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all コテファテ再録2 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:48:27 [No.326]
少女偽曲T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:49:23 [No.327]
少女偽曲U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:50:06 [No.328]
運命の名 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:50:49 [No.329]
欠損英雄W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:28 [No.330]
欠損英雄X - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:51:55 [No.331]
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宿命への直言 - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:55:36 [No.336]
殺神夜会T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 21:56:15 [No.337]
星の巡り - きうい - 2011/05/23(Mon) 21:56:58 [No.338]
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日常の狭間T−3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 21:59:23 [No.340]
殺神夜会U - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:00:04 [No.341]
イレギュラーV - ジョニー - 2011/05/23(Mon) 22:00:44 [No.342]
殺神夜会V - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:02:11 [No.343]
歪な因果 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:02:50 [No.344]
殺神夜会W - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:03:34 [No.345]
『其』の時 - きうい - 2011/05/23(Mon) 22:04:13 [No.346]
虚構彩る勝利の剣―1 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:05 [No.347]
虚構彩る勝利の剣―2 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:05:39 [No.348]
虚構彩る勝利の剣―3 - 咲凪 - 2011/05/23(Mon) 22:06:10 [No.349]
虚構彩る勝利の剣―4 - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:06:44 [No.350]
天幕模様T - アズミ - 2011/05/23(Mon) 22:07:16 [No.351]


殺神夜会W (No.344 への返信) - アズミ

 殺到する100を超える暴力に、しかし空涯は鉄壁の護りで応じて見せた。
 何百人束にしようと、このまごうことなき英雄の軍勢は、しかし単純な物理攻撃に終始せざるを得ない。一部の妖術に注意すれば物理防護に特化した防壁――例えば、単純にチタン程度の硬度を持つ盾――でこれを防ぐことができる。単一のサーヴァントとして召喚されたならともかく、宝具による素子に過ぎぬ今の彼らの武器に物理を以って神秘に届くほどのパワーソースは存在しない。
 まして、どれだけ数を揃えようが近接攻撃を織り交ぜれば同時に襲いかかるのはどうやったとて4人が限度。心を揺らがせなければ空涯の手管ならば対処は可能だ。

 可能ならば、それを過失なく行う。

 志摩空涯の精神とはそうした構造をしている。

「――無為なこと」

 攻撃の途切れた刹那の隙に、空涯は反撃に転じた。
 盾を生み出していた球体から、突如爆炎が上がり、軍勢を押し返す。三人ほどが炎に巻かれて動かなくなった。

「宗旺! 宋万、焦挺!」

 宋江が悲痛な声を上げかかるが、配下はそれより幾分か冷徹だった。
 人の群れから、一頭の猛獣が空涯に飛びかかる。
 両手に二挺の板斧。浅黒い肌にぎらぎらとした肉食獣を思わせる眼差し。黒旋風・李逵か。
 手数で足りなければ一撃の威力で勝負ということか。――正しい。彼奴の剛力なら今の防壁を両断するのも可能だろう。

――手伝おうか?

 令呪を通して脳裏に響く声に、空涯は「無用だ」とだけ返して球体に魔力(マナ)を集積する。

「弾種・大黒天の眼。狙え」

 防御は難しい。ならば、かかってくる前に打ち抜くまで。

「――撃て」

 球体から光線が走った。
 爪楊枝ほどの太さの、規模にすればあまりにもささやかな攻撃。
 しかし空中で299792458m/sの速度で迫る刃を避けることは、残念ながらかの鉄牛も出来はしなかった。レーザーの刃に斬り裂かれ、血煙りに撒かれたまま英雄は墜ちる。

「……ッ、怯むな、矢を番えよ!」

 宋江の号令一下、弓兵が一斉に弓を、投石を、各々の投射武器を構える。
 仲間をまた一人戦闘不能に追い込まれながら、しかし即座に反撃に転じる戦意は流石としか言いようがない。
 判断も上々だ。投射武器ならば従事する人数こそ少ないものの、瞬間あたりに襲いかかる攻撃の数も種類も白兵戦の比ではない。光球の対応限界を超える可能性は充分あるし、事実長時間の防御は不可能だろうと空涯は思った。

