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No.309へ返信

all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
RedU−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:20:01 [No.316]
欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
欠損英雄V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:09 [No.319]
仮縫同盟T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:43 [No.320]
RedV−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:23:18 [No.321]
仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
仮縫同盟V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:25:00 [No.323]
煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


RedT−3 (No.308 への返信) - 咲凪

 「――で、そのクラス無し、言ってみれば無職のサーヴァントである貴方は何で記憶喪失なのよ?」

 あれから少女は記憶を失っているらしい自らのサーヴァントに追求の雨を降らせたが、あいにくと彼が覚えている事は少なく、少女はいよいよ頭を抱えた。
 そんな中、儀式が終わる頃は日も沈み、とても夕飯の支度は出来ないだろうと思っていた少女が事前に頼んでおいた宅配ピザが届いた呼び鈴が鳴り、ひとまず薄暗い儀式用の部屋から出て腰を落ち着けて話し合う事にしたのだ。

 「何故、か…心当たりはある」
 「…もしかして、私の術が不完全だったの?」
 「いや、君の召喚の儀式は完璧であったと思うよ」

 蛍光灯の灯で照らされた割と近代的な居間で少女は英霊と向かい合って座布団に座り、ピザを食べて――いや、相談をしていた。

 「じゃあ何で?、私が知らないだけでこういう事って結構あるの?」
 「私も他を知らないが……それも恐らく違う」

 はむっ、とピーマンとエビの乗ったピザを食べる紅い瞳の男。
 その味が気に入ったのか、「ほう」と小さく呟いて、きちんと飲み込んでから話を続ける。

 「おそらくはこの街の影響だろう」
 「この街の……?」
 「聖杯が降臨するだけの事はある、街には霊気が溢れ始めているのだが…どうにも気脈、霊脈の流れがおかしいな、川に例えればまるで濁流のようだ」
 「あぁ、そういうこと」
 「何かあるのか?」

 紅い瞳の男が言うにはこうだ、
 この土地は聖杯が存在する事もあってか、土地そのものが強い霊気を持っている。
 強い霊気は幸であれ災であれ様々な事を呼び込むが、この土地の霊気の流れ…すなわち霊脈が少々おかしな事になっているのだ。
 本来の流れから外れたり、次の日には流れが変わったりと、それはさながら濁流のように不安定で、とても不自然な事なのだ。
 しかし少女はというと、男の説明を受けて納得したという様子で応える。

 「この土地にある聖杯はね、もうずっと前に偽物判定されてたのよ」
 「何だって…?」

 男の顔に不信の色が宿る、
 それもそうだろう、自身が求める聖杯が面と向かって偽物だと言われれば落ち着く筈も無い。

 「まぁ聞きなさいよ、もうだいぶ昔に聖杯が偽物だし大した力も無いだろうって事になってたんだけど……」
 「何かその評価を覆す事があったと?」
 「そう、そうなのよ」

 少女は飲んでいた烏龍茶を置いて真剣な顔をして言う。

 「本来ね、この街では聖杯戦争なんて起きるはずは無かったの」
 「……」
 「でも、それはある日突然に覆された、偽物と言われてた聖杯に異変が起きたのよ。偽者である筈の聖杯が―――本物になってしまったのよ」
 「何だって―――?」

 少女は置いた烏龍茶を一口のみ、ふぅと息を吐いた。
 一息吐いてもう一度男の紅い目を見詰めて説明を続ける。

 「勿論本体は偽物、値打ちモノかもしれないけれど、魔術師や貴方達にとっては大した価値も無いモノよ。でも貴方が言っていたように、ある日突然に街の霊脈が乱れて、この土地に不自然なまでの霊気が集まるようになってしまったの」
 「…元は違うのか、この街は」
 「勿論、普通の街だったわよ。…話を続けるけど、その強い霊脈の影響で、霊体である聖杯がいよいよこの土地の聖杯に宿るかもしれない……にわかにそういう話になっていたのよ」
 「バカな、いかに霊脈の影響とはいえ…」
 「仕方ないでしょ、あるみたいなんだから…私の力だけではとても召喚できない貴方が今此処に居るのが何よりの証拠なんじゃなくて?」

 少女の言葉に紅い瞳の男は言葉に詰まる。
 確かにその通り、聖杯の力無くしてこの現世にサーヴァントが降臨する事は無く、自身も聖杯の存在を感じたからこそ召喚に応じたからだ。

 「偽物だったそれは輝きを増し、ついには本物になろうとしている――いい?、これは確かに聖杯戦争だけど、こと例外的な聖杯戦争なのよ」
 「―――なるほど、そういう事か」
 「えぇ、多分貴方の記憶が無いのも聖杯…っていうか聖杯かも?ってモノに無理矢理引っ張ってこられたからでしょうね」

 うーん、と悩むような顔で少女は言う。
 この例外的な聖杯戦争、何かあるとは言われていたが…まさか自分がその当事者になるとは思っていなかったのだ。

 「事情は飲み込めた、ならば私が為すべき事に変わりは無い」
 「そう、まぁジタバタしてもしょうがないのは本当だけどね」

 二人向かいあってピザを食べながら談義を続ける。
 そこでふと二人思いついたように互いの顔を見て。

 「「ところで――」」

 「…君からどうぞ」
 「良いわ、大した事じゃないから貴方から言って」

 二人揃って苦笑して言葉を促す。
 すっかり少女の怒りも緩んだようなので、紅い瞳の男も安心したように尋ねた。

 「私は君の名前を聞いていない、まぁマスターと呼んでも良いのだが……」
 「あぁ名前?、七貴マリナ、マリナ=エレノアールでもあるけれど、マリナって呼んで」
 「ではマリナと、…マリナ、君の用件を聞こう」
 「あぁ、うん、貴方と同じよ、貴方の事を何て呼べば良い?、無職?」
 「……無職はやめてくれ」

 心底嫌そうな顔で紅い瞳の男は搾り出すように言う。
 マリナはふふふと笑って男の言葉を待つが、自分の名前を忘れている男には、これといって思い当たる自分を特定する名前が無かった。

 「……名前か、そうだな、困った」
 「―――」

 マリナはふいに記憶を失った男の不安を思った。
 思えば現世に呼び出され、自らの出自も判らぬとは何たる孤独だろう、彼のその気持ちにマリナは思い至ったのだった。


[No.309] 2011/05/23(Mon) 21:12:23

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