[ リストに戻る ]
No.337へ返信

all コテファテ再録2 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:48:27 [No.326]
少女偽曲T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:49:23 [No.327]
少女偽曲U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:50:06 [No.328]
運命の名 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:50:49 [No.329]
欠損英雄W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:28 [No.330]
欠損英雄X - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:55 [No.331]
平穏の狭間T−2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:52:42 [No.332]
イレギュラーT - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 21:53:11 [No.333]
天命に至る道 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:53:58 [No.334]
イレギュラーU - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 21:54:55 [No.335]
宿命への直言 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:55:36 [No.336]
殺神夜会T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:56:15 [No.337]
星の巡り - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:56:58 [No.338]
少女偽曲V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:57:56 [No.339]
日常の狭間T−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:59:23 [No.340]
殺神夜会U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:00:04 [No.341]
イレギュラーV - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 22:00:44 [No.342]
殺神夜会V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:02:11 [No.343]
歪な因果 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:02:50 [No.344]
殺神夜会W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:03:34 [No.345]
『其』の時 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:04:13 [No.346]
虚構彩る勝利の剣―1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:05 [No.347]
虚構彩る勝利の剣―2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:39 [No.348]
虚構彩る勝利の剣―3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:06:10 [No.349]
虚構彩る勝利の剣―4 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:06:44 [No.350]
天幕模様T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:07:16 [No.351]


殺神夜会T (No.336 への返信) - アズミ

志摩康一は、偽物で出来ている。

 身体は模造で、親は義理。
 技術は模倣。信念は借り物。
 それらで出来ているこの命は、きっと偽物なのだろう。

 ならば。
 きっと、この心もまた。
 機械仕掛けのギミックに、違いなかった。





「――……なるほど、ね」

 その日一日の報告を大雑把にすると、マリナは紅茶の入ったカップ……淹れたのは康一だ……を、コースターの上に静かに置いた。

 あれから。
 尾行に注意し移動経路を撹乱し、かつ罠を仕掛けながら七貴邸にやってきた康一を見たマリナが最初に浴びせたのは、罵声だった。
 まぁ、無理もない。あれだけ偉そうに指示しておきながら、康一からの合流指示の連絡が一向に来ず、工房で待ちぼうけしていたのだ。地下道で連絡したときに圏外だったきり、康一はマリナへの連絡を全く失念していた。
 その上にサーヴァントとの戦闘を行っていたとなれば、結局こちらを戦力と見ていないのではないか、と憤慨しても仕方ない。

「いや――本当にすまなかった」

 そんなわけで、七貴邸に着いてからの丸一時間、康一は休む間もなくマリナへの謝罪と説明に追われていたのだ。

「まぁ、それはいいわよ、もう」

 全て説明し終わるころには、マリナの怒りはすっかり収まっていた。
 どうも激しやすい傾向があるが、根本的には理性的な少女である。

「で、その沖田……セイバーだったんだっけ……のマスター、心当たりがあるのね?」

 避けていたわけでは、誓ってないが。最後まで残していた問題に、マリナは当然のように踏み込んできた。
 答えるのは簡単だが、それを言葉にして口に出すことにささやかな抵抗を感じずにはいられない。
 康一はたっぷり数秒だけ悪あがきをして、やがて観念したようにそれを口にした。

「志摩空涯。
 俺の……そう。……親父ってことになる」

「父親?」

 あぁ、と頷きながら康一はどう説明したものかと頭を巡らせる。
 別に隠すことは無いが、あの男について語れば志摩康一の18年を余すことなく語ることになりかねない。……それは長いし、誤解や、その他の余分な感情を想起させるに違いなかった。

「……子を捨てた親さ。掻い摘んで説明すればな」

 その言葉に、マリナの表情が僅かに動く。
 全く、解りやすい奴だと心中独りごちながら、話を続けた。

「俺は生来、志摩の家に珍しい資質を持ってたらしくてな。生まれ方も真っ当じゃなかったんで、家としちゃ『標本』にするつもりだったらしい」

「『標本』……?」

 今度はランサーが不機嫌そうに眉をひそめた。まぁ一般的な感覚、それも清廉な騎士からすればとんでもない非人道行為に思えるだろう。
 だが、魔術師というものは、それをしばしば実行する連中なのだ。

