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No.322へ返信

all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
RedU−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:20:01 [No.316]
欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
欠損英雄V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:09 [No.319]
仮縫同盟T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:43 [No.320]
RedV−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:23:18 [No.321]
仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
仮縫同盟V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:25:00 [No.323]
煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


仮縫同盟U (No.321 への返信) - アズミ

「――あぁ、ちゃんと飯は食ってるよ。うん、そっちは……あぁ、元気にしてりゃそれでいいんだ。うん、うん……それじゃ、また明日な」

 携帯の通話ボタンを押して、深く息を吐く。
 姉への無事の報告が志摩康一の一日の締めくくりの儀式であり、これを以って彼は聖杯戦争一日目たる今日を――差し当たっては生き延びたことを確認した。
 姉は康一にとって唯一の家族である。正確には師の娘なのだが、生家と断絶状態の彼にとって亡き師と、姉こそが家族に等しかった。
 彼女は魔術を知らない。魔術師の娘でありながら素養を持たず、そしてそれを失望されることも疑問に思うこともなく、当たり前のように普通に生きてきた。
 今現在も、康一は学校の合宿で家を空けていると知らされているはずだ。……この聖杯戦争の間の彼に対する人質として、魔術協会の監視と護衛を受けながら。
 視線を上げると、彼のサーヴァントは窓へ向けていた鋭い視線を外し、主人を見た。

「異常ありません。今日のところは襲撃は無いとみて問題ないでしょう」

「そうか、御苦労さん」

 湖底市出身でない康一は、この街に魔術師としての拠点を持たない。宿を取ったこのホテルは駅前の一等地にある高層ビルの上階だが、現状においては一級のセキュリティも高層建築も甚だ頼りないと言わざるを得なかった。
 本来、魔術師は己の居城として“工房”を構築する。大方の場合、侵入者への警報や防衛機構も兼ねており、最低でも休息中の不意打ちだけは避けることができる。これは常時命を狙われているに等しい聖杯戦争中は非常に頼りになるのだが、契約サーヴァントがキャスターでもなければ一朝一夕に構築できるものではない。康一にとって早急に解消すべきハンデであった。
 解決の方策は既に打ってある。ただそれが実を結ぶかは、少し分の悪い賭けだった。 

「……マリナは同盟に乗るでしょうか」

「で、なければ早々にくたばるしかない。
 ……だが、そこんとこが解らないからこそ危なっかしいんだよな、あの小娘は」

 言って、康一は上等なベッドの上に疲れた体を横たえた。





「同盟ですって?」

 康一の言葉に、マリナはハンバーグを嚥下しながら眉を跳ねあげた。
 今次の聖杯戦争は、あの『血管』に始まり多数のイレギュラーを孕んでいる。康一とマリナは同じ聖杯戦争の参加者として命を賭けて争う間柄であるが、同時に魔術師として最低限の共通項は存在する。

 魔術師は、魔術を含む秘儀の公開を望まない。

 魔術は公開された瞬間に、それを魔術足らしめる条件を失する……即ち、『神秘足り得なくなる』。それは魔術師が求める根源への道筋が絶たれるということであり、魔術師にとって

何をおいても避けなければならないことだった。
 魔術協会の存在意義にしても、そうだ。かの協会は名前から連想されるような魔術師の互助組織ではなく、魔術の無軌道な仕様や犯罪への使用によって神秘が漏洩しないよう、『互いを監視する』組織なのである。
 聖杯戦争においてもそれは例外ではない。その為に監督官が中立な教会組織から配されているものの、過去その監督官自身が聖杯を得るべく暗躍していた例もある以上、完全な信用はできまい。
 故に魔術師は神秘を秘匿する。一般社会から。魔術師以外の全てから。

 しかしそこに、今回の『血管』である。

「あれはお前たちを狙って現れたという感じじゃなかった。あれが他のマスターの手による使い魔の類としても、聖杯戦争それ以外の要因に依るものだとしても、共通して排除しなけりゃならんものだ。違うか?」

「協力するのはあれと戦う時だけ?」

 で、あればマリナとしては特に考えずとも承服してもいいと思った。
 マリナとて魔術師だ。一般人への被害はあってはならないことぐらい解っている。連絡先を教えあい、『血管』の情報についてだけ共有する。それは、別にいい。
 だが、康一はその先に踏み込んだ。

