サイバーパンクスレ本編再録その5 - 桐瀬 - 2011/04/30(Sat) 23:58:36 [No.164] |
└ 魔術少女の後日談 - イライザ・F・霧積 - 2011/04/30(Sat) 23:59:07 [No.165] |
└ ..and Rock you! - コウイチ・シマ - 2011/04/30(Sat) 23:59:48 [No.166] |
└ 明日よ続け - 上山小雪 - 2011/05/01(Sun) 00:00:35 [No.167] |
└ 探偵 - 三草・ガーデルネア - 2011/05/01(Sun) 00:01:17 [No.168] |
└ アンダー・ザ・ムーンライト#1 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 00:02:03 [No.169] |
└ アンダー・ザ・ムーンライト#2 - 咲凪 - 2011/05/01(Sun) 00:02:45 [No.170] |
『結局、アレは何だったんだ?』 教祖グレーシスを倒し、教団を葬ったあの戦いから数日が過ぎた。 いまだ診療所を建て直す目処の立っていないドクと共に、深選はブシドー租界では珍しい“煙草の吸える”喫茶店で飲みもしない珈琲を見つめて呟いた。 「言ったろう、アレはナノブレイカー、ナノマシンを破壊する謎の寄生生命体だ」 『……ロングイヤーから顛末は聞いた筈だ、マイコの身に起きていたアレは何だったんだ?』 グレーシスとの決戦の際、雉鳴舞子はナノブレイカーとしての己に目覚めた。 その時彼女は身を蛍のような薄い光で包み、頭の上には光輪さえ浮かんでいた。 天使、という言葉を深選は思い浮かべたが、バカらし過ぎて口にはとても出来なかった。 「推測できる事は幾つがあるが……」 『なんだ?』 「空想に近くて素面で話す気にはなれんな、酒が飲める場所にするんだった」 ドクはそれでも珈琲を啜ると、ぽつりぽつりと喋り始めた。 「説明するが、まず80年以上前の話になる、2020年7月20日、何があった日か判るか?」 『……アーカム栄光の日、だ』 「あぁ、米国はアーカムシティ、そこで人類はナノマシンという技術と英知をモノにした、一人の天才によってな」 ドクが話す話は深選だけで無く、ある程度歴史を学べば必ず知る事になる事だ。 それほどまでにナノマシンの実用化は人類にとって先進的な出来事で、それを可能にした“たった一人の天才”は異様で、異彩で、異常な存在だったのだ。 『ルイ=サイファー』 「あぁ、“金の眼の男”だ」 ルイ=サイファー。 米国アーカムシティにてナノマシンを実用化させた男、全てのナノテクの祖にして、土塊から命を作り上げるとまで言われた男だ。 出身地はロサンゼルス、家族構成は両親に加え弟が一人、成人後はアーカムシティに移住し……偉大な功績を残す。 彼の遺したナノマシンという遺産は、人類に様々な幸福をもたらし、絶望も同じようにもたらした。 ナノテクは当然兵器になり、ナノ兵器は“べへモス”を例にしても十分判るように、言葉にする事も出来ないような悲惨な殲滅戦を引き起こした。 だが、ルイ=サイファーを責める事は出来ない、彼はただ造っただけなのだから。 かつてダイナマイトが発明された時のように、彼はただ発明を発表したに過ぎない、彼を責める事は筋違いだ。 第一、彼は生きているか死んでいるかも判らないのだから。 「金眼の男、ルイ=サイファーは失踪後、その行方は知れない。 死んだというのが通説だが、俺は何処かで生きてると思うぜ」 ナノテクを語る時のドクは饒舌だ、深選は特別急いでは居なかったので、その饒舌さを止める事はしなかった。 それに、金の眼という言葉に深選は思う所があった。 ……あの時のマイコの瞳と、同じだと。 そして、バベルの王としてこの上海に君臨するArもまた、“金色の眼”をしている。 