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No.400へ返信

all コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380]
天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381]
透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382]
崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383]
神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384]
神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385]
神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386]
少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387]
血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388]
血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389]
神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390]
暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391]
少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392]
螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393]
赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394]
血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395]
血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396]
血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397]
血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398]
義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399]
レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400]
レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401]
レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402]
赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403]


レアルタ・ヌアT (No.399 への返信) - アズミ

 そこは、最早異界だった。

「なん――だ、これは……?」

――静寂。

 まだ黄昏時だというのに、街を支配するのはただひたすらに静寂。
 ビルの崩れ落ちた通り。路上の血溜まり。それらの異常が瑣事に思えるような大異常。

――静寂。

 街から人が消えるということは、こうも。世界を変えてしまうものなのか。
 これが魔術師が、戦うということ。彼らが遠慮なしに立ちまわるということ――。
 勇治は歯噛みして、周囲を見回した。激闘の後は見て取れるものの、目指す康一とランサーの姿はどこにも見当たらない。
 よくない推測ばかりが浮かぶ。周囲の状況を見る限り、平穏無事に済んだとは思えない。最低一戦はやらかし――たぶん、誰かがここで命を落とした。
 最悪の場合……康一とランサーは既にやられている可能性は当然想定するべきだ。前提として『危機に陥っている』から『助けに来た』のだ。既に彼らが敵を撃退した、と見るのはあまりに楽観的過ぎる。

「アサシン、サーヴァントの気配は」

 と、すれば――彼らを倒した『敵』が、近くに潜んでいる可能性がある。
 だが、返答が何時までも帰ってこない。見やれば、アサシンは一点を見つめて震えていた。猛獣に狙われたウサギのように。
 本来、野干(かるがわ)であるはずの、彼女が。


「カ、カ。遅かったの」

 加賀宗造が、そこにいた。
 傍らには女が一人。否、それはいい――問題は、彼女の前に。

 巨躯のサーヴァントが、一人。

「……黒化バーサーカーか」

 勇治は即座にその正体を見抜き、刀と短刀を抜き放った。『あんなもの』を眼前に出現させておいて、『敵意が無いわけが無い』。
 あれは、抜き身の刃よりよほど致死的な存在だと、勇治は即時に理解した。
 だが。

「――……ご主人様。逃げてください」

 アサシンは身を竦ませたまま、唇だけを動かしてそう言った。
 足りなかった。勇治の認識は、否、恐怖は。――それでもまだ足りなかった。

「ダメだ、まだ康一たちが――」

「逃げなさい」

「――……!?」

 従僕の口から飛び出した『命令』に、勇治は目を丸くする。
 アサシンは未だ竦む身に鞭打って、そんな主を庇うように前に立つ。

「逃げてください、今すぐに。
 私では、あれを相手にどれだけ時間を稼げるかも解りません」

 勇治の認識は甘かった。
 危険な相手ということは理解していた。勝てない相手ということも、あるいは察していた。だが、それでもなお足りない。

 あれは、『逃げることさえ侭ならぬ』理不尽なのだ。

「――本来なら、お前たちなぞ見逃してもよかったのだが、な」

 宗造は不機嫌そうに息を吐く。

「標的を取り逃したゆえ、聊か血を見足りぬ」

 顎で傍らの女に指図すると、彼女に従う巨体がゆっくりと歩を踏み出した。

「悪いが、出来るだけ醜く死んでくれ」

 宗造の口の端が釣り上がるのと、アサシンが呪を結ぶのは同時だった。

「氷天よ、砕け!」

 巨大な氷柱がバーサーカーの全身を包み閉じ込める。勇治が今聖杯戦争で初めてみるほどの高出力での発動。
 しかし――。

「■■■■―――ッ!!」

 バーサーカーが腕をひと振るいすれば、それはまるで飴細工のように溶け、砕かれて粉雪と舞う。
 アサシンはそれを予測していたかのように、さらに呪術を立て続けに編む。

「砕け――、砕け、砕け、砕け、砕けぇぇぇっ!!」

 いずれも選択は呪相・氷天。
 アサシンは端からバーサーカーにダメージを与えることを放棄していた。現に対魔力か何らかの宝具か、はたまた生来の頑強さか……放った呪術は彼に毛ほどもダメージを与えていない。
 故に、氷天。容易く砕かれるとはいえ、その場に障害物が発生する以上、バーサーカーも刹那は動きを止めなければならないだろうという、楽観的で、儚い抵抗。

「カカ、カ。良い。それで良い」

 上機嫌で宗造が褒めたのは、無論アサシンの対応ではない。

「そうやって健気に抵抗してくれてこそ、こちらも溜飲が下がるというもの。
 のう、ぬしら」

 宗造は笑みを深くした。
 勇治は仕事柄、数多の人の理を外れた狂人、魔人を目の当たりにしてきた。
 奈落の底のような底冷えのする笑みを浮かべる者がいた。逆に文字通り鉄で面の皮が出来ているような、決して笑わぬ者がいた。子供のように無邪気な笑みで非道を行う者がいた、見ただけで死を予感する笑みを浮かべる、危険な者がいた。

「容易く壊れてくれるなよ?」

 が。……これほど、醜悪な笑みを浮かべる男は初めてだった。

「■■■■――――!」

 バーサーカーが、動く。今までは『歩いて』いただけだ。アサシンの攻撃を振り払いながら。
 だが、今度は走った。アサシンの攻撃は、最早、刹那の隙を生み出すことにさえ足らなかった。
 大型肉食獣もかくやというほどの速度で必殺の存在が迫る。
 勇治は、その危険を理解した上でアサシンを押しのけて前に出た。彼女の背後に隠れたままでいるという選択肢は、その瞬間に消えて失せていた。

