました。

ペンギンは男の子の友達でした、男の子がペンギンと話していると
人がペンギンと話すのはおかしいとまた他の人にいじめられましたが、
それでも男の子はペンギンに話しかけ続けました、友達だからです。

女の子は男の子に会うたびにいつも凄い速さで一方的におしゃべりをしていきます。
いじめられて泣いていた男の子はいつもそれで元気になります。

女の子は男の子に会うたびにいつも男の子の背中をバチーンと思い切り叩いていきます。
男の子は背中が痛くて嫌でしたが、いじめられて落ち込んでいた男の子は
なぜかいつもそれで元気になります。

ある日の事です、いつもおしゃべりな女の子がその日はなんとなく元気がありませんでした
男の子が心配して大丈夫かとたずねると、女の子はなんでもないと言い
いつものように男の子の背中を叩いていきました。

でもその日は背中を叩かれたのにいつもと違いあまり痛くありませんでした
痛くなかったのになぜか男の子にはそれが悲しかったのです。

男の子は自分を助けてくれた優しい人の事を思い、自分も優しい人になってその人の助けになりたいと思いました。
ペンギンはそれならば強くなれと言い、望むなら自分が鍛えてやると言いました。
そうしてペンギンは男の子の先生になりました。

来る日も来る日も男の子は必死に特訓をしました、とてもつらかったので何度もくじけそうになりましたが、
自分に優しくしてくれた人の事を思いそのたびに立ち上がりました。

男の子は日に日に強くなっていきました。
その力で怪物もたくさん倒しましたが、嬉しくなさそうです、やさしい人間には怪物も悪い奴ではない事が分かってしまうからです。

女の子は日に日に病気で弱っていきました。
ペンギンは言いました、女の子が死ぬのは運命だと。
男の子はそれは嫌だと言いました。
ペンギンは言いました、それならば運命をぶっとばせと。
そうして男の子はそれまで必死に努力して手にした力で本当に運命をぶっとばしてみせました。

女の子の病気が治った代わりに男の子の運命は決まってしまいましたが、男の子は満足でした。
これから先はいつだって自分の背中を叩いてくれる人が居るからです、
背中は痛いですが男の子は幸せでした。

めでたし、めでたし。


[No.71] 2008/06/19(Thu) 20:34:43
幸せの花 (No.7への返信 / 1階層) - 小野青空@よんた藩国

○13-00775-01:小野青空:よんた藩国
○幸せの花
○1982文字


 その国には豊かな森がありました。
 年中、それこそ春も夏も秋も冬もなく、そこかしこにたくさんの実りが溢れている森でした。
 国に住む誰もがそれを自由に好きなだけ手に入れることが出来て、人々は飢えるどころか、何一つ悲しいこともありませんでした。
 そんな人々の幸福を守る優しい森には、実りをつける『恵みの木』の他に、きれいな花を咲かせる『幸せの木』がありました。
 『幸せの木』は森にやってくる誰もに微笑むように花を咲かせ、見るだけで誰もが幸せな気分になりました。
 幸せをくれる森に人々は感謝し、森には喜びが満ちていました。
 でもこれは、人々だけではなく、森も、木も、全てが楽しかったころの話です。
「恵みをもっと欲しい」
 いつしか人々は森にたくさんのものを求めるようになりました。
 森はずっと人々に分け続けていましたが、その欲求に応えるには限界がありました。そしてもう人々には、森への感謝はなくなっていました。
 与えられることに慣れすぎていた人々は、やがて森の悲鳴に耳を貸さず、えぐるように奪っていきました。
「どうしてでしょう?」
 長く一緒にいた『恵みの木』は人々に与えすぎて力尽き、その身さえも最後は切り倒されていきます。
『幸せの木』には、何もわかりませんでした。
自分のできることだから、人々に一生懸命微笑みかけているのに、誰も見向きもしてくれない。
壊されていく森の中、『幸せの木』は泣いていました。
できることはただ、花を咲かせるだけ。
人々がまた自分を見て幸せになってくれるといい、そう願っていました。
そんなある日、一人の人間が『幸せの木』の花に目を止めました。
「ああ、これはきれいな花だ」
 嬉しくて『幸せの木』はたくさんのきれいな花を咲かせました。
「きれいだ」
 『幸せの木』は幸せでした。
 また、昔のように人々が喜んでくれたら。
 他に願いはありませんでした。
 でも、どうしたことか、森があった場所にはその『幸せの木』しか残りませんでした。
 もう『恵みの木』も他の『幸せの木』もありませんでした。
 その内に一本だけの『幸せの木』に、花に気が付いた人間がやってきます。
 ずっと寂しかった『幸せの木』は、本当に嬉しくて花をいっぱい咲かせました。
「きれいだ」
 人間は喜んでいました。
 それを幸せになったんだと、『幸せの木』は思いました。
 その人間が来るたびにいっぱいの花を咲かせる。
 たった一人の人間でも、たくさん幸せになって欲しくて『幸せの木』は頑張りました。
 けれど、仲間のいない大地はとても寂しくて辛くて。
 とうとう悲しさのあまり『幸せの木』は花を咲かせることができなくなりました。
 たくさんの幸せを与えたはずの人間はそれを知って怒りました。
「咲かせろ」
 枝を切られました。
 痛くて怖くて、花なんて咲かせられませんでした。
 枝をいくつも切られました。
 『幸せの木』は泣きました。
 きっとこれは自分が人間を幸せにできなかったせいだと思いました。
 頑張って花を咲かせようとしましたが、その時にはもう、花をつけられる枝は残っていませんでした。
 人間は、もう、来なくなりました。

 
 その竜は疲れていました。
 人々に恐れられ、追われ……竜は何一つ悪いこともやっていないし、そんな考えもありませんでしたが、人々は竜を殺そうとまでするのです。
「ああ、疲れた」
 少しでいいから休みたい。
全てから忘れ去られた大地の上を飛んでいた竜は、そこに一本だけ木があることに気付きました。
あそこにしよう。
 木は枯れているようでした。
「ここで休んでもいいかな?」
 返答はありませんでした。
 竜はとても疲れ果てていました。
 本当に独りぼっちな気がして、木が枯れているのが寂しくて、竜の目からは涙がこぼれました。
「泣かないで」
 木は言いました。
 細く枯れたような木でしたが、生きていました。
 竜は喜びました。
 でも、木もなんだか疲れきっていました。
「ここで休んでもいいかな?」
「……構わないよ。ぼくには何も与えられるものはないけれど」
 竜には木が自分を嫌がらないことだけで十分でした。
 
 それから竜は木の元に留まり続けました。
 竜はずっと木に飽きることなく話しかけ、毎日を過ごしていました。
 ある日、
「ぼくには何も君にあたえることができない」
 竜は木のことが好きで、木も竜のことが好きになっていました。
「僕も君にあげられるものは持ってないよ」
「ぼくは……」
 『幸せの木』は、誰も幸せに出来なかった自分が今幸せであることが、辛くて悔しかったのです。
 誰も幸せにできない『幸せの木』なんて、いらない。
 何も竜は知りません。でも、
「君はちゃんと僕に幸せをくれている。君がくれるこの幸せが僕にとって一番価値のあるものだ」
 『幸せの木』も今までで一番幸せでした。
 だからでしょう。
 長い間咲かなかった花が、『幸せの木』に咲きました。
 竜は喜んで、そして、幸せすぎて泣きました。
 花はいつまでも咲きました。
 いつまでも、幸せは続きました。


[No.72] 2008/06/19(Thu) 22:32:21
廻る世界は夢を見る (No.7への返信 / 1階層) - 小野青空@よんた藩国

○13-00775-01:小野青空:よんた藩国
○廻る世界は夢を見る
○1635


 詩人のようにはなれないけれど、この瞬間を少年は描き続けていました。
 世界はとても綺麗で美しく、時に不思議で奇妙。
 毎日少年は飽きることなく世界をその小さなカンバスの中に移そうと、今しかない世界を留めようと、ひたすら筆を動かしていました。
「この絵が欲しいんだけど」
 いつものように世界を見つめていると、不意に声をかけられました。
 その声の主、バイオリンのケースを抱えた少女は、少年の描き散らかした絵の一枚を手にしていました。
「いいよ。いくらでも持っていって。いつも欲しいという人にはあげているから」
「ありがとう」
視線をすぐに戻し、少年はまた世界を描き始めました。
赤、青、黄、世界は色に満ち、少年は必死で世界を写します。
しかし、今日はどういうわけか、作っても作っても色がどうしてもすぐに足りなくなるのでした。一生懸命色を重ねても、世界は次から次へと変化するのです。それはまさに万華鏡のようで、くるくると色と輝きを変えながら表情を変え、少年は夢中になって絵を描きました。
綺麗でした。でも、
「その絵は綺麗じゃないね」
 先程の少女が言いました。
 絵にはたくさんの色が法則もなく重なり合い、人や物は形をなさず、光も影もありません。
 少しも綺麗じゃない絵を完成した少年は、だけど、にっこりと満足げに笑いました。
「そうだね。でも、僕は『綺麗なだけ』の世界なんてこの世にはないって知っている。僕の描く絵も僕にとってはどれも綺麗で美しい世界だ。けれど、他の人から見てもそうだとは思っていない」
「醜いものは醜い。汚いものは汚い。それは変わらないよ」
「世界を醜くしているのは、世界自身ではないよ。逆に、世界を美しくしているのも、世界自身ではない」
 少女は首を捻りました。
「ねえ、もう一度弾いてよ」
 絵を描く少年は、音楽を奏でる少女に言いました。
 ケースから出されたバイオリンが少女の手にありました。
絵を貰ったお礼にと、少女は少年の隣でバイオリンを演奏していたのです。
 再び、ゆっくりと少女は音楽を紡ぎだします。
 少年の目に映る世界はまた、万華鏡の世界になりました。

 たった一人だけの世界では、そこにある色は限られる。たくさんの人や物が集まって、世界には色が足されてゆく。
 だからこそ、世界は限りなく美しくなり、どこまでも醜くなる。

「綺麗な世界がいい」
 弾き終えた少女は言いました。
「どうして醜い世界も愛せるの?」
 綺麗なものがいいと誰もが思う。
 綺麗な世界であって欲しいと誰もが願っている。
 だから少女は、醜いものはいらないと。
「それが僕の生きる世界だから」
 少年は世界に要求しない。世界が少年に要求しないように。
 世界は少年に綺麗であることを求めないし、少年も世界に綺麗であることを求めない。
「世界はね、不完全なんだ。そこに生きているのは、不完全な僕、君、大勢の人、たくさんの動物や植物。だからこそ世界は回るんだ」
「不完全なままなら、何も回らないわ」
「回るよ。不完全だからこそ皆で補って回すんだ。世界はね、凄く綺麗でいて、同時にとても醜い」
 少年は新しいカンバスを取り出しました。
 真っ白なカンバスは穢れもなく綺麗です。
 だけど、少年はその無垢を惜しむことなく絵の具を散らし、カンバスは綺麗ではなくなりました。
 綺麗な色。
 汚い色。
 カンバスに少年の描いている世界は、色を増やし、まるで迷路のようになったかと思いきや、
「これが、世界」
 どれだけたくさんの色がつけられているかも分からない、けれど、少女の目にもその絵は確かに世界でした。
「僕もね、綺麗なものは好きだよ。でも、醜いものをそぎ落としたら、本当に世界は綺麗なんだろうか? そぎ落とした分だけ、世界は歪になる」
 最初、少年の世界と少女の世界は違うものでした。
 けれど、世界は一つきり。
 少女は自分の見ていた世界が、世界のいくつもの顔の一つでしかないことに気付きました。
「私ももっと世界が見たいわ」
「じゃあ、一緒に行こうか」
 差し出された少年の手を少女が握ります。
 世界はまた、そうして回り始めるのです。


[No.74] 2008/06/19(Thu) 22:37:36
クルミと月夜の物語 (No.7への返信 / 1階層) - 桂林怜夜@世界忍者国

○10-00212-01:桂林怜夜:世界忍者国
○「作品タイトル」
○テキスト文字数 1960字

 深い深い森の中。小さな村の更にはずれから、もっと森の奥に入ったところに綺麗な泉が湧いていた。泉の傍らには小さな祠があって、その祠の正面に大きなクルミと小さなクルミが何年も仲良く暮らしているのだ。
 クルミの子供は母さんが大好きだった。森のどのクルミも、母さんほど大きな葉っぱは見たことが無いし、赤い綺麗な花を咲かせるのも母さんだけ。クルミの子は母さんと同じ形の小さな小さな葉っぱが自慢だった。
 母さんは毎晩、月が昇って森の動物達が眠る頃、クルミの子供にお話を聞かせてあげる。鹿のじいさんが大昔に泉に映った月を飲み干そうとしたこと、去年巣立った鳥が今年も母さんの頭に巣を作ったこと。母さんは何でも知っていた。

 ある晩、クルミの子供は母さんに尋ねた。
『母さんの母さんはどこにいるの?』
クルミの子より小さな木も生えてたけれど、母さんより大きなクルミはどこにもなかった。
『さあてねぇ』
 母さんは淋しそうに微笑んだ。
『母さんがお前くらい小さな木だった頃に、嵐で折れてしまってね。立派な木だったから、そのまま人間が村に持ち帰って、きっと箪笥にしちまったんだろう』
 クルミの子供は悲しくて泣いてしまった。
『およしよ。あたし達森の木は動けないけれど、たくさんの動物を養ってやってるだろう?人間もそのうちの一つなのさ。動物達はいつかはあたし達を助けてくれるんだよ。子リスが埋めた実がお前になったようにね』
 クルミの子は驚いて自分の足元を見たけれど、にわかに信じられないことだった。
『それにね』
 母さんはにっこりと笑って言った。
『死んだ木の精は、満月の夜にまた新しい木に宿るんだよ』
 それが、母さんが最後に話してくれた物語になった。