「お前がいいなら『血管』の件をさておいても、直接的な協力をしたいな」

 康一はコーヒーの液面を見つめながら、言葉を選ぶように続けた。

「そう……俺たち以外のマスターが全て脱落するまで。あるいは状況が変わったら、合意の上で同盟を破棄するまで。互いに協力して戦う。
 お互いに今次の聖杯戦争はまだ勝手が解らないし、お前はサーヴァントが不調だ。悪い話じゃないだろう?」

「アンタのメリットはどうなのよ?」

「工房の軒先でも貸してもらえればいい。
 俺はこの街からすると余所者なんでな。休息中、不意打ちを避けられる拠点が喉から手が出るほど欲しいんだ」

「私たちが不意打ちする可能性は考えないの?」

 多分に皮肉るつもりで、マリナは即座に言った。
 康一の申し出は、こちらを信用してのものではない。欲しいのは拠点で、戦力としては足しになればいい、という程度の認識だろう。その程度のメリットで同盟などという大胆な提案を寄こしてくるのはつまり、マリナたちが裏切ったとしても大した障害にならないと考えているから。
 つまり、舐めきっているのだ。マリナはそう思った。

「もちろん考えてはいる。それでも欲しいメリットがあるから、申し出てるのさ」

 康一の言葉は、打てるものならやってみれば?ぐらいの台詞を予想していたマリナからすると聊か拍子抜けするほど毒の無いものだった。
 マリナは迷った。
 確かに、現状自分たちの状況はあまり良くない。マリナはお世辞にも戦闘向きの魔術師ではなく、赤眼のサーヴァントは未だ宝具はおろか、真名も、クラスさえも解っていない。戦闘力が十分なのは先刻の戦闘で解ったが、切り札を使えないまま戦うのは戦闘能力以前の問題だ。
 康一が裏切る可能性は、無視できるデメリットだ。
 招き入れるのは自分の工房だ。牢獄や倉庫に相当する『他者を留めておく』ための領域がある。裏切ったとしても即座に解るし、地の利がある以上勝てる公算は高い。
 工房の外なら……口惜しいが、康一が裏切りなどという回りくどい手を使う必要は恐らくない。何の制限もないサーヴァントならば、現状の自分たちなら真正面から打ち砕くことが可能だろう。
 総合すれば、この申し出は受けたほうがいい。
 ただ、それでも心情として引っかかるものはあった。

「……保留にしてもいいかしら」

「あぁ、いいとも。サーヴァントとよく相談するといい」

 康一は席を立った。

「結論は急がないが――願わくば、迷ったまま脱落するなんて間抜けはナシにしてくれよ?」

 その顔に嘲りはなかった。
 事実、迷う時間はさほどない。次に沖田が襲撃してくれば今度こそ往なすのは難しい。
 そして淡々と事実を述べるからこそ、その言葉はマリナの神経を逆立てるのだ。





「まぁ……よしんば断られても、あのマスターの評価は定められるさ」

「マリナの?」

 ランサーは問い返した。
 彼にはマリナの魔術師としての力量や資質は解らない。彼が生前出会った魔術師はただ一人であるし、かの老翁は余りに優秀すぎたがゆえに他との比較には適さなかった。
 ただ、主人のこれまでの対処や……戦闘に携わるものとしてのごく一般的な視点から見て、彼女は聊か未熟であるとは思った。
 康一も、それを否定しない。

「未熟ということは、不利を不利と正しく認識できないってことだ」

 退際を心得るのは武芸者として重要な資質であり、かつ最も見極めにくい問題である。それは実際に苦境を体感しなければ理解できない。

「現状では、あいつらは同盟に乗らなけりゃ未来はない。この上で不信感や警戒に任せるだけで話を蹴るなら、どの道先はない。利用する価値も脅威に感じる必要もない」

「もし、乗ったなら?」

「未熟さを解消する資質はある。手を組む価値もあるってこった。
 そして、もし同盟を蹴り、かつ速やかに代替策を講じたなら……それは、七貴マリナが俺たちにとって警戒すべき敵だってことさ」

 そうなった場合、マリナは当初の公算を大きく超えた能力を持ち、かつこちらと相いれない感性や事情を持つということになる。それは看過してはいけない類の危険だ。
 ランサーは静かに言った。

「であれば、私が彼女を斬ります」

 よろしいですね?と問う視線に、康一は肯定の意思を以って肩をすくめた。


[No.322] 2011/05/23(Mon) 21:24:23

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