コテファテ再録4 - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:33:01 [No.380] |
└ 天幕模様Y - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:33:40 [No.381] |
└ 透る射界Z - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:34:18 [No.382] |
└ 崩壊境界T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:37:01 [No.383] |
└ 神王の息 - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:37:44 [No.384] |
└ 神王の息U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:38:14 [No.385] |
└ 神王の息V - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:41:44 [No.386] |
└ 少女偽曲X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:42:26 [No.387] |
└ 血宴の絆T - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:03 [No.388] |
└ 血宴の絆U - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:43:40 [No.389] |
└ 神王の息X - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:44:28 [No.390] |
└ 暗く蠢くU - ジョニー - 2011/05/24(Tue) 22:45:10 [No.391] |
└ 少女偽曲Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:45:49 [No.392] |
└ 螺旋血管T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:46:21 [No.393] |
└ 赤色偽剣T - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:47:00 [No.394] |
└ 血宴の絆V - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:47:39 [No.395] |
└ 血宴の絆W - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:13 [No.396] |
└ 血宴の絆X - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:48:57 [No.397] |
└ 血宴の絆Y - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:49:41 [No.398] |
└ 義侠舞曲T - きうい - 2011/05/24(Tue) 22:50:45 [No.399] |
└ レアルタ・ヌアT - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:51:33 [No.400] |
└ レアルタ・ヌアU - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:52:47 [No.401] |
└ レアルタ・ヌアV - アズミ - 2011/05/24(Tue) 22:53:21 [No.402] |
└ 赤色偽剣U - 咲凪 - 2011/05/24(Tue) 22:53:57 [No.403] |
ヘラクレスの心は、痛みに埋め尽くされていた。 理性を奪われ、感情の大半を奪われ、記憶を塗り潰され。当然のように、彼の精神に残されたのは痛みだけだった。 彼の命は、常に痛みと共にあった。 望まずして与えられた不死。英雄たる宿命が鍛え上げた鋼の精神は、神も臆する数多の試練を課せられてなお、決して失われも壊れもしない。 故に、彼は常に痛みに苛まれた。 彼の命は、常に痛みと共にあった。 神に疎まれ、血を分けた兄弟に恐れられ、我が子をその手で殺し、友の裏切りに晒され、最期は妻の嫉妬に殺された。 幾度も斬られ、突かれ、裂かれ、焼かれた。随時に傷つけられ、常時に殺されかけた。 それでも、死ぬことは許されなかった。 不死身であるがゆえに、彼は常に痛みに晒され続けた。 「また逃しても面倒よの。 念入りに殺せ、バーサーカー」 痛みに埋め尽くされた彼の中に、一つの命令が投ぜられる。 泡が投石に吸いつくように、彼はそれにしがみ付いた。それ以外に、この全身を覆う、黒い澱のような痛みから逃れる手段が無かった。 「■■■■■■■ッ!!」 咆哮する。 衝動に任せて振るった拳は、しかし身体に染みついた技巧で以って運用され、眼前の女騎士へ向けて振り下された。 それをかわされても、ヘラクレスは何も思わなかった。命令は果たされていない。ならば、続けるだけだ。『念入りに殺し切るまで』、拳を振るうだけだ。 「なんのッ!」 だが、暴風のように荒れ狂う彼の破壊に、相手は一度として捕まらなかった。 反撃が、幾度か来た。 肩口を、腰を、脳天を刃が打ち据える。 痛みが、ヘラクレスを襲った。傷一つつかなくとも、痛みは生まれる。過去の経験を元に、身体が危険信号として脳髄に痛みを寄越してくる。 「■■■■―――ッ!!」 咆哮する。 泣き叫ぶことはない。痛みに流す涙は、赤子の時分に枯れ果てている。 だから、拳を振るう。正気にあってさえ、彼の生き方はそれに尽きる。痛みに追い立てられ、敵を打ち砕くまで戦い続ける。 それが、彼の生き方全てだから。 ランサーはその全てに、対応して見せた。ヘラクレスに心が残っていたなら、感嘆したであろう戦いぶりである。 技巧も及ばぬ、力も及ばぬ、だがその上で精神で以って足りぬ領域を全て埋め尽くして見せる、そんな奮戦。 砕けた氷で白く染まった世界で、彼女はヘラクレスの猛攻を実に一刻もの間、凌ぎ続けた。 だが、限界は来る。 「ぐっ――!?」 ヘラクレスの拳が、肩口を掠った。鎧諸共、肉が浅く抉り取られ、衝撃で大きく飛び退がる。 とどめだ。 追撃を加えんと踏み出すヘラクレスに、しかしランサーは……賞賛を送った。 「――――強いな、貴公は」 何気ない一言、だったのだろう。 だが、その言葉が痛みに塗りつぶされたヘラクレスの心を、激震を以って揺るがせた。 とうに埋もれてしまった記憶の山から、黄金のように輝く一片の情景が顔を覗かせたのだ。 白く染まった世界で。 銀の髪の少女は彼を見上げ、か細く儚い声で、言った。 『―――バーサーカーは強いね』 ● 「■■■■■■――――ッ!!」 ヘラクレスは。 否、『バーサーカー』は咆哮をあげて拳を止めた。 「何をしておる、バーサーカー!」 宗造の叱責にも応えない。 浮かび上がった記憶の残滓に命令を乱されたのか。それとも、奮起した自我が痛みに負けてはならない、と命じたのか。 ともあれ、それは絶対の隙だった。 「――泣いているのですか、ヘラクレス」 剣を構えたランサーが浮かべたのは、憐れみの貌だった。 眼前の、己を殺さんとする不死身の怪物が、しかし彼女には苦痛に泣き叫ぶ童に見えた。 否。 『そう』なのだろう。 英雄とは、誰も。 宿命に押し潰される、力なき童のようなものなのかもしれない。 「聖槍よ――救済の時が来た」 掲げた聖杯の剣の上を、ランサーの指が撫ぜた。 「ヘラクレス―― 古今無双の大英雄よ、安らぎ給え」 忽ち、砕けた刃は四散し、虚空に光の霧と化して広がってゆく。 「――今こそ、その傷を癒しましょう」 そして。 ランサーの姿が、光に包まれた。 ● ……やがて、パーシヴァルは森の中で目覚めた。 そこは懐かしいウェールズの森にどこか似ていて、しかし決定的にそれよりも美しい場所だった。火宅の如きこの世界には存在し得ぬ、約束の地の如く。 いや、あるいは本当に。 それは全て遠き、あの理想郷であったのかもしれない。 「卿――。 パーシヴァル卿」 彼女の眼の前には、あの乙女がいたのだから。 最早仕えること叶わぬ、王。 粗暴な彼女を抱擁し讃えてくれた、麗しの人。 その御前に、パーシヴァルは傅いていた。 夢だ。 幻だ、嘘だ、偽りだ。 彼女は、もう戻ってこないのだから。ここは、この世界に在り得ぬ場所なのだから。 それでも、パーシヴァルは感謝した。 この、幸福な