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all スチームパンクスレ再録 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:39:13 [No.5]
File:1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:40:42 [No.6]
クレメンティーナは眠らない1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:41:47 [No.7]
クレメンティーナは眠らない2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:42:47 [No.8]
帝都迷宮案内1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:43:30 [No.9]
帝都迷宮案内2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:44:55 [No.11]
博士と助手と人形と1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:45:50 [No.12]
清水自動人形工房 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:46:52 [No.13]
ジャックが笑う1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:47:30 [No.14]
クレメンティーナは眠らない3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:11 [No.15]
ジャックが笑う2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:49:53 [No.16]
ジャックが笑う3 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:50:26 [No.17]
博士と助手と人形と2 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 12:51:12 [No.18]
赤の退魔剣士 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 12:52:26 [No.19]
ジャック狩り1 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 12:53:07 [No.20]
人形夜会1 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 12:53:43 [No.21]
ただの趣味だと彼は言った - 咲凪 - 2011/04/24(Sun) 12:54:23 [No.22]


博士と助手と人形と2 (No.17 への返信) - 桐瀬

ミリア・アーリアは人形が嫌いである。

最初の自動人形が制作されてから、現在で約60年。
ミリアの幼少期はその折り返し地点と言っても良い時期であり、自動人形制作のノウハウが一般の技師にも知れ渡りつつあると共に、様々な試行錯誤の下に大いに活気付いていた時期でもあった。
元々女の子にしては珍しく、幼い頃からガラクタのようなモノを愛した変わり者のミリアが人形師にあこがれてその道に入ったのは自然な事と言える。

人形師となるには、様々な知識が必要である。
蒸気機関、階差機関に対する深い造詣は勿論のこと、人型のものを作るのであれば人体の構造も理解せねばならないし、実際に動かした時の挙動を予測する為の物理学等など、学ぶべき事を挙げればキリがない。
ミリアは自身が凡人である事を自覚していたが、他人に負ける事も嫌いだったので血の滲むような努力をした。
結果としてその青春は蒸気と煤に塗れたものとなったわけではあるが、後悔はしていなかった。

努力の末に入った研究機関での生活は当初は順風満帆であった。
多くの優秀な技師の中で切磋琢磨できる環境は理想的であったし、念願叶って人形制作に携わる事も出来るようになった。
だが、念願だったはずの人形制作に実際に携わる事で、ミリアは今まで考えなかった事を考えるようになった。
彼、彼女らの行く末はどうなるのだろう、と。
愛し愛される為に生れてきた自動人形。
その反応は極限まで突き詰められてはいるものの、人間のそれとは根本的に異なる。
主体性が無い以上コミュニケーションの相手とするにはいずれ不満が生じるのは明らかであるし、道具として扱われる限りはそうなった自動人形の末路は言うまでも無い事だった。
仮に長くパートナーに恵まれた自動人形がいたとしても、その先にあるのは別離である。
自動人形は動力さえあれば動く。しかし、人間はそうはいかない。寿命が来たらそこまでである。
自動人形は多少損傷しても動く。しかし、人間はいともあっけなく死んでしまう。
その時、残された自動人形はどうなるのだろうか。
結局、自動人形の生きる先には悲しみしかないのではないだろうか。
そもそも、自動人形は「生きて」いるのか、それともただの道具でしかないのか。

そんな技師にとっては些細な事がミリアの中に迷いのようなものを生じさせた。
その迷いを抱えたまま仕事をしていた中で、右腕を失うこととなる事故を起こした。
人形を制作している途中で起きたその事故は、ミリアにとって人形から拒絶されたようにもこれ以上作ってくれるなと言われたようにも感じられた。
それ以来、人形に携わる事を辞めた。研究機関も辞した。
それでも蒸気機関に対する愛着はあったので、工房を開いた。
ただし、人形には関わっていない。一つの例外を除いて。

◆◆◆

「来てたのか」

「ええ、ついさっき」

ミリアが研究室に戻ると、一人の女性が居た。
肩口まで伸びた薄茶色の髪と白磁のように白い肌、整った顔立ちがまるでドールを彷彿とさせる。
それもそのはず、彼女は正真正銘の自動人形で、ミリアが例外的に関わりを持っている相手であった。
名を一日草という、最新鋭の技術をもって作られた人形であった。

「何の用だ。リセットまでにはまだ期間があるはずだぞ」

一日草には、一定期間毎に動作及び日常活動に必要な分を除いたメモリーをリセットするという機構は仕込まれている。
それはかつて似たようなコンセプトで作られた『栄誉のメザーリア』が特定の人物に肩入れし過ぎるあまりに失踪したという経験に立脚したものであったが、今度は人間の側が思い入れ過ぎて持ち出すという皮肉な結果となった。

「ミリアさんが何をしているのか気になって」

「だったら正面から入ってこい」

「誰かとお話してるみたいだったから」

「そんな事を気にする柄じゃないだろお前」

全体的に陽性な設計をされた一日草は、基本的に行動的な方である。
それは後ろ暗い仕事も多いであろう公安で使用するにあたって、極力おかしな事で悩まないようにする処置の一環だったのかもしれないし、公安で働く他の人間への配慮だったのかもしれない。

「切り裂きジャックって知ってますか?」

「……ついさっき知ったところだ」

それがどうしたと思うと同時に、好奇心旺盛なこの人形が次に繰り出しそうな言葉は予想が出来ていた。


「アレ、なんとかなりませんか?」


[No.18] 2011/04/24(Sun) 12:51:12

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