 翌朝、村人達が幾人も泉にやってきて、「立派な幹だ」と褒めそやし、母さんをばっさり切り倒し、そのまま村人が運んで行った。
「これでいい嫁入り道具を作ってやれるぞ」
と、年かさの男が大喜びで笑っていた。
 後に残ったのは大きな切り株だけ。
『母さんはきっと、母さんの母さんみたいに箪笥にされてしまったんだ』
 クルミの子は何日も何日も泣き続けた。リスの子が慰めても、鹿のご老人が宥めても、風の精が優しく撫でても、ずっと泣いていた。
 七日七晩も泣いた頃、いつもは静かな泉の精が『クルミやクルミ』と声をかけた。あんまり珍しくて、クルミの子が泉を覗き込むと、そこには母さんと同じ赤い小さな花が一つだけ咲いていた。
 やがて小さな花は小さな実をつけて、ぽとん、と地面に落ちた。早速リスが集まりだして、あっという間に実は無くなってしまったけれど、母さんがいなくなって初めて、子リスが微笑んだ。リスの母さんも微笑んだ。つられてクルミの子も微笑んだ。鹿も鳥も微笑んだ。月もにっこり微笑んだ。
 それからクルミの子は泣くのをやめた。

 しっかり背筋を伸ばした。枝には小鳥が止まり、雨が降れば葉っぱの下で森の動物は雨宿り。花が咲けば、泉の精が踊りだす。秋には、リスの一家が食べきれないほど実をつける。クルミの子は今では立派な大木だ。

 遠い森から鳥と風に運ばれた、見知らぬ種が芽を出して、咲いて枯れてを繰り返し、若木をとうに越えた頃。クルミはすっかり年老いた。枝には花もつかず、リスの一家は引っ越して、残るは太いだけの幹。クルミは本当に一人きり。泉も濁り、月も無く、黙って枯れるのを待っていた。
 
 ある日村人がやってきた。何年ぶりかの村人が。大きな男と小さな息子。男はクルミの側に来て、コツコツ幹を叩きだした。
「父ちゃん、すっかり枯れてるよ」
「いやいや、生きてるさ。幹は立派だぞ」
 男は笑って斧を持ち、鋭い刃をうち当てた。幹は見る間に細くなり、枝も殆どなくなった。
 男は幹に薬を塗り、足元の草を刈りだした。
「父ちゃん、どうして切らないの?」
 退屈した子が見上げて言った。
「お前も、俺も、じいさんも、同じ木のゆりかごで育ったんだ」
 にっこり笑って、男は子供と帰っていった。

やがて森に春が来て、クルミはすっかり元気になった。余分な枝もなくなったから、まあるい明るい月が澄んだ泉に輝いている。そのほとりには小さな小さな若木が覗いていた。


[No.75] 2008/06/20(Fri) 02:00:45
コロの里 (No.7への返信 / 1階層) - 南天@後ほねっこ男爵領(代理投稿)

○14-00798-01:たらすじ:後ほねっこ男爵領
○「コロの里」
○テキスト文字数 1939文字
「コロの里」

これはまだほねっこが男爵領になる前の話。

ある村に一匹の犬が居ました。名前はコロといいます。
この村には比較的犬が多い村でしたが、コロだけは別でした。
コロは目つきの鋭い黒犬で、村人の誰彼かまわず唸り、吼え、噛み付くのです。追いかければ逃げ出してしまい、里の人たちはコロのことを嫌っていました。
それでも最初は、コロと遊ぼうとしたり餌をあげようとしたのです。でも、コロはなつくどころか吼え、噛み付きました。いつしか、コロの側には誰も近寄らなくなったのでした。

そんなある日のことでした。
「腹、へってるのか?」
コロの目の前に、熊のような大男が現れます。
大男はコロを見下ろすかのようにたっていたかと思えば、がはははと笑いながらコロに手を差し出します。コロはいつものように吼え、男の手にかぷりと噛み付きました。しかし大男はそれを気にする様子もなく反対側の手でコロの頭や背中を撫で始めました。
今までの村人と違う反応に、コロは思わず頭を撫でていた手にガブリと噛み付きました。先程までの甘がみと違い、今度は先生の手から血が流れます。
しかしこの大男、そんなことを気にすることなくがはははと笑いながら反対側の手でコロを撫でたりします。
「そうか、そんなに腹が減っているのならウチに来るか?」
コロは、くぅんと少し甘えたような声を出して口を開けると、大男の後ろを歩き始めました。
この大男は最近、村に来たばかりの医者で皆から『くま先生』と呼ばれていました。熊と間違えそうな大柄な体格と、口の周りにはやした無精髭から皆がそう呼ぶようになったのです。

こうして、くま先生とコロは村の診療所で一緒に暮らすようになりました。

最初はくま先生に吼えたり噛み付いたり唸ったりと馴染む気配のないコロでしたが、くま先生はコロに対して怒りませんでした。ただ、診療所の患者さんに同じようなことをした時は怒りましたが、それ以外の時はくま先生はコロのやることを笑ってみていました。そうするうちに、コロは人間に噛み付いたりしなくなりました。
元々コロは賢い犬でした。ただ、本人も覚えていない小さい頃に何かによって人間を信じられなくなっていたのです。
くま先生との生活で、コロは昔の自分を取り戻したのです。

ある日。村に流行病が広がり始めました。
くま先生は昼も夜も無く、必死になって人々の治療に当たりました。その甲斐あって、村の人々は快方に向かい始めたのです。ただ、元々無医村だったこの村で、医者はくま先生1人。おまけに流行病に効く薬も底をつき始めました。
不運というものは重なるもので、疲労が溜まったくま先生が流行病に倒れてしまいます。幸いにも薬はほねっこ城市の医者の所まで行けば手に入りますが、ここ数日吹雪が続き村への出入りが出来ません。
困った村人達を横目に、病に倒れたくま先生の側にコロはいました。
「薬さえ……あれば……」
うなされるくま先生の言葉を聞いて、コロは村から飛び出しました。
外は猛吹雪、周りは森。向かい風で視界が全く利きません。少しでも気を許せばコロは容赦なく風に吹き飛ばされ、何度も木の幹にぶつけられました。いつもは通いなれた道も匂いが吹き飛ばされてしまい全く分かりません。それでもコロは己の勘だけを頼りに森の中を駆け抜けました。
平時であれば半日程度でつくはずの場所に、辿り着くには1日かかりました。
しかし、コロはそこで休む間もなく医者のところまで駆け抜けます。夜分遅くにコロの遠吠えに気づいた医者は驚きながらも、コロが持ってきたくま先生の処方箋を見てすぐに状況を察し、コロが持てるだけの薬を渡しました。医者はコロに休むように勧めましたが、コロはすぐさま引き返します。吹雪は行きよりも更に威力を増していました。既に寒さを通り越して痛みがコロを襲います。それでもコロは休むことなく駆け抜けました。

翌日、診療所の前で倒れているコロが見つけたのは村人でした。
コロは急いで介抱され、コロの持ってきた薬は病床のくま先生の指示の元に分け与えられました。その甲斐あって、くま先生を始め村人達は快方に向かいました。
幸いにもコロは一命を取り留めましたが、怪我からくる感染が元で足が動かなくなっていました。くま先生はそれを知り、コロを抱きしめて大声で泣きました。
村人たちは命がけで村人達を救ったコロに感謝し、この村を『コロの里』にすることに決めました。それに異議を唱えるものは誰一人としておりませんでした。
その後、コロはくま先生と一緒に穏やかな一生をおくったそうです。

/*/

この里は、ほねっこ男爵領となった今でも『コロの里』と呼ばれています。
もしかしたら、誰かがコロのことを忘れないと願ったからかもしれません。

それは、今となっては誰も知らない昔話。

*藩国の技族と協力して絵本風に挿絵をつけました。
 評価にならなくても結構ですので、どこかに乗せていただけたら幸いです
コロの里
http://www7.atwiki.jp/atohone/pages/12.html


[No.77] 2008/06/20(Fri) 02:26:50
影の薄い子 (No.7への返信 / 1階層) - 藻女@神聖巫連盟

○36-00689-01:藻女:神聖巫連盟
○「影の薄い子」
○1147字


昔、影の薄い子がいました。
一緒に遊んでいても誰も名前を知らず、いつの間にか現れていつのまにかいなくなっているそんな子どもでした。
その子の名前は誰も知らないけれど、誰も気に留めることなく仲良く遊んでいました。
けれど、いつしかその子と一緒に遊ぶ子ども達がいなくなりました。
もう子どもと一緒に遊ぶような歳じゃなくなったのだろうかとしばらく噂されましたが、元々名前も知られていなかったのですぐにそんな噂も消えていきました。
けれど、それからすぐ、夜道を歩いていると誰かの足音がついてくるという話が聞かれるようになりました。
初めのうちは物の怪の仕業だとかいう噂もありましたが誰から言い出したのか名前のない子が忘れられたのが寂しくてついてきていると言い出し、いつしか夜道についてくる足音をその子の仕業だというようになりました。
物の怪の仕業であれば恐ろしいけど、あの子なら怖くない。子どもの頃、一緒に遊んだことのある者たちはそういって夜道で足音に気づくと子どもの頃の思い出話をしていました。
そうした時はその子も嬉しいのでしょうか、足音がいつもより楽しそうだったという事です。
けれど、村の皆が足音になれた頃ふっつりと足音を耳にする事がなくなりました。
足音だけになった子を探すのはどうしたらいいかわかりませんでしたが、それでもみんなが探しました。
寂しい夜道を足音だけだったけれどそばに居てくれた事に感謝していたのです。
けれどいつまでたっても足音は見つかりませんでした。
とうとう村人達も諦め、せめて墓を作ってやろう。
名前も姿もわからないけれど、同じ村の仲間だったのだからせめて俺達が弔ってやろう。
そういって村人達が足音だけの子の墓を作ろうとすると何かが邪魔をします。
村人が道を歩くと見えない何かが通せんぼうします。
最初は一体何なのかわからなかったけれど、村人達はその見えない何かが足音の子の姿だと気づきました。
気づいてもらえなくなった子がまだ生きている事を一生懸命伝えようとしているのだと。
名前も顔もわからなかった子どもは足音だけになり、とうとうその足音さえ無くしてしまったのです。
このままだと遠からずどこに居るのかさえわからなくなると気づいた村人達は、お墓ではなく家を建ててやることにしました。
きっと道を塞いでも誰も止めることができなくなる、けれど家があればそこに居るってわかるから。
その子に寂しい思いをさせないですみます。

それが今も残っている誰も住んでいない家です。
今もそこにいるかわからないけれど、いつまでも仲間だと伝えるために、お祭りの時や会合はその家でやっています。
誰も住んでいないけど、いつも誰かが居ます。
寂しい思いをさせないで済むように。
だからみんなも寂しくないようにたまには遊びに行ってあげてほしい。


[No.80] 2008/06/20(Fri) 12:12:06
僕とカボチャ怪人 (No.7への返信 / 1階層) - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国

【テンプレート】
○15-00752-01:久遠寺 那由他:ナニワアームズ商藩国
○「僕とカボチャ怪人」
○テキスト文字数 1733

/*/
 僕の町にはカボチャ怪人が出る。

 学校のみんなにいじめられた帰り道、一人で湖を見て泣いていた僕のそばにいきなりカボチャ怪人は現れたんだ。
 大きさは、僕より少し大きいくらい。ポンチョっていうのかな、何かひらひらした上着を着てる。
 僕は、怪人だから食べられちゃうかな、と思ったけどカボチャ怪人は静かにカボチャをかしげて僕の顔をじっとのぞきこんで、それからオレンジ色のハンカチを僕に差し出しただけだった。

 ハロウィンのランタンみたいなカボチャが笑って見えた。
 カボチャ怪人は怪人だけど、良い怪人みたいだ。

 カボチャ怪人のくれたハンカチで顔をふいて、それから僕はカボチャ怪人に色んな話をした。
 先生のことやいじめっ子のこと、お父さんとお母さんのこと。
 どうしてそうしたのか分からないけれど、なにかのせんがはずれたみたいにたくさん話した。
 カボチャ怪人はやっぱり黙って僕の話を聞いてから大きくうん、とうなずいて町の方を指した。それから僕に手を振ってどこかに歩いていった。

 次の日もその次の日も、僕はカボチャ怪人に会いに行った。
 『どこから来たの?』って聞いたら、湖のまんなかにある島を指した。そういえば、じんこうとうにはカボチャ畑があるって聞いたことがある。
 学校でいじめられてもカボチャ怪人は僕をいじめたりしない。
 いつも黙って僕の隣に座って話を聞いてくれる。

 ある日僕は思いきって学校のみんなにカボチャ怪人の話をしてみた。
 みんな笑って『パンプキンシックスの見過ぎだ』って馬鹿にした。
 僕は悔しくて、悲しくて、またカボチャ怪人に会いに行ったんだ。

『もう学校に行きたなくないよ。家にも帰りたくない。カボチャ怪人とずっと一緒にいたいんだ。
 僕をカボチャ畑に連れてってよ』
 学校でのできごとをカボチャ怪人に話して僕は、カボチャ怪人にそうお願いした。
 だって僕をいじめないのはもうカボチャ怪人だけなんだ。
 こんなに悲しくて辛いことが続くんなら、僕は怪人になっちゃいたかった。
 いつもみたいに黙って僕の話を聞いていたカボチャ怪人は、そっとカボチャに手をかけた。
 ぷしゅ、と風船から空気がぬけるみたいな音がして、カボチャがはずれた。
 そのカボチャの下から綺麗な銀色の髪の毛がきらきらと光ってこぼれた。

『――つらいよね。かなしいよね。
 でも、少しお休みしたら、現実と戦わなきゃね。
 ボクも戦うから、キミもガンバレ――』
 そういって僕の肩に優しく手を置いたカボチャ怪人は僕のおでこにちゅってしてくれた。
 カボチャ怪人の手はあったかくて、カボチャ怪人からはパンプキンパイの良いにおいがした。
 僕はなんでだかすごく泣きたい気持ちになった。鼻の奥がつんとして、目が熱い。
『…カボチャ怪人。僕達、友達だよね?』
 カボチャを外したカボチャ怪人はすごくまぶしい笑顔で、うん、てうなずいた。
『でも、カボチャ怪人がたたかう、ってなにと?』
 ガホチャ怪人は僕の方に腕を伸ばして人さし指を立てると、それからまっすぐ上を指した。
 夕焼けの空にきら、と小さな星が光ってた。それを見上げた僕がこぼれおちそうななみだをこらえて、目を閉じてそれから開けると、カボチャ怪人はもういなかった。
『僕、がんばるよ。カボチャ怪人に約束するから!』
 僕は目をごしごしこすってから大きな声で約束して、それから家に走った。

