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No.398へ返信

all コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380]
天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381]
透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382]
崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383]
神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384]
神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385]
神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386]
少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387]
血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388]
血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389]
神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390]
暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391]
少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392]
螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393]
赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394]
血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395]
血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396]
血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397]
血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398]
義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399]
レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400]
レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401]
レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402]
赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403]


血宴の絆Y (No.397 への返信) - アズミ

 攻防は、5分以上も続いた。
 否、『5分も保たせることが出来た』。

「て――りゃあッ!!」

 ランサーの打ち込み……即ち、そのままヘラクレスの被弾……は、優に200を超える。だが、その一つとしてヘラクレスに傷一つつけられはしない。
 宝具を使用しない攻撃では到底ヘラクレスの『十二の試練』を抜くことは出来ないし、ランサーは昼間の三度に渡る宝具の使用で消耗している。時間経過による回復を考慮しても、使えてあと一度。それでもあの聖槍の光では不死身の英雄を複数回殺すには到底足りるまい。
 つまり、詰んでいる。
 ランサーの奮闘は、しかし彼女の体力が切れるまで決着を遅らせるだけの悪足掻きに過ぎない。

(――本当に?)

 その光景を倒れたまま傍観しながら、空涯はそれでも彼らの勝機を探っていた。
 彼の理性が断じている。万に一つの勝ち目などないと。だが――あらゆる仮定要素を付け足し、仮想戦闘を再試行する。

(無理が――あるはずだ。どれだけ聖杯戦争のルールを逸脱しても、魔術の理を逸脱することは出来ない)

 現界している以上、あのヘラクレスの無体な強さにもどこかに代償が伴っているはずだ。
 バーサーカーのクラス故の膨大な消費魔力をどう補うのか。いや、そもそもあれだけの大英雄を狂化させて令呪の制御は効くのか?
 恐らくは先ほどから一言も発さぬ傍らの女が令呪の持ち主と見えたが――。

(――そうか)

 答えが出るのと、ヘラクレスの拳がランサーを捉えたのは同時だった。

「ランサー!」

 康一が『糸』で己を地に繋ぎとめながら、吹き飛ばされるランサーを受け止める。

「が――はっ……!?」

 数歩、踏鞴を踏んでどうにか踏みとどまった。
 ランサーは拳を受ける直前に飛び退いて衝撃を漸減していたが、それでもダメージは軽くなかったと見え、血を吐き出す。

「だ……い、じょうぶか……?」

「――ええ、なんとか」

 だが次は助かるまい。先ほどに比べれば回避行動にも精彩を欠くはず。

「仕上げだ。やれ、バーサーカー」

 宗造の酷薄な言葉に従い、バーサーカーが哀れな獲物に向けて歩を踏み出す。

――今しか無い。

「令呪において命ず――」

 左腕の紋様が、赤く輝く。


「――セイバー。
 志摩康一とランサーを死守せよ」


 崩れた瓦礫の山が、爆ぜた。
 令呪の赤い輝きを引いて、砲弾の如き速度でセイバーがヘラクレスの背に肉薄する。

「――了解です、マスター」

 令呪の助けを得ているとはいえ、満身創痍。だが、セイバーは負傷を微塵も感じさせぬ鋭い剣勢といつもの涼やかな笑みを保持したまま、ヘラクレスに躍りかかった。

「何ィッ!?」

「セイバー!?」

 驚愕する空涯以外の一同に構わず、セイバーは抜刀した刃を番え、必殺の構えを取った。

「『動かねば――闇にへだつや』……」

 かつて、病魔に取り殺されるその前に詠んだ、辞世の句。

「『花と水』――!!」

 それを言の葉で結べば、即ちそれを真名開放として彼の宝具が再び発動する。
 虚空から波紋を広げ顕れ出でた50の刃とセイバーの菊一文字により、ヘラクレスの背中は刃衾と化す。

