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No.388へ返信

all コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380]
天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381]
透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382]
崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383]
神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384]
神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385]
神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386]
少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387]
血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388]
血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389]
神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390]
暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391]
少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392]
螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393]
赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394]
血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395]
血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396]
血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397]
血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398]
義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399]
レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400]
レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401]
レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402]
赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403]


血宴の絆T (No.387 への返信) - アズミ

 彼の生きた時代からすれば珍しくもないことだが、セイバーには学が無い。幼少の頃、近藤家に預けられてからずっと剣を振ることばかりしてきた。
 ただ、常時に殺し、死にかけてきた人生ゆえにか。彼は極限定的な医療、殊に生き死にが関わる傷には非常に勘が冴えた。

「うーん、これは……」

 だからして、目の前で震える子犬が、命の危険だけはないことは一目で察することが出来た。

「きっと傷んだものを食べちゃったんだね。ちゃんと吐きだしてるし、元気のつくものを取ればきっと大丈夫だよ」

 子犬を抱いた女の子に微笑んで、小さな命を撫でてやる。
 小学生が学校帰りに捨てられた子犬を拾ったという、ありがちな話だ。『小学校』という施設の有無を除けば彼の生前もよくあったほどの。
 女の子の表情がぱあ、と輝いた。

「ありがとう、お医者さん!」

 セイバーは苦笑する。お医者さんどころか、本当はそのお医者さんに人一倍世話になった方なのだが。

「本当に飼うなら、ちゃんと本物のお医者さんに診てもらうんだよ」

 手を振って去っていく女の子をそう言って見送る。
 きっと彼女とあの子犬の行く先にはまだたくさんの障害があるだろう。
 彼もかつて屯所で飼っていた豚を世話したことがあるが、一頭の動物を飼うというのは存外に手間がかかる。
 女の子の親はきっと反対するだろうし、そのことを彼女も解っているだろう。その上で、失われていく命を見捨てない優しさは、未熟だが尊い感情だ。
 鉄火場に生きて死ぬ宿命にありながら、沖田総司はこうした面で修羅に成りきれぬ男だった。否、修羅の面を被りながらその内に菩薩を秘めることの出来る男――と言った方が正しい。
 だからこそ。

「――……お待たせしました、ランサーのマスター」

 必要とあらば、命を愛でた次の瞬間に命を奪う側に回ることが出来る。

「いや、いいさ――」

 セイバーはその柔和な笑みを崩さぬまま、いつでも頚を落としにかかれる備えをして背後の康一に振りかえった。

「――……どうせ、いつでも始められる」





 康一とセイバーは、言葉一つ交わさずに街を並んで歩いていた。
 別にどこを目指していたわけでもないし、ついて来いと指示したわけではない。
 ただ、互いにいつ相手が心変わりをしてもいいように場所を変えているだけだ。

 ……つまるところ、いつ殺し合いが始まってもいいように。

「ランサーは呼ばないんですか?」

 間合いは1m弱。セイバーならば康一が何か行動を起こす前に絶命させられる距離だったが、康一はサーヴァントを呼ぶどころか武器を準備する素振りさえ見せない。
 Yシャツにスラックス姿になっているセイバーはしかしサーヴァント故に即座に元の姿に戻ることができる。佩いている太刀とて然り。しかし康一の得物である『糸』は見た限りでは展開に僅かながら時間がかかるハズだった。

「必要になったら、呼ぶさ」

 語る康一の口調は、あくまで冷ややかだ。一分の動揺さえ含まない。
 何かセイバーの一撃を往なす手段を用意しているのか。あるいは、後の先を取って殺す手段を。
 で、なければ――。

「……白状するとね。今戦いたくはないんです。積極的に戦えという命令は受けていないし、貴方を――」

「殺すわけにはいかないんだろう?知ってるよ」

 あぁ。やはり、悟られていたか。
 志摩康一を殺してはならない。これだけは、空涯に厳命されていた。彼の身体に何らかの用があるらしい。
 殺さずに捕らえることは許可されているが、それは手段として幾許か速効性が落ちる。康一に一つか二つ、致命的な反撃を許す程度の隙を作るだろう。

「……俺だって、戦いに来たわけじゃない」

 如何に魔術師とはいえ、康一がサーヴァントを殺す手段を持っているとは考え難い。本心だろう。

「じゃあ……そこの角でお互い別れるというのはどうでしょう」

「悪くないな」

 目の前の丁字路を示す。線路の高架に阻まれ、細い道が左右に分かれていた。
 突き当ると同時、康一は左に、セイバーは右に折れ、進んでいく。
 それぞれ3mほど歩いたところで、列車の通過する喧しい音が、ビル壁と高架の間に乱反射し、路地は騒音に満ちた。


――その瞬間。


 セイバーの刀が康一の左腕を飛ばし、康一の『糸』がその刃を絡め取る。

 両者の唸りも呻きも、全ては列車の足音に掻き消された。


[No.388] 2011/05/24(Tue) 22:43:03

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