「――だが、遅い」

 その言葉がトリガーだったかのように。
 宋江の前に並ぶ射手たちが、次々とうめき声をあげた。
 弓が引けないのだ。
 宋江は即座に、鼻を突く異臭に気がついた。

「これは……毒――!?」

「『痺れ薬』、だ」

 無味無臭、効果も筋弛緩程度だが武芸者にはこの上なく効果がある。……何より、水滸伝の武侠はこの手の策に酷く弱い。
 悟られないために広がるのが遅い散布手段を取らざるを得なかったが、空涯は十二分に時間を稼ぎ切った。

「なんの――ッ!」

 橋口が宝貝を振るう。
 水流を巻き上げ、空中に飽和した毒を洗い流すつもりだろう。
 だが。

「弾種・帝釈天の矢――放て」

 雷撃。
 光球から走った電撃が、構築された水壁に命中し、爆ぜる。

「がッ!?」

 背広のマスターの身体がその場で跳ね、巨体を水浸しの床に叩きつけた。

「主(マスター)!?」

 万一、相撃ち覚悟で打ち返してきた場合を考え威力は抑えた。が、少なくともこの戦闘中は敏速な反応は望めまい。

「――幕だ」

 英雄が累々と横たわる中、黒衣の魔術師は堂々と球を掲げた。

 阻む者は、いない。

 かの山東省の武侠たちは逆徒でありながら今なお轟く勇名を誇る。しかし決して『無敵の軍勢』ではない。むしろ、弱点は多い。
 未知なる攻撃に弱く。
 軍略には往々にして穴があり。
 攻め手に幅を欠く。
 何故か、と問われればそれは単純だ。

 彼らは逆徒なのだ。
 中華の思想において、それは滅びるために存在していると言って過言でない。
 敗北を宿命された英雄は、『勝つべき時』にしか勝てない。

 宋江は主を庇って前に立ち塞がる。

「無駄だ、天魁星」

 志摩空涯は無為を好まない。それは己が紡ぐ言葉一つとってもそうだったが、それでも一つだけ宋江に言うことにした。

「義に依って、とお前は言った。
 体制に反逆し、しかし最後は体制に膝を折ったお前が」

 あるいは、己への訓戒の意味も込めて。

「呼保義 宋江」

 敢えて、天魁星ではなく、賊としての渾名で呼んだ。
 運命に従った星主ではなく、世の流れに惑った人間の名で。

「如何なる『道』も、一度裏切った者に微笑みはしない」

 国の義に反し人の義を守った英雄たち。だが、その首魁はそれでも、最後には国の為に毒を煽り、果てた。
 人の為に他者を打ち倒す者は、必ずそこに行きつく。義を為すために義を外れ、自身の死を以って初めて義を完成する。
 必要悪たる暴力装置、正義という概念の走狗は、役目を終えれば必ず煮殺されなければならないのだ。

 そも、108魔星とはそうしたもの。
 彼らは義の為に立った人でありながら、しかし同時に世を乱すことを宿命づけられた凶星の使者なのだ。
 次なる世のために、今の世を破壊する。
 次なる秩序のために、今の秩序を混沌に叩き落す。
 そして。
 その先には敗北と悲劇だけが待つのだ。――人として生を受けた、彼らの意を介さぬまま。

「無為に終われ。
 星のように落ちよ、天魁星」

 球が、輝きを増す。
 宋江は。星の宿命を負った少女は、怯えた。
 死ぬことにではない。負けることにではない。
 義を持たぬ賊徒に、ただの『敵』として敗れることに怯えた。
 義の為に戦い続けることを、天命は許さない。ならば。所詮、逆徒に過ぎぬならば。
 その時は、己もまた、悪として義に討たれなければならないのに――。