「だが、取り上げに関与した俺の師が俺を連れ出し、弟子として育てあげてくれた。野郎、というか志摩の家はそれが余程不服だったのか……師は、奴に殺された。
 まぁ、そんな関係さ」

 どうでもいいことのように、言い捨てた。
 どうでもいいのだ。聖杯戦争には何の関係も無い。康一とマリナの同盟には何の益体も無い。

「そんな輩で、そんな間柄だ。
 親の情を期待するのは無理だろう。
 まだ俺の『資質』には未練たらたららしいから、俺を生かして捕らえようとはするだろうが――まぁ、それも聖杯と秤にかけちゃアテには出来ない程度の価値だな」

 そう語る康一に、マリナは苦い眼差しを向けてきた。
 話が重苦しかったのもあるだろうが、それ以上にそれを語る康一の態度にこそ、マリナはある種の不快を感じていた。

「――……で、私はそれをどうしたらいいの?」

「どうしたら、って何だ。
 敵なんだ、出てきたら倒す。それでいいだろう?」

「……私が、手を出してもいいの?」

「そうさな、手強いことは否定しない。断絶状態だから詳しいことは知らんが、道具作成に特化したかなり強力な魔術師のはずだ。
 だが沖田には深手を負わせたし、それが直るまでならお前にも勝ち目は――」

「そうじゃなくて!」

 立ち上がったマリナに、康一はきょとんとした視線を向ける。
 歯車の噛み合わないような得体の知れない不快感が、彼女を苛んでいた。
 そうじゃない。そうじゃないだろう。

「そういう、因縁のある相手なんだから。アンタが……」

「まぁ、始末すべきってのは否定しないが」

「べき、とかそういう話じゃなくて!」

「仇を討ちたくはないのか、とマリナは問うているのだ。康一」

 激昂するマリナを制して、赤眼のサーヴァントが涼やかにそう言った。
 指摘されて、そこでようやく康一は感情を揺らがせる。ミルクを投じた珈琲のような、濁った視線を何とはなしに、掌に落とした。

「仇、か」

 舌で転がすように、口にしてみる。
 空々しい響きだと、思った。

「陳腐な言い方をすれば、『師はそんなことは望んじゃいない』し、『それで師が帰ってくるわけじゃない』」

「……真理だな」

 赤眼のサーヴァントは頷いた。
 そしてそれが心からの言葉ならば、彼から言うことは何もない。

「奴は、俺という人間が生き残る上での敵だ。来たら倒す。それだけさ。
 お前らが倒してくれたら、それはそれで助かる……て言い方は、同盟者として不誠実かな?」

 康一の言葉に、マリナは反論しなかった。
 ただ、きっと……納得はしていないに違いなかった。





 工房を出ようとする空涯は、入口に控えた従僕の姿に足を止めた。

「休んでいろ、と言ったはずだが?」

「ついていこうとまでは言いませんよ、流石に」

 沖田……セイバーは、力なく笑った。
 身体をエーテルで構成するサーヴァントでも、激しい欠損が生じれば相応の時間をかけて魔力を生み出し、巡らせ、身体を再構成するしかない。
 当分、戦闘は厳禁だった。

「ただ、昔からおとなしく寝てられない性分で」

「……こんなくだらないことに令呪を使わせないでもらいたいのだが」

 空涯がにこりともせずに令呪の刻まれた左手を掲げたので、セイバーは降参、とばかりに両手を上げた。

「解った、解りました。戻りますよ」

 全く、本当にあの人にそっくりだ、とセイバーは苦笑した。
 空涯はそれに反応することもなく令呪を着流しの袖口に引っ込めると、入口から足を踏み出す。

「――小煩い蠅を片づける。敵の来訪には防衛に専念しろ」

「了解です。……お独りで大丈夫ですか?」

「もう一人いる」

 セイバーは、主の傍らの空間に視線を向ける。姿は霊体故に不可視。声さえ発さないが、そこにもう一人、空涯に従うサーヴァントがいるのは間違いなかった。

「心配は無用だ。……休め、総司」

「……はい、マスター」

 空涯の感情の無い言葉に、しかし沖田は微笑んで応じた。


[No.337] 2011/05/23(Mon) 21:56:15

Name
E-Mail
URL
Subject
Color
Cookie / Pass

- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS