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all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
RedU−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:20:01 [No.316]
欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
欠損英雄V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:09 [No.319]
仮縫同盟T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:43 [No.320]
RedV−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:23:18 [No.321]
仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
仮縫同盟V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:25:00 [No.323]
煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


仮縫同盟T (No.319 への返信) - アズミ

 マリナの眉間の先、ほんの数cmのところで凶刃は静止した。
 無論、沖田が止めたわけではない。雲に陰っていた月明かりが取り戻されると、マリナは刃に幾重にも絡みつくピアノ線のようなものが月光を照り返すのに気付いた。

「――ッ!」

 沖田が持ち手を返し、鋭く呼気を漏らして刃を振るう。斬鉄の理法を以って振るわれた刃に絡みつく『糸』は寸断されたが、沖田の心眼はなおも四方から来る追撃を察知していた。

「ちィっ!!」

 襲いかかったのはいずれも、『糸』。材質は不明だが、鋼の強度と糸のようなしなやかさ、そして刀の鋭利さを備えていることは確実だった。
 それを刀でもって全て叩き落としたのは流石の技巧であったが、沖田は慢心することなくマリナから距離を取る。
 だが、一息吐くことさえ闖入者は許さなかった。

「ランサー!」

 闇に男の声が響く。
 呼応したように、街路樹の枝々が形作るヴェールを貫いて漆黒の騎士が沖田に襲いかかった。

「勝負!」

「――応!」

 『康一のランサー』が、異形の刃を振るう。
 その外見は概ねにおいて一般的なバスタードソードのそれであったが、刃はまるでジグソーパズルのようにバラバラで、かつそのバラバラな刃が組み上げられたまま空間に固定されたように整列している。外見こそ西洋剣のそれだが、軽妙に反り、撓る様は沖田の振るう日本刀の感触に近い。
 沖田は衝撃で以って打ち弾くように刃を振るい、一撃をかわす。
 相手が着地する僅かな隙に、今度こそ沖田は飛び退がって間合いを取った。
 ランサーは今度は追撃をかけることなく、マリナに一瞥を向ける。

「そこのマスター。今のうちにサーヴァントを」

「あ、貴方は……」

 見る限り、目の前の騎士もまたサーヴァントである。……である以上、根本的には気を許すべきではない『敵』なのだが、現状を鑑みるにこの隙に便乗する以外の選択肢はない。
 マリナは一瞬だけ逡巡してから、己のサーヴァントの治療へ向かった。
 沖田はそれを妨害しない。
 妨害するだけの隙がなかった。

「……あなたが、『ランサー』?」

「如何にも」

 沖田は苦笑した。
 いかにもな槍を携えた先刻の騎士がランサーではなく、槍などどこにも見当たらぬ眼前の騎士がランサー。全く、サーヴァントシステムというのはややこしい。
 だが表面上こそ飄々と振る舞っているものの、状況は沖田にとり、圧倒的に不利になったことを認めざるを得ない。
 何より『無明剣』を見られたのは手痛い失策だった。

「先刻の、やっぱり見てました?」

「ええ。貴公の邪剣は最早、私にも――恐らくはそこのサーヴァントにも、通用しません」

 先刻の技が如何なる理法によるものかは実のところ、ランサーにも量りかねたが、ともあれあれが一種の邪剣であり、一度限りの奇策であることは見破っていた。宝具に等しい超常の理論の上に成り立ってはいるものの、宝具そのものではあるまいとも。
 実際、その推察は概ね正しい。だからこそ、『出し惜しみする札ではなかった』のだ。

「しくじったなァ――これで7人中2人には通用しなくなっちゃったか」

「気にすることもないでしょう。貴公はここで仕留めます」

 ランサーが剣を逆手に構え、担いだ。さながら投げ槍でも扱うかのような、異形の構えである。
 沖田はその姿に、危険なものを感じた。
 言葉通りだ。彼は、ここで沖田を仕留める気で来る。
 沖田は笑った。久方ぶりの死合、望むところ。意識が我知らず昂るのを感じずにはいられなかったが、令呪を通じて流れるマスターの意思がそれを阻害した。

「こちらとしても望むところ――と言いたいところですが。どうやらこちらの主人はそれを望んでないみたいです」

 沖田の足元のアスファルトが爆ぜた。
 かと思えば、次の瞬間にはその小柄な体は手近な廃ビルの屋上に転じている。
 何という瞬歩。サーヴァント最俊足であるはずのランサーは、その動きに舌を巻いた。

「続きはまた今度、ということで。……もう一人の『ランサー』さんによろしくお伝えください」

 その言葉を最後に、沖田の姿は夜闇に消えた。
 追うことは恐らく可能だが――。

「よせ。今はいい」

「――……承知しました」

 康一の制止に従い、ランサーは剣を収める。
 彼自身はともかく、康一があの動きについていくのは不可能だ。世杯戦争のセオリー上、サーヴァントとマスターが離れるのは余程の覚悟と準備が無ければ避けるべき事態であった。
 振り向けば、彼のマスターはもう一人のマスター……マリナと対峙している。

「なんで、助けたの?」

「別にお前らを助けたわけじゃあない」

 仏頂面で答える康一の事情は、確かに言った通り。別にマリナらを助けるために介入したわけではない。
 彼らの目的は、先刻マリナらが相対した赤い異形である。
 あれに関して、沖田が彼女らより幾許か情報を持っていそうな素振りを見せたので、捕獲か、あるいは打倒するか最低でも枝をつけておこうと企図してのことである。

「主。……あのサーヴァントの行き先は」

「ダメだ、『糸』は切られた」

 ……つまり、収穫なしということだ。

「彼女らは如何します?」

 マリナらを見るランサーの片手は、依然納刀した柄にかけられている。主の命あれば、即座にマリナの首を撥ね飛ばすだろう。
 だが、康一は首を横に振った。

「放っておけ」

 その、相変わらずマリナを何の脅威とも思っていないかの如き言葉に、マリナの心はざわついた。
 否、先刻の表現を踏襲するならば『イラッ』ときた。
 水の入った鍋に例えるなら、瞬時に常温から沸騰して鍋を蒸気で跳ねあげるほどに、だ。

「……放っておけってどういうことよッ!!」

 少女の激昂に、思わず気圧されて康一とそのサーヴァントは顔を見合わせた。


[No.320] 2011/05/23(Mon) 21:22:43

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