『つまり、マイコはルイ=サイファーの同類とでも言いたいのか?』 「いいや?、むしろ真逆に位置する存在かもしれん。 一つだけ言えるのは、人類が進歩してきたのは決して人類だけの力じゃあ無いって事だ」 『……本当に空想だな、そんな言葉をドクから聞くとは思わなかったが』 深選が呆れたようにぼやくと、ドクはくっくっと笑う。 その笑みはやけに冷笑的で、彼を知る深選も初めて見るような表情だった。 「なんだよ、俺がファンタジーの話をしたら駄目かい?」 『いいや、ただ意外だ』 「なぁ深選、ナノマシンってのはルイ=サイファーが遺していった知恵の実だ、それをどう使うかは人間次第だ。 だが雉鳴舞子……いやさ、あの“落とし子”は違う、知恵の実を人間から奪い、人から闘争を取り上げようとする。 ……ナノブレイカーとは良く言ったもんさ、お前さんみたいな闘争でしか生きる事の出来ない人間が関わるモンじゃ無かったのに」 『……ドク?』 「人類っていうのを進化させるには、もっともっと甘い蜜を吸って、もっともっと禁断の果実を貪らないといけない、だっていうのにその密たる、果実たるナノマシンを取り上げるなんてのは、本当に傲慢な話だと思わないか?」 『ドク、少し疲れているんじゃないか?』 「……いいや、ちょっと熱くなっちまったな」 深選はドクが興味のある分野において熱く語るのを知っていた。 だが、それでも“今のドクは異常だった”。 日焼けして浅黒い肌に冷笑的な笑みを貼り付けて、何処までも何処までも、嘲笑うように喋り続ける。 いや、喋るように哄笑しているのかもしれない。 「アレはな、ジャンヌダルクなり、天草四郎なりに“語りかけた存在”なんだよ」 『……神だとでも言うのか』 「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」 ドクは爆笑する、“不思議と喫茶店にいる筈の他の客は誰一人、その爆笑を気にも留めない”。 まるで深選とドクだけが、時間の中に取り残されたようだ。 「アレはただの“落とし子”さ、神だなんて大層なものじゃない。 だが人間でも無い、もちろん亜人でも無い、さぁ、あの子が何に見える?、天使かな、悪魔かな、さぁさぁさぁ、答えは深選、君が自分で出すんだ、さぁさぁさぁ、“私”にも聞かせてくれ、アレの正体は、一体何なんだ!?」 深選には思い出せない事が一つだけあった事を、“今、思い出した”。 自分は、一体何時、この闇医者と知り合ったんだ?。 ルルイエ戦役で、重傷を負った時に、そういえば誰かの“冷笑的な哄笑”を聞いた気がする。 『ナイアルラトホテップ!』 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」 空間が、割れる。 ● 「ちょっと、深選!」 『……マイコ?』 何度目か舞子に呼びかけられて、深選の意識はようやく舞子に向いた。 自分が“ぼんやりとする”なんて事は随分久しぶりだと深選は思った、何故自分が今外を歩いているのか、それは何故だったか……。 「……ちょっと、調子悪いの?」 『いや……俺は、何故此処に?』 「“ドクの診療所が直った”から、様子を見に行った帰りでしょ。 ねぇ、本当に大丈夫?」 あぁ、と深選は思い出す。 そういえばそうだ、何故直ぐに判らなかったのが深選にも不思議な程だった。 ドクの診療所が直ったというので、舞子の診察もかねて様子を見に行ったのだ。 『……』 本当にそうか?、と刹那に思う。 「ねぇ深選」 『ん』 だが、その思考は舞子の呼びかけで直ぐに中断された。 もう冷笑的な笑い声は聞こえてこない。 「私なりに、深選に報酬を渡す事を考えたの」 『ほう』 道を歩きながら舞子……今ではちゃんとした服、ドクが“好意”で与えたという洒落た……というか、少しヒラヒラとし過ぎる感のある服を着た舞子が立ち止まり、深選を見つめた。 そして―――― [No.169] 2011/05/01(Sun) 00:02:03 |