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No.375へ返信

all コテファテ再録3 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:56:45 [No.352]
天幕模様U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 21:57:20 [No.353]
天幕模様V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:00 [No.354]
天幕模様W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:58:43 [No.355]
悟睡の日T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 21:59:21 [No.356]
悟睡の日U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:00:00 [No.357]
悟睡の日V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:00:38 [No.358]
民の太陽と - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:01:20 [No.359]
悟睡の日W - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:02:05 [No.360]
悟睡の日X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:03:08 [No.361]
悟睡の日Y - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:04:00 [No.362]
透る射界T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:05:00 [No.363]
透る射界U - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:05:39 [No.364]
透る射界V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:06:16 [No.365]
その他大勢のためだけの - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:07:00 [No.366]
透る射界W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:07:38 [No.367]
透る射界X - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:11:58 [No.368]
透る射界Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:13:42 [No.369]
執終の王T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:14:30 [No.370]
抵抗と救難 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:15:10 [No.371]
執終の王U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:15:51 [No.372]
宿命の帝王 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:16:32 [No.373]
執終の王V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:17:10 [No.374]
執終の王W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:17:53 [No.375]
暫時の会談 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:18:51 [No.376]
少女偽曲W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:19:33 [No.377]
天幕模様X - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:10 [No.378]
暗く蠢く - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:20:36 [No.379]


執終の王W (No.374 への返信) - アズミ

 迫る血管獣の巨体。100tトラックにも勝るその威容は、キャスターの150cmそこそこの華奢な身体など紙屑のように吹き飛ばしてしまう――かのように、見える。
 だが、それは錯覚だ。
 アレの全ては呪詛。対象を弾劾し罵倒し破砕する悪意の塊。質量は問題にはならない。

「黒天洞――……」

 アサシンが掌に呪言を書き記すと、僅かに黒い波紋を残して血管獣が『突撃をいなされたように』その場に転がった。

「なっ……!?」

 誰のものかは解らないが、驚きの声が背後から漏れる。
 確かに、物理法則をまるで無視した絵面だ、仕方あるまい。実際にやってのけたアサシンをして、この異形の特異さ自体は驚きを禁じ得ないのだ。
 存在としては原始的な式神のそれを極限まで拡大したような構造だが、これほどの呪塊、地上に存在した話など聞いたこともないし、それ以前にこんなものが闊歩すれば抑止力に排除されるはず――。

(それとも、『これこそが』……?)

 倒れた血管獣の背中から触腕が伸びる触腕がアサシンの思考を遮る。
 狙いは大雑把で、アサシン諸共背後のマスターたちを吹き飛ばしかねない。……それを意図するだけの理性があるかは怪しいところだが。

「撃ち漏らしはお願いします!」

「よしきた!」

 ライダーが応じた。その隣に控えるバーサーカーのマスターも水の刃を振るう。
 アサシンはそれ以上背後を気にすることなく、疾駆した。あの触腕の攻撃をこちらに引き寄せる必要がある。あのぐらいの規模が彼女の反撃には『ちょうどいい』。

「炎天よ、奔れ!」

 アサシンの呪術が火炎を巻き起こし、血管獣の脇腹を灼いた。

「■■■■――――ッ!?」

 地を揺るがす悲鳴。
 血管獣のもたげた首が、アサシンを向いた。……やはり大方の知能は獣並だ。戦術的な駆け引きは知らないと見える。
 身を起こすものの、その巨体ゆえに急激な反転は出来ない。正面に見据えた敵以外は、やはり触腕で追い始める。

「はいはい、鬼さんこーちらっと♪」

 近接型クラスとは比べるべくもないが、アサシンのはしっこさはそれでも人類の及ぶ領域ではない。
 迫る触腕を呪術でいなし、かわし、あるいは建造物を盾にしながらその注意をマスターたちから引き剥がした。

「……この辺りが頃合いでしょうか、ね!」

 アサシンが足を止めると、ここぞとばかりに触腕が大挙して押し寄せる。あれ一つ取ったとて、直撃すればただでは済むまい。数が増えたので受け流すのも容易くはいかない。

「そんなに慌てなくても、お相手は一本ずつとっくりと――氷天よ、砕け!」

 冷気、炎、暴風。立て続けに放たれた呪術が物理事象を以ってそれらを迎撃していく。
 だが、血管獣の攻撃のほうが幾許か速く、幾許か手数が多い。ついには一本の触腕が弾幕を抜け、アサシンに迫った。
 その先端に鈍く光る針が、彼女の心臓を穿たんと突き進む。

