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all コテファテ再録2 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:48:27 [No.326]
少女偽曲T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:49:23 [No.327]
少女偽曲U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:50:06 [No.328]
運命の名 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:50:49 [No.329]
欠損英雄W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:28 [No.330]
欠損英雄X - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:55 [No.331]
平穏の狭間T−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:52:42 [No.332]
イレギュラーT - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 21:53:11 [No.333]
天命に至る道 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:53:58 [No.334]
イレギュラーU - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 21:54:55 [No.335]
宿命への直言 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:55:36 [No.336]
殺神夜会T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:56:15 [No.337]
星の巡り - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:56:58 [No.338]
少女偽曲V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:57:56 [No.339]
日常の狭間T−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:59:23 [No.340]
殺神夜会U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:00:04 [No.341]
イレギュラーV - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 22:00:44 [No.342]
殺神夜会V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:02:11 [No.343]
歪な因果 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:02:50 [No.344]
殺神夜会W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:03:34 [No.345]
『其』の時 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:04:13 [No.346]
虚構彩る勝利の剣―1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:05 [No.347]
虚構彩る勝利の剣―2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:39 [No.348]
虚構彩る勝利の剣―3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:06:10 [No.349]
虚構彩る勝利の剣―4 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:06:44 [No.350]
天幕模様T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:07:16 [No.351]


少女偽曲U (No.327 への返信) - アズミ

 志摩康一は、人並みの青春を知らない。
 彼が18年前に生まれた時、その身体は既に小学校低学年程度の大きさがあったし、以降の歳の取り方も滅茶苦茶だ。『今の形』に収まったのは、確か3年前だったか。
 そんな人生だからして、この国の一般的な青年が楽しむ娯楽……殊に御洒落には、とんと縁がなかった。まぁ、大体にして彼は外見を取り繕うのに無頓着なタチなので一概にして生まれのせいとばかりも言えないが。
 ともあれ、要するに。

(俺ぁこういう所は場違いなんだよな……)

 今、志摩康一は憂鬱な気分で大型ショッピングモールの中のブティックに立ちつくしていた。
 普通の服飾店でも縁遠いというのに、完全に女性向けの、オシャレな店構えである。
 そんな店に、女と二人連れで来店。
 常識的に考えれば喜ぶべき初体験だが、あまりに縁が遠すぎて身体が拒絶反応を起こしかけている。魔力回路を強引に寸断されたかの如き眩暈と息苦しさが康一を絶えず襲っていた。
 やがて、店の奥から店員のわざとらしい「よくお似合いですよ」という世辞が聞こえてくる。

――ようやく終わりか。

 時計を確認すると、ランサーが店員に連れていかれてから僅か15分しか経っていなかった。自分の免疫と堪え性の無さにしばし絶望。
 
「お待たせしました、ある――ぐむっ!?」

「あの、お勘定は?」

 主、と言いかけた迂闊なサーヴァントの口を平手で塞ぐと、康一は一刻も早くこの腑海林アインナッシュにも勝る魔境から逃げ出すべく店員を急かした。





「外で主、は無しだ。ランサー」

「は、失礼しました」

 騎士はおろか、使用人さえほとんど見かけない日本社会で「主」という呼び方は完全武装の騎士と同程度には悪目立ちする。
 人前では名前で呼ぶように念を押してから、康一は改めてランサーを見た。

「うん、まぁしかし――」

 シックなブラウスに黒のスカート、胸元にはブローチで中心を止めるリボンに、上着として同じ色のケープ。

「よく似合ってるじゃないか」

 なんだかピアノか何かの発表会にでも行きそうな『めかしこんだ』感じが拭えないが、長身の西洋美女が纏うのだから非常に様にはなっている。少なくともトレーナーにGパンよりマシだ。

「着てみて違和感はないか?」

「……足元がすーすーします」

「またすーすーしますか」

 苦笑する康一を余所に、ランサーはしきりに足元を気にしていた。スカートは今の時代を考えればむしろ長いほうなのだが。

「こんな、なんというか……婦人然とした服装は、生まれて初めてなので」

「……スカートも?」

「はい」

「まぁ……慣れな。そのまま戦えとまでは言わねえさ」

「御意……」

 主がそう命じれば、生真面目な騎士としてはおとなしく従わざるを得ない。

「しかし、よろしかったのですか主。このような上等な服を……」

「目ン玉飛び出るほど高かったわけじゃねえさ」

「私としては先刻の服でも構わなかったのですが……」

「下着無しってわけにもいかねえだろうが。まぁ、ついでだよついで」

 流石に女性に自分のそっけもないトレーナーと下着(確認したところ、彼女が元来着ていた下着はアンダードレスの類でGパンの下には着用できなかったらしい)を着せておくわけにもいかず、目的の買い出しを済ませたところでこうしてランサー用の普段着を調達したのだ。
 なおも納得していないランサーに続ける。

