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No.162へ返信

all サイバーパンクスレ本編再録その4 - 桐瀬 - 2011/04/30(Sat) 23:38:51 [No.142]
Rock you!4 - コウイチ・シマ - 2011/04/30(Sat) 23:39:29 [No.143]
魔術少女の契約 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:40:04 [No.144]
受領 - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:42:09 [No.145]
Horizon End - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:43:00 [No.146]
ダーク・ホライゾン・エンド - 雉鳴 舞子 - 2011/04/30(Sat) 23:43:37 [No.147]
魔術少女の支度 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:44:29 [No.148]
Rock you!5 - コウイチ・シマ - 2011/04/30(Sat) 23:45:20 [No.149]
下拵え - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:46:05 [No.150]
Return failed 13 - 深選 - 2011/04/30(Sat) 23:47:19 [No.151]
その覚悟は・3 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:48:54 [No.152]
魔術少女の独白 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:49:41 [No.153]
Horizon End2 - 深選/コウイチ - 2011/04/30(Sat) 23:50:23 [No.154]
イントルーダーズ2 - 黒須恭太郎 - 2011/04/30(Sat) 23:50:57 [No.155]
Horizon End3 - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:52:03 [No.156]
魔術少女の決闘 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:52:50 [No.157]
その覚悟は・4 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:53:19 [No.158]
ジ・スターリー・レフト - ナノブレイカー - 2011/04/30(Sat) 23:53:51 [No.159]
激闘 - 三草・ガーデルネア - 2011/04/30(Sat) 23:54:42 [No.160]
Horizon End3 - アズミ - 2011/04/30(Sat) 23:55:25 [No.161]
その覚悟は・5 - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:57:11 [No.162]
その覚悟と終わり - 上山小雪 - 2011/04/30(Sat) 23:58:02 [No.163]


その覚悟は・5 (No.161 への返信) - 上山小雪

――ヴゥゥン――

 コウイチもイライザも深選も三草も、そしてグレーシスも、その場にいた誰一人として、その時何が起こったのか、理解することは出来なかった。





 「負ける気はしない。けど……どんだけいるのよ、こいつら……」

 キュアスノーがうんざりしたようにつぶやく。言葉は冗談のようだが、とてもではないが笑えない。
 深選と三草を先に行かせてから相当数の電魎を屠った筈だが、相変わらず視界を埋め尽くすほどの電魎がひしめき合っている。

 「深選氏たちを送り出したのは失敗でしたかね」

 「あそこまでカッコつけちゃったからね〜……。でも、流石にこんなにいっぱいいるとは思わなかったよ」

 今まで自分達が倒しただけの数ですら、野に放たれれば甚大な被害を与えるであろう。それが未だに視界を埋め尽くすほどいる。
 自分の『日常』を壊すものは、こんなに簡単に存在していたのだ。小雪はそれに戦慄し、そしてそんな場合ではないことを知っていた。

 「でも、泣き言言ってる場合じゃないよね。親玉を倒しに行ってる皆のために、帰り道を作っとかないと」

 「その通りです。私達ばかり楽をしてはいられ――!?」

 エレクトロの言葉は、高速で飛来した物体にさえぎられる。

 「ぐああああああああ!?」

 その物体を抱きかかえて数mも後退するエレクトロ。

 「な、何!? って、エレクトロのお兄さんー!?」

 スノーの言葉通り、エレクトロの腕の中で崩れ落ちるのはパワードスーツに身を包んだ黒須恭太郎その人だった。

 「ぐぅ、キュアセイヴァーズか……。逃げろ、こいつは危険すぎる……!」


 「ただの人間にしては、意外と、頑丈ですねお兄様」
 「ただの人間にしては、意外と、頑丈ですねお姉様」

 恭太郎が飛来した方向の奥、がしゃり、がしゃりと音が響き、やがて姿を現したのは、二人の人間を無理やり一つに押し込めたかのような異形。
 デェリート。その言葉のもつ意味を知らずとも、キュアセイヴァーズの二人にはこの存在がどれだけ危険かを肌で感じることが出来た。


 「電魎共は、相当、やられたようです、お兄様」
 「大丈夫です、お姉様、ベヘモスを使い、上海を沈めれば、素材はたくさん、手に入ります。」

 そう言い、デェリートは触手のように電子コードを伸ばすと、周囲の電魎を絡めとり、まるで租借するかのように取り込み始めた。

 「電魎を……食べてる!?」

 このままではまずい。反射的にスノーは駆け出し、デェリートへ拳を突き出す。
 ――が、振り出された腕をかいくぐった刹那、横合いから繰り出されるもう1本の腕!

