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No.361へ返信

all コテファテ再録3 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:56:45 [No.352]
天幕模様U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 21:57:20 [No.353]
天幕模様V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:00 [No.354]
天幕模様W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:43 [No.355]
悟睡の日T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:59:21 [No.356]
悟睡の日U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:00:00 [No.357]
悟睡の日V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:00:38 [No.358]
民の太陽と - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:01:20 [No.359]
悟睡の日W - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:02:05 [No.360]
悟睡の日X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:03:08 [No.361]
悟睡の日Y - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:04:00 [No.362]
透る射界T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:05:00 [No.363]
透る射界U - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:05:39 [No.364]
透る射界V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:06:16 [No.365]
その他大勢のためだけの - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:07:00 [No.366]
透る射界W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:07:38 [No.367]
透る射界X - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:11:58 [No.368]
透る射界Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:13:42 [No.369]
執終の王T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:14:30 [No.370]
抵抗と救難 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:15:10 [No.371]
執終の王U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:15:51 [No.372]
宿命の帝王 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:16:32 [No.373]
執終の王V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:17:10 [No.374]
執終の王W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:17:53 [No.375]
暫時の会談 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:18:51 [No.376]
少女偽曲W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:19:33 [No.377]
天幕模様X - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:10 [No.378]
暗く蠢く - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:36 [No.379]


悟睡の日X (No.360 への返信) - アズミ

 勇治の説明を受けた康一とマリナは、無言だった。

「信用できないか?」

「それ以前の問題だと思うが、普通」

 相手を信じられるか、ではなく、話の内容そのものを信じられるかが既に怪しかった。嘘か真かではなく、妄想かそうでないかを見極めるのが既に難しいレベルの荒唐無稽さだ。

「宝石翁ゼルレッチ……ねぇ」

 現存する『魔法』使いの一人。
 第二魔法『平行世界の運営』の行使者。『魔道元帥ゼルレッチ』『宝石翁』『万華鏡(カレイドスコープ)』『宝石のゼルレッチ』……彼を持つ異名は数えたらキリがない。同時に死徒27祖第四位でもあるが、まぁこれは彼の場合、余談だろう。
 魔法使いにしては俗世に関わることが多いため、名前自体はよく聞く。……同時に、それは俗世にとって傍迷惑な存在であることを示唆する。平行世界を自在に移動できるような存在が引っ掻き廻す問題は、例外なくこの世界に留まり続ける未熟な魔術師には手に余るのだ。
 ……あぁ、そう意味ではまさしくこの件はかの宝石翁的な問題ではあるのかもしれないが。

「――……いや、いい。とりあえず信じたことにして話を進めよう」

 眉間を抑えて康一は言った。マリナは相変わらず胡散臭げな眼差しである。無理もない。

「黒化英霊、ね……」

 確かに脅威では、ある。
 どうやら主に冬木市の第五次聖杯戦争に参戦したサーヴァントを模しているようだが、かの英霊たちは聖杯戦争史上最強のサーヴァントと言われている。
 それがマスターの制御なしに動いているのだというのだから、確かにぞっとしない話だ。

「……月に話を通すべきじゃないかしら。監督役が黙ってられる状態じゃないと思うわ」

 マリナの意見は妥当なものだった。
 康一とマリナでは手に余りすぎる。聖杯戦争の進行自体に支障が生じかねないほどの問題だ。となれば、監督役に判断を仰ぐのは理に適っている。

「そうだな、まずはそうする。
 だが、解決の役には立たないだろうな」

「……まぁ、そうね」

 マリナは苦い顔で首肯する。
 当然だが、監督役は……冬木のような例外はさておけば……聖杯戦争の参加者ではない。。
 で、ある以上サーヴァントも連れておらず、サーヴァントを連れていない以上凄腕の魔術師だろうが代行者だろうが、黒化英霊相手を武力行使で排除するのはほぼ不可能だ。
 必然、その行動は聖杯戦争を一時停止し、マスターたちに協力を勧告して黒化英霊に対処させるのが限界であろう。
 だが、そこには何の拘束力もない。監督役はあくまで中立の立場から実力者が派遣されるだけで、サーヴァントシステムや聖杯そのものには全く関与していない。監督役の方針に反しても何のペナルティも与えられないのだ。

「聖杯戦争を停止すると言ったところで止めてやる義理はどこにもない。
 ……むしろイレギュラーに対処する甘っちょろいマヌケがいるなら、そこを背後から奇襲するぐらいが合理的な戦略だろうな」