 夢だったのかもしれない。学校のみんなはやっぱり信じてくれないけど、それでも良いんだ。
 僕にはカボチャ怪人っていう友達がいる。
 だから僕は頑張ることに決めたんだ。

 僕の町には怪人が出る。
 それはオレンジ色のカボチャの頭をした、僕に勇気をくれた僕だけのヒーローだ。

/*/
「なぁご」【いいのかい、このまま別れても?】
 走り去る少年の後ろ姿を木の陰から見守っていた黒猫が、そばに立つカボチャ怪人に声をかけた。
 カボチャ怪人は黙って頷くとトレードマークのカボチャ型ヘルメットを装着し直した。
 もう一度空、を映し出した地下第二層の天井を示すとスキップするように地下第三層にある軍事区画の方へ歩き出した。黒猫も顔を洗ってからその後に続く。
 誰かのために、と気負うことはないけれど、それが結果的に少年を護ることを知った。
 それだけで十分。それがきっと猫の誇り。
NW歴508002頃、ナニワアームズ商藩国での話である。


[No.82] 2008/06/20(Fri) 13:06:31
…@ずーっと友達でいます。 (No.7への返信 / 1階層) - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国

【テンプレート】
○15-00752-01:久遠寺 那由他:ナニワアームズ商藩国
○「…@ずーっと友達でいます。」
○テキスト文字数 1814
/*/
 マリーは小さな女の子。
 生まれてから何度目かの誕生日の朝、マリーはおばあさんから素敵なプレゼントを貰いました。
 それはマリーの家に代々伝わるという魔法のぬいぐるみ。
 つやつやしたビロードのチョッキにぴかぴかした金のボタン。
 首には素敵に輝くサファイアのチョーカー。
 それから海のように深い色の綺麗な目。
 このぬいぐるみの名前を…といいました。
 マリーはこの素敵なプレゼントに大喜びして、箱から取り出した…にご挨拶しました。
「初めまして。わたしはマリー、これからずーっとお友達よ」
「ごきげんよう。小さなマリー。僕達はずーっと友達だとも」
 お返事があったのでマリーはびっくり。
 そう、…は喋るぬいぐるみなのでした。
 その日から二人は大の仲良し。
 お喋りしたりおままごとをしたりおやつを食べたり。
 それから夜に眠るときまで。
 いつでも二人は一緒です。

 そんなある日。
 マリーが泣きながら部屋に入ってきました。
「どうしたんだい?小さなマリー」
「大変なの。お隣の子が大事にしていたフルートを壊してしまったの」
「では僕のチョッキから金のボタンを外してお金に換えておいで。
 そのお金で新しいフルートを買って返してあげなさい。
 それから、お隣の子とはきちんと仲直りするんだよ」
「うん!ありがとう…」
 マリーは…のチョッキから金のボタンを取って涙を拭うとフルートを買うために部屋から出て行きました。
 …はお隣の子と仲直りしたと言って笑うマリーを見て幸せな気持ちになりました。

 それから暫くしてマリーは学校に通うようになり、…と一緒にいる時間は少なくなりました。
 それでも…はマリーが帰ってきて学校の出来事を聞かせてくれる時間が大好きでした。
 そんなある日。
 マリーは学校から帰ってくるなりベッドに泣き伏してしまいました。
「何があったか僕に話してごらん。小さなマリー」
「卒業式のパーティで着るドレスが買えないの。
 パパもママもお金を出してくれないって」
「そうか。なら僕の首についているチョーカーをお金に換えておいで。
 そのお金で新しいドレスを縫って貰いなさい。
 パパとママにはちゃんとお話ししてくるんだよ」
「本当に!?うれしいわ、…」
 マリーは嬉しそうに…の首からチョーカーを外し、ドレスを仕立てに行きました。
 …は出来上がったばかりのドレスを着てはしゃいでいるマリーを見て幸せな気持ちになりました。

 学校を出たマリーは両親の仕事を手伝うようになり、家に戻らない日が多くなりました。
 それでもクリスマスと両親の誕生日の度に帰ってくるマリーから仕事の話や恋人の話を聞くのが…には何よりも楽しみなのでした。
 そんなある日。
 久しぶりに家に戻ったマリーはとても取り乱していました。
「久しぶりだね。小さなマリー。
 何か困っている事があるのかい?」
「ああ、どうしましょう、…。
 私の娘が遠い国で病気になったのに、飛んでいくことも出来ないの」
「それはとても大変だ。なら僕の両目をお金に換えておいで。
 それで今すぐ旅に出なさい。
 娘は優しくだきしめてあげるんだよ」
「…、なんとお礼を言ったらいいの」
 マリーは泣きながら…の両目の宝石を取り、大急ぎで部屋を出て行きました。
 …にはもう、小さなマリーの顔を見ることも出来ません。
 それでも遠い異国で娘との再会を喜ぶマリーを思い、とても幸せな気分になりました。

 それから、それから。
 どれくらい長い月日が過ぎたのでしょう。
 あの小さなマリーの部屋でマリーの思い出を抱えて時を過ごしていた…の耳に懐かしい足音が聞こえました。
「ごきげんよう、小さなマリー。
 元気に暮らしているかい?」
「ごきげんよう。…。
 夫は随分前になくなったわ。
 娘達も今は遠い国で暮らしているの。
 私、独りぼっちになってしまった」
「いいや、違うとも。小さなマリー。
 僕はずーっと小さなマリーの友達だ。
 さあ、小さなマリー。
 僕を膝の上に抱き上げてごらん。
 あの頃のように」
 もう金のボタンもチョーカーも綺麗な目もない…はそれでも。
 そっと触れたマリーの手に柔らかな温もりをくれました。
 そうしているうちに…の頭に温い滴が落ちました。
 とめどなくあふれるマリーの涙を受け止めて…はこの上なく幸せでした。
「人間とはなんと素晴らしいのだろう。
 暖かく、そして不思議に満ち満ちている。
 君と友達になれて僕は幸せだ。小さなマリー」
 マリーは涙をこぼしながらしわの出来た手で大切な友達をなで続けるのでした。
 いつまでも、いつまでも。
 二人は、友達なのですから。

おしまい

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[No.84] 2008/06/20(Fri) 13:17:21
ふけない涙 (No.7への返信 / 1階層) - 空馬@レンジャー連邦

06−00806−01 :空馬:レンジャー連邦

「ふけない涙」

文字数747文字


空を見上げれば運が良ければ君達にも見れるかもしれない。不思議な箒を担ぎ、空を走る女の子の姿を。その子は世界中旅して回る悲しみを払う掃除婦。名前はユメル。笑顔を振りまき心の中の悲しみを払う為に世界中の空を駆け回る可愛い可愛い女の子。今までに幾百幾千も悲しみを払い、涙を拭いてきた。でも払うことができなかった事もある。今日はそのお話。


ユメルは今日も空を駆ける。雲を蹴って風に乗り、テッテテッテと駆け巡る。すると耳に泣き声が飛び込んできた。老婆の泣き声だ。ユメルは地上に舞い降りて泣いている老婆の所へ向かった。
その老婆は墓地に居た。ユメルは駆け寄って話しかける。


ユメル「こんにちはお婆ちゃん。ちょっといいかしら?」


老婆はびっくりしながらも落ち着いて、涙を拭きながらユメルの方を見た。


老婆「はい。こんにちは。君は?私に何か用かい?」

ユメル「はい。私はユメル。掃除婦です。お婆ちゃんの心の中にある悲しい気持ちを払いにきました。」

老婆「悲しい気持ち?それはすごいねぇ。」


大抵の人は信じてはくれないのだが、この老婆は意図も簡単に信じてくれた。
見るからに優しそうだったが、心も優しかった。


老婆「でもねぇ、私のは払わないでくれないかねぇ。」

ユメル「なぜです?お婆ちゃんとっても辛そうだから私助けたいの。それに全然痛くないのよ。この箒でサッてやるだけだから。」

老婆「確かに辛いわ。長年連れ添ってきたおじいさんが先に逝ってしまったからねぇ。」


老婆は後ろの墓を少し見た。


老婆「私が悲しんでたのはおじいさんとの思い出を思い出してたからなのよ。おじいさんともうのんびりお茶も飲めないんだねぇって。でもねぇ、おじいさんの事を思い出しても何も思わなくなるのは嫌なんよ。」

メリル「・・・・」

老婆「この悲しみは消さないでおくれ。ごめんなさいねぇ、折角来てくれたのに。」

メリル「・・・いえ、私の方こそごめんなさい。余計なことするとこだったわ。代わりと言ってはなんですけど、私も一緒におじいさんの冥福を祈ってもよろしいですか?」

老婆「もちろんいいわよ。おじいさんもこんな若い子にお参りされたら喜ぶわ。」


世界にはメリルにも払えない悲しみや涙はたくさんある。この事をユメルは胸に刻み込んだ。そしてユメルは今日も世界を駆け回る。〔続く〕





のか?


   


[No.86] 2008/06/20(Fri) 13:46:40
天から降ってきたコイン (No.7への返信 / 1階層) - みぽりん@神聖巫連盟

【テンプレート】
○36-00695-01:みぽりん:神聖巫連盟
○天から降ってきたコイン
○1809文字

ここは国境近くの小さな村。
土地はとてもやせていて、どんなに耕しても麦も芋もろくに採れないのでした。



この村には小さな男の子がいました。
男の子の両親は毎日一生懸命働きましたが、男の子が食べるものをわずかに得るだけなのでした。
男の子は知っています。
「私達はおなかがいっぱい」という両親が、水をたらふく飲んで空腹をしのいでいることを。

とおさんとかあさんが たべて

一度だけそう言ったことがあります。
両親はとてもとても悲しそうな顔をしました。
それから男の子は二度と言いませんでした。
男の子が食べても足らないくらいの食事です。
しかし両親が勧めるたびに口にする食べ物を目にするとなんだかきゅっとなってしまい、なかなかのどを通らないのでした。
そんな家は珍しくもないのでした。
この村で大人たちはみな疲れた顔をしています。


とおさんかあさんが おなかいっぱいになるといいのに
そう思った男の子は空を見上げて神様に祈りました。
かみさま ぼくのねがいを かなえてください
小さな手をあわせて一生懸命お祈りしました。
すると。
天がきらりと光り、小さなコインが落ちてきて、男の子の手にぽとりと落ちました。
空から声が聞こえます。
「これは願いをかなえるコインです。一つだけあなたの願いをかなえましょう」
これで両親をおなかいっぱいにしよう!
男の子は両親のもとに走りました。

家に帰ると、となりのおじさんが訪ねてきていました。
「家内の足の痛みがひどいんだ。薬があったらわけてほしい」
男の子は手のなかのコインをぎゅっと握りしめました。
このコインがあれば願いがかなうはずです。
ぼくがこのコインでかみさまにおいのりしてあげる。
おじさんはあははと笑って、大きな手で男の子の頭を撫でました。
男の子は何もいえなくなってしまいました。


それから何日かして、男の子のもとを一人の紳士が訪ねてきました。
私の家がもっと栄えるように祈ってくれたら、食べ物をあげよう。
しばらく村に滞在しているから返事をきかせておくれ。
そういうと紳士は背筋をきちっと伸ばして村の宿屋へゆきました。
男の子はそうするのがよいのかわからなくて困ってしまいました。
それから幾日か経たないうちに牛追いが来ました。
毎日たくさん出る「ふん」をなんとかしてほしい。牛が多すぎて世話が大変なんだ。
牛追いも宿屋へゆきました。
また幾日か経たないうちに今度は荷車屋がきました。
こう不景気で荷車が売れなくて困っているんだ。
そして宿屋へゆきました。


ある日のこと、この国を治める王様がやってきました。
これが伝説のコインかと、男の子のコインを眺めました。
ぼうや、このコインをわしのために使って欲しい。もっともっと広大な領土が欲しいのだ。

王様が来たという話を聞きつけてみんなが男の子の家へ集まりました。
「私のほうが先でしたよ」
「こっちのが困っている」
「そんな小さな願いにはもったいない」
大人たちはあれこれ言いました。
男の子は悲しくなりました。
みんな困ってる、みんな助けてほしいんだ。
男の子は考えました。
そして…。
「みんな きいて」
男の子の声にみなしいんとなりました。
かたずをのんで見守っています。
「ぼく、どうしたらいいのかわかったんだ」
男の子はコインを手に、澄んだ声で祈りました。
「みんな みんな せかいのみんな しあわせになあれ」

そのときです。
あたりをぱああっと暖かな光が包みました。
みな、なんだか優しい気持ちになりました。
「こんなに満たされた気持ちは初めてです」
大人たちは互いに非礼を詫びました。

「あなたは車が売れなくて困っていましたよね」
紳士が車屋に言いました。
「私が車を買いましょう。そして牛追いさん、私に牛を数匹とふんを売ってください」
そして男の子に言いました。
「みたところ、この村の土地はやせているようだ。この暖かな気持ちのお礼に牛のふんを肥料として寄贈させてくださいませんか」
村人たちは喜びの声をあげました。

王様は荷車をひく道を整備してくれました。
村人たちは何年もまた少しずつ頑張りました。



今ではもうおなかをすかせた人も、悲しい顔をした人もいません。
となりのおばさんは薬を買い、足の痛みもとれました。
村は豊かになりました。
生き生きと過ごす国民をみて、王様もますます幸せと思いました。


そして男の子も幸せでした。
もう食事をしてもきゅっとなりません。
男の子の両親も幸せでした。
かわいいわが子がいつも笑顔でいてくれるようになったのです。
みんなみんな 幸せでした。


[No.88] 2008/06/20(Fri) 20:31:35
Mimie the Funny Cat (No.7への返信 / 1階層) - 久遠寺 那由他@ナニワアームズ商藩国

