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all コテファテ再録1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:10:32 [No.306]
RedT - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:06 [No.307]
RedT−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:11:44 [No.308]
RedT−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:12:23 [No.309]
RedT−4 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:03 [No.310]
―間奏― - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:13:42 [No.311]
フランケンシュタインの怪物T - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:14:11 [No.312]
フランケンシュタインの怪物U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:18:30 [No.313]
フランケンシュタインの怪物V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:04 [No.314]
欠損英雄T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:19:30 [No.315]
RedU−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:20:01 [No.316]
欠損英雄U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:20:35 [No.317]
RedU−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:21:36 [No.318]
欠損英雄V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:09 [No.319]
仮縫同盟T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:22:43 [No.320]
RedV−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:23:18 [No.321]
仮縫同盟U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:24:23 [No.322]
仮縫同盟V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:25:00 [No.323]
煉獄の生 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:25:46 [No.324]
平穏の狭間T−1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:26:43 [No.325]


仮縫同盟V (No.322 への返信) - アズミ

 ……ウェールズの森が彼女の故郷であり、母との生活が彼女の全てであった。
 過去と現在、未来の別に意味などなかった。繰り返す毎日に、疑問さえ抱かなかった。

 母はそれでいいと言った。
 何も背負わず、風に揺れる花のように生きることができれば、それは無上の幸せだと言った。

 ――時々。
 そのまま、ただの少女であったならあるいはもっと幸福だったのかもしれないと考える。
 ……せめて、満足の中で一生を終えることが出来たのかもしれないと、そう考える。

 そう考えてみてから、決まって後悔する。

 脳裏を過ぎるのは、やはり森の光景だ。
 15の春に、森で出会った騎士ら。彼らが傅く、その名の栄誉に比してあまりに小柄な王。

 彼らに出会わずに得る幸福に、何の意味があろうか。騎士道無き幸福に、何故満足出来ようか。

 あの日から、過去と現在、未来は分かたれた。

 ウェールズの森の少女は露と消え果てた。今、ここにいるのは誇りと共に歩む騎士だけだ。

 ならば、未来もまた、あの日決定された必然なのだ。

 失望に塗れたまま、幽世にたゆたう永久の未来もまた。


 ――恐らくは、必然だったのだ。





 夜半。
 不意に、目が覚めた。
 というより、恐らく眠りが深くなかったのだ。

「どうなさいました、主?」

 部屋の隅から、佇んだままランサーが問うてくる。
 サーヴァントに睡眠は必要ない。
 ならば、とばかりにランサーは武装したまま、壁際、かつ窓の外を監視できる位置で不寝番を続けていた。
 恐らく今、他のサーヴァントが部屋に乱入し康一に斬りかかったとて、ランサーは鉄壁の護りを以ってそれに応じるだろう。

(……生真面目な奴だ)

 このサーヴァントとの付き合いはまだ丸2日足らずではあったが、少なくともその点に於いては疑いはいらなかった。

「いや、少し目が覚めただけだ」

 適当に誤魔化したが、無論浅い眠りの原因はランサーだ。部屋の中に武装した男が佇んでいる状況で寝るというのは……存外に神経を使う。
 が、拠点の防衛に難がある今、寝る必要のないサーヴァントが常時見張るというのは確実性は無いが有効な手段だ。お前のせいで寝られない、というわけにもいかず、康一は関節を鳴らしながらベッドから起き上がった。

「……一度起き上がるとなかなか眠れん。少し話に付き合ってくれ、ランサー」

「……御意」

 両者が起きているなら奇襲を受ける危険性は大幅に下がる。なんせ、康一の武器は全て身体の中に収まっているのだから。
 ランサーは頷き、康一の傍に来た。
 話題を探す努力は必要なかった。
 英雄としての真名まで明かしてもらったとて、人間としてはお互い何も知らないに等しい。
 この聖杯戦争の間だけの関係だとしても、その中で必要になることさえまだ話し足りてはいないのだ。

