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all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
RedU−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:20:01 [No.316]
欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
欠損英雄V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:09 [No.319]
仮縫同盟T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:43 [No.320]
RedV−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:23:18 [No.321]
仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
仮縫同盟V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:25:00 [No.323]
煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


RedT−4 (No.309 への返信) - 咲凪

 湖庭市にも教会が在る。
 街の南にある教会はさほど大きくは無いが綺麗な佇まいである。
 静謐であるその場所に訪れたマリナと紅い瞳の男は目を丸くした。
 教会の扉を開けると、そこには目当ての人物が居たのだが…。

 「ちょっと月(ゆえ)!、月!!」
 「………」

 小さな礼拝堂の長椅子にクッションを枕に横になっている女がいる。
 格好から察するにこの教会の人間らしいのだが、耳に大きなヘッドフォンを付けている。
 寝入っているようにも見えるがヘッドフォンからは洋楽らしき音が漏れ出ている。
 随分と大音量で音楽を聴いているらしく、教会に入る時に声を掛けたのだが聞こえなかったらしい。
 マリナは月と呼びかけた女を見つけてやれやれと溜息を吐くとその肩を軽く叩いて起こすが、ちらっと瞳を開けた女はマリナの顔を見ると何か言葉を発するでもなくまた瞳を閉じて音楽に没頭し始めたのだ。

 …少し前に遡る。

 食事を済ませたマリナと紅い瞳の男は、男の出自を調べる為の思案をしていた。
 そこでマリナがふと思い出したのだ。

 「教会、そうだ、教会には月が居る」
 「教会…?」
 「そう、知っているかもしれないけど…」

 聖杯戦争は人類の常識外の魔術対魔術、神秘対神秘、超現象対超現象の戦いとなる。
 必然的にその戦いは激しく、無制限に争いを始めてしまえば一つの街など簡単に滅んでしまうだろう。
 そうならない為に、本来は魔術協会とは対立関係にある教会が監督役を務め、その為の人員を送り込むのである。
 今回の例外的な聖杯戦争を察知した教会はこの湖庭市にも監視役を送り込んでいた。
 その送り込まれた人物こそ月と呼ばれる女であり、聖杯戦争に参加する事を決めた時からマリナは彼女と面識があった。

 「監督役の月ならどんなサーヴァントが召喚されたかある程度把握しているだろうし、アンタの正体も判るかもしれないわ」
 「なるほど、では明日に…」
 「いいえ、すぐに行きましょう、物事は決めたら早い方が良いわ」
 「判った」
 「あぁ、それと…貴方、霊体にはなれるわね?、さすがにその格好は目立つわ」
 「確かに、では移動の間は姿を消しているとしよう」
 「お願いね」

 身体を霊体とし、姿を消した紅い瞳の男を付き従えてマリナは家を出た、徒歩だと少し遠く感じる距離だが、紅い瞳の男に街の様子を伺わせる目的もあったのだ。
 こうして、教会までやって来た二人だが…目的の人物はこのように、のんびりと音楽に没頭して来訪者の無視を決め込んでいる。

 「マリナ、彼女は…」
 「えぇ、こういう奴なのよね……」

 困った顔の紅い瞳の男にマリナは苛立ちを隠そうともせずに言う。
 マリナは月から大音量を出すヘッドフォンを奪い取る。

 「月、迷える子羊が助けを求めに来たっていうのに、その態度は無いんじゃない?」

 嫌味を込めて言うが、月はヘッドフォンを奪われた事に瞳を閉じたまま眉を顰めるが、マリナの言葉には一切の無視を続ける。
 どうやら無視と決め込んだらそれを徹底するつもりらしい。

 「マリナ、ここは日を改めて――」

 出直そう、とその様子を見かねて紅い瞳の男が言う前に。

 どかっ!!