○15-00752-01:久遠寺 那由他:ナニワアームズ商藩国
○「Mimie the Funny Cat」
○テキスト文字数 1904

/*/
 猫が鼠を追うのが世の中の決まりというものです。
 今日も今日とて、とある家の中では追いつ追われつの悲喜劇が繰り返されるのでした。
 追われて全力疾走、場違いにも鼠はふと考えました。
「僕はいつもミミーさんに追われて逃げているけれども、それは本当に仕方がないことなのか?
 僕のレエゾンデートルとは追われて食べられて一生を終えることにしかないのか?」
 と。
 一方追う側の猫もふと考えました。
「なんでわたしってば来る日も来る日もシッポー追うのかしらねえ。
 猫は鼠を狩るものよ、っていっつもママが言ってたけど、何かそれっておかしくない?」 
 と。
 そう考え始めるといつものチェイスも何だか興が乗らず、シッポーは物陰へ、ミミーはキッチ
ンマットの上へと引き上げていったのでした。
 それから数日の後、熟考に熟考を重ねた末、シッポーは意を決してミミーの前に歩み出ました。
 ミミーが謹慎中(お仕置きでキャットバスケット入り)で金網越しとはいえ、クマネズミの歴
史上例を見ない会見ではありましたが。
「えー、ミミーさん。今日は食べるものと食べられるものとしてではなくですね、お互い一己の
独立した生命としての対話を希望したいわけですが」
「いいよ。一時休戦ってやつね。この中じゃあどうせ暇だし。で、お題はなに?」
「はあ、ありがとうございます。実は僕、この前からちょっと考えていることがありまして。実
際の所、ミミーさんはどうして僕を追っかけるのですか?」
 シッポーはふん。と前足を組んだミミーの前から慎重に一歩下がって見上げました。どうした
って怖い物は怖いわけで。
「それそれ。わたしもこの前から考えてるんだけどさ、本能とかこうするべき慣例、とかいうの
でシッポーを追うのってなんか違うよね」
「ふむ。じゃあぶっちゃけエサとしての僕には魅力がないと?」
「まぁ鼠よりは魚の方が好きね」
 そういいながらもミミーは一瞬ケモノの目でシッポーを見ました。シッポーの毛がたちまちの
うちに逆立ちます。
「ま、まあ僕の捕獲は生存上絶対必要な要件ではないですよね。しょっちゅうミルクを盗み食い
してらっしゃる様ですし」
「シッポーは知らないかもしれないけどミルクをお腹いっぱい飲んだあとのうたた寝ほど気持ち
いいことはないのよ。
 じゃあ聞くけどさ、シッポーはどうしてわたしの顔を見るなり逃げ出すわけ?逃げたら追いた
くなるのが人情って思わない?」
 かしかしと網を叩くミミー。一応の礼儀として爪は引っ込めていました。
 シッポーは首を傾げて考えると口を開きます。
「第一の理由は体格差、でしょうかね。ミミーさんは自覚が無いかも知れませんが、僕から見る
とミミーさんはかなり威圧感ありますよ」
「わたしだって好きでこの体型になった訳じゃないけどね。あとはさ、職業上の義務って言うの
?シッポーは色々かじるじゃない。
 この前なんか廊下の角が丸く削れててご主人様、すごい落ち込んでたんだから」
「う、それは申し訳ありませんが、僕ら一生歯が伸びるんで定期的に削らないと伸びすぎてご飯
食べられなくなるんですよ。で、仕方なくですね。
 故意に器物損壊したりミミーさんのご主人様に迷惑をかける意図があるわけではないです」
「あー、それはわかるかも。爪研ぎみたいなものかな。
 わたしも爪伸びすぎるとぎーってしたくなる。そんでいっつも怒られる訳ね。
 じゃさ、わたしのお古の爪研ぎ上げるから、それかじったら?」
「いいんですか?じゃあ僕も何かお返しをしますよ。
 なにがいいかな。そうだ、僕の宝物にブリキの鼠のオモチャがあるんです。これはくるくる良
く動きますし、本物の鼠みたいに一度獲ったら終わり、じゃないんで長く楽しめますよ」
「あら、それは素敵。
 前々からこう、ご主人様のプレゼントしてくれるオモチャってヌルいなーって思ってたとこ」
 お互いに贈り物の交換を終えた頃には二人には何だか不思議な感覚が通っていました。
 これは案外悪くないかも。と。
「今思ったこと言っても良いですか」
「奇遇ねー。わたしも思い付いたこと、あるんだけど」
 それから更に数日後のこと。
 ミミーの飼い主はシッポーによる食害から解放され、シッポーは命の危険から解放され、ミミ
ーは実りのない不当な労働から解放されたのでした。
 こうしてミミーがうたた寝をする間、ふかふかのお腹に寄り掛かってくつろぐシッポーの姿が
度々目撃されることになり、種族を越えたこの奇妙な共同生活は長くミミーの飼い主を和ませた
といいます。
 たまにミミーがケモノの目をしたり、シッポーがつい出来心でキャットバスケットに歯形を付
けたりすることはあっても。
 でもまあ、それは些細なことでしょう。
 平和な時間と相互理解の続く限りに於いては。
/*/


[No.89] 2008/06/20(Fri) 20:39:50
なんにもできない女の子 (No.7への返信 / 1階層) - たらすじ@後ほねっこ男爵領

○14-00798-01:たらすじ:後ほねっこ男爵領
○「なんにもできない女の子」
○テキスト文字数:1773字


ある小さな村に、いつも物影に隠れている女の子が居ました。
友達が遊んでいるのを見ているだけ。
誰かが遊ぼうと誘えば、
「私、なんにもできないもん」
と言って物陰に隠れてしまいます。
輪に入らない女の子は、最初のうちは熱心に誘われましたが何が何でも加わらないのでそのうち誰も誘わなくなってしまいました。
物陰から、ただ皆が遊んでいるのを見ているだけです。
女の子は、自分が一緒に遊んでも何も出来ないから皆の迷惑になると思っていました。だから、女の子はただ見ているだけで十分だったのです。
見ているだけでも一緒に遊んでいる空想を何度も繰り返しながら、それでいいのだと思っていました。

その日はいつもと同じように、女の子は物陰から楽しそうに遊ぶみんなを見ています。
今日は皆で鬼ごっこ。ほかの子供たちは山の中を駆け巡っています。
そんな時でした。
子供たちが突然、足を止め騒ぎ始めました。
女の子が物陰から見ると、子供たちの1人が突然倒れた木の下になっていたのです。子供たちは、その木を除けようとしていますが子供の力では木は中々動きません。女の子は怖くなって、物陰で震えていました。

「おい、お前も手を貸せ」

怖くて目を瞑ってうずくまっていたいた女の子の頭の上から声が降ってきました。
恐る恐る目を開けると、その声は、いつも子供たちの中心になっていた男の子のものでした。
「私、なんにもできないもん」
女の子は震えながら、いつものように答えます。
男の子は、そんな言葉に気もとめず女の子の腕をぐいっと掴みました。
「私がいたら皆の邪魔になるよ」
男の子は何も言わず女の子を引っ張って歩きます。掴まれた腕が痛いです。
あまりの痛さに、涙も鼻水もぐちゃぐちゃに流れています。それでも男の子は腕を離そうとしません。
「はなしてー」
「うるさい!!」
男の子は怒鳴るとようやく足を止めて女の子の方を振り向きました。
「『なんにもできない』、って言うな!!」
男の子はそういうと、また女の子の腕を引っ張って他の子供たちの方へ向かっていきました。子供たちは、木の下になっていた子を助けようと必死です。
「俺は、誰かを呼んでくる。お前はみんなと一緒に木をどかせ」
そう言うと、男の子はふもとの村の方へ駆け出していきました。
どかせ、と言われてもどうすればいいかわかりません。女の子はただそこに黙って立っているしかありません。
子供たちは一生懸命に木の下の子供を助けようと必死でした。
ある子供は、声をかけ続けました。またある子供は木を持ち上げようとしました。
皆が皆、それぞれに必死でした。
木の下の子供もそれを知っているので、心配かけないように涙をこらえています。
何もできない女の子にはいったい何が出来るのでしょう。
だけど、この時女の子はこの子を助けたいと思いました。
何もできないけれど、何かがしたいと思いました。
「この子の周りの土を掘って、その隙間から出せないかな?」
皆が一斉に女の子の方を見ます。
その言葉が自分の口から出てきたことに、女の子が一番驚きました。
「やろう!!」
子供たちの誰かがそう言ったのきっかけに、皆が子供たちの周りの土を掘って穴を掘り始めました。手で掘ったり、枝で掘ったり。女の子も皆と一緒に穴を掘り始めました。幸いにも、雨が降っていて土が軟らかく掘りやすかったのです。
そして、木の下の子供が動けるぐらいの穴が出来ると力持ちの子供が2人で横から引っ張り出しました。
その後、男の子が呼んで来た大人がやってきました。木の下になった子は村の診療所へと運ばれ、皆は村に戻ったのです。

帰り道、男の子は女の子にこういいました。
「お前、『できる』じゃん」
「ううん、私ひとりじゃ何にもできなかった」
女の子はまたうつむきます。
男の子そんな女の子の様子を見て、また腕を掴みました。
「俺だって、一人じゃ何にも『できない』さ」
女の子が驚いて顔を上げます。男の子は女の子の腕を引いて先を歩き始めました。
さっきと違って、掴まれた腕は痛くありません。
女の子は、男の子の背を見ながらにっこりと微笑んで。そうして後ろを歩き始めました。


今日は広場で鬼ごっこ。
元気に村で子供たちが遊んでいます。
その中にはあの女の子の姿も見えました。

女の子は、もう「なんにもできない」なんて言いません。
友達と遊ぶ楽しさを知り、自分も何かができることを知ったのですから。


[No.90] 2008/06/20(Fri) 21:30:27
魔王の子守唄 (No.7への返信 / 1階層) - 下丁@になし藩国


○29-00548-01:下丁:になし藩国
○「魔王の子守唄」
○テキスト文字数 1558文字


暴れ者の魔王がいました
彼は退屈が嫌いで、いつも暴れては国や町を壊していました
人々は魔王を見ると怖くなって逃げ出してしまいました
魔王の強さは皆が知っていたので誰も手を出そうとはしなかったのです
「物足りない、満たされない、毎日が退屈だ、もっと変化に富んだ毎日が欲しい」
魔王は、そう思いました

そんなある日、魔王の元に一人の勇者が現れました
「貴方が魔王ね。はじめまして、私は貴方にあって話したい事があったの」
魔王は答えます
「いかにも俺が魔王だ。一人で乗り込んでくるその度胸に免じて話を聞いてやる」
勇者はまだ年端もいかない女の子でしたが、彼女はは臆する事無く言いました
「お願いがあるの、これ以上、国や町を壊さないで欲しい」
それを聞いた魔王はこう言いました
「いいぜ、国や町を壊すのやめてやっても。ただし…条件がある」
「条件?」
「そうだ、なんの見返りも無しにただで帰るとでも思ったか?」
「確かに、その方が魔王らしいね。条件って何をすればいいのさ」
魔王は笑って言いました
「簡単だ、俺は毎日が退屈でたまらない。だから俺を楽しませてみろ」
魔王の難題に女勇者はこれ以上無い優しい笑顔で言いました
「ねえ、魔王。そんなに退屈なら私の所においでよ。退屈なんてする暇が無い毎日が待ってるからさ」
そして魔王の前に手を差し出しました
「…わかった。お前についていこうじゃないか」
「決まりだね。じゃあ、行こうか」
2人歩き出した


勇者に連れてこられたのは、小さな村の一軒家
「ただいまー」
家の中から小さな女の子が出てきた
「おかえりー、ままー」
魔王は驚いたように聞きました
「ママって、こいつはお前の子供なのか?」
勇者は答えます
「違うよ、この子は訳ありで引き取った孤児だよ」
魔王は不思議そうに言いました
「それで、俺に何をさせようと言うんだ」
勇者は言いました
「で…この子をあなたにお願いしたいんだ」
「お願いって…、なんのお願いだ?」
魔王はいやな予感がしました
「最近、仕事が忙しくなって一人じゃ面倒見きれなかったんだ。だから、この子事頼んだよ」
「ガキの子守りをしろと、この魔王に」
「もー、無茶苦茶忙しいから。退屈する事なんで絶対にないよ」
「なにーーー」
「それじゃ、仕事が残ってるから。また、夜に」


「ぱぱー、ままはー?」
「仕事が忙しいとさ、だから待ってないで早く寝なさい」
不満そうな顔をする女の子
「うー、あっそうだ。ぱぱー、子守唄歌ってー、そうしたら寝るからー」
「子守唄?」
戸惑う魔王
「知らないのー、ままはいつも歌ってくれてたよー、こんなふうにー」
得意そうに歌ういだす女の子
「あー、わかった。歌ってやるからちゃんと寝るんだぞ」
「うん」
魔王の歌を聞きながら子供は眠りに着きました

子供寝て少しすると勇者が帰ってきました
「ただいまー。あの子は?」
魔王が向かえに出てきました
「おう、お帰り。ガキは寝たから静かにな」
勇者は笑顔で答えます
「ありがと。どう?毎日大変でしょ」
魔王も笑って答えます
「大変だがな。ま、確かに退屈はしねぇ。あいつ見ていて全然飽きねぇしよ」
「あはは、それはよかったよ。あの子も寝ている間は可愛い天使なんだけどね」
「魔王が天使の世話をする、ってか。気が利いてるじゃねぇか」
2人で笑い合いました
「最初は退屈しのぎのつもりだったけどな…、俺はこういう生活も嫌いじゃねえぜ」
嬉しそうに話をする勇者
「魔王…、ありがとう。魔王の事はすこく頼りにしてる」
「頼りに…ねぇ。本気か?」
「当たり前じゃないか。でなけりゃ、あの子の事なんて任せられないよ。すごく信頼してるし、助かってる。それは本当」
「まったく、人をおだてるのが上手い勇者だな」
「あはは…、とりあえず魔王。今後とも、よろしくお願いします」
「おう、安心してよろしくお願いしとけ」


こうして魔王の育児生活が始まりました


[No.91] 2008/06/20(Fri) 21:52:52
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 志水高末@たけきの藩国