「……ランサー。お前が聖杯を求める理由は、なんだ?」

 サーヴァントはマスターを聖杯戦争に勝利させるために契約し、召喚される。
 しかしサーヴァントシステムによる契約とて、彼らがタダで力を貸してくれるわけではない。サーヴァントとなる英霊たちにも、聖杯を求めるそれぞれの理由があるのだ。

「……」

 ランサーは短く、息を呑んだ。
 彼には珍しい、動揺だった。

「それを――……語る必要が、あるのでしょうか」

「必要はある」

 語りたくないなら、それでもいい。だが知っておく必要はある。
 仮にマリナと同盟を組むとして。その上で仮に、首尾よく他のマスターを全て打倒したとして、その後康一がどうするのか。
 康一は、あくまで魔術協会の命でここに来た。調査のために。翻れば、聖杯を手に入れる必要はない。いざとなれば、令呪を手放し棄権することも出来る。……マリナに譲ることだって、選択肢に入る。
 だが、ランサーは?
 ランサーが聖杯を求める理由とは。何なのか。

「……私の理由がどうあれ、あなたは己の動機に応じて戦えば良い。違いますか?」

 違わない。
 この馬鹿騒ぎから降りるか否かは、最終的にマスターに委ねられる。聖杯に未練があろうが、マスターが令呪を捨ててしまえばサーヴァントもおとなしくその御座へ帰るより他ない。
 それが、仮初の命で以って聖杯戦争に参加するサーヴァントに対して、ただ一つの命を賭けるマスターの優越権だ。
 だが。

「いいから話せよ」

 康一は答を促した。
 それでも頑として話さないならば諦めざるを得なかっただろうが、ランサーは暫く迷った上で、観念したように答えた。

「……聖杯を手に入れ、主に捧げること。
 そのものが私の願いです」

「……名誉ってことか?」

「はい。聖杯の騎士たる栄誉を、私は所望します」

 騎士の言葉に、主は眉をひそめた。
 聖杯の騎士。……それは、他ならぬ円卓の騎士サー・パーシヴァルにこそ与えられた名ではないか。
 そうだ。そもそもパーシヴァルは、伝説において聖杯を一度得ているのではなかったか?
 そう問うと、ランサーはいよいよもって苦悶を示した。

「……確かに、私は聖杯に至りました。しかし城に持ち帰ったのは別の騎士であり……そもそも、聖杯は王に捧げられはしなかった」

 道理だ。
 聖杯の力は諸説あるが、あらゆる傷を癒すとか、永遠の命をもたらすというものも多い。
 だが、結局彼らの主たるアーサー王は傷を癒すことなく、アヴァロンへ還った。
 ならば。
 ならば、聖杯の騎士という名は、ランサーにとって……パーシヴァルにとって如何なる意味があったのか。
 愉快なものでは、なかったのだろう。今の彼の苦々しい表情が、それを物語っていた。

 屈辱だったのだろう。

 この純朴な騎士にとって、実の無い、それでいてあまりにも華やかな栄誉は。

 ……きっと、どんな侮辱より苦痛だったのだろう。

「故に、私は此度こそ聖杯の騎士の栄誉を願うのです」

 この答えで満足でしょうか、と問うランサーに、康一は「あぁ」とだけ応え頷いた。
 ベッドに身を横たえると、ランサーは再び部屋の隅に戻っていく。
 その背中は定置につくというより、己を恥じ入り、陰に隠れるように見えた。

(……だけど)

 だとして、彼の屈辱はこの戦争で聖杯を得れば返上されるものなのだろうか。
 円卓は崩壊し、アーサー王は死んだ。
 全ては歴史の彼方に消え、彼自身、もはや円卓の騎士どころか人間ですら無い。

 それでも。
 彼は、聖杯を求めずにはいられないのだろうか――。


[No.323] 2011/05/23(Mon) 21:25:00

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