 「きゃあああああ!?」

 その正体は、取り込んだ電魎の電子コードの束であった。
 かろうじて左腕を防御に回すが、途方も無い衝撃に吹き飛ばされる。
 背中から壁に激突し、息が詰まる。

 デェリートの背中が盛り上がったかと思うと、電子コードが収束し肥大化した腕を形どる。

 「スノー!? しまっ……!」

 相方に駆け寄ろうとしたエレクトロの右腕に、音もなく忍び寄った電子コートが絡みつき、常人の腕なら粉々になるほどの力で締め付ける。みしみしと嫌な音があがった。

 すぐに恭太郎がコードを斬り捨てるが、腕の感覚は、すでに無い。

 「早く、片付けましょう、お姉様」
 「早く、教祖様の元へ、参りましょう、お兄様」

 周囲の電魎を組み込み、デェリートは更にその大きさ、禍々しさを増す。

 「全く、出鱈目な野郎だ……! イクシードギア、アーマーシフト・アキレスフォーム!」

 恭太郎の声で全身のパワードスーツの形が変わり、次の瞬間にはデェリートへ攻撃を仕掛ける。
 ナノマシンで脳処理速度を引き上げる事により、通常以上の超高速戦闘を可能にする恭太郎の切り札。

 しかし、それを持ってしても届かない。
 デェリートの4本の腕と無数の電子コード、その猛攻を凌ぐだけで手一杯だ。少しでも判断を誤れば、一瞬で体を引きちぎられるだろう。

 恭太郎が時間を稼いでいる間に、エレクトロはぐったりと壁に寄りかかるスノーの元へ駆けつける。

 「エレクトロ……ごめん、ドジっちゃった」

 それに気づいたスノーが力なく笑う。攻撃を防いだ左手が痛々しく赤く腫れ上がっていた。

 「いいえ。無事で、良かった……」

 エレクトロは、何とか動かせる左腕でスノーの肩を担ぐと、よろよろと立ち上がる。

 「くやしいなあ、くやしいよ……。さっきはああ言ったけど、あいつに勝てる気が、しないよ……」

 ただでさえ長時間の戦闘に先ほどの一撃。張り詰めていた緊張の糸が切れてしまっても誰も責めないだろう。

 「スノー……」



 一方で、恭太郎も限界を迎えようとしていた。限界以上の速度で酷使した身体が悲鳴を上げ始め、被弾が増えてきた。
 一瞬、体勢が崩れた隙を突き、デェリートが延ばした電子コードが恭太郎の体を拘束する。

 「がぁっ!!」

 ぎりぎりと締め付けられ、負荷に耐えられなくなったパワードスーツに皹が入る。
 フルフェイスが砕け、恭太郎の血にまみれた頭部があらわになる。

 「おや、どこかで、見た覚えの、ある顔ですね、お兄様」
 「確か、我々が、潰した、研究所か何かのデータで、見た覚えがあります、お姉様」

 恭太郎の顔から表情が消える。

 「確か、クロス研究所、とか言いました、お兄様。中々、梃子摺りましたが、中々、良い断末魔でした」
 「教祖様の、障害になるやもと、排除(デリート)しました、お姉様。人間は全て殺した、と思いましたが、取り逃がしていた、ようです」
 「我々は、運が良い」
 「あの惨劇の、続きを」


 ――どくん

 震える手で恭太郎は自分の喉を締め付けるコードを掴むと、力任せに引きちぎった。

 「そうか……貴様らがああああああ!!!」

 パワードスーツの亀裂が深まるのも構わず、体中のコードを引きちぎる。体中から血が流れ出るが、デェリートの拘束を抜け出す。
 そのまま我武者羅にデェリートに突進――



 「……許っせなーい!!!!」


 しようとしたが、背後から飛んできた怒声に足を止める。声はキュアスノーのものだったが、その叫びに込められた激情は、先ほどの恭太郎の叫びにも匹敵した。

 「スノー……」

 「エレクトロやお兄さんの仇なんでしょ、あいつ。あの言い分聞いてたら怒りで身体が爆発しちゃいそうだよ! 
 さっきの言葉は取り消し! あいつには絶対に負けない!」

 怪我が治ったわけではない。体力が戻ったわけではない。相変わらず体重をエレクトロに預けなければ立つことすら難しい。
 なのに、なのにこの相棒はこんなにも真っ直ぐなのか。こんなにも私に力をくれるのか。

 「……誰かのために本気で怒ることができる、か」

 恭太郎は毒気を抜かれたようにつぶやくと、キュアセイヴァーズたちの方へ飛びのいた。

 「良い友を持ったな」

 「……。はい」

 恭太郎は我が身を省みる。分かっていたが全く酷い状態だ。何とかあと一撃、繰り出せるかどうか。

 「よし……俺が奴の動きを止める。……だから、とどめはお前達が決めろ。やれるな」

 二人は大きく頷く。
 そしてスノーは、エレクトロが何かを言おうとして口に出せないでいるのに気づき、目配せをする。
 エレクトロは諦めたように、意を決したように

 「……。無理だけはしないで、お兄さん」

 「……。妹の前なんだ、格好付けさせろ」


 エレクトロには、恭太郎が照れくさそうに笑ったように見えた。


 「……行くぞ!」

 恭太郎が、跳ぶ。


[No.162] 2011/04/30(Sat) 23:57:11

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