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ジャックが笑う5 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 22:44:46 [No.26]
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人形の視座1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 22:51:59 [No.35]


ジャックが笑う5 (No.25 への返信) - アズミ

「チッ……ここで会ったが100年目、と行きたかったが」

 ウィンストンは斬られた脇腹の感触にぞっとしないものを感じながら、マクシムスRoute-9を構えた。
 目の前に立つ、切り裂きジャックに。

「…………」

 切り裂きジャックは無言。図ったかのように、月明かりを背後にしており表情は読めない。
 清水知己を尾行中、女の悲鳴を聞いて慌てて駆けつけてみればこの有様。出会い頭に拳銃3発と一太刀を応酬したが、成果を挙げたのはあちらの斬撃だけだった。

「年貢の納め時は、こっちの方かな……」

 ジャックが身を落とす。
 ウィンストンは覚悟を決めた。
 なんとしてでも生き残る覚悟を、だ。
 最低でも、ジャックの顔を見て生き残らなければければ斬られ損だ。
 脇腹の傷は深かったが、だから何だと言うのだ。『命惜しさ』なら、当に犬に食わせてある。
 じりじりと間合いを測るジャックを急かすように、引金を引いた。
 ジャックが地を踏む。

「来い!」

 傷で集中が乱されたか、2発はあらぬ方向に飛んで行ったが、それでも最初の一発は狙い違わずジャックの頭部に突き刺さる。
 が、弾かれた。がぎん、という高い金属音。何かの魔法防御か。
 しかし、衝撃はジャックの山高帽を確かに弾き飛ばした。

「ぐおっ!?」

 一方のウィンストンもまた、肩口から切り裂かれ、路地に転がる。

「ジャック……!」

 切り裂きジャックが、こちらを見ていた。
 流れるような銀髪。澄んだ海のようなコバルトブルーの瞳。20前後の、精悍な顔立ちの若者。

「お前が、ジャックか……!」

 銃を持つ手が上がらない。血を失い過ぎた。

(万事休すか……!)

 だが、ジャックはウィンストンから視線を外し、通りの先に顔を向けた。
 そこには……。

「……また会ったな」

 ウィンストンが尾行していた清水知己、その人がいた。





「あぁ、また会った。
 覚えていてくれて嬉しいよ、清水知己」

 そこで初めて、ジャックが笑った。嘲りを全く含まない、本当に旧知の友にあったような、淀みの無い笑みだった。

「よく、言う。
 そっちで記憶を奪っておきながら」

 舌打ちする知己の肩から、白が浮かび上がった。

「退がれ、マスター」

 生来の慇懃な口調はなりを潜め、人形の飛竜が端的に言う。

「アレは厄介だ。一手仕損じれば殺される」

 知己は一瞬だけ不満を口に漏らしかけたが、白の言葉に従って一歩退いた。代わって、サヤと黒がそれを庇うように前に出る。

「……初めてみるな、どの人形も」

「挨拶は不要だろう?」

 白が言う。言葉と共に、その口から稲光が漏れ出た。

「どうせ、ここで死ぬのだ」

 荷電粒子の火線が走った。
 口径は絞ったが、当たればその暴虐な熱量の前に生きて耐えきるものなどありはしない。――が、白は一片たりとも油断はしなかった。

「『停止』」

 目の前でジャックが荷電粒子砲を外套で弾く光景を、どこか予見さえしていた。

「なッ……!」

 知己が息を呑んだ。人形作成に関しては天賦の才を持つとはいえ、魔法の戦闘運用に関しては素人に近い。サヤもまた眉をひそめたが、当の攻撃の主たる白だけはその術理を見抜いた。

「分子運動制御か。相当に練り上げた『杖』だな」

「御明察」

 ジャックはとぼけもせずに首肯した。
 杖の記述式が1000を超えたあたりから、一人の魔法使いは(内在魔力に左右されるにせよ)ほぼ万能の力を振るうが、それでもその根本的な術理には一定の法則がある。
 ジャックの外套の場合、分子運動を制御するタイプらしい。着弾した荷電粒子の熱量を奪うなり、外套の分子結合を強化するなりして防いだのだろう。
 さしもの荷電粒子砲でも単純に撃ち抜くのは不可能だ。ジャックの内在魔力次第で回数に制限はあるだろう(そして、決してその回数は多くないはずだ)が、それはこちらとて同じこと。荷電粒子砲の発射は最低でも10ギガワットもの出力を要するのである。
 しかし、それ以上に驚異的なのは。
 この状況下にありながら、表情一つ変えない奴の精神、そのものだ。

「挨拶は不要、と言ったね」

 ジャックが外套を翻した。

「同感だよ、人形君。
 どうせ、ここで死ぬのだからな」


[No.26] 2011/04/24(Sun) 22:44:46

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