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No.355へ返信

all コテファテ再録3 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:56:45 [No.352]
天幕模様U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 21:57:20 [No.353]
天幕模様V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:00 [No.354]
天幕模様W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:43 [No.355]
悟睡の日T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:59:21 [No.356]
悟睡の日U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:00:00 [No.357]
悟睡の日V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:00:38 [No.358]
民の太陽と - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:01:20 [No.359]
悟睡の日W - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:02:05 [No.360]
悟睡の日X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:03:08 [No.361]
悟睡の日Y - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:04:00 [No.362]
透る射界T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:05:00 [No.363]
透る射界U - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:05:39 [No.364]
透る射界V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:06:16 [No.365]
その他大勢のためだけの - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:07:00 [No.366]
透る射界W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:07:38 [No.367]
透る射界X - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:11:58 [No.368]
透る射界Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:13:42 [No.369]
執終の王T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:14:30 [No.370]
抵抗と救難 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:15:10 [No.371]
執終の王U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:15:51 [No.372]
宿命の帝王 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:16:32 [No.373]
執終の王V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:17:10 [No.374]
執終の王W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:17:53 [No.375]
暫時の会談 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:18:51 [No.376]
少女偽曲W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:19:33 [No.377]
天幕模様X - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:10 [No.378]
暗く蠢く - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:36 [No.379]


天幕模様W (No.354 への返信) - アズミ

 コツコツと古めかしい時計が時を刻む。
 康一に与えられた部屋は本来、応接間に使われるべき場所のようだった。――つまり、魔術師が外的に成り得る相手を最初に通す部屋。
 もっとも、本来の用途には久しく使われていなかったと見えて、部屋の片隅には衣装ケースや本棚が強引に寄せられている。物置として使っていた部屋を強引に片付けたようだ。

「まぁ、眠れりゃ御の字だよな」

 改めてソファに身を沈める。
 時計に目をやれば、既に午前1時を回っていた。

「……二日目にして――酷い日だったなぁ」

 サーヴァントと2度も戦闘。うち一人は取り逃がし、令呪と宝具を使ってまで倒したもう一人は本当にサーヴァントだったかも疑わしい。
 まぁ、いい。『過失に囚われるな』だ、志摩康一。
 今は明日に向けて体力を――。

「……主」

「なんだ、ランサー?
 流石に眠い、手短に頼む」

 瞼も開かぬまま、康一が応じる。
 正直、疲労は限界だった。昼間はどうせ動きが制限されるし、行動は夕方からでいいかもしれない。

「重要なことです。先刻使用した宝具ですが」

「あぁ」

「……どうやら、不具合があるようです」

「――なんだと?」

 流石に聞き咎めた。上体を起こしてランサーを見る。
 主の傍らに控える騎士の表情は、深刻だった。

「魔力消費が本来より多く、威力が低下しています。
 今回は令呪とライダーの宝具の助けがあったため、本来と同程度の威力が出せましたが……」

 確かに先刻の一撃は申し分ない威力だった。城塞を一撃で破砕するほどの魔力の奔流――いわゆる、対城宝具という分類に当たる。
 しかしランサーの推測によれば、現在、彼女の槍の威力は対軍宝具――せいぜい歩兵1個大隊を飲み込む程度まで落ちているらしい。

「原因は解るか?」

「直接の原因は――解りかねます。召喚時に何か不具合があったのかも……」

「……まぁ、それは否定できんな」

 今回の聖杯戦争はあの黒いサーヴァントもそうだし、ライダーの記憶喪失、7クラスに当てはまらないサーヴァント……などなどイレギュラーには事欠かない。
 となれば、宝具が本来の威力を発揮できないぐらいの不具合で済んだのはむしろ幸運な部類かもしれない。

「……オーライ、いざとなったら令呪でなんとかしよう。……マリナ達にも明日、伝えておく」

「は。……それと、もうひとつ」

「まだあるのか……?」

 眉をひそめて問う康一に、ランサーは少し恐縮そうに言った。

「……宝具を使用した分の魔力を補充しておきたいのです」

「あぁ――なんだ、そんなことか。そうだな、どうすればいい?」

 サーヴァントにはその膨大な必要魔力を自己生産する機能が存在するが、それを駆動させるためのキーとなる魔力はマスターから供給されなければならない。
 本来の魔力供給は今も問題なくなされているが、宝具の使用で過剰に消費したため追加で補充しなければならないのだろう。
 手段は――まぁ、いろいろあるが。