「――想定、内だ」

 それでも動いたのは、宋江ではなくその主だった。
 轟音がショッピングモールを揺るがす。二階部分の店舗から、激流が次々に噴き出した。
 大量の水をモール中の配管に封じ、圧を高めておいたのだ。
 水の大槌が四方八方から空涯に襲いかかる。

「ぬゥ――!?」

 再び防壁で弾くが、余りの質量に防壁ごと押し込まれる。
 やはり、防ぎきれない。

「バーサーカー、風だ!」

「入雲竜殿!」

 主の声に、バーサーカーが後ろに控えていた公孫勝に命じ、暴風で以って空涯を襲わせる。その身体が、ついに異能の力場を離れ宙に舞った。
 この黒衣の魔術師は恐ろしく多芸であるが、しかしまだ人域なのだ。単純なパワーにおいて人間離れした英霊のそれに及ばない。
 残念ながら彼の英霊は強大な破壊力を持つタイプではないが、しかし人の手でも然るべき手管を使えば、同レベルの破壊力は導きだせる。

「偉そうに語るお前はどうだと言うんだ、魔術師(ウィザード)……」

 未だ痺れに震える五体に鞭打って、橋口は立ち上がった。

「己の、一族の欲望に従い、禁忌に手をかける生業。アラヤに抗う生命の異端。
 お前は、悪だ」

 真に義で無いものが討たれるのが必定だったとしても。それに優先する理が、橋口圭司にはある。
 悪は、討たなければならない。
 正義の有無が問われる前に、悪の根絶が為されなければならない。
 正義が、世の価値観全てにそれぞれあったとしても、それを選ぶことに惑ったとしても、唾棄すべき悪は必ずある。それは、排除しなければならない。

――橋口圭司は、警察官なのだから。

「悪は、討たなければならない!」

 咆哮と共に、空涯の周囲に散った飛沫、その全てが大槍と化して再び突撃してくる。

「お――オォオオッ!!」

 光球が展開した防壁は、その全てを辛うじて往なした。


――だが、もう一枚!


 累々と横たわる英雄の中から、小柄な影が飛び出した。
 梁山泊107位の好漢、地賊星・時遷。
 鼓上蚤の異名をとる身軽さで、後に乞食と盗人の神にまで祭り上げられた英雄は短刀一閃、空涯の左腕を切断した。

「――――ッ」

 正面戦闘に向かない手合いを、既に倒れた好漢に庇わせ隠していたか。大半の機能が任意で起動する以上、彼の道具も完全な奇襲には対応しづらい。
 黒の魔術師の動揺は、一瞬だった。取り巻く水の凶器を蒸発させ、大きく跳び下がってモールの上階の手摺に着地する。
 睥睨すれば、好漢たちの何人かは身体を引き摺りながらも立ち上がり、己が大将とその主の前に集い始めていた。

(……成程、強いな)

 空涯が心中、そう評すると今の今まで黙していたサーヴァントが、傍らの空間に顕現した。

「ここまでだな、空涯」

 華美な羽織に、西洋のものと思しき装飾をあしらった、国籍不明の美丈夫である。
 その手には、先刻切り落とされた空涯の左腕が握られている。

「さっさと継がないと、お前とセイバーの繋がりが消えてしまうぞ?」

「――そうだな」

 特に惜しむでもなく、空涯は天井を破砕し、サーヴァントに抱えられてモールを脱出した。
 橋口は追わなかった。余力がない。少なくとも、実力未知数のサーヴァントと戦うには、とても足りない。

「あの化け物、この期に及んでまだサーヴァントを伏せていたのか」

 忌々しげに口にする橋口に、夜闇に消えさる直前、美貌のサーヴァントが笑んだ気がした。


「興趣であった。次は果たし合おう、義侠の人よ」


[No.345] 2011/05/23(Mon) 22:03:34

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