コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380] |
└ 天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381] |
└ 透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382] |
└ 崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383] |
└ 神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384] |
└ 神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385] |
└ 神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386] |
└ 少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387] |
└ 血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388] |
└ 血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389] |
└ 神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390] |
└ 暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391] |
└ 少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392] |
└ 螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393] |
└ 赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394] |
└ 血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395] |
└ 血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396] |
└ 血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397] |
└ 血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398] |
└ 義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399] |
└ レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400] |
└ レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401] |
└ レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402] |
└ 赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403] |
そして、少女の前にアムフォルタス王は傅いた。 その傍らには、老騎士グルネマンツ。否、彼だけではない。傷ついた王に従い続けた勇壮なる聖杯の騎士たち。 ――彼女の、騎士たち。 騎士たちが彼女を讃える。 「王の罪は贖われた……奇跡だ! この上ない奇跡が行われた!」 王の傷は癒され、全ての罪は購われた。邪悪は呪いにより退けられ、ここに聖杯を継いだ新たな王が誕生する。 かつて、それを分不相応な虚構だと少女は自嘲した。 これは幸福な夢だ。だが、故にこそ虚しい。 自分には何一つ出来なかったことが、此処には全てある。 大恩ある王は苦痛の中に倒れ、王どころか騎士道さえ貫けなかったこの身は友を見殺しにした咎に苛まれたまま、失意の内に修道院で朽ちた。 この虚構は、そんな自分には余りにも眩しすぎる。この身の全ての罪を照らし出すように。 「王よ、我らが王!聖杯の王よ!」 「貴方は救済者を救い給うた!」 ……やめろ。 やめてくれ。 少女は悲鳴を上げる。 なぜ、こんな偽りを被せるのだ。 私は何も出来なかったのに。 王を救えなかったのに。 なぜ、こんなにも眩い輝きを当てるのだ。なぜ私に深い罪を思い出させるのだ。 やめてくれ。どうか。どうか。 この卑しい女を、放っておいてくれ――……。 ● ランサーは、薄暗い部屋の中で目を覚ました。 決して柔らかいとは言えないソファから身を起こし、視線を巡らせる。 彼女の記憶が確かなら、そこは市内中心部にほど近い、アパートの一室。康一が用意したセーフハウスの一つだった。 ここに向かう途中、車中からの記憶が無い。消耗しすぎて意識が途切れていたのか。 「――目、覚めたか」 すぐ傍から、主の声がした。 康一は昨晩そうしていたように、傍らで籠手を外したランサーの手を握っていた。 慌てて、我知らずしかと握っていたその手を放す。 「も、申し訳ありません、主。ご迷惑を……」 「別にいい。随分魘されていたみたいだが……身体の調子はどうだ? 言われて、ランサーは己の身体……高密度の魔力で構成されたエーテル体の状態を確認する。 「……宝具の使用は、まだ無理なようです」 つまり、依然守勢に回るべき状態ということだ。 「宝具の不調は一刻も早く解消しなくてはならない。 ……ランサー」 「――は」 「お前の真名を、教えてくれ」 ランサーは押し黙った。 名乗ったではありませんか、と韜晦しなかったあたりに彼女の生真面目さと賢明さが垣間見れた。 「……だいたい見当は付いている。真名も、真名を隠した……いや、認めなかったお前の気持ちも」 自覚し切っていたわけではない。出来れば否定したくさえあった。 「だが、今は必要なんだ。お前の口から聞かなきゃならないんだ。 お前のもう一つの真名を」 嫌だ、という従僕にあるまじき拒絶の言葉が口を突きかけて、飲み込んだ。 自分は、円卓の騎士パーシヴァルなのだ。為すべきことを為せなかった愚か者。 惨めな敗北者たる自分は、谷を駆け抜ける者(パーシヴァル)でなければならないのだ。 だというのに。 康一は、その名を口にした。 「パルジファル」 聖杯の王。 傷を癒した者。 自分には分不相応な、虚飾。 「清らかなる愚者(パルジファル)。 ――……それがお前の真名のはずだ」 不調なのは当然なのだ。聖槍は『円卓の騎士パーシヴァルの宝具などではない』のだから。 パーシヴァルは、かつて漁人の王の城で、聖杯と共に聖槍もその目にしているが、その手に掴んだことは一度もなかった。 彼女の本来の宝具は、腰に差した『選定する聖杯の剣(ソード・オブ・グレイル)』。主を聖杯の元へ導く鍵剣である。 聖槍を振るったのはパルジファル。虚構の中の聖杯の王。 本来、英霊はその身が虚構であるか真実であるかなど問題にしない。纏う人々の祈りさえ確かなものであれば。……名の響きの違いなど、当然問題ではない。 しかし、パーシヴァルとパルジファルはその意味さえ異なる。パルジファルとはアラビア語で清らかなる愚か者という意味。彼女の美徳を示した栄誉を得るにふさわしい『資格』でもある。 言霊を違え、意志で拒絶した真名では、人々の祈りを繰ることは出来ない。 恐らく、ランサーの不調はそういうことだろうと康一は推測した。 「ほんの些細な、ボタンの掛け違いのようなズレだ。俺なら、それを修正できる」 お前が、認めてさえくれれば。 康一の言葉が、錘のようにランサーのか細い肩にのしかかった。 ランサーは、震えた。 大木を素手で引き抜き、武装した屈強な騎士を叩き伏せるその身体が、まるで呪いに縛られたように竦み、動かない。 両の腕でその細い身体を抱き締め、少女のように怯えた。 「主、私は――……」 何を口にすればいい。認めればいいのか。謝罪すればいいのか。違う。そのどちらもしなければならない。だというのに、この唇は震えるばかりで一向に言葉を紡げない。 言葉を続けられぬまま、1刻が過ぎた。 「……見張りをしてくる。ここで休んでいろ」 康一は、瞑目すると立ち上がり、部屋を辞した。 その表情に失望はなかった。どこか申し訳なさそうでさえあった。 「あ、主――……あぁ……」 あぁ。 悪いのは、この身なのに。 瑣末な拘りに身を縛られる、この卑しい女なのに。 それでも、ランサーは動けなかった。それを認めてしまえば、何かが決定的に壊れてしまうと思った。 人々の祈りに編まれたこの身にとって、『それ』はそれだけの重みがあった。 「主……」 無機質な部屋の中で、少女は震えた。 かつて抱きとめてくれた乙女は、ここにはいない。 仰いだ王は、もう歴史と虚構の彼方なのだから。 [No.387] 2011/05/24(Tue) 22:42:26 |