○26-00497-01:志水高末:たけきの藩国
○「星かがやく夜」
○文字数:1884文字

以下本文

――雨の降る夜遅く、空を見上げる少年がいました
――酒臭い男は問いかけます

「こんな時間にどうした」
「明日、晴れるか心配なんです」
「明日、何があるんだ」
「七夕です。織姫と彦星が会えるか心配で」

――空には一面の雲、星々のまたたきをさえぎっていました
――少年は空をにらみつける
――雲よ去れとでも言いたげに

「君は、どうして二人が会えるか心配なんだ」
「二人は、一年に一度しか会えないんです」

――少年の目は、責めるように男の目をとらえます

「会えなかったら、悲しすぎます」

――男は諭すように答えます

「大丈夫、宇宙(そら)はきっと晴れているはずだ」

――少年は空の向こうにある、宇宙を見上げました

「では、この空が曇っていても、二人は会えるんですね」
「たぶん・・・な」

――少年は目をふせ、去っていきます
――男の目には、少年の背中が怒っているように見えました

 /*/


――男は同僚に頭を下げ、飛行機からドライアイスをまいてもらうことにしました

「もーほんとこのとおり、お願いします」
「また、何に使うんですかこれ・・・ 変なことじゃないでしょうね」
「まさか、ちょっと雨を降らそうかと」
「何考えてるんですか、今日は七夕ですよ。嫌がらせですか」
「今のうちに雨を降らせてだな、夜晴れればと思って」
「出来るんですかそんなこと」
「やれるだけやってみたいのよ。一生のお願い!!」
「それもう五回くらい聞いてますけど」
「じゃー今度こそ本当」
「それでは、こないだの代理出席してくれってのは嘘だったんですね」
「いや、俺九回分くらい命があるから」
「どこの猫ですかそれは。大体なんで僕なんです」
「ウチで飛行機飛ばせるの守り手くらいしかいないし、他の連中は真面目だからなぁ」

壁にかけられた時計を見て、彼は顔をしかめる

「とにかく時間無い。今すぐ手配して飛ばしてくれ。よろしく!」
「あ、ちょっと!?」
「やってくれなかったら、あのこと嫁に吹き込んでやる」


――男は次に、星を見る場所を作ってもらうことにしました

男は上空に舞い上がった飛行機を満足げに眺め、背の高い男に話しかける
「今晩、田園地帯に近いひまわり畑で七夕祭りを強行する。あ、川に近いところがいいかな」
「あれ、でも今夜雨って話じゃ」
「雨は昼間降らせる。きっと大丈夫だから会場の方頼む」

男はそれだけ告げて走り去る
「マジ・・・?」
後に残された背の高い男は、呆然とその姿を見送った


――男は料理人に、ごちそうを作ってもらうことにしました

男は資材を積んだトラックとすれ違いながらほくそ笑み、建物裏手から厨房へ入る
「姉上、ちょっと宴会用というか、炊き出しをお願いしたいと・・・」
「え、今から?」
「夜までに」
「いや、出来ないことは無いと思うけど、材料とかどうするのよ」
「適当に漁って下さい。組合長言いくるめて」
「あの人なら簡単に騙せそう・・・って、おい」
「じゃ、よろしく!」


――男は一人で星を見るのはつまらないと思い、みんなを呼ぶことにしました

「で、このチラシを配って回れば良いと」
「そういうことだ」
「なかなか大変そうですが、やりがいがありますな」
無精ひげの男と腹の出た中年紳士は笑いあう
「それじゃ、美味い酒のために頑張りますか」
「そうですな」
駆け出す二人に手を振り、男は山の向こうに雨が降り始めているのを見て、笑う

 /*/

少年は手に持ったお祭りのチラシを眺める
いつもなら茜色に染まる空には、少し雲が残っていた
本当に今日晴れるのだろうか
そんな思いは彼を憂鬱にさせる
少年は今日、友人と共にお祭りで騒げる気分ではなかった

「よう少年」
「あ、昨日の・・・」
「今夜は晴れるぜ」
「宇宙ならいつも晴れているんでしょう」
「そうじゃないさ。今夜、この地は晴れる」
「・・・・・・」
「俺の丸一日分の努力だ。ちゃんと見てくれよ」

少年の目には、手を振りながら去る男の背中が笑っているように見えました

 /*/

少年は結局、お祭りの会場には行きませんでした
ですが、家の窓から見た夜空にはベガとアルタイルが

「少し、雲が残ってるじゃないか」

少年は笑う
きっと今頃、織姫と彦星は一年ぶりに再会している事を思い浮かべ
ついでに、ちょっと酒臭い男を思い出して

 /*/

「あの、なんでウチ使ってるんですか」
「道場広いからいいじゃん」
「そうそう、あのキッチンすごい使いやすかったわよ。ね」
「そうですねー。わたしもあんなの欲しいな」
「美味い酒に星空。後は風呂があれば完璧ですな」
「風呂と言えば、藩王さまのところに露天風呂があるって言ってましたね」
「マジか 行くしかねぇな」

夜はふけていく
夜空にまたたく二つの星は、一年ぶりに出会えた事を祝うように輝いていた


[No.92] 2008/06/20(Fri) 21:54:45
よろこびのうた (No.7への返信 / 1階層) - 00-00778-01:エド・戒:天領所属

文字数:1164文字(スペース、タイトル文字数を除く)



よろこびのうた



暗いところで泣いている子供がいた。
子供の周りには何もなく、ただ暗い闇だけが広がっていた。
子供はうずくまって、耳を塞いでいた

「なにも聞きたくない、なにもみたくない、何も…感じたくない」

呪文のように紡がれる言葉は、ただ闇に吸い込まれていった。
子供は世界を拒み続けた。

ずっと、ずっと…
それこそ気の遠くなるほどの長い間、子供は世界を拒み続けて…

気づけば子供は青年になっていた。

誰とも触れあわず、語り合わず、何とも関わらずに生きてきた青年は声を無くしていた
表情を無くしていた

そんな青年はある日、突然何かを感じた
青年の世界に突然飛び込んだ変異
青年は顔を上げて辺りを見回した。
何も変わらない、闇が広がっているだけだった。

青年はふと視線を下にさげ、視界にはいったものに驚き、それを凝視した。

(これは…何だ…)

ふわふわした何かがあった。
青年は恐る恐る手を伸ばした。
(暖かい…?)
暖かいと、うれしかった。
闇に囲まれた世界
青年は孤独で、自分以外の温もりに触れたことがなかったから
青年は生まれて初めて微笑み、その温もりを抱き上げた。
暖かい塊が動いた。

「にー」

クリクリとした目が動いて、青年の目と視線が合った瞬間 暖かい塊は青年の手からすり抜けて走っていってしまった。
暗い闇の中、暖かいモノの目だけが見えた。
青年は立ち上がった
暖かいモノは青年が歩み寄ると、また少し離れた。

(…何がしたいんだろう)

青年は少し足を早めた
暖かいモノはまた離れる
青年は意固地になって距離を詰めようと駆け出した。
どれほど走っただろうか、青年の息は切れ切れで、額には汗が浮かんでいた
それでも青年は走るのをやめなかった

 独りはイヤだ
 寒いのはイヤだ

それだけしか頭にはなかった。
それでも体力に限界はある
ついに、青年は倒れてしまった。
暖かいモノの走る音が聞こえる。

(…あぁ、いってしまった、僕はまたひとりだ)

青年は泣いた
悲しかった
しかし、そんな青年の涙を拭うものがいた。
小さな暖かいモノは、その小さな舌を伸ばして青年の涙を拭って、また少し距離をとった。

青年は再び立ち上がり、小さな生き物の小さな背中を追った。

「……ま、て…」

青年の喉が何年かぶりに音を出した。
駆ける生き物を追いかけて青年は走り出した。
そして、ついに闇から抜け出した。


抜け出した先は、沢山の色に溢れていた。

風が髪を梳いていった 光が踊っていた

様々な匂いで溢れていた

青年は立ち尽くした

小さな生き物は、闇から抜け出した瞬間にどこかへ行ってしまっていた

青年の眼から知らず知らずのうちに涙が溢れた

「…なんて、すばらしいんだろう」

青年は笑った 青年の喉からは歓喜の歌がこぼれた。




  青年は今も歌っている




そしてこれからも歌い続けるのだろう

この素晴らしい世界への歓喜の歌を


君がどこかを歩いていて道に迷ったら耳を澄ませてみて?

きっと、歌が聴こえるから…


[No.93] 2008/06/20(Fri) 22:18:47
修正しました (No.88への返信 / 2階層) - みぽりん@神聖巫連盟

テンプレートに記名するのを忘れておりまして訂正いたしました。
申し訳ございません。
よろしくお願い致します。

> 【テンプレート】
> ○36-00695-01:みぽりん:神聖巫連盟
> ○天から降ってきたコイン
> ○1809文字
>
> ここは国境近くの小さな村。
> 土地はとてもやせていて、どんなに耕しても麦も芋もろくに採れないのでした。
>
>
>
> この村には小さな男の子がいました。
> 男の子の両親は毎日一生懸命働きましたが、男の子が食べるものをわずかに得るだけなのでした。
> 男の子は知っています。
> 「私達はおなかがいっぱい」という両親が、水をたらふく飲んで空腹をしのいでいることを。
>
> とおさんとかあさんが たべて
>
> 一度だけそう言ったことがあります。
> 両親はとてもとても悲しそうな顔をしました。
> それから男の子は二度と言いませんでした。
> 男の子が食べても足らないくらいの食事です。
> しかし両親が勧めるたびに口にする食べ物を目にするとなんだかきゅっとなってしまい、なかなかのどを通らないのでした。
> そんな家は珍しくもないのでした。
> この村で大人たちはみな疲れた顔をしています。
>
>
> とおさんかあさんが おなかいっぱいになるといいのに
> そう思った男の子は空を見上げて神様に祈りました。
> かみさま ぼくのねがいを かなえてください
> 小さな手をあわせて一生懸命お祈りしました。
> すると。
> 天がきらりと光り、小さなコインが落ちてきて、男の子の手にぽとりと落ちました。
> 空から声が聞こえます。
> 「これは願いをかなえるコインです。一つだけあなたの願いをかなえましょう」
> これで両親をおなかいっぱいにしよう!
> 男の子は両親のもとに走りました。
>
> 家に帰ると、となりのおじさんが訪ねてきていました。
> 「家内の足の痛みがひどいんだ。薬があったらわけてほしい」
> 男の子は手のなかのコインをぎゅっと握りしめました。
> このコインがあれば願いがかなうはずです。
> ぼくがこのコインでかみさまにおいのりしてあげる。
> おじさんはあははと笑って、大きな手で男の子の頭を撫でました。
> 男の子は何もいえなくなってしまいました。
>
>
> それから何日かして、男の子のもとを一人の紳士が訪ねてきました。
> 私の家がもっと栄えるように祈ってくれたら、食べ物をあげよう。
> しばらく村に滞在しているから返事をきかせておくれ。
> そういうと紳士は背筋をきちっと伸ばして村の宿屋へゆきました。
> 男の子はそうするのがよいのかわからなくて困ってしまいました。
> それから幾日か経たないうちに牛追いが来ました。
> 毎日たくさん出る「ふん」をなんとかしてほしい。牛が多すぎて世話が大変なんだ。
> 牛追いも宿屋へゆきました。
> また幾日か経たないうちに今度は荷車屋がきました。
> こう不景気で荷車が売れなくて困っているんだ。
> そして宿屋へゆきました。
>
>
> ある日のこと、この国を治める王様がやってきました。
> これが伝説のコインかと、男の子のコインを眺めました。
> ぼうや、このコインをわしのために使って欲しい。もっともっと広大な領土が欲しいのだ。
>
> 王様が来たという話を聞きつけてみんなが男の子の家へ集まりました。
> 「私のほうが先でしたよ」
> 「こっちのが困っている」
> 「そんな小さな願いにはもったいない」
> 大人たちはあれこれ言いました。
> 男の子は悲しくなりました。
> みんな困ってる、みんな助けてほしいんだ。
> 男の子は考えました。
> そして…。
> 「みんな きいて」
> 男の子の声にみなしいんとなりました。
> かたずをのんで見守っています。
> 「ぼく、どうしたらいいのかわかったんだ」
> 男の子はコインを手に、澄んだ声で祈りました。
> 「みんな みんな せかいのみんな しあわせになあれ」
>
> そのときです。
> あたりをぱああっと暖かな光が包みました。
> みな、なんだか優しい気持ちになりました。
> 「こんなに満たされた気持ちは初めてです」
> 大人たちは互いに非礼を詫びました。
>
> 「あなたは車が売れなくて困っていましたよね」
> 紳士が車屋に言いました。
> 「私が車を買いましょう。そして牛追いさん、私に牛を数匹とふんを売ってください」
> そして男の子に言いました。
> 「みたところ、この村の土地はやせているようだ。この暖かな気持ちのお礼に牛のふんを肥料として寄贈させてくださいませんか」
> 村人たちは喜びの声をあげました。
>
> 王様は荷車をひく道を整備してくれました。
> 村人たちは何年もまた少しずつ頑張りました。
>
>
>
> 今ではもうおなかをすかせた人も、悲しい顔をした人もいません。
> となりのおばさんは薬を買い、足の痛みもとれました。
> 村は豊かになりました。
> 生き生きと過ごす国民をみて、王様もますます幸せと思いました。
>
>
> そして男の子も幸せでした。
> もう食事をしてもきゅっとなりません。
> 男の子の両親も幸せでした。
> かわいいわが子がいつも笑顔でいてくれるようになったのです。
> みんなみんな 幸せでした。


[No.94] 2008/06/20(Fri) 22:20:00
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 西田八朗@アウトウェイ

文族の方々の凄さを改めて思い知ります。いつもありがとうございます

○39-00709-01:西田八朗:アウトウェイ
○「木の話〜帰郷〜」
○1113文字


木の話〜帰郷〜

砂塵舞う金の海
男は一人砂漠を歩いていた
纏っている外套は、幾年幾月経ったものか、襤褸にしか見えない
ボサボサに伸びた白髪と白髭には、砂と埃がこびりついていた
日に焼けた肌は赤黒く、腕も脚も細く、とても目前に広がる砂漠を踏破できるとは思えない
次第に歩みも遅くなり、瞳の輝きも薄れていく
しかし、彼の歩みは止まることはなかった