「う――おおおおおっ!!」

 血の滲むような日々の鍛錬で培われた彼の武は、それが無為に終わることを予見した今でさえ完璧にその役目を履行した。
 袈裟がけに人体の最大破壊を狙う太刀と、彼の敵、魔術師の急所たる首を狙う短刀。反撃を許さぬ必殺の一撃。

「――――ッ!?」

 勇治が最初に認識したのは、自分が吹き飛ばされたということだった。アスファルトに叩きつけられ、転がったところでようやく自分が斬撃諸共バーサーカーの拳に薙ぎ払われたのだと理解する。

「がッ――げほっ、は――あ、が……っ!?」

 喉元にこみあげてきた熱い塊をたまらず吐き出す。自分でもぎょっとするほどの量の血が、その場に零れて落ちた。

「ご主人さ――きゃあっ!?」

 勇治に振り向こうとしたアサシンが、バーサーカーの腕に囚われる。
 ともすれば命に関わる傷を負いながらも、サーヴァントの危急にマスターは即座に戦意を再燃させた。

「アサ……シン……!」

 だが、それに応える武器はなかった。
 短刀が見当たらない。どこかに弾き飛ばされたか。太刀は――不死殺しの概念武装は、『へし曲がって』いた。
 一般に良質な刃というものは、過度の衝撃を受けると『折れる前に曲がる』ように出来ている。強固な芯があるため破断しにくく、破断していない限り刀剣は再生が利く。しかし、それにしたところで異常な事態だった。概念武装の刃が容易くへし曲げられるなど、聞いたこともない。

「さて、この女狐はどうするかのう」

 勇治には最早興味を外し、宗造が吊り上げられたアサシンを眺める。

「やはり、ここは皮を剥ぐのが常道か。バーサーカー」

 下卑た笑いが、洩れ出でる。

「犯せ」


 脳髄が、熱を持つのを感じた。
 戦闘戦斗の只中において、激情は常に無駄であり、弱みであり、時として命取りになる。勇治はそう教わってきたし、努めてそれを封印してきた。

「放、せ……!

 だが、長きに渡る精神鍛錬もこの時ばかりは無為に帰した。

「汚い手で……」

 沸点を振り切り、脳漿が気化せんばかりの怒りに、勇治は全てを委ねた。


「タマモに触れるな、爺――ッ!!」


 へし曲がった太刀さえ投げ捨てて、勇治は走った。
 蛮勇ですらない無謀だった。あの怪物相手に武器もなしでは、自殺以外の何物でもない。
 だが、『それが正しかった』。


「そのまま走れ、天川!」

 声が響く。
 言われずとも。勇治は腰を落とし、さらに速度を上げた。
 熱を持った脳髄は嘘のように冷えて澄み渡った。激情に任せて踏み出した脚は、洗練された歩法によって韋駄天の如く地を駆ける。

「偽・神殺槍!」
(スピアレプリカ・テスタメント!)

 ビルの上から稲妻の如く襲いかかった神殺しの宝具が、アサシンを捕らえるバーサーカーの腕に突き刺さり、爆ぜる。

「■■■■――ッ!?」

 たまらず、掴んだアサシンを手放した。勇治は触れなば即座に死を振り撒く巨凶を前に、しかし全く速度を落とすことなく己がサーヴァントを抱き上げる。
 バーサーカーの視線が、二人を向いた。追撃が――。

「させませんッ!!」

 黒い鉄塊がバーサーカーの顔面に突きささる。
 武器ですらない、黒い籠手に包まれたただの拳だった。ダメージなど無論あろうはずもないが、しかし被弾したサーヴァントの注意は当然、攻撃の主に向く。

「はァッ!!」

 身を翻しての追撃三蓮。
 如何にダメージが無いとはいえ、眼を塞がれれば視界は効かなくなる。あの男が教えてくれた、数少ない有効戦術。
 生まれた隙に乗じて勇治と、黒籠手の主はバーサーカーから間合いを取った。

 勇治らを救ったのは――。

「ランサー……康一!」

「悪い、遅くなった」

 まさしく、探しに来た康一とランサーだった。幸いにして、生きていたのだ。
 だが、無傷では済まなかったらしい。二人とも戦闘の継続さえ危ういほど、満身創痍だった。

「――カ。そのまま逃げ回っておれば良いものを」

 新手の出現に、しかし宗造は嗤う。

「セイバーも犬死にだったな」

 死者を嘲るその言葉に、気配を強張らせてランサーが前に出た。康一はたしなめる気はなかった。
 相手がどれだけ絶望的に強くても、ここは戦わねばならない。逃げるという選択肢はあってはならない。この敵の存在を、許してはならない。
 全き愚行だが、康一はそれを敢えて冒す気になった。そして、それを決めたのならば、もはやその『過失』に囚われない。
 見つかっている勝ち目に、この命までも賭けるだけだ。

「手筈通りだ。
 ケリをつけるぞ、ランサー」

「承知しました、マスター」





Sword, or death
―――――――――――――
with What in your hand...?

Flame dancing,
Earth splitting,
Ocean withering...


[No.400] 2011/05/24(Tue) 22:51:33

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