「……手……」

「手?」

 ランサーは、おずおずと片手を差し出してきた。
 差し出したそれが初めてフォークダンスに臨む小学生もかくやというほど、尋常でなく震えている。

「手を、握っていて……いただけませんか」

「……そりゃ、構わんが」

 眼前の手を軽く握る。
 籠手と手袋を外した手は僅かにしっとりとしている。……師や姉の手に比べれば、固くて大きな手だと思った。

「このまま寝てればいいのか?」

「は、はい」

「……そのまま一晩中立ってちゃ辛いだろ。隣使えよ」

 直立不動でソファに寝そべった康一の手を握るランサーに苦笑して、隣にスペースを空ける。
 少々キツいが、まぁ床で寝るよりはマシなはずだ。

「は――では、失礼します……」

 すとん、と隣に座るランサーは酷く緊張した様子だった。
 ……こんなに異性に免疫のない英霊も珍しいのではないだろうか。英雄、色を好むという言葉さえあるというのに。

(あぁ――でもそういえば、聖杯に辿りついたパーシヴァルは童貞なんだったか?
 いや、でも、確か白鳥の騎士ローエングリンって息子が――……)

 混沌とした思考のまま、康一はついに疲労の限界を感じて意識を闇に落とした。

「――……おやすみなさいませ。
我が主(マスター)」

 最後に薄れゆく視界に見た従僕の表情は、微笑んでいた気がした。





 志摩康一が見る夢は、大方2つに分けられる。
 母の胎内にいた記憶。
 どういうわけだか漠然と己が誰にも愛されず、生まれることさえ許されぬことを悟った自分は、全てを怨んでいたように思う。

 死ね。父親が言った。
 出来損ないめ。人並にもなれぬ半端者め。死んでしまえ。死んで、そこを明け渡せ。

――嫌だ。

 諦めましょう、と母が言った。
 貴方は生まれてはいけなかった。私を恨んでもいい、父を憎んでもいい。
 けれど、死んで。今度こそ、ちゃんと人間として生まれてきて。
 
――やめろ。

 彼の領土に侵入してくる針や刃に抗った。

――死にたくない。

 何故、憎むのだ。まだ何もしていないのに。生まれてすらいないのに。善も悪も知らないのに、この身は悪と決められているのか。

 嫌だ。死にたくない。殺さないで。

 きっと、それは最も原始的な怨恨だった。生まれる前から存在を否定されたことに対するの、根源的な憎悪。
 きっと、だから見ることが出来たのだ。
 アレを。
 最早、記憶の礫砂に埋もれてしまったアレ。……いやそもそも、言葉として表せるほど理解もしていなかった概念。

 「」。

 そうだ。敢えて表現するなら、そんなモノ。
 もう思い出すことも少なくなった。この夢を見るときだけ、古傷のように心の奥から疼いて這い出てくる。

 もう一つの夢のせいだ。
 師と姉……家族との、人間的な生活。その思い出。
 あれほど抱いていた怨恨と嫉妬、憎悪と悪意は『志摩康一』として生まれ落ちてすぐにさっぱりと洗い流されてしまった。
 人並の愛情と引き換えに、根源的被害者の権利は失われた。
 いや、手放したのだ。忘れ去ろうとしたのだ。
 
 「」のことも。

 アレは、まだそこにあるのに。





 夢を、見た。
 母親の胎の中でも、家族との生活でもない。
 康一にしては珍しい、自分と縁もゆかりもない荒唐無稽な夢だった。

 石造りの壁と、豪奢な飾りで構成された、礼拝堂のような場所だった。
 昔、観光で訪れたノイシュバンシュタイン城を思い出す。……あぁ、そうか。ここは城の中か。

「――ガラハッド卿!」

 叫ぶ声に、我に帰る。
 視線を動かすと、礼拝堂に見覚えのある人影を見つけた。

(ランサー……?)

 ランサーと見知らぬ騎士が、天を見上げている。
 天井はやたらに高かったが、中空……本来なら十字架が掲げられているであろうそこに、何かあった。

 色も形も無い。
 そもそも何も無い、ようにも認識できるし、『何も無いがある』ようにも思える。光の球にも見えるし、闇が蟠っているようにも見える。『穴』という表現は妥当な気がしたが、情報量はまともに何かが在る空間よりも多い。

「下れ、パーシヴァル卿!」

「あれが――あんなものが、聖杯だと言うのか!?」

 宥める見知らぬ騎士に抑えられたまま、ランサーが叫んだ。
 『聖杯』?

(違うよ、ランサー。あれは「」だ)


 あ――

    れ――?


 あぁ、そうだ。


 あれは「」だ。

 ちょっと違う――いや、『遠い』気がするけれども。周囲の空間に比べれば余程アレに近い。
 あぁ、なんだ。見つけたのがアレじゃあしょうがない。持ち歩けるようなもんじゃないものな。

 そもそもあんなもの、求めるほうがどうかして――


 あ。時間切れだ。


   なんか今、

         ズレ――。



 ――――暗転。


[No.355] 2011/05/24(Tue) 21:58:43

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