彼は戦士であった
かつて彼の世界では大きな戦争が起きた
彼の故郷は、主戦場から遠く離れた地にあったが、彼は戦士としての自分の使命を果たすために、妻と子を残し戦場へ向かった
戦場へ向かう彼を、妻は涙を隠し、再び会えるよう祈りを込めて、ハープの音に歌を合わせて彼を送った
子は、彼に、家族の名を刻んだ手製のハーモニカを渡して、戦場でも自分達を忘れないことを願った

長い、長い戦争はそれから40年も続き、旅に出た戦士は老人となった
戦争が終り、老人は故郷へ帰る旅を始めた
故郷が滅んだ事は、戦争の最中に知った
しかし、彼は、思い出の中に残る故郷の姿を求めた


かつては緑溢れる新緑の大地であった故郷も、長く続いた戦争の影響か、砂漠となっていた
かつて毎日の様に音楽が鳴り止まなかった故郷では、最早人影すら無く、吹きすさぶ風の音が耳に入った

それでも彼は、歩みを止めなかった
歩みつく先が、自身の終りであろうとしても、彼の歩みは遅くはなれど、止まる事はなかった
自分でも分からない何かが、彼の足を止めなかった

かつて彼の家があった其の場所で、彼は足を止めた
彼の家に寄り添う様に聳え、深い緑の葉をつけていた大樹は、その影すら残していなかった
かつて彼の家に響いていた、妻のハープと子の鈴の音も、最早聞こえるはずも無かった

彼は涙を溢した
どうして自分は戦場へ赴いたのだろうかと
かつての自分は血気盛んに戦う事を、自身の宿命としたのだろうかと
彼の慟哭は止まず、此処まで歩いてきた足は、急に力を失い、前を見続けてきた瞳は下を向いた


其処に芽が生えていた


深く、それでいて若い色をした芽であった


彼は涙を流した
あぁ、この砂漠にも、また新しい生命が生まれているのだと
この砂塵舞う故郷にもまだ待っていてくれたものがいたのだと

彼は自身の懐に、よろよろと手を延ばし、中からハーモニカを取り出した
刻まれた家族の名に指を這わせ、彼はハーモニカを吹いた
戦場でも手入れを欠かさなかったハーモニカは、未だ音を忘れてはいなかった

響くメロディーは愛のメロディー
彼が家族と共に響かせていた音
砂塵舞う黄金の砂漠の中に、彼の耳に響くのは懐かしき家族の音、彼の脳裏に広がるのは深緑の大地
あぁ、私は帰ってきたのだ


深き緑と若き力を宿した芽は、彼の音を聴き、彼の喜びの涙を浴びて

やがて大樹となる


[No.96] 2008/06/20(Fri) 23:21:40
ある旅人のお話 (No.7への返信 / 1階層) - 那限逢真・三影@天領

○国民番号:PC名:藩国
00-00565-01:那限逢真・三影:天領

○「作品タイトル」
「ある旅人のお話」

○テキスト文字数
1934文字(スペース含)

/*/

 それはどことも違う場所。
 どことも違う時間。
 全てがこことは違う世界。
 そんな世界で当てもなく旅をする旅人がいました。
 旅人は心のどこかが欠けていて、旅人は虚ろな心で旅をしていました。


 ある時、旅人は樹の下で雨に打たれていました。
 とても冷たい雨なのに、旅人は雨の中でぼんやりしていました。
 ふと気がつくと、同じ樹の下で倒れている女の子がいました。
 旅人は気紛れで、そう本当に気紛れで女の子を助けることにしました。

 助けられた女の子は旅人の後ろをついて歩くようになりました。
 不思議になった旅人は、ある時女の子になんでついてくるのかと尋ねます。
「貴方が私を助けたから、私も貴方を助けたい」
 旅人は困りました。
 別に助けて欲しい事はありません。
「じゃぁ、どうして私を助けてくれたの?」
 旅人はますます困りました。
 助けたことに理由なんかありません。
 それはただの気紛れで、自分が好きに助けただけです。
 旅人がそう言うと女の子は笑って答えます。
「じゃぁ、私も好きに助けます」
 その笑顔が綺麗だったので、それでも良いかと思うことにしました。

 でも、そんな楽しい時は続きません。世界はいつでも理不尽です。
 ある時、女の子は旅人を庇って死んでしまいました。
 旅人の心は哀しみでいっぱいになりました。
 でも、心のどこかが欠けた旅人は何でそんなに哀しいのか分かりません。
 旅人は哀しみを抱えたまま、再び旅に戻りました。


 ある時、旅人は街に立ち寄りました。
 旅人はそこで不思議な刀を見つけます。
 その刀は妖刀で、狐娘姿の精霊が一人憑いていました。
 精霊は今まで寂しかったので、二人はすぐに仲良くなりました。

 仲良くなってしばらくしてから旅人は知りました。
 精霊が動くのも大変なくらいに弱っている事に。
 旅人は哀しくなり、運命に逆らうことを決めました。
 でも、運命を変えるなんて、口で言うほど簡単ではありません。
 旅人は何度も何度も失敗し、その度に何とかしようと思いました。
 何故なら、旅人の傍にいつも精霊がいたからです。
 精霊は弱っているからといって、旅人から離れることはしませんでした。
 旅人は精霊を助けたくて、寸暇を惜しんで頑張りました。
 ある時は原因を探して人や書物を当たりました。
 ある時は薬を探しに遠くの地へ行きました。
 ある時は治療できる人を探して世界を越えました。

 そしてとうとう旅人は、精霊を助けることができました。
 元気になった精霊は楽しそうに走り回って喜びます。
 旅人もそれを見て嬉しくなりました。
 でも、心のどこかが欠けた旅人は何でそんなに嬉しいのか分かりません。
 旅人はその答えを探して、再び旅に戻りました。


 ある時、旅人はある国でできる限りの人を助けようと働くようになりました。
 旅人はそこで一人の妖精を助けます。
 でも、旅人はそのことを忘れてしまいました。
 旅人にとって、その妖精を助けたことは当たり前のことだったからです。

 旅人は頑張って働きました。
 自分が少し犠牲になれば、欠けた心が埋まると思ったのです。
 でも、いつしか旅人は周囲の人から嫌われるようになりました。
 旅人はそれが嫌になって、今までの事は無駄だったのかと考えるようになりました。
 そんな事を考えていると、旅人は一緒にいる影に気がつきました。
 旅人もすっかり忘れていたことですが、それは旅人が以前助けた妖精でした。
 全てが嫌になっていた旅人に、その妖精は笑いかけてくれました。
 妖精は助けられてから、ずっと旅人を見ていたのでした。
 旅人はずっと傍にいてくれたのに、それに気がつかなかった事に哀しくなりました。
 そして、この妖精を助けられたのなら今までの事は無駄ではないと思いました。

 旅人は妖精の事を助けてあげたくなり、妖精についていく事にしました。
 自分が助けてもらったから、妖精を助けてあげたくなったのです。
 ああ、かつて出会った女の子はこういう気持ちだったのか。と旅人は思いました。
 心のどこかの欠けた旅人は、大切な何かを思い出したような気がしました。
 旅人はもう一度頑張ってみようと思い、再び旅に戻りました。


 そして、旅人はある時気がつきました。
 どうしてあの時哀しかったのか。
 どうしてあの時嬉しかったのか。
 どうしてあの時大切な何かを思い出したような気がしたのか。
 それは、いつも傍に誰かがいた時でした。
 そして、そういう時はいつも何かを頑張ろうと思った時でした。

 旅人は思いました。
 人は守りたい何かがあれば頑張れるのだと。
 それに気がついた旅人は、また旅を続けることにしました。



 貴方にも守りたい何かがありますように。
 そして、それのために一生懸命頑張れますように……。

/*/


[No.97] 2008/06/20(Fri) 23:22:26
二本目 (No.7への返信 / 1階層) - 西田八朗@アウトウェイ

難産。一本目と二本目は頭の中で形が見えていたのですが、これ今朝方まで出てきませんでした(涙

○39-00709-01:西田八朗:アウトウェイ
○「林の話〜冒険〜」
○948文字

林の話〜冒険〜

林の中にはオバケが居る

町中で、そんな噂が広がったのは、春の初めの頃
風が強い日の事だった

この町には、一本の大樹を中心にして広がる林がある
大樹はこの町の観光名物で、林に隣接するように大きな公園も作られた
その公園で、ゴミ回収をしているオジサンが、林の奥から奇妙な音が聞こえた、って言っていたことが噂の元だ
やんちゃな子供達が噂に興味を持って林に向かったけれど、誰も居ない筈の林の奥から変な音が聞こえたと、顔を真っ青にして帰ってきた

そんな林の入口に、少年が一人立っている

この町では見かけない肌の色をしている
彼は最近この町を訪れた少年だ
つまりは異邦人である

彼はまだ、この町に友達が居ない
肌の色が違う
瞳の色が違う
髪の色が違う
耳の形が違う
手足の形が違う
得意なことも無い
故に人の輪に入る勇気がもてない

だからオバケを見つけてこようと思った
皆が怖がるオバケを見つけることで自信をつけたかった
故に彼は林へ歩を進めた


ゆるりゆるりと夜の空気が肌を撫でる
怖くて汗が流れてきた
まだオバケは見ていない

じとりじとりと林の空気が肌に張り付く
じめじめとして気持ちが悪い
まだオバケは見ていない

かさりかさりと落ち葉の音が耳に付く
恐る恐る足を踏み出す
まだオバケは見ていない

ぶおぅぶおぅと不思議な音が聞こえてくる
だんだん近づいていくのがわかる
まだオバケは見ていない

そして少年は大樹の前に出た
まだ、オバケは見ていない

大樹には大きな穴が開いていて、そこから音が聞こえてきている
その大きな穴から光が外に漏れている
ここまで来たんだと、少年は、その小さな手を強く握って、大樹へと近づいていく
そうして大樹の穴を覗き込む…


そこに小さなハーモニカがあった


小さな穴から入ってきた月光を、年老いたハーモニカが映していた
同じ穴から吹き込んだ風で、年老いたハーモニカが声を出していた

少年はそれを見て、くたりと膝を着いたあと、しばらくしてから不思議な音を出すハーモニカに引き寄せられた
触れてみると何か傷が付いている
吹いてみると何か少しだけあったかい気持ちが胸にしみこんだ

しばらくして少年は、年老いたハーモニカを大事そうに胸に抱き、今度は怖がらないで林を進んだ


翌日、少年は仲が良さそうに遊んでいる町の子供達を見て
自信の勇気を胸に抱き
輪の中に入ろうと走りだした


[No.99] 2008/06/20(Fri) 23:25:21
約束をした青年 (No.7への返信 / 1階層) - 里樹澪@ビギナーズ王国

○22-00419-01:里樹澪:ビギナーズ王国
○「約束をした青年」
○1999文字

/*/

あるところに、盛大なお祭りをすることで有名な国がありました。
祭り好きな王様がいつもお祭りを開いていたのです。
国中に太鼓が鳴り響き、通りは踊り子が練り歩き、広場にはお店が溢れていました。
しかし、あるとき王様が変わりました。
新しい王様はお祭りが大嫌いだったのです。
すぐにお祭りをすることを禁じてしまいまいした。
兵隊に命じて、お祭りをしようとするものは皆捕まえてしまったのです。
太鼓の音は聞こえなくなり、踊り子は通りに出なくなり、お店も広場から消えました。
国に住む人たちは、お祭りが出来なくてさびしい気持ちになっていきました。

静かになってしまった国に、お祭りが好きだった一人の青年がいました。
彼はいつも思っていました。
もう一度太鼓が鳴り響く音が聞きたい。
あの踊りをもう一度見たい。
広場に溢れるテントが、そこに集まる人の笑顔をもう一度。
青年はそう決めました。
彼にはお金はないし、賢くもありませんでしたが、身軽さと祭りを思う気持ちだけは国一番でした。
なんだ、二つもあるじゃないか。青年はそう思いました。
そして、歩き出したのです。

青年は太鼓の名手だった人に会いに行きました。
彼は困っていました。子どもが屋根の上から降りられなくなってしまったのです。
屋根に上るのは青年には簡単なことでした。なんなく子どもを助けてあげました。
太鼓叩きは喜んで、青年にお礼を言いました。
でも、自分には太鼓を叩くくらいしかできないし、今はそれができないとも言いました。
青年はそれならばお礼の代わりに、僕が死んだら太鼓を叩いて送ってくださいと言いました。
太鼓叩きは不思議に思いながら、それくらいならと青年と約束しました。

青年は次に、国一番の踊り子に会いに行きました。
彼女も困っていました。家にねずみが出たのです。
彼女はねずみだけは大の苦手でした。
青年は笑いながら、すばしっこいねずみを退治してあげました。
踊り子は青年にお礼を言いました。
でも、自分には踊りしかないし、今はそれができないとも言いました。
青年はそれならばお礼の変わりに、僕が死んだら踊りで送ってくださいと言いました。
踊り子は首をかしげながらも、それでいいのならと青年と約束しました。

青年はそのあとも、身軽さをいかして、自分にしか出来ないことで国中の人を助けてました。
そしてそのたびは「自分が死んだら」と約束をしました。
皆縁起でもないと言いながら、首をかしげながら約束をしてくれました。
そして遂に、国の中で青年と約束していないのは王様だけになりました。
青年は、最後に王様に会いに行きました。
王様は青年がお祭りを好きなことも、皆と約束していたことも知っていました。
王様はそれに怒っていました。
青年はすぐに捕まえられて、死刑にされてしまったのです。
その前に、青年は王様とも約束しました。
僕が死んで王様は嬉しいのなら、一つだけ約束してください。
もし、今日の夜にお祭りが開かれたら、お祭りを認めてください、と。
王様は笑いながら、いいともと約束しました。
何を約束していようとも、兵隊たちが捕まえてくれると思っていたからです。
青年は最後に笑顔になって、約束ですよと言いました。
それが、青年の最後の言葉でした。


その日の夜。
青年が死刑になったという話は国中に広がりました。
でも、皆兵隊を怖がっていました。。
いつまでたっても、誰も青年との約束を守ろうとしませんでした。
王様は自分の思ったとおりだと笑いながら、ベッドに入って寝てしまいました。

最初に響いたのは太鼓の音でした。
太鼓の名手は子どもが寝顔を見て、子どもを助けてくれた青年を思い出したのでした。
そして、子どものために約束を守ろうと思ったのです。
太鼓の音に導かれるように、国一番の踊り子が通りに躍り出ました。
久々に聞く太鼓の音に、どうしても躍りたくなったのです。
手に持った鈴でリズムを取り、太鼓に合わせて躍りながら歌いました。

二人が通る後ろから、次々に人が現れました。
太鼓に合わせるように笛吹きやバイオリン弾きが出てきました。
踊り子の弟子も仲間も、かつてのように踊り始めました。
もう立派なパレードです。

パレードが広場に着いたら、テントがいくつも立っていました。
煌びやかに飾り付けられ、人を呼び込む声が響き渡り、かつての活気が溢れていました。
パレードはそれを見て、一層大きく演奏し、美しく躍りました。
お祭りが戻ってきたのです。

騒ぎを聞きつけた王様はベッドから転げ落ちました。
そして、窓の外を見て驚いて、すぐに兵隊を呼びつけてなにをしているんだと怒りました。
兵隊たちは言いました。青年と約束していたのです。
お祭りを始めてもだれも捕まえないようにと。
それを聞いた王様はついに観念しました。
青年との約束どおり禁止令は解かれたのです。

こうして、一人の青年のおかげで国にお祭りが戻ってきました。
そして、もう二度とお祭りがなくなることはありませんでした。

/*/


[No.100] 2008/06/20(Fri) 23:27:30
可愛い子には鍋をさせよ (No.7への返信 / 1階層) - 銀内 ユウ@鍋の国

○05-00141-01:銀内 ユウ:鍋の国
○「可愛い子には鍋をさせよ」
○1933文字

以下本文

「兄ちゃん、ちょうだい!」

「いやだ!」

 メガネを曇らせていると、そんな言葉が聞こえてきた。

「なんだ……?」

 声のした方を見てみると小学生……ぐらいの男の子と幼稚園ぐらいの男の子が言い合いをしていた。

「にい……」

 今にも泣きそうな弟くん。

「いやだ。だいたいこれは僕のお小遣いで買ったんだぞ。お前はヌイグルミ買ったんだからいいじゃんか」

「でもぉ」

 兄の手にはおでんアイスが二つある。弟君は手に……ああ、王猫様ヌイグルミを持っている。

「それにしても……」

 兄は両手に持ったおでんアイスを美味しそうに食べている。まぁ自分の小遣いで買ったのならかまわないだろうが……それでも食べ方というのがあるのではないだろうか?

「あー、そこの少年。弟にはやさしくするもんじゃないかね?」

 なんとなく見つけてしまったからかついお節介的に声をかけてしまった。

「!」

 すると唐突にそれまで泣きそうだった弟君だけでなく兄の方も涙目になった。

「え、ええーっと、ど、どうしたのかなぁ」

 い、いかん。この構図はなんか、子供を泣かしているお兄さんではないか。

「お、おっさんまでカイの味方すんのかよぉ」

 お、おっさん!? 失敬な私は28歳と42ヶ月でおっさん呼ばわりされる歳ではないと……普段なら言うのだが、泣きそうだよボウズ。

「あ、あー。までって事はなんかあったのか?」

 カイってのは弟の名前だろうと予測できた私は相手の話を聞く事にした。理由がわからんと対処できん。

「……さっき、店で王猫様買おうとしたら一個しかなかったんだよ……」

 兄はそう言うと思い出したのかえぐえぐと泣き始めた。

「あー、それはそれは……」

 いわゆるお兄さんなんだから我慢しなさいというヤツか……なんとなく状況を察した俺はこれは言葉で言ってもわからんというか納得しないだろうなぁっと思いつつも横に置いていたクーラーボックスから鍋を取り出した。

「ボウズ、そういう時もあるさ。どうだ? おにいさんと弟と一緒にこれ食って仲直りしないか?」

 おにいさんを強調しつつも私が取り出したのは食後のデザートのつもりで用意していたパフェ鍋である。アイスリームにバナナ、たっぷりの生クリームとチョコレートがこれでもかと鍋の中につまっている私のオリジナルデザート鍋である。

「「!」」

 鍋の中身を見た兄弟はビックリ顔で私を見つめた。涙チョロチョロだった顔にはひそかな期待感が出ている。同じ様な顔が二つ並んでいる事に心の中で苦笑しつつも私はスプーンを三つ取り出した。

「仲直りするなら分けてやってもいいぞ?」

「「うん!」」

 これまた良いお返事である。まぁ本来なら食後のデザートで食べたかったのだが、まぁこれぞ道端鍋である。ひょんな事で知りあった人と食べるという事が楽しいのであり、本来の予定なんぞあんまり関係ないのである。

「「美味しい!」」

 まぁ、仲良く食べる兄弟の顔ってのは癒されるじゃないかい、ボーイ&ボーイ。
 

 私は最近の食事は道端でするようになっている。それは今日のような子供との出会いもあればおばちゃん達の井戸端会議に参加したりすることがある。これは中々に面白い。「鍋は鍋友の始まり」ということわざを実行しているつもりはないが、かなりの友人が出来たのは事実である。

/*/


 今日は幸運であった。肉屋で余った豚骨をもらったのである。これで豚骨ベースの出汁を作ってラーメン鍋ってのもいいかもねぇ

「今日はいい天気だねぇ」

 呟きつつも鍋の準備にとりかかる。

「ねぇ、おじちゃん」

 そんな私を後ろから呼び止めたのは昨日の弟君であった。

「おう、ボウズ。元気か?」

「うん。おじちゃん、昨日はありがとうございまちた」

 弟君はそう言うとペコリとお辞儀をした。わざわざ礼に来るとは親のしつけがなってるねぇ。

「ん? ボウズ、にいちゃんはどうした?」

 私の言葉に弟君は顔を曇らせた。

「あのね、にいちゃん昨日冷たいの食べ過ぎてピーピーになっちったの」

 ……そういえば、パフェ鍋食べる前におでんアイス二個食ってたっけかあのボウズ……。

「……そうだ。ちょっといいか、ボウズ」



/*/


「にいちゃん、にいちゃん」

 カイがドタバタと帰ってきた。腹に響くから走るのはやめてほしいよ。

「……カイ。走り回るのはやめてよ」

「にいちゃん、これおじさんから」

「? おじさん?」

 カイが持っていた紙を広げるとそこには紙いっぱいの文字がかかれてあった。

"兄貴はツライだろうけどガンバレ! おでんアイス一個弟にやってたら腹こわさなかったかもな。あとグチならいくらでも聞いてやるよ"


「昨日のおっさんか……」

「あ、にいちゃん」

「ん、なんだ?」

「あのね、おじさんが「今度会った時はお兄さんと呼ぶように」って言ってたよ」


[No.101] 2008/06/20(Fri) 23:29:37
3本目 (No.7への返信 / 1階層) - 西田八朗@アウトウェイ

ポエム(イヤイヤ
文才の無さ以前に話を産む力が無いことを思い知りしょげました
綺麗な世界と響くメロディーが、子供たちの笑顔を喚起してくれたら、嬉しいです

○39-00709-01:西田八朗:アウトウェイ
○「森の話〜音楽会〜」
○865文字

森の話〜音楽祭〜

森の中には魔女がいる

鬱葱と茂る藪を抜け
薄く光が差し込む森を抜け
ぽつぽつと家が建つ村落を抜け
目の前に聳える大樹に寄り添うよう様に
魔女の住む家がある
白くも見える長い、銀の髪を持つ、美しい魔女がそこにはいる

家の中の魔女は今、部屋の中にあるピアノの音を確かめるように、鍵盤に指を走らせている
ピアノの側には節くれだった杖と、魔女の帽子が置かれている
魔女の家の奥を覗けば、壁には魔女に似合わぬ鎧と剣がかけられて、他の部屋には子供用のベッドがある
魔女の同居人は誰なのだろう?
…と、魔女がピアノから指を離す
どうやら準備が整ったようだ

魔女は帽子を被り、杖を持つと、ドアの前に立った
ドアを開ける前に、ピアノに向けて杖を振ると、ポロンとピアノの音が鳴る
その音を確かめ、にこりと魔女は微笑むと、ドアを開けたまま大樹へと向かった

今日は、年に数度の、音楽祭

魔女が大樹の根元に腰をかけ
長く伸びる枝に杖を一振り
枝は魔女の下まで伸びてきて
魔女の前に枠を作る

魔女が枠を手でなでて
それから大樹を這う蔦に杖を一振り
蔦は枠の中で弦を張り
魔女の前には一つのハープ

魔女が弦の張り加減を確かめる
気に入ったように微笑む魔女は
始まりを継げる音を鳴らす

優しく響くハープの音に
あわせる様に鳴り出すピアノの音が
やがて村落に響き渡ると
ぽつぽつと建てられた家の中から
村人が思い思いの楽器を手に取り外に出て
二つの音に合わせて奏でだす

綺麗な音をベルが響かせ
流麗な音を笛が流す
太鼓が陽気に拍子を取ると
ホルンが力強く音を合わせ
琴の音が壮麗に音を重ねる

村の音が森に響くと
森の動物が思い思いの音を鳴らす

リスが木の実を叩き出し
ネズミが歯と歯を合わせてカチカチ
鳥が翼をはためかせれば
馬も牛も音にあわせて嘶き始める

聞こえてくる音の中に
ハーモニカの音が流れ出すと
ハープを奏でる魔女は微笑み
ハープの音に艶やかさが加わる

今日は森の音楽祭

森の中から聞こえる音は
荘厳にして絢爛
豪華であり陽気


やがて森の音がひそやかになり
音楽会は一時の休憩になる

再演はすぐに行われるだろう



その時に貴方の手には楽器がありますか?


[No.102] 2008/06/20(Fri) 23:29:53
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 黒野無明@無名騎士藩国

○国民番号:PC名:藩国
33-00750-01:黒野無明:無名騎士藩国

○「作品タイトル」
「めぐり、つながるうた」

○テキスト文字数
906文字

/*/

少年は夢を見ていました。
とても悲しい夢。見ているだけでつらくなる夢。
そんな夢を見る日は、いつだって少年は眼を開き、夢から目を背け逃げ出します。
ただ、そんな世界で、いつも少年に届く音色がありました。夢の中、見ていられないほど辛い光景。ただ、それだけがある世界のはずなのに。世界に響く歌がありました。
それは、力強く、それでいて優しく暖かい歌。誰かのために歌われる歌。
けれど、その歌では少年の心を守ることはできませんでした。
だから少年は怖くて、いつも逃げていました。
何度も、何度も、何度も歌声が聞こえなくなるまで……。

そして、世界から歌が無くなりました。ただ、視界には暗く、悲しい不条理がまかり通る、誰もが逃げ出さざるを得ない光景だけ。たとえ、そこから逃げても誰も責めることの出来ないような光景。ですが、そんな光景を目の前にして、少年の心には恐怖や絶望とは違う思いが生まれていました。

それは、怒り。知らず少年は怒っていました。世界への強い怒り。でも、少年には何の力もありませんでした。
だから、少年は歌を歌いました。世界へのせめてもの反抗。お前の中には絶望しかないわけじゃない、と少年は伝えたかったのです。

彼は歌い続けました。いつまでも、いつまでも、いつまでも……。
どれだけの時間が経とうとも、彼は歌い続けます。喉が枯れても、歌おうとします。けれど、彼は無力でした。どんなに歌っても世界は変わらず、ただ自分が苦しむだけ。彼は、諦めそうになりました。

そのときです。世界から歌が溢れ出したのは。
彼の歌を聴いていた人達が居たのです。
彼の歌を聴いて、世界と戦うことを決心した人達がいたのです。
その歌は、人の誇りを、人の優しさを歌い、世界から悲しみを無くすために歌われていました。
彼は、その歌を聴いてもう一度戦うことを決めました。
もう、諦めない。もう、逃げない。そう誓いました。
闇が晴れ、悪夢が終わろうとしました。

そこで、彼は夢から目覚めました。
そして、彼は気づきました。
この世界にも、あの世界と同じように悲しみが溢れています。けれど、どんなに悲しみが溢れようと、人が協力し合えば、どんな困難も越え、どんな悲しみも越えられるのだと…。

/*/


[No.103] 2008/06/20(Fri) 23:42:26
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 嘉納@海法よけ藩国 


04-00084-01:嘉納:海法よけ藩国
「お使い」
1823

 「ソテナ、ソテナ、頼みがあるの」

村に住む男の子の、ソテナは、お母さんにいわれて、森の中の広場まで、お祝いに食べる木の実を、拾いに行きます

 頭には、麦を編んだ、帽子をかぶり白いシャツをきて、水筒と、お弁当を持っちました。
「日が暮れるまでに帰るのよ」
 お母さんに言われたとおり、大きくうなずくと、ソテナは元気に歩き出した。

 森の中をてくてく歩き、いつまの広場に息ましたが、ほんの少ししか、木の実のがありません。

「どうしよう、これでは、とてもたりないわ」

 仕方ないので、ソテナは、森の道を帰ろうと、歩き出しました。
 段々夜がやってきて、森には夜が降りてきます、空には、月が浮かび上がり。

 そうしてしばらくあるいていると、道の先に、大きなフクロウが一匹枝にとまりながら、話しかけてきました。

 「ぼっちゃん、下を向いてどうしたい?」
 フクロウに声をかけられて、ソテナは驚いて、上を向きました。
 「お母さんに頼まれた、木の実が少ししかなかったんです」
 フクロウは、首を曲げて考え込むと、ばっさばっさと、ソテナの前に降りてきました。
「ぼっちゃん、ぼっちゃん、そのお弁当を儂にくれたら、たくさん木の実のある場所を教えてあげよう」
 ソテナは、お弁当を、置くと蓋を取り去って、フクロウに渡しました。
 フクロウは、一息で、それらを飲み込むと、満足そうにうなずいて、自分の羽を一枚抜いて、ソテナに渡しました。

