コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380] |
└ 天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381] |
└ 透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382] |
└ 崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383] |
└ 神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384] |
└ 神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385] |
└ 神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386] |
└ 少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387] |
└ 血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388] |
└ 血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389] |
└ 神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390] |
└ 暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391] |
└ 少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392] |
└ 螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393] |
└ 赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394] |
└ 血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395] |
└ 血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396] |
└ 血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397] |
└ 血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398] |
└ 義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399] |
└ レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400] |
└ レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401] |
└ レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402] |
└ 赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403] |
柱よりも太い剛腕が唸りをあげる。 空涯はそれを飛び退きながら光輝く球体――志摩家の秘伝、魔術礼装『万能器械』だ――から防壁を生み出してそれを防いだ。 およそ彼に可能な最善の防御策。……眼前の巨人を前に微塵も臆することなくそれを履行したことは掛け値なしに大した精神力だと言っていい。 だが、無意味だった。 「ぬゥ――ッ!?」 およそ人間の魔術礼装如きで止めるには、あまりにも地の出力規模が違い過ぎる。 大砲を至近距離から食らった鋼板のように防壁が拉げ、突き抜けた衝撃が空涯の骨を2、3本へし折って通りの向こうまで吹き飛ばした。 追撃にかかるでもなく、黒の巨人はゆっくりと身を起こし、空涯を見下ろす。 康一と傍らのランサーは、まるで地面に縫いとめられたようにその光景を微動だにせずに見守っていた。 否、正確には。眼前の余りに致死的な存在から、眼を放すことが出来なかった。一瞬でも警戒を怠れば、それが即座に牙を剥くと決めつけたかのように。 「■■■■――――ッ!!」 まるで、彼らの死すべき運命そのもののように。それは、超然とそこに在った。 2m半を超える、鎧のような筋肉の塊。巌のような顔に、獣のような表情を張りつかせたおよそ人類とは思えぬ異形。武器は携帯していなかったが、康一の胴周りより太い腕は下手な鈍器よりよほど致死的な破壊力を発揮する。 黒化英霊。外見特徴から推し量るに、恐らくは第五次聖杯戦争時アインツベルンが召喚したバーサーカー……真名はヘラクレス。 ギリシャ神話にその名を謳われた不死身の大英霊。一般に最強と称されるバーサーカーのクラス、その歴代においてもこの上なしと思われる、『最強のバーサーカー』。 (――……それが、なんで『人間の制御下にある』!?) あれは明らかに昨晩見たアーサー王と同じく、黒化英霊。しかし、勇治らの証言が確かなら強い魔力に反応し無軌道に暴れまわっているはず。 それを制御しているこの男は、何者なのか。 「カカ。……直接顔を合わせるのは初めてよな、志摩の小童」 康一の視線に気づいたように、青年が嗤った。 「……加賀宗造、と名乗ればおよそ解るであろう?」 「湖底市のセカンドマスター……」 「応、その通りよ」 セカンドマスター……即ち、この湖底市の霊場を管理する魔術師。同時に、この聖杯戦争自体を主催する家である。 当然どこかで聖杯戦争に噛んでくるであろうことは予測していた。……が、まさかこんな鬼札を切ってくるとは。 「そこで黙ってみておれ。おとなしくしておれば――」 宗造がくいと顎で示すと、ヘラクレスがその巨体からは信じがたい速度で踏み出し、拳を空涯に向けて打ちおろした。 空涯の対処と結果は、先ほどの焼き直し。違うのは、呻き声を上げる暇さえなく架脚に叩きつけられたという点だけ。 