「それに、これも聖杯戦争の布石でもある」

「布石?」

「今のお前を見て真名を当てられる奴がいると思うか?」

「……成程。得心しました」

 頷くランサーに満足すると、康一は足元に置いた巨大なダンボール箱を吊り紐で引っ張り上げる。
 ……重い。

「お持ちします、ある――康一」

 確かにそもそも、これを運ばせるために霊体化させずに付いてこさせたのだが。
 自分より身長の高い外国人男性……ならともかく、如何にもお嬢様然とした今のランサーにホームセンターから買ってきた組み立て式の家具なぞ持たせたら、悪目立ちすること請け合いだ。

「女にこんなクソ重いもん持たせたら白い目で見られる。お前はバッグの方持て」

「しかし――」

「俺の名誉の為である、って言や納得するか?」

「……承知」

 とはいえこんなもの持ち歩いている最中に敵に襲われたらそれなりにコトではある。
 康一は無理せず、ショッピングモールを出ると即座にタクシーを呼んだ。





 同刻。
 女は、戦場にいた。

 刃が躍る。血潮が舞う。槍が駆け、矢が疾り、兵が倒れ伏す。

 それは戦争だった。
 およそ50年来、この国が縁を断っていた、人類の最高にして最悪の文化行為であった。
 100を超える人の群れが、一つの義と意の元に死を撒き、死に抱かれる狂気の儀式。
 仮に片割れが意志さえ見てとれぬ異形の徒だったとしても、仮に片割れが900年の時空、あるいは虚構と現実の狭間を超越して顕現した伝説の義賊集団だったとしても。
 それは戦争だった。戦争以外の何物でもなかった。

「――…………」

 女は、戦場を高みから見下ろしていた。
 敵方の異形……血管が無理矢理組み合わさって構築されたようなヒトガタは、彼女に見向きもしない。仮令、襲いかかってきたとて彼女の傍に控える『行者』が瞬時にその身を再生不能な領域まで打ち砕いてしまうだろうが。
 だが、いっそ襲ってくればいいと女は思う。彼女は彼女と血盟を結んだ仲間のなかでは『腕の立たない方』ではあったのだが、他人に頼り切るということにどうにも慣れない性質であった。
 それが、首魁たるものの務めであったとしても、だ。

「終わったぞ」

 背後にいた、彼女の主が短く言うと、女は安堵したように笑んで手にした剣を掲げた。

「時は満ちたり!全軍突撃、武勇を示せ!」


――おおおおおおおおおッ!!


 107の声と雄姿がそれに応じる。
 たちまち、戦争はただの虐殺に代わり果てた。
 黒旋風の板斧が両断し、豹子頭の蛇矛が穿ち、花和尚の禅杖が打ち据える。
 小李公の矢が雨霰と降り注げば、入雲竜の巻き起こした大風が怯んだ異形を粉砕した。

「……圧倒的だな」

 特に賞賛した調子でもなしに言った主人の言葉に、女は少しだけ誇らしげに首肯した。

「あの方々の敵ではありません」

 その首魁でありながら『我々』と称さないところが彼女の気質を端的に表していた。

「フン」

 それが気に障ったかどうなのか、背広の偉丈夫は面白くもなさげに広げ人払いの為に構築した陣を瓦解させにかかった。





「……解らんな」

 臨時休業で無人のガソリンスタンドの前で、康一は腑に落ちぬ様子で呟いた。

「何も痕跡は残っていないと?」

 問う従僕に、魔術師は首を振った。

「『痕跡を消した痕跡』がある。霊脈をさんざ荒らした後に、『直した』ような、そんな感じだ」

 ランサーが眉をひそめた。
 意図は不明だが、人為が聖杯戦争の一端に干渉した。それは、即ち彼女らの敵。他のマスターの行動の残滓ということだ。
 気を巡らせ、周囲を警戒するが当然サーヴァントの気配どころか、敵意の欠片さえ感じ取れない。
 背後の通りを、人と車が流れていく。

「……行くぞ。尾行にだけ注意しろ」

「御意」

 数刻だけ敵の痕跡を追う努力をした後、康一は諦めてその場を立ち去った。


[No.328] 2011/05/23(Mon) 21:50:06

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