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all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
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欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
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仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
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煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


RedT (No.306 への返信) - 咲凪

 こと、本当に必要な事とは尽く重要で致命的な事実である。

 誰かが言っていた、零れた水はもう二度と元の瓶には戻らないと。
 全く持ってその通り、その通りの事に気付いていながら――。

 こと魔術師は、ならばと水を戻そうとする。

 例えるならば深紅の部屋であった。
 紅い光に満ち、薄い灰の色をしているのに深紅としか見えない壁。
 その深紅の光の紅さは苛烈なもので、部屋の本来の灯であったランプのオレンジの灯火はすっかりその色を紅に奪われている。
 不思議であるのは光源が天井ではなく床からである事、
 そして床の中央に描かれた幾何学的な紋様から溢れ出ている事である。

 魔術師は零れた水を瓶に戻そうとする。

 その為の手段は在った、
 魔術師なのだから、それは勿論魔術であり、人の触れ得ざる領域でありながら、人がその手で編み出した秘術である。
 その少女は取り戻そうとしたのだ――水を。
 流れ落ちた紅い雫を、
 その手でどんなに押さえようとしても、指の間から、その小さな手の平から零れ落ちていくその雫を。

 紅い光を放つ紋様は魔法陣。
 魔術師が大きな術を使う時に用いる魔術の遂行を助けるモノ。
 そういえば、尽く自分は紅い色に縁があるのだと少女は思った。

 「でも、赤は嫌いだな」

 口にして呟いた言葉とは裏腹に彼女が身に纏う衣類もまた深紅。
 彼女が一番自分の魔力を安定させ、効率的に、確実に、魔術として行使出来る時間は丁度午後五時頃―――その日は空まで紅い。

 故に其処は、何処までも紅い部屋であった。

 少女は意識を集中させた、
 これから先は秘術の中の秘術、人としての自分が踏み入れて良い世界では無い。
 故に、彼女は魔術師としての自分にシフトする。
 魔術師としての自分は簡潔だ、
 イメージするのは上に伸びていくような深紅の線、この世の断りに逆らい天に昇っていく深紅の水が引き伸ばす紅い道筋。
 ただそれだけをイメージして、全ての感情を排除し、五感の全て、いや、六感すら注ぎ込み集中する。

 「昇れ(もどれ)」

 自信の魔力の全てを注ぎ込むように、少女は自らの内の深紅の線に集中した。

 「昇れ、昇れ、昇れ」

 瞳は閉じている、既に部屋中に溢れる紅い光に耐え切れなかった事もあるが、単純に魔術師としてベストの自分を確立する一つの手段でもある。

―――ドクン

 脈打つ心臓の鼓動を聞いた。
 彼女の中の深紅の線は螺旋を描き始める、
呼び出そうとするモノの存在が大きくて、大きすぎて、彼女が魔力で紡ぐ紅い線を尽く振るわせるのだ。
 少女は額に汗を浮かべながらも術の行使を続ける。
 二度目は無いのだ、この術には。
 失敗は出来ない、許されない、自分自身が決して許さない。
 やがて深紅の線が――そう、例えば湖に垂らした釣り糸のように。
 釣り糸のように途方も無く深い湖面からゆっくりと…螺旋を描きながらそれを現世へと引き上げる。
 魔法陣から溢れる光は極限に達し、
 深紅の釣り糸がやがてついにはピンッと音を立てて断ち切れたように溢れる光は一瞬の間を置いて炸裂した。

「――――っ!!」

 物理的な衝撃は無い、
 濃厚に練り込まれた魔力が拡散し、それがさながら突風のように中心から拡散したものだから、堪らず少女は両手で我が身を護ろうとした。

 「嘘ッ、しくじった!?」

 少女は身体にぐらり、と鈍重な重みが加わるような感覚を感じる。
 魔力を沢山使った時の反動だ、彼女にとってそう珍しいものではない。
 が―――彼女が呼び出そうとしたモノはどうか、
 この疲弊感は成功かの証か、失敗のそれか、
 意を決して少女は顔を覆うように交差させていた両腕を退け、目前を見据えた――そして。

 「―――あ」

 目前に立つ男と目が合った。
 彼の瞳もまた、血を溜めたような深紅の瞳であり、その瞳に吸い込まれるような感覚を覚えながらも、
 少女は何処かでそれを面白いなと感じていた。

 「――問う、君は私のマスターなのか?」
 


[No.307] 2011/05/23(Mon) 21:11:06

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