「――後で、楽に殺してやろう」 その人外の笑みに、足が竦んだのを康一は自覚した。 宗造はそれに満足したようで、薄気味の悪い笑みを浮かべたまま空涯を見やる。 黒の魔術師はその着流しをところどころ赤く染め上げながらも、未だ意識を手放してはいなかった。それどころか、戦意さえ失わぬ視線を眼前の敵に向けている。 「無駄な強がりはやめて、サーヴァントを呼んだらどうだ、若僧」 嘲るように言う宗造に、空涯はやはりいつものように、表情さえ変えずに応じた。 「断る」 やれやれと宗造は息を吐く。余計な手間を増やしおって、と言わんばかりの呆れ顔で。 「では、死ね」 短い死刑宣告に従い、ヘラクレスが空涯の身体を片手で掴み上げる。 平均的な成人男性に比すれば頑強な身体だが、かの英霊に比べれば枯れ木に等しい。ヘラクレスが少しでも力を入れれば、粉々に砕け散ってしまいかねない。 「――…………」 康一は、迷っていた。 すべきことなど決まっている。逃げなければ。 こちらの準備が万全だったとしても勝ち目など万に一つもあるまいが、ただでさえこちらは連戦の上に限界まで消耗している。逃げ切れる自信さえ甚だ薄かったが、それでも最善の方策が逃走であることは間違いない。令呪を使ってでもこの場を脱さなくてはならない。 だというのに、空涯が掴みあげられる僅かな間、康一は迷っていた。 ……否、答えは出てきたのだ。ただ、彼が殺されようとする刹那まで踏ん切りがつかなかった。 だが。 「――何の真似だ、小童」 宗造が底冷えのする口調で、振り向きもせずに康一に言う。 視線の先には、空涯を吊り上げる腕に絡みつき、食い込む複数の『糸』があった。 言うまでも無く、康一の所作である。他ならぬ康一自身にさえ意外な……愚行であったが。 志摩空涯が殺される。それだけは、康一の中の何かが看過出来なかった。 子を子とも思わぬ親に、それでも康一の側には一厘の情があったのか。それとも、師を殺した怨敵を横から掻っ攫われることが腹に据えかねたのか。 ともあれ。賽は振られてしまった。出た目は、およそ最悪だったが。 「――何の真似?」 息を大きく吐いた。 もう、後戻りはできない。ならば。 「温いことを聞くじゃないか、加賀宗造」 過失に囚われてはならない。 打ち捨てた逃走の可能性などに縋るべきではない。 「聖杯戦争なんだぜ? マスターとマスターが相対して、することなんて一つだろうよ」 志摩康一の全身全霊は、万に一つもない勝機を、それでも見つけ出すことに向けなければならない。 「カカカ」 宗造は嗤った。 だが、先刻までのそれとは違う感情のこもった響きに、康一は己の挑発が成功したことを確信した。 果たして、宗造が一つ命じればヘラクレスは手にした空涯の身を地面に放り投げる。腕を振るうと、絡みついた『糸』は造作もなく千切れた。 「――よかろう。貴様のような跳ね返りの小童を叩き潰すのは、嫌いではない」 振り返った宗造の視線には、はっきりと憎悪の色が見て取れた。 ● 主の宣戦布告に、ランサーは待っていたとばかりに前に進み出た。 「――ランサー」 康一は、出かかった謝罪を呑みこんだ。 明らかなる愚行だと康一は自身の行動を断じたが、しかしそのことを彼女に謝罪すべきではない。もう二人の関係に方針の齟齬など存在しない。 主の想いは全て従僕のもの。従僕の命は、全て主のもの。 だから、出たのは労いの言葉だった。 「……しんどい戦いになるだろうが、頼む」 「御意」 ランサーの答えは短かったが、それで十分だった。 湧き上がる戦意に剣を握り直し、黒の槍騎士は神代の大英雄に襲いかかる。 「■■■■――ッ!!」 咆哮と共に先手を打ったのはヘラクレスだった。破城鎚の如き拳の打ち下ろしを、ランサーは持ち前の機動力で余裕をもって回避する。……否、余裕をもって回避せざるを得なかった。 「う――ッ!?」 轟音を立てて足元のアスファルトにクレーターが穿たれる。 何という膂力。ランサーも大概剛力の英霊であるが、この巨人のそれは比較にならない。こんな攻撃、掠っただけでもランサーの華奢な身体など引き裂かれてしまうだろう。完全に回避し切っても、風圧で動きが封じられる恐れさえあった。 「でやぁぁぁッ!!」 裂帛の気合と共に、ランサーの反撃。 振り下された刃に、ヘラクレスは反応さえしない。果たして肩口に吸い込まれた剛剣は…… ――ガチン、と。 鈍い音を立てて、弾かれた。 「!?」 驚愕しつつも、ランサーは油断なく飛び退く。一瞬遅れて、ヘラクレスの拳が彼女のいた空間を薙ぎ払った。 完全に回避したはずだが、ランサーの前髪が数本だけはらりと落ちる。 「……くっ!」 多少の焦りは見えたものの、その後のランサーの戦闘行動は悉く精緻にして最善だった。 暴風の如く振るわれる拳を、不慣れな動きで全てを完全回避し、僅かな隙を突いて刃を叩きこむ。 その全弾をヘラクレスは防御する素振りさえ見せずに被弾した。 しかし――有効打は、無い。 「――主。これは……」 「あぁ、宝具だ」 如何に消耗したランサーの剣、如何に相手がかの大英霊とはいえ、在り得ぬ頑強さ。 何らかの宝具の所産と見て恐らく相違ない。 「――『十二の試練(ゴッド・ハンド)』」 それまで口を噤んでいた宗造が、愉快そうに言った。 「常時発動宝具たるバーサーカーの身体そのもの。 生半な攻撃は無効化し、貫いて仕留めたとしても11回まで自動的に蘇生する。そして同じ攻撃は二度とは通じぬ」 ヘラクレスは武芸百般に優れた英雄だが、何より特筆すべきはその不死身さだ。生涯に12の困難な冒険をやり通し、その最期は毒に苦しむも死に切れぬがゆえに生きたまま火に焼かれた。 恐らくは、その逸話とタフネスを顕した宝具。 宗造はその性能を包み隠さず開示して見せた。無論のこと、単なる余裕だ。 そして、確かに。開示されたところで全く破る隙の見つからない、まさしく無双の宝具である。 「ついでに一つ褒めてやろう、小童」 宗造は嘲るように嗤った。 「逃げ出さなかったお前は、正しい。時間をかければ失われた命は11個まで、再補填が出来る」 ……つまり、時間をかけて攻略することさえ許さない。 ここで仕留め切る以外に、康一とランサーに勝機も生き残る目も無い。 「生憎だが、絶望させる間も惜しい。――さっさと死ね」 その言葉に従うように、ヘラクレスの剛腕が再度ランサーに襲いかかった。 [No.397] 2011/05/24(Tue) 22:48:57 |