サイバーパンクスレ本編再録その4 - 桐瀬 - 2011/04/30(Sat) 23:38:51 [No.142] |
└ Rock you!4 - コウイチ・シマ - 2011/04/30(Sat) 23:39:29 [No.143] |
└ 魔術少女の契約 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:40:04 [No.144] |
└ 受領 - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:42:09 [No.145] |
└ Horizon End - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:43:00 [No.146] |
└ ダーク・ホライゾン・エンド - 雉鳴 舞子 - 2011/04/30(Sat) 23:43:37 [No.147] |
└ 魔術少女の支度 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:44:29 [No.148] |
└ Rock you!5 - コウイチ・シマ - 2011/04/30(Sat) 23:45:20 [No.149] |
└ 下拵え - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:46:05 [No.150] |
└ Return failed 13 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 23:47:19 [No.151] |
└ その覚悟は・3 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:48:54 [No.152] |
└ 魔術少女の独白 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:49:41 [No.153] |
└ Horizon End2 - 深選/コウイチ - 2011/04/30(Sat) 23:50:23 [No.154] |
└ イントルーダーズ2 - 黒須恭太郎 - 2011/04/30(Sat) 23:50:57 [No.155] |
└ Horizon End3 - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:52:03 [No.156] |
└ 魔術少女の決闘 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:52:50 [No.157] |
└ その覚悟は・4 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:53:19 [No.158] |
└ ジ・スターリー・レフト - ナノブレイカー - 2011/04/30(Sat) 23:53:51 [No.159] |
└ 激闘 - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:54:42 [No.160] |
└ Horizon End3 - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:55:25 [No.161] |
└ その覚悟は・5 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:57:11 [No.162] |
└ その覚悟と終わり - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:58:02 [No.163] |
明らかに既製品にはありえない、ベルトが外れかねない勢いで回転するチェーンソーがコウイチに迫る。 「お前は『アキレス』だ」 コウイチの呟きは、意味を持って教祖には届かなかった。 だが、幻術の発動にはそれで充分。 確実に幻術師の首を刎ねるはずだった一撃は、ほんの半歩足らず空気を切った。 「ぬゥ!?」 身を翻し、回転カッターを伴う蹴り。だが、これも紙一重でコウイチはかわす。 幻術は、利く。ただ攻性幻覚の殺傷力には期待しないほうがいいだろうとコウイチは踏んだ。 あくまで感覚を介して精神に負担を与える術理であるため、感覚に精神が先んじるタイプには経験上、効果が薄い。 となれば、コウイチの役目はこのまま教祖の攻撃を引き受け続けること、そして――。 「跳んでっ!」 ――イライザの攻撃に繋げること、だ。 「っ!」 コウイチが左に跳べば、そこを擦過するように不可視の暴力が飛び過ぎ、教祖を打ち据えて吹き飛ばした。 恐らく、アジトで使った大気の高速移動による一撃だろう。 (しかし、ミサイルに貼り付ける……たってな……) イライザの専門は『移動』だ。土台『停止』とは相性が悪い。 「どうする……?」 イライザの息が荒い。魔法とはいえ、対価が無いわけではないのだ。肉体の行使が常にそうであるように、彼女の魔術は体力を消費する。『呼吸』を拠り所にするコウイチは調息が間に合う限り余裕はあるが、それとて無限ではない。 ケリを早くつけなければ。 (俺がやるしか、ねえか……!) 向きではないが、この場では適任だろう。 そう判断して、コウイチは走った。イライザに後を頼む、と視線で合図して。 「コウイチっ!?」 