「アサシン!」

「――細工は流々。後は仕上げをごろうじろ、です」

 マスターの心配をよそに、アサシンは迫ってくる凶刃に最早対処する様子すらない。
 右の指が、左掌に呪言を刻む。

「いざや散れ、常世咲き裂く怨天の花……」

 『それ』を間近に見たかの松尾芭蕉は自著にこう記している。――蜂蝶のたぐひ真砂の色の見えぬほどかさなり死す。
 それは祟り神たる彼女の象徴。大地を冒す猛毒。堕ちたる日天の欠片。


「――『常世咲き裂く、大殺界』」
 (ヒガンバナ セッショウセキ)


 触腕が胸に触れた瞬間、破壊は刹那の間も許さず履行された。
 血管獣の身体が呪詛そのものであるなら、その全てが魔術を通す径路になっている。呪詛とはそもそういうもので、相手と直接径路が繋がるがゆえに強大な殺傷力と――反撃を直接受ける危険を常に内包する。

「今のあなたはダイナマイトを振り回して、導火線を火に突っ込んだようなものです」

 アサシンの言葉に従うように、触腕の中を『何か』が本体へ遡って行く。

「ぎ ―― が ――ッ!?」

 血管獣はそれをなんとか排除しようと己の触腕を攻撃するものの、遡るスピードに間に合わない。……無為なことだ。それが出来た術者なぞ、この国の呪詛1800余年の中で誰ひとりとして居はしない。

「これがいわゆる呪詛返し。
 呪殺者がしばしば呪詛を失敗しただけでなくそのまま死んでしまうことから、『人を呪わば穴二つ』、と古代の人々は表現したのです」

 アサシンがぴ、と人差し指を上げると、それが合図だったように本体に到着した呪いがその巨体を崩壊させる。

「勉強になりましたか?」


 まるで紙細工を引き裂くように。赤の巨体が一つ震えて、呆気なく散った。





 血管獣が崩壊して、数時間後。

「――退けたか」

 遥かに遠く。ビルの屋上から異形の砕け散った場所を睥睨して、空涯は独りごちる。

「アレの成長はまだ、英霊一人にどうにか満たぬ程度、と見るべきだろうな」

 傍らに超然と立つ己のサーヴァント……あのショッピングモールで現れた異装の男に、視線を向けぬまま空涯は問う。

「なればこそ、今の内に聖杯を満たさねばならん。
 ……『セイヴァー』、小聖杯はどうか」

 異装の男――セイヴァーは、手に携えた旗を見た。
 彼自身の容姿と同じく、国籍不明の異様な戦旗であった。大まかな様式は日本の陣中旗であるが、書かれている文言はラテン語。描かれた絵に至っては――……聖杯である。

「今しがた一人、入った。キャスターだ。『水増し分』のな」

「誰がやった?」

「アーチャーだろうよ。あれの矢を防ぐ手段はそうはない」

 セイヴァーの言葉に、空涯は顎を撫ぜる。
 現状としては、悪くない流れだ。聖杯戦争という儀式の進行度は遅いものの、今のところ決定的な誤りもない。

「どうする、空涯。……今ならランサーは取れるぞ」

 敢えてランサーの……志摩康一のサーヴァントの名を出したのは、彼流の嫌がらせに違いない。
 空涯はどうもこのサーヴァントの、逸話とは程遠い斜に構えた態度が好かなかった。無駄が多いからだ。

「まだ役に立つ。捨て置け」

 セイヴァーは己のマスターの巌のような表情を覗く。親子の情が微塵でも立ちいった様子はなかった。
 言ったままの理由で、この男は判断している。それだけ確認すると、異装のサーヴァントは霊体となって虚空に消えた。

「では引き上げるがいい。加賀の老人に見つかると手間だからな」

「あぁ、わかっている」

 黒の魔術師は踵を返すと、目の前に浮かぶ球体に軽く触れる。
 刹那の後、その姿はいずこともなくかき消えた。

 頭上には傾きかけた太陽。
 湖底市の長い一日が、ようやく暮れようとしていた。


[No.375] 2011/05/24(Tue) 22:17:53

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