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all スチームパンクスレ再録2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 22:42:56 [No.23]
赤の退魔剣士2 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 22:43:25 [No.24]
ジャックが笑う4 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 22:44:07 [No.25]
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博士と人形たち1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 22:46:25 [No.28]
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人形夜会2 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 22:48:52 [No.31]
清水自動人形工房2 - ジョニー - 2011/04/24(Sun) 22:50:02 [No.32]
クレメンティーナは眠らない4 - アズミ - 2011/04/24(Sun) 22:50:49 [No.33]
赤の退魔剣士3 - ありくい - 2011/04/24(Sun) 22:51:24 [No.34]
人形の視座1 - 桐瀬 - 2011/04/24(Sun) 22:51:59 [No.35]


赤の退魔剣士3 (No.33 への返信) - ありくい

 大我を工房に押しやると、千多は店に置かれたソファに身を沈めて左手につまんだ手紙をちらりと見る。
 凪宮大虎。幼いころ、一度会ったことがある懐かしい名だ。もっとも、その名前はずっと後になってから聞いたものだけれど。

 眼光鋭く、精悍な巨躯を悠然と構えている。無骨を絵に描いたような人だったが、遠くで様子を伺う自分を目に留めたときは、僅かにその目元が緩んだような気がした。
 何か日本刀の改造?について祖母と話し合っていた。ちょうど今自分が座っている辺りで二人が頭を突きつけて相談に耽っていたのを覚えている。
 すらりと伸びた刀身が、ランタンの明かりを鋭く反射するのが美しいと思った。

 「中々面白い縁だが……鬼と人の子、ね。いつ爆発するか分からん爆弾が転がり込んだ気分だな」

 あの剛の者は、一体何を思って我が子を此処に寄越したのか――

 「では、投げ捨てて見ない振りをする?」

 悪戯っぽい口調のクレメンティーナの言葉に苦笑する。

 「まさか。まぁ安全に火薬を抜き取る方法でも考えるさ。……ともあれ、今はもう一つの爆弾の方だ」

 手紙を懐に仕舞い立ち上がると、ふわりとその肩にクレメンティーナが飛び乗る。
 そのまま部屋を出る。目当てのものは、倉庫に保管されている。







 「魂を宿す方法、ね……」

 11月の雨は冷たい。
 清水自動人形工房の軒先で、大我は独り言ちた。永く使われてきた道具に魂が宿る付喪神なら何度か目にしたことがあるが、その類のものを人為的に作り出すなど聞いたことが無かった。
 聞いたことが無かったが、それを実際に行うことの出来る人物と、実際にそれで生まれた人物の両方に会った。

 その内の一人が今、この建物の中に居る。切り裂きジャックと対峙して負傷した警部の代わりに事情聴取に行くという千多に、大我は無理やり着いて来たのである。
 自ら行動に出ずにはいられなかった。決して邪魔にはならないからと頭を下げた大我を、千多は止めはしなかった。

 そうして行き着いたのがこの工房だ。扉をくぐろうとすると、ここで待て、と手で押しとめられた為に手持ち無沙汰に待ち惚けている。
 清水知己という人物は千多と顔見知りという話だから、他人が居ないほうが色々と話しやすいのであろう。……そう自分に言い聞かせながら不機嫌な空を仰ぐ。そして昨夜のことをぼんやりと思い出す。







 カタリナについていてくれと言われ工房に押し出されたものの、一体どの面を下げて会えばいいのか分からず、数十分を頭を抱えるだけで消費した。

 「なんて無力、なんて無様だ――」

 あの時、不穏な空気を嗅ぎ取って一人で駆け出した結果がこれだ。カタリナの胸にメスが突き立った瞬間がフラッシュバックする。
 何とかなると思った。何とかできると思った。
 何もならなかった。何も出来なかった。

 「……っ。カタリナ、入るぞ……」

 どのくらい経ったか、一人で悩む事に耐えられなくなり意を決してドアを開ける。

 「あれぇ、大我さん」

 予想に反して、聞こえてきたのは明るい声だった。まるで、縁起屋に案内してもらう道々に交わした雑談の時のような。

 「帝都に着いた早々、災難な目に遭われましたね。お怪我はありませんでしたか?」

 作業台の上に横たわるカタリナは、一目には元気そうであった。

 「あ、あぁ……。俺は、なんともねぇよ。それより、お前の方こそ……大丈夫なのか?」

 しかし、少し注意深く見れば、元気そうに動いているのは首から上だけで、身体を起こすのも容易ではないようであった。カタリナの身体を支えながら、大我は問い返す。

 「私はまあ、最悪頭さえ残っていれば修復は可能ですから」

 お父様からは大目玉ですけれどね、と舌を出す。その様子が痛々しく見えて、大我は声を張る。

 「――すまねえ! 俺があの時一人で突っ走ったりしなければ……奴が獲物を投げるのを止められてれば……。俺なんかと会わなければ! お前はこんな目に遭わずに済んだんだ……!」

 どう償えばいいのか――謝っても謝りきれない。一歩間違えれば取り返しのつかない事になっていた。

 目を伏せてどれくらい経ったろう。何十分と流れたか、それとも数秒の出来事か。

 「……ぷ。くくっ……あはは」

 ……聞こえてきたのは、無邪気なカタリナの笑い声だった。
 力なくうなだれる大我が、まるで叱られた子犬のように見えて笑いが止まらなくなってしまったのだ。

 「ふふ……ご、ごめんなさい。身内以外で私のことをそこまで案じてくれる人は居なかったものですから」

 訝しげにカタリナを見る大我に、カタリナは取り澄まして言う。

 「今回の事は、不用意に危険に近づいた私の自業自得です。どうか気になさらないでください。……と言っても貴方は気に病んでしまいそうですから」

 柔らかな笑みを浮かべて大我を見る。

 「今度私が危険に晒されたら、その時こそ助けてくださいね」

 指切り、と上手く動かない腕を上げ、小指を立てる。
 大我は暫くその指を見つめた後、徐に自分の小指を絡めた。音がしそうなほど、強く。

 「約束する。今度こそ絶対にお前を守ってみせる……!」









 「何が出来るかは知らねえが……」

 相変わらず、不機嫌な空は冷たい雨をざあざあと降らせる。
 腕を組み身体を壁に預けた格好で、肩に立てかけた刀の重さを確かめる。

 「……何も出来ないままで終れるか!」


[No.34] 2011/04/24(Sun) 22:51:24

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