「そんな、ひどいの!何の関係もない人たちが傷つくかもしれ――」

「神秘に触れられもしない一般人なぞいくら死んでも痛痒も感じないのが基本的な魔術師ってヤツなんだよ」

 憤る希に、康一はしれと言ってアイスコーヒーを啜った。ミルクも砂糖も入れていないそれは、ほろ苦い。
 マリナもそれに異論は挟まなかった。彼女は大概、魔術師にしては――そう、善良な人間だが……魔術師の実状は理解している。魔術師というのは皆、元より道を外れた学徒なのだ。

「それをさておいても、お前らの言ってることは間伸びしている」

 康一は息を吐いた。
 諭してやる義理もないが、魔術師が如何なる『人でなし』かも解っていない状態でこうも迂闊に接触を取り続ければ、遠くないうちに命は無い。言うだけは言ってやるべきだろう。

「聖杯戦争の参加者は皆、叶えたい望みがある。
 『その為なら街一つを焦土にしたって構わない』、そんな前提を呑んででも通す……願いだ」

 康一は手元のカップに満ちた、黒い液体から視線を外さない。
 混じりけのない黒は好きだった。何者にも染まらぬ色。不変の色彩。……これを見つめていると、思考を揺らがせずに済む。

「例えば、悪党に殺された親を取り戻したいと願う子供がいるとする。
 例えば、世界のためにその恵まれた才と高潔な心を全て捧げた人生で、なお犠牲になった大切な人を護りたいと願った英雄がいたとする。
 そんな彼らにお前たちは不利な条件を飲めと言っている。……その切なる願いを遠のかせろ、と言っている」

 康一は対峙する勇治たちが気圧されているのを感じ、あからさまに肩の力を抜いた。
 ……別に弾劾をしようというわけではないのだ。

「……まぁ、そういう例もあるだろうってことだ。実際的には、もっと同情できない理由が多いだろうさ。
 とはいえ、そんなわけで協力は期待しないこったな。基本的に」

 気を取り直すようにコーヒーを飲み干した康一に、マリナは問うた。

「……それで、結局どうするの?私たちは」

「あん?……そりゃ、俺は協力するよ。
 どう考えても仕事の一環だからな、これ」

 康一はあっさりとそう言った。あまりに話の流れに反した判断で、その場にいる全員――いや、ランサーとライダーは涼しい顔をしている……が、呆けたように康一を見た。

「規模が全然違うが、要するにあの『血管』どもと同じだ。放置すれば魔術の神秘が世に晒される恐れがある。
 なら、それは阻止しなくちゃいかんだろ、魔術協会的には」

 康一に願いは無い。聖杯戦争はただの仕事だ。……もう少し切実にするなら、この世界にとって必要な仕事だ。
 ならば答えは一つだ。

「ランサー。お前はそれでいいか?」

 だがランサーには願いがある。聖杯を主にもたらすという、彼女にとって人生を懸けた願いが。
 だが、騎士は満足そうに頷いてそれを受け入れた。

「無論です。
 我が願いは名誉の回復。その為に、どうして民の危急を見過ごすなどという不名誉ができましょう」

 その答えは、実のところある程度予測していた。
 この騎士の生真面目さはもはや疑うところが無いし、その素朴な精神には全く惑いがない。
 清らかなる愚か者(Parsifal)。あぁ、まさしくその名の通り。

「……だが、マリナ。お前はどうする?」

 気を引き締めて、康一は問うた。
 それは、確かめておかなければならなかった。同盟を維持するにせよ、解消するにせよ。

「俺の願いが無いのは話した通り。だが、お前の願いはまだ聞いていない。話せないならそれでもいいが、俺としてはお前の『協力しない』権利をないがしろにするわけにはいかん」

 願い、に話が及ぶとマリナは少し動揺した。
 少なくとも切実な願いだろうと、康一は推測していた。この少女は魔術師にしては善良すぎて、まっすぐすぎる。根源の渦を求めるとか、世界を変えるとか、そんな超俗的な理由で動いているようには思えない。

「余計な問題は、俺に任せてもいい。それが俺の仕事だから。
 ……お前は、願いに邁進する権利がある」

 その先で、ここにいる人間すべてを薙ぎ払ったとしても。
 康一の言外の意志を、きっとマリナは悟っていたに違いなかった。


[No.361] 2011/05/24(Tue) 22:03:08

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