「この羽をやろう、そうすれば、きっと、木の実が見つかるだろう。そして、この箱は、私の息子のゆりかごにしよう」
 そういって、フクロウは、殻になったお弁当箱を持って、びゅうとたかく、飛んでいきました。
 ソテナは、羽を帽子に刺すと、また歩き始めました。
 お腹が段々空き始めて、寂しくなってきたころに、強い風が吹きました。
 ヒューという大きな風に、慌てて帽子を押さえると、羽がふわりととびあがり、そのまま、ふわふわと、目の前で踊り出しました。
 驚いて手を伸ばすと、それに会わせるようにふわふわと動いて逃げていく。
 手に合わせて体を伸ばすうちに、足がでて、そのまま引きずられるように体が伸びて、倒れてしまう。
 ぷちぷちという音が体の下で響いて、慌てて起きあがると、真っ赤に熟れた木の実が、地面一杯に広がっています、白いシャツに、赤い模様が一杯ついています。
 そのまま、籠一杯に、木の実をつめて、うちに帰ろうと歩き出したが、ふと後ろを見ると、さっきの木の実の広場はありません、それにもう羽もなくて、空には月があがっています。
 ここはどこだろう、暗い、夜道にひとりぼっちで寂しくなって、少しだけ、しくしくと泣いていると、不機嫌そうな黒い猫が一匹出てきて、言いました。
「うるさくて、目が冴えてしまったよ」
 猫は、猫らしくもないことをいうと、如何にも腹立たしいといわんばかりに顔をなでて
怒っていました。
 その目は、月のように細いのに、眉毛がピンと伸びている不思議な猫でした
 どうして鳴いていたのかを、ぽろぽろと語ると、猫はあきれたと言わんばかりに、尻尾をふって、少し考え込んで言いました。
「では、その麦わら帽子をくれ、僕は月の光が苦手なんだ。僕が帰れるようにしてあげよう」
 ソテナが、帽子を猫にかぶせると、猫は少しポーズをつけて、ピョンと、木陰に飛び込んでいきました。
 しばらくすると、輝く小さなリスが飛び出してきました。
 どこからともなく、猫の声が響きます
「それについていくといい、そうすれば、お使いなんて終わるさ」
 慌てて、リスを追い掛けていくと、道はドンドン進んでいって溶けていくよう、月だけが、静かに空をテラして、木も風も、ドンドンバターのように、白くとろとろと溶け低域真下。気がつくと、ウチの前にソテナは、真っ赤になったシャツをきて、立っています。
 ただいま、ソテナはウチに入る前に、ふと後ろを見たけれど、もうリスも何も見えませんでした。
 木の実を使ったジュースを飲んで、木の実を使ったジャムを食べて、ソテナは、静かに眠りました。
 赤に染まったシャツは、そのまま色が落ちずに、真っ赤なシャツになって、今もソテナがきています。

 どこかで黄色のリスは、大きくけっぷと、喉を鳴らすと、寝床に一人で帰っていきました。

 だからこれで、この話はおしまい


[No.104] 2008/06/20(Fri) 23:45:48
おいしい時間 (No.7への返信 / 1階層) - 吾妻 勲@星鋼京

○42−00537−01:吾妻 勲:星鋼京
○「おいしい時間」
○1476字

・おいしい時間

―いつかどこかのあるところ。

―小さなお店がありました。

―静かできれいな丘の上。

―甘くてステキないい香り。

―おいしい時間の始まり始まり―。


―*―

空が白んで少し後、今日はとっても良い天気。
小さなお店も起きだして、いつもの準備を始めます。
白い煙が輪になって、小さな屋根から一つ、二つ。

お店の周りのきれいなお花、お世話をするのはお姫様?
いえいえステキなその人は、小さなお店のおかみさん。
きれいでとってもいい香り、おいしいお菓子を作るのは、
お話の中の王子様?
いえいえステキなその人は、小さなお店のだんなさん。

小さなお店のご主人は、二人のステキな若夫婦。
お店の扉が開いたら、今日もお店の始まりです。

―*―

まっさら青い空の下、さらさら風吹く丘の道。
大きな荷台に缶載せて、コトコト坂を上ります。
大きなからだのおじさんは、牛乳屋さんのおじさんです。
お店の前でおじさんは、今日も二人にご挨拶。

「やあやあ、おはようお二人さん!今日もステキな日和だねぇ!」

大きなからだのおじさんは、お日様みたいなにこにこ笑顔。
大きな缶を軽々抱え、お店の中へ運びます。

「やあやあ、おはよう牛乳屋さん!いつもおいしい牛乳を、届けてくれてあ

りがとう!」
「おはようございます牛乳屋さん、いつものお礼にお一つどうぞ」

お店の二人もにこにこ笑顔。並んで袋を差し出します。
かわいい袋の中からは、甘くて香ばしい、いい匂い。
おじさんついつい嬉しくて、くるりと回ってきれいにお辞儀。

「これは嬉しい、ありがとう!」

さらさら風吹く丘の道。コトコト坂を下ります。
道の途中でおじさんは、袋の中身を見てみます。
そこにはとっても色とりどりな、おいしそうなクッキーが!
おじさん味見と一つまみ。さくりと広がるクッキーの、何とおいしい事でし

ょう!
おじさんあんまり嬉しくて、急いで家に帰ります。

「何ておいしいクッキーだろう!急いで家に帰らなきゃ、帰る前になくなっ

ちまう!」

―*―

お日様少し、傾いて、時間はそろそろお茶の時間。
扉の影から除くのは、小さな小さな女の子。

「あらあら小さなお客様」
「やぁよく来たね、いらっしゃい」

二人はにっこり微笑んで、お店の中へ誘います。
小さな小さな女の子、何も言わずに俯いて、なんだか少し、悲しそう。

二人は少し考えて、やっぱりにっこり微笑みます。

「さぁさぁ小さなお客様、こちらでお茶を出しましょう」

お店の裏の、小さなテラス。
白いお洒落なテーブルに、お揃いの白いティーセット。
ポットが静かに注ぐのは、柔らかな色のミルクティー。
お皿の上に乗せられたのは、大きなふかふかシフォンケーキ。

「それではどうぞ、お客様」
「おいしい時間をごゆっくり」

ふんわり漂う良い香り、
ちょっと大きなティーカップ、ゆっくり口を近づけます。
一口飲んだ女の子、ぽろぽろ涙をこぼします。
二人は優しく微笑んで、どうかしたのと訊ねます。

「どうして私に優しくするの?私は何も、持ってないのに」

二人は静かに答えます。

「優しくしたいと思ったら、優しくすれば良いんだよ」

小さな小さな女の子、涙をこぼしているけれど、にっこり笑顔になりました


おいしい時間はゆっくりと、あっという間に終わります。
夕焼け赤い、丘の道。
小さな小さな女の子、ゆっくり家へと帰ります。
小さな小さなポケットに、二人がくれた白い花。

優しい気持ちに包まれて、今日も一日終わります。
明日もきっと、良い天気。

―*―

―いつかどこかのあるところ。

―小さなお店がありました。

―静かできれいな丘の上。

―甘くてステキないい香り。

―「それではどうぞ、お客様」

「おいしい時間をごゆっくり」―。


[No.105] 2008/06/20(Fri) 23:58:52
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - 霰矢蝶子@レンジャー連邦

締切時間すぎてしまってますが、まだ間に合いましたらよろしくお願いします。

【テンプレート】
○06−00147−01:霰矢蝶子:レンジャー連邦
○「ションボリーナのお話」
○1960文字



いまはむかし、ここはどこか。
きんいろのかみをした、ションボリーナというおひめさまがおりました。

ションボリーナのくには、うみのむこうにあるくにとけんかをしていました。
くにとくにとのけんかを、せんそうといいます。
まいにちたくさんのひとが、せんそうのためにおもいよろいをつけて、
おおきなけんやゆみをもって、うみのむこうへたびだっていきました。

せんそうでは、たくさんのひとがしぬそうです。
しぬということは、もうにどとあえなくなるということです。
ションボリーナは、しょんぼり、しょんぼり。
どうしてけんかなんかするんだろう、はやくなかなおりすればいいのに、と、
まいにちぽろぽろないていました。

せんそうがはじまって2かいめのなつがきて、
ションボリーナのきんいろのかみがかたからむねまでのびたころ、
ションボリーナとなかよしの、にわしのおにいさんもせんそうにいくことになりました。
ションボリーナは、しょんぼり、しょんぼり。
いかないで、とおねがいしても、おにいさんはわらってションボリーナのきんいろのかみをなでるだけです。

 なかないでションボリーナ。
 そうだ、きみにこのかみかざりをあげる。
 きみのきれいなかみにきっとにあうよ。
 わらっていればきっともっとにあうよ。

そしておにいさんはわらいながら、
おもいよろいをつけて、ふねにのって、せんそうにいってしまいました。

せんそうでは、たくさんのひとがしぬそうです。
しぬということは、もうにどとあえなくなるということです。
ションボリーナは、しょんぼり、しょんぼり。
おにいさんにもうにどとあえなくなったらどうしよう、と、
なみだがぽろぽろとまらなくなってしまいました。

なきっぱなしではひからびてしまいます。
おにいさんがたびだって3かめ、ションボリーナはからからのぱさぱさになっていました。
きんいろのかみもぱさぱさして、ちっともきれいじゃありません。

このままではおにいさんのくれたかみかざりがにあわなくなってしまう。
そうおもったションボリーナは、なみだをとめようと、ぎゅっとめをつぶりました。
すると、めをとじたまっくらやみのなかに、おにいさんのわらったかおがうかびました。
なかないでションボリーナ、というこえが、きこえたきがしました。

ションボリーナはなみだをもうひとつぶだけながすと、ごしごしかおをふいてはしりだしました。
おにいさんにもうにどとあえないなんていやだ、いやだ、いやだ。
ションボリーナはしょんぼりすることもわすれて、せんそうをおわらせようとどりょくをはじめました。

ションボリーナはまずおとうさんであるおうさまに、どうやったらせんそうがおわるかききました。
おうさまはむずかしいかおで、それはとてもむずかしいことだよションボリーナ、といいました。
あんまりむずかしくて、おうさまはせんそうをおわらせるのをすこしあきらめているようにもみえました。
でも、ションボリーナはあきらめませんでした。

 おうさま、むずかしいとかそんなことはかんけいないの。
 わたしはせんそうをおわらせたいの。
 わたしといっしょに、がんばってください。

それからおうさまとションボリーナはがんばって、がんばって、
4かいめのなつにやっとせんそうをおわらせることができました。
むねまであったションボリーナのきんいろのかみは、こしよりながくなっていました。
でも、おにいさんはかえってきませんでした。

ションボリーナはおにいさんをむかえにいくために、ふねにのってとなりのくにへとやってきました。
ずっとせんそうをしていたとなりのくにはさばくのくにで、
いつかのションボリーナのように、からからでぱさぱさのくにでした。

ションボリーナはおにいさんをいっしょうけんめいさがしました。
けれどもおにいさんはどこにもいません。
それでもションボリーナはいっしょうけんめいさがしました。
でも、みつかったのは、おにいさんのなまえのはいったちいさなおはかだけでした。

ションボリーナは、しょんぼり、しょんぼり。
また、なみだがぽろぽろとまらなくなってしまいました。
いつかのようにめをぎゅうっとつぶっても、もうなみだはとまりません。
おにいさんはかわらず、めをとじたまっくらやみのなかでわらっていましたが、
ションボリーナはおにいさんのおはかのまえから、もうはしりだすことはできませんでした。


ションボリーナはないて、ないて、そのままみずになってさばくのなかにしみこんでしまいました。
おにいさんのおはかのまえには、あのかみかざりと、ちいさなみずたまりがのこりました。

みずたまりはふしぎなことにすこしずつすこしずつおおきくなって、いつしかみずうみのようになりました。
そのみずうみはいま、レンジャーれんぽうというくにのオアシスとなって
みんなにみずとしあわせをあたえているということです。


おしまい。


[No.106] 2008/06/21(Sat) 00:06:22
地を掘るニワトリ (No.7への返信 / 1階層) - 四方 無畏@羅幻王国

○25-00480-01:四方 無畏:羅幻王国
○「地を掘るニワトリ」
○361文字

羅幻王国には砂の中を自由自在に泳ぎ回るニワトリが居る。
彼らが砂の中を移動するようになった理由は諸説あるが、今日はその中の1つを紹介しよう。

大昔、そのニワトリは大空を飛び回り、地上のあらゆる生命をその強靭な嘴で捕まえていた。しかし、あるとき地上に長い長い冬が訪れた。
海は凍り、大地は雪に閉ざされた。
空は絶えず強風が吹き荒れ、彼らは空を失った。
そして地上も吹雪が途切れる事は無く極寒の世界になった。
彼らは少しでも寒さを逃れるために雪に穴を掘った。
彼らはその強靭な嘴で雪を掘った。
寒さに震えながら何処までも掘った。
そうしていつの間にか彼らは土を掘っていた。

地中深くは外の気温に関係なくほとんど一定で暖かかった。
さらに、地中には多くのえさが残っていた。

それ以来、彼らは長い冬が終わっても空へ戻らず地中で生活するようになったそうだ。


[No.107] 2008/06/21(Sat) 00:07:09
投稿を締め切ります (No.7への返信 / 1階層) - 舞花・T・ドラッヘン@スタッフ

たくさんのご応募をありがとうございます!

「ネコリスと子供たちに語る物語」

 ○A:「子供たちに贈りたい物語」部門

の投稿を締め切らせていただきます。


[No.109] 2008/06/21(Sat) 05:05:50
Re: 作品投稿所:子供たちに贈りたい物語 (No.7への返信 / 1階層) - Jack Ma

私がこの記事を、非常によくできて好きです。

[No.243] 2018/09/02(Sun) 21:49:46
以下のフォームから投稿済みの記事の編集・削除が行えます


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