「■■■■――――ッ!?」

 ついに、ヘラクレスが悲鳴を上げる。
 刃は狙い違わず巨人の急所と、その命を貫いていた。

「まず……一つ!」

「小賢しいわァッ!!」

 宗造の一喝にヘラクレスが動く。
 掴みかかる腕をかわすのは、令呪の助けを失ったセイバーには聊か荷が重い。

「――――ッ!」

 左腕を掴まれた。と、同時に野花でも手折るようにその骨が粉砕される。
 襲い来る激痛。
 しかし、セイバーは呻き一つ上げずに己の左腕を愛刀で――切って落とした。

「なッ……!?」

 誰もが驚愕する中、他ならぬセイバー自身と彼のマスターだけが冷静だった。
 身を翻して剣閃三つ。眼、喉笛、鳩尾を強か打ち据えて間合いを取る。
 如何にダメージが無いとはいえ、眼を塞がれれば視界は効かなくなる。その隙に――。

「空涯ッ!」

 黒の魔術師は、『万能器械』を起動しその身を転移させ始めていた。
 康一の叫びは、多分に糾弾の色を含んでいた。
 逃げるのか。己を慕うサーヴァントを、令呪で捨て駒にしてお前は逃げるのか。
 だが、無論――そんな感傷に、かの魔術師が反応することを期待したわけではない。
 空涯が返したのは一言だけ。

「頚木を外してやれ」

「……?」

 言葉の意図を量りかねて眉をひそめる。

「いかん!止めろ、バーサーカー!」

 宗造が初めて焦りを見せるが、最早間に合いはしない。
 セイバーだけが、穏やかに笑んでそれを見送っていた。


「――去らばだ、総司」


「ええ――お去らば。
 どうか、壮健で……空涯さん」


 空涯を包む術式が、一際瞬いて爆ぜる。
 ヘラクレスの拳を目前にして、志摩空涯はその場から消えて失せた。

「貴様……ッ!」

 宗造は歯噛みする。
 別段、致命的な失点ではない。いずれにせよ大打撃は与えた。ゆるりと追撃し、次こそ確実に仕留めれば良い。……と、思いつつも、激情が沸き立つのを抑えることは出来ない。
 宗造はその魔術師としての起源ゆえに、相手の上位に立ち、勝となれば絶対的優位の上にとことんまで蹂躙することを好む。
 己の描いた青写真を乱されることを嫌うのは、魔術師という人種において比較的普遍の特徴であるが、殊に宗造はそれが顕著であった。
 そして、それが彼にとって問題になることはない。

「――楽に逝けると思うなよ、死に損ないが」

 ただ、彼の機嫌を損ねた愚か者が惨たらしく死ぬだけのことだ。
 だが、セイバーは満身創痍の身体で相対しながら、微塵も臆さなかった。

「望むところです」

 それが悲惨な負け戦だろうが、戴いた主の為に戦い、死ねるのなら。
 それは沖田総司にとって、望外の喜びなのだ。
 沖田は血を滴らせながら、康一とランサーの前に出る。先刻打ち倒された者が、打ち倒した者を護らんと命を張る。不思議な光景だった。

「……セイバー」

「ここは引き受けます。退いてください」

「しかし……」

 感情をさておいても、ここで撤退することはお世辞にも利口な判断とは思えない。『十二の試練』は時間が経過すれば再び命を補填してしまう。たった今、セイバーが片腕と引き換えに奪い取った一つが、無為になる。

「稼げて数刻です。アレをその間に倒す手段を講じてください」

 ……アレを、倒す?
 眉をひそめる康一に、セイバーは振り返ることなく断固として言った。

「空涯さんは無駄なことは一つだってしません」

 ……そうだ。
 奴は、「康一とランサーを護れ」とセイバーに命じた。康一の身体は個人的に必要としているにしても、ランサーの命は先刻本気で取りにかかってきたように、空涯の興味範疇外のはず。
 ならば何故?情や借りではあるまい。そんなものにかかずらうような男ではない。
 ならば、何故?
 ……恐らく、奴は思い当ったのだ。ランサーには、ヘラクレスを倒す手段があることに。