 と、長椅子をマリナが蹴っ飛ばした。
 その衝撃でどさりと音を立てて横になっていた月が床に転がり、さすがに無視をしきれなくなった彼女は「やれやれ、乱暴だな」と呟きながら身を起こした。

 「こんばんは月、目は醒めたかしら?」
 「あぁ十分に、だいぶ乱暴に起こされたようで些か気分は良くないがね」

 服に付いた埃を払いながら月はマリナの軽口に応える。
 紅い瞳の男はというと、二人のやりとりに呆れたような顔をしている。

 「さて…まぁ目的は判っている、なるほど、見事な英霊を呼び出したようだね」
 「まぁね、その事でアンタに聞きたい事があるのよ」
 「ほう」

 マリナは月に紅い瞳の男が自分のクラスが判らない事を話した、
 真名も判らないという事は一応伏せておいたが、マリナは月がその事も恐らく察しているだろうな、とは思っていた。
 実際、月はそこまで理解しているようで、「ふむ、なるほど」といって紅い瞳の男の姿をまじまじと見つめる。

 「………」

 月は女だが男のような口調で話す、
 かといって外見まで男のようかと言えばそうではない、彼女が美しい女である事は遠目で見ても明らかであるだろう事だ。
 西洋の血が混じっているのか、はたまた元々西洋の人間なのかその髪は金の糸のように煌めき、透き通るような肌と空のように青い瞳を持っている。
 そんな美しい女に見つめられると紅い瞳の男も僅かに照れたような顔を見せる。
 仮にも英霊である男がそのようにするのだから、彼女の美しさは本物である。

 「どう、判る?」

 そんな男の様子を意にも介さずにマリナは月に問う。
 月は「ん」と肯定とも否定とも取れる呟きを漏らすとマリナに向き直り。

 「これは面白いカードを引いたね、マリナ」
 「はぁ?」
 「まず最初に言えば、残念だが私にも彼の正体は判らない」

 月の言葉にマリナは落胆する、勿論紅い瞳の男もそうだ。
 だが月が言う「面白いカード」という言葉が気になり、二人は無言で彼女の言葉を促した。

 「この街で起きる聖杯戦争は知ってのとおり例外的な事だ、どんなイレギュラーが起きるか判らない」
 「えぇそうね、当事者だもの、それは理解しているわ…それで?」
 「彼の正体は判らないが、もしかしたら基本七種に挙げられるサーヴァントでは無いかもしれない」

 月の言葉にマリナはやはりか、という顔をした。
 その反応を予測していたように月は頷くと紅い瞳の男をもう一度見た。

 「無論、彼がセイバーである可能性もランサーである可能性も、それ以外である可能性もある。だが―――少なくとも今回、1名以上はイレギュラーが在る」
 「あら……良いの?、そんな事をバラしちゃって」
 「おっと、これはしまったな……まぁさして大した事では無いが、できれば忘れてくれ」
 「もう無理よ、しっかり覚えてしまったわ」

 月が言うには、聖杯戦争における七種のサーヴァント、『セイバー』、『ランサー』、『アーチャー』、『ライダー』、『キャスター』、『バーサーカー』、『アサシン』と、今回の聖杯戦争におけるクラスの枠が少なくとも1名以上は異なるらしい。
 それがどのクラスに代わって加わったもので、どのようなクラスかは判らないが――最低1名は基本七種以外のサーヴァントであるという事だ。
 加えて紅い瞳の男の事もある、もしこの男もまた特殊なクラスである可能性もある。

 「力になれなくてすまないね」
 「良いわ、別の収穫もあったし…あと一つ聞く事があるけれど、良いかしら?」
 「何かな?」
 「今召喚されているサーヴァントは何人?、もう全部揃ったって事は無いわよね?」
 「あぁ――」

 月は綺麗に微笑んで言う。

 「そういえば、キミ達で最後だ、あらかじめ決められた期日にまだ3日の猶予があるが――全て揃った時に開始にしても良いのだったね、忘れていた」
 「な――っ」

 さらりと笑って言う月だが、マリナと紅い瞳の男はとても笑う事など出来なかった。
 一応、聖杯戦争は教会が派遣した監督役の宣言で開始される。
 だが全てのマスターとサーヴァントが揃っているのならそれを待つ必要は無い、そんな形だけの宣言を待たずに、揃った瞬間からこの街は戦場となるのだ。

 「では宣言しよう、今この時より―――」

 例外的で、歪で、何処か不確かなこの街の聖杯戦争の開始が、月により宣言される。
 それは本当に形だけのもの、この街は既に戦場であったのだ、魔術と魔術が争い、神秘と神秘が殺しあう戦場に。

 聖杯戦争は、既に始まっている。


[No.310] 2011/05/23(Mon) 21:13:03

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