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all スチームパンクスレ再録 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:39:13 [No.5]
File:1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:40:42 [No.6]
クレメンティーナは眠らない1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:41:47 [No.7]
クレメンティーナは眠らない2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:42:47 [No.8]
帝都迷宮案内1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:43:30 [No.9]
帝都迷宮案内2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:44:55 [No.11]
博士と助手と人形と1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:45:50 [No.12]
清水自動人形工房 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:46:52 [No.13]
ジャックが笑う1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:47:30 [No.14]
クレメンティーナは眠らない3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:11 [No.15]
ジャックが笑う2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:53 [No.16]
ジャックが笑う3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:50:26 [No.17]
博士と助手と人形と2 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:51:12 [No.18]
赤の退魔剣士 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 12:52:26 [No.19]
ジャック狩り1 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:53:07 [No.20]
人形夜会1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:53:43 [No.21]
ただの趣味だと彼は言った - 咲凪 - 2011/04/24(Sun) 12:54:23 [No.22]


ジャックが笑う1 (No.13 への返信) - アズミ

 何度も会ったはずなのに、もう顔さえ思い出せない。
 何度も話したはずなのに、もう声さえ思い出せない。
 ただ、こう言われたことだけは覚えている。

「君は愛する人間を取り戻さんと、人形の技術を利用した。
 僕は愛する人形を完成させるために、人間の部品を利用する」

 そう言って、彼は深く、紙に走る切れ込みのような鋭い笑みを浮かべたはずだ。

「僕らは、仲良くできると思わないか?」





「では、何かありましたら是非ご連絡を」

 工房のドアを開けて去っていくウィンストンを見送る。
 ドアが閉まりきるまで、知己はどうにかその場に座り込むのを堪えることに成功した。

「兄さん?」

「大丈夫だ」

 サヤが心配そうに声をかけるのに、どうにか力ない笑みで返す。
 空元気にも程がある、と自嘲した。膝が震えている。胃の内容物が激しく渦巻いている。嘔吐はどうにかせずに済んだが、代わりに行き場の無い不快感が身体に堆積した。
 落ち着け。

 落ち着け。

 落ち着け。

(……そうだ、落ち着け)

 手近な椅子に身を預け、こめかみを抑えた。

 ウィンストン警部と名乗ったあの中年男の用件は、切り裂きジャック事件の容疑者探しであった。
 しょっちゅうサヤに叱られるのだが……知己はあまり外の情報に詳しくない。あまり外を出歩かないし、ニュースペーパーはおろか、ラジオさえきちんと聞かない。
 なので、切り裂きジャック事件も聞いたのは先刻が初めてであった。
 ……にも関わらず、犯人の手掛かりを聞いた瞬間、知己の脳裏にある男の存在がフラッシュバックした。

(……あれは、サヤを作ってすぐの頃のはずだ)

 綾を喪うことが確定した頃。
 それでいて、まだ綾を取り戻すことを諦めるに至らなかった、僅かな期間。
 研究資料を閲覧したいと言って訪ねてきた男。……男だったはずだ。もうそれさえ怪しいが。
 幾らか研究成果の交換をして去って行った。

 『人形師』であり、『魔法使い』。
 『内臓を必ず持ち去る』。
 『医術の心得がある』。

――僕は愛する人形を完成させるために、人間の部品を利用する。

「……奴だ」

 間違いない。奇妙な確信があった。
 だがこれだけ思い出せながら、肝心要の男の容貌や名前が全く思いだせない。
 いや、そもそも。そんな男を、今の今まで何故忘れていた?

 頭が痛い。

 眩暈がする。

 思考を巡らせることを脳髄が拒否するような感覚。

(記憶処理を食らっていた……?)

 実際に使ったことも受けたこともなかったが、そういう魔法があることは聞き及んでいる。対象に自覚症状が希薄なのも特徴だったはずだ。

――僕らは、仲良くできると思わないか?

 ……吐き気がした。

「……サヤ、出かける準備を」

 椅子から立ち上がる。
 不快感は消えていたが、代わりに奇妙な、やり場のない嫌悪感が残留していた。

「はい。……でも、どちらへ?」

 首を傾げるサヤに、知己は頭を振った。

「『古い友人』に、『借りを返しに』行く」


[No.14] 2011/04/24(Sun) 12:47:30

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