スチームパンクスレ再録 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:39:13 [No.5] |
└ File:1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:40:42 [No.6] |
└ クレメンティーナは眠らない1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:41:47 [No.7] |
└ クレメンティーナは眠らない2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:42:47 [No.8] |
└ 帝都迷宮案内1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:43:30 [No.9] |
└ 帝都迷宮案内2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:44:55 [No.11] |
└ 博士と助手と人形と1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:45:50 [No.12] |
└ 清水自動人形工房 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:46:52 [No.13] |
└ ジャックが笑う1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:47:30 [No.14] |
└ クレメンティーナは眠らない3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:11 [No.15] |
└ ジャックが笑う2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:53 [No.16] |
└ ジャックが笑う3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:50:26 [No.17] |
└ 博士と助手と人形と2 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:51:12 [No.18] |
└ 赤の退魔剣士 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 12:52:26 [No.19] |
└ ジャック狩り1 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:53:07 [No.20] |
└ 人形夜会1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:53:43 [No.21] |
└ ただの趣味だと彼は言った - 咲凪 - 2011/04/24(Sun) 12:54:23 [No.22] |
自動人形の精神は、無数の反応で形作られる。 人を見たらまず挨拶する。好意を受ければ返礼する。悲しむ人間あらば慰め、それが叶わぬなら共に悲しむ。 那由多の状況を想定し、無量大数の反応を構築する。 結果、人はそこに精神を見る。 つまりは、人形の精神は……成功ではあるが、人間のそれとは決定的に違う。主体性のない紛い物だ。 それが、世間一般の人形師の常識である。 ……だが、真実ではない。 ● 男は最初に、人形に手足を与えた。 娼婦たちにもぎとられた元の四肢は所在がわからなくなっていたので、仕方なくその場に転がっていた娼婦たちの手足から見た目がマシなものを選んで人形に継いだ。 男の腕は大層なもので、人形は元の手足よりよく動くことを伝えると、男は喜んだ。 蜜月は長かった。 少なくとも、人形が貴族に抱かれていた時間よりは、ずっと。 ……あるいは破綻さえなければ、永劫続いたかもしれなかった。 人形は男のため、甲斐甲斐しく働いた。家事の全てを完璧にこなし、男が傷つけば慰め、孤独を望めば黙って辞し、愛を求めればいつまででも寄り添った。 うららかな日差しの下では花を愛でることを覚え、嵐の夜には獣に堕して男を受け入れた。 男の全てに応えつくした。 それしか知らないし、それを幸福に思うことだけは彼女の階差機関にも可能だった。 だが。 破綻の日は来た。 男はある日問うた。 「何か、僕にして欲しいことはないかい?」 人形は首を振った。 彼女は人に何かを望むことなどできない。 そういう反応は、彼女の階差機関には記されていない。 「君にはもう少し我儘になって欲しいな」 男は苦笑して、言った。 それから男は、どこか不満げになった。 変わらず人形に愛を注いだが、注がれたままの愛情をどこか残念そうにしはじめた。 充分過ぎるほど人形に尽くしているのに、人形が尚も何かを望むことを望むようになった。 その時、人形は初めて困った。 男の望みは全て叶えてきた。男の愛に全て応えてきた。 だが、ことここに至って、人形は自分のお粗末さに絶望した。 彼女に、我儘を言う機能は存在しなかったのだ。 破綻の始まりだった。 ● 男と人形とは、全く関係ない時間と場所。 二人のことなど知る由もない、ある老婆と孫の話。 孫は、偉大なる祖母に一つ問うた。 「ねえ、ばーちゃん。 ばーちゃんの知ってる、一番凄い魔法って何なの?」 祖母はにっこり微笑んで言った。 「それは、人形に魂を作ることよ」 魂を作ること。 その深遠なる意味はともかく、まだ6つの孫でさえ、とても凄いことなのは感覚的に理解した。 「どうすれば魂は作れるの?」 「簡単なことよ。 私にも、千多にも。誰にだってできることなの」 祖母ははぐらかすことなく、真摯に答えた。 その時の孫はそうは思わなかったのだが、孫が真に魔法を理解したその時、祖母の言葉がどれだけ真理を突いていたかを理解し、深く反省した。 祖母はこう答えたのだ。 「その人形を、愛してあげること。 それが私の知っている、最も偉大な魔法なのよ」 ● 人形は三日三晩、悩み苦しんだ。 人形である自分には、主人の愛に応えきることができない。 そういうものだと諦めることができなかった。初めての苦しみだった。 己が死ぬと悟った時さえ悲しむことはできなかった。 そんな機能はなかったから。 主人が人を殺す時さえ、憤ることができなかった。 そんな機能はなかったから。 主人が我儘を言えというのに、たったそれだけのことができなかった。 ……そんな機能は彼女になかったからだ。 嫌だ。 嫌だ。 嫌だ! 三日三晩苦しんで、人形は決めたのだ。 この愛に応えられないぐらいなら、諦めることなどやめてしまおう。 人形であることなどやめてしまおう。 そして彼女は言ったのだ。 ――貴方と同じ空気が吸いたい。 彼女の最初の我儘は、それだった。 [No.17] 2011/04/24(Sun) 12:50:26 |