「……解った。退くぞ、ランサー」

「御意……」

 ランサーは渋々といった様子であったが、康一に従った。
 バーサーカーが咆哮を上げたのに合わせ、一度だけ、瀕死の剣士の背を振り返る。

「セイバー」

「はい?」

「私が言うことではないかもしれませんが。
 ……ご武運を」

 セイバーは、くすりと笑ったようだった。

「次があったら、また死合いましょう、ランサー」

 それは、別れの言葉だった。
 主に切り捨てられ、死に体の身体で死地に赴く侍の言葉は、しかしあくまで晴れやかだった。

「あれの命、もう一つぐらいは土産代わりに貰っていきます」



 そして。

 咆哮と轟音を背に、ランサーは主と共に駆けだした。

 



 逃げ込んだのは、先刻の商店街だった。じきに見つかるしお世辞にも安全地帯ではないだろうが、それでも店舗に身を隠していれば暫しの時間は稼げる。
 後退はするが撤退はしない。ランサーの回復と作戦を練る時間は確実に必要だが、しかし敵が回復する時間を与えてもいけない。

「奴を倒す、手段か……」

「諦めるつもりはありませんが……そんなものが、あるのでしょうか?」

 疑わしげにランサーが言う。
 気持ちは解る。理屈抜きにすれば、あのバケモノの不死身ぶりに穴を探すのは無理なように思える。

「だが、ある。必ずあるはずだ」

 空涯が『ある』と判断したのだ。あるのだろう。その点においてはあの魔術師の優秀さは信用していいと、康一は思っている。
 答えはある。しかし、およそ『十二の試練』の性能を見るだに、正攻法で貫くことは不可能。弱点もあるようには思えない。
 ヒントは、無論あの男が去り際に行った「頚木を外せ」という言葉だろう。
 意図は解る。要は、サーヴァントが手がつけられないなら令呪をなんとかすればいい。マスターを殺せば、サーヴァントとて現界は続けられない。黒化英霊にまでその原則が通用するかは未知数……いや分の悪い賭けだったが、それでも制御さえ失えば立ち回りようはある。
 ただ、その程度のことならこれまでに考え付かなかったわけもない。

「ランサー、奇襲でマスターを仕留められるか?」

「……難しいでしょう」

 先刻の攻防でランサーも康一も、宗造にせよ令呪の持ち主と思しき女にせよ、幾度か狙った。
 だが正直言って、あの大英雄の前にはそれだけの隙さえありはしない。悉くが阻止された。
 なにせ、自身の防御を完全に捨て置いていいのだ。他者を庇う余裕は常にあると思っていいだろう。

「その程度であるはずがない。
 セイバーの命まで使ったんだ、あの男の意図がその程度であるはずが――」

 ぶつぶつと呟くそれは、半ば願望も混じっていた。敵とはいえ、あのセイバーが命を捨てて稼いだ可能性。それが、最初から無為と決まっていたなどという結末だけは、ランサーも康一も認められない。
 何か、あるはずだ。ランサーならば出来る、何かが。

「ランサー、ならば……?」

 二つ目のヒントを口に出すと同時に、康一の脳裏にある推論が組みあがった。
 机上の空論に等しい、甚だ曖昧な可能性だが……それが真ならば、勝てる。消耗も関係ない、問題なく遂行できる。
 何度も確認してみるが、現状では金の鎖と言えた。

「ランサー、出るぞ」

 立ち上がった主を、従僕は見上げた。
 依然、状況は危険だがその瞳に迷いはない。

「甚だ……分の悪い賭けだが、降りる選択肢は無さそうだ」

 轟音が、近づいてきている。セイバーとの戦いが未だ続いているかは解らなかったが、見つかるのは時間の問題だ。

「……御意。
 この命、全て主にお預けします」

 これから修羅の巷へ向かう二人は、最後に軽く口づけを交わした。


[No.398] 2011/05/24(Tue) 22:49:41

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