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No.396へ返信

all コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380]
天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381]
透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382]
崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383]
神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384]
神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385]
神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386]
少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387]
血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388]
血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389]
神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390]
暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391]
少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392]
螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393]
赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394]
血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395]
血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396]
血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397]
血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398]
義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399]
レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400]
レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401]
レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402]
赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403]


血宴の絆W (No.395 への返信) - アズミ

 無数の刃が走る。

「くっ!?」

 自分を串刺しにせんと飛来したそれを、ランサーはすんでのところで飛び退いてかわす。
 なおも追撃してくる刀の群れ。その幾許かを康一の『糸』が弾き落とし、残りをランサーが薙ぎ払う。
 視線を巡らせれば、まだ概数さえ測れないほどの刃がさながら狼の群れのように十重二十重に彼女を取り囲んでいた。

 如何に英霊とはいえ、一人の意識が制御するには余りに膨大な数。
 しかし、セイバーの宝具『闇と水』はその全てが統率され、かつ個々に鍛え上げられた技量を持って振るわれていた。
 さもあらん。これは単に輩(ともがら)の武器だけを召喚するような、底の浅い宝具ではない。
 それぞれの経験と技量、そして彼ら全てが共有する集団戦術さえも再現し投影する、まさしく『新撰組そのもの』。

 加えて。

「せぇぇいやッ!!」

 刃の攻撃の間断を縫って襲いかかる――剣群と完全に一体化した沖田の突きを、すんでのところでランサーは撃ち落とした。

「なん――のォっ!」

 ランサーは防戦一方だった。単純に手数で劣りすぎる。剣の一つ一つ……一人一人が、鎧袖一触には出来ない程度に腕も立つ。
 だが、ランサーの瞳は決して絶望に染まることは無かった。

 セイバーの一撃を弾き返すや、好機ぞ来たりとばかりに沖田めがけて疾駆する。
 彼女を矢衾……『刃衾』にせんと、襲いかかる剣槍の壁。しかしランサーは止まらない。一陣の暴風と化してそれらを五体が刻まれるのも構わず弾き散らす。
 機関砲の弾幕の如く追いすがる刃に目もくれず、奔る、疾る――。

 『新撰組』の剣術、確かに見事。しかし、一騎を以って当千を為す領域の円卓の騎士を相手どるには、聊か足りない。ランサーは防戦一方であったが、攻勢に転じることが出来なかったわけではないのだ。

 故に、勝負は一撃。

 剣林を潜り、セイバーに肉薄する。
 頭さえ潰してしまえば宝具は即座に機能を停止する。それがランサーの勝機。一方で、セイバーがこれを凌ぎ切れば、背後からの追撃をかわす手立ては無い。心臓を貫かれ、一巻の終わりだろう。

 故に、乾坤一擲。

 最早防御は微塵も考えず、己めがけて一直線に突っ込んでくるランサー。
 セイバーは、その瞳に――かつての自分と、同じ物を見た。





――惣次郎も、やってみるか?

 そう言って、勝太は木刀を寄越した。
 9歳の沖田惣次郎の手には大きすぎる木刀と、それを差し出す島崎勝太の、粗野で愛嬌のある笑顔。

 恐らくは、沖田の全てはその時決まっていた。



 その生涯ほぼ全てを剣を振るうことに費やしながら、沖田総司は別に剣に生きたわけではない。
 剣を振るうことしか、できなかっただけだ。
 頭がいいとは言えなかった。家柄も良くは無い。振りかざすだけの大層な正義があったわけでもない。

 ただ、剣だけが彼が仲間の役に立てる唯一のことだった。

 真昼の太陽のように、何一つ負うことなく彼と仲間を導いた近藤。仲間の為に敢えて誰よりも怜悧な人間に徹した土方。
 沖田より優しかった山南、沖田よりきっと頭の良かった藤堂。二人とも道を違え、その手にかけた。しかしそれでもなお、彼らは互いに家族同然に愛していた。
 原田、永倉、斎藤、山崎……皆、かけがえのない仲間。彼らが、沖田の全てだった。
 たとえ手にした刃が血に塗れても、その命が短く儚かったとしても。
 彼らの為に戦い、死ねたなら、沖田はそれで良かった。たとえ行く先が地獄だろうが涼しい笑みで逝けたに違いない。


 だから、たぶん。
 報いなのだろうと彼は思う。


 死地に向かう土方と、仲間たちについていけなかった。兄に等しい近藤は、その死さえ知らされなかった。

 沖田の最期は戦場ではなく、病床の上。
 彼を殺したのは誰の刀でもなく、身を蝕む病。
 沖田総司は仲間の為に生き、殺し、しかし仲間の為に死すことを許されなかった。

 その無念が、彼を聖杯戦争の戦場に立たせた。
 今度こそ、仲間の為に死ぬために。





(……あぁ。そっか)

 胴丸ごと、ランサーの刃が俺のを貫くのをどこか遠い出来事のように眺めながら、セイバーは自嘲した。

(矛盾してたのは――無為だったのは、僕も同じか)

 仲間と共に戦って、死にたかった。
 だが、その仲間に替えはいない。
 今のマスターに不満はなかったし、彼を嫌ってもいなかったがそれでも、彼は自分の護りたかった仲間ではない。

 彼が欲しかったのは、「新撰組と共に戦い、果てる」最期なのだ。代替など効かない。生き様の問題でもない。
 だから、セイバーの戦いはとっくに終わっていたのだ。千駄ヶ谷の植木屋で労咳に殺された、あの時に。

 彼の仲間は。
 新撰組は死に果てたのだから。
 最早、歴史に綴られるだけになった、あの時代に。

「……何故」

 ランサーは、倒れ伏したセイバーを見下ろして呟いた。

「何故、マスターを狙わなかったのです」

 志摩康一を狙っていれば、ランサーは当然それを守る為に釘付けになる。そもそも一撃の賭け自体を実行に移せなかったかもしれない。
 だが、セイバーは致死的な量の血を吐き出しながらも、笑った。

「彼を殺すなという命令でしたから」

 万に一つでも彼を殺しかねない手は打てなかった。

「命令ならば――その為に敗死しようと構わないと?」

「もちろん」

 欲しかったのは勝利ではなく、存分な戦いでもない。『仲間の為に死ぬ』ことなのだから。
 主の意志に殉じることができるなら、セイバーにとってそれは十全な結果だった。
 それが彼の愛した仲間でなくても、後悔しない程度にはあのマスターが好きだったから。あの愛想のない兄貴分に、どこか似ていたから。

「だから――いいんです。僕は、死力を尽くしました」

 宝具は虚空に消え去り、後に残ったのは死に体のサーヴァントが一人。
 とどめを刺す手も止めたまま、ランサーは彼を見つめた。

「……貴公も、私と同じか」

「そうだったんでしょうね……きっと」

 だから、最後の一瞬、見とれた。
 矛盾を振り払い、今の主を真っ直ぐに受け入れた彼女に後れを取った。彼女に指摘した矛盾を、そのまま抱えて気付きもしなかった自分に勝てる相手ではなかった。

「――終わりにしましょう、ソウシ。貴公の戦いを。貴公の、聖杯戦争を」

 ランサーの言葉に、セイバーは瞼を閉じ、ただ静かに死を――。





 受け入れることを、轟音と共に崩れたビル壁が許さなかった。

「な――っ!?」

 絶句するランサーを、康一が『糸』で無理やり己の傍まで引き戻す。
 倒れ伏したセイバーの姿は、巻き起こった粉塵の中に呑まれて消えた。

「――くっ……」

 代わりに崩れた壁の向こうから現れたのは、額から血を流す空涯と、彼と相対する一人の青年――そして、傍に侍る女。

「……ほう?
 思ったよりは、善戦したと見えるな」

 青年が、その若い姿に似合わぬ呵々とした笑みを浮かべた。
 康一は身構える。――こいつは、ヤバい。姿を一目見ただけで解る、老練な魔術師特有の気配。『邪悪』の臭い。
 そして、何より。

 背後から遅れて現れた『それ』は、どう考えても友好的にも与し易くも見えなかった。
 大地を揺るがさんばかりの巨体。黒く染まった鎧のような筋肉。如何なる獣より凶暴な、その貌。


「■■■■――ッ!!」


 黒のバーサーカー……ヘラクレスが、天を引き裂く咆哮を上げた。


[No.396] 2011/05/24(Tue) 22:48:13

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