「死ににぃっ、来ぃぃぃぃたかぁぁぁぁぁっ!!」 振り下ろされるチェーンソーを、紙一重で避ける。 靴を踏み鳴らし、『イド』を出すと、教祖へ向けて突撃させる。 しかし。 「同じ手が二度も通用するかぁっ!」 一刀の元に切り伏せられた。 何せ幻だ、幻術と知れていれば膂力も質量も0に等しい。 だが、その幻術の後ろからタックルする、コウイチ自身をかわすことはできなかった。 「おおっ!?」 全身全霊を込めた体当たりだったが、元より体格で勝る教祖をミサイルに叩きつけるには不足にすぎる。 「だが、貧弱に過ぎるぅっ!」 教祖の振るった回転カッターがコウイチの身体を真っ二つに引き裂いた。 「ぐがっ……!?」 それでは気が済まぬと、教祖の太い腕がコウイチの頭を鷲掴みにする。 天高く掲げると、その腕は巨大で凶悪なフォルムの、パイルバンカーと化した。 「やめなさい……やめてっ!」 イライザの悲鳴が、聞こえた。 その懇願は教祖に対するものか、それとも神に対するものか? いずれにせよ、聞き届けられるはずもない。 「死ぃねぇッ!!!」 巨大杭の蹂躙が、コウイチの頭部を爆裂四散させた。 脳漿が飛び散り、首を失った上半身が、噴水のように鮮血を噴き出した。 「あ――あぁ……」 膝からくず折れるイライザ。 教祖は数瞬、血に酔った。 ● が、その直後。 「なぁにぃっ!?」 吹き出す血が、飛び散った脳漿が、地面に転がったコウイチの亡骸が消えて失せた。 代わりにパイルバンカーと化した教祖の右腕が掴み、貫いているのは……巨大なミサイルの、壁面! 幻覚!! 「上等な芝居だったぜフラニー、仕上げだ!」 いつのまにそこにいたのか。 教祖の頭上、非常口に五体満足で立つコウイチが叫べば、教祖の背後から大量の鉄パイプ……デッキの手すりが飛来し、枷となって教祖の身体をミサイルに括りつけた。 「ぬぅっ!?」 さらに連続して放たれる大気の砲弾が教祖の動きを封じ続ける。 「い……っけぇぇぇぇぇっ!!」 イライザは精神を振り絞って術の出力を引き上げた。 長距離弾道ミサイルの壁面が圧壊する恐れはなかったが、このまま教祖を拘束できるかは怪しいところだ。 せめて、せめて何か――。 ● 『さっきのヤツ、もう一発いけるか』 自由落下しながら、深選は問うた。粉砕骨折した左手を棚引かせながら、探偵は笑う。 「次で仕舞いだろう? なら出し惜しみはすべきじゃないな」 痛覚遮断を入れてるわけでもないのに不敵に笑ってさえ見せる余裕は全く不可解だったが、コンフーの達人ならそんなものかもしれないと、深選は勝手に納得した。 片腕を犠牲にさせるのだ、自分も出し惜しみはすべきであるまい。 強化筋肉をブートアップ。リミッター解除。 『行くぞ』 ● 砲弾の激突するような轟音を立てて、深選と探偵はデッキに降り立った。 「せーえっ」 『のォッ!』 練りこまれた気が漲る右腕と、強化筋肉の膂力に任せた左腕が炸裂する。 「ぐォおッ!?」 探偵の右腕が砕け、深選の左腕の人工筋が爆ぜたが、それを代償に教祖の全身はミサイルの壁面に完全にめり込んだ。 『おまけだ』 痛覚遮断したサイボーグに迷いはない。右手だけでブルベアーを抜き放つと、飛び退りながら榴弾を発射。爆発するように広がった白霧がその姿を包み込む。 冷気が、イライザの頬を撫ぜた。 「液体窒素!?」 『備えあれば、とはよく言ったものだな』 フィクサーから買い付けたLN2グレネード。生体兵器やクリッターへの対抗策としてカササギ社が開発したものだが、意外なところで役に立った。 「コ……ざかっ……し……!」 極低温はナノマシンに致命的な影響を与えはしないが、凍りついた周囲の大気や金属板を引き剥がすだけの膂力をすぐに捻出することは不可能だ。 『マイコ、やれ!』 ロングイヤーの操作だけでも、ミサイルの発射は可能だった。 あるいは、深選が端末まで走り、スイッチを押してやることもできた。 だが、深選は叫んだ。 やれ、と。 「うわあああああ!」 マイコの拳が、カバーを叩き割り発射スイッチを押し込んだ。 ● 上海から、一条の光が天に昇った。 それは、一地方を壊滅させるほどの威力を持つ弾道ミサイルであったが、各国、各企業のどの衛星も、その存在を確認することはできなかった。 唯一。それらを工作した、バベルの衛星以外には。 「……憐れなグレーシス」 ミサイルの壁面に磔にされた教祖をモニター越しに眺め、Arは呟いた。 大気の摩擦をもってすら彼は健在だったが、高空の気温はむしろ殺人的に低い。その身を覆う氷はさらに厚みを増し、表情さえ伺うことはできない。 だが、きっと彼は憤怒しているのだろう。 世界が未だ、肉に拠る人々の手にあることに。この身を覆う氷の枷が外れないことに。 自分がここで終わることなど、想像もしないのだろう。自分の妄執も、不死も、その意味さえ理解はしないのだろう。 「憐れな、憐れなグレーシス」 お前は、狂ったナノマシン以上の何でもない。お前は、『彼ら』の期待する何者にもなれなかった。 神を讃えるのは定命の人だけ。肉に縛られた人間だけ。なれば、神の恩寵のための生物たるのではなく、無知蒙昧な人々にこそ、神の恩寵を与えるべきだったのに。 そして、お前の誇る不死など。 限りある時間に何も出来ぬことの証左でしかないのに。 「さようなら、兄弟」 Arは別れの言葉を紡いだ。 御遣いの紡ぐそれは、常に処断の合図だった。 ナノマシンは須らく有機分子で構成される。殺し尽くすなら、選ぶべきはやはり焔だ。 衛星軌道を飛び出したミサイルを、バベルの戦略衛星が放ったレーザーが灼きつくしたのは、直後のことだった。 [No.161] 2011/04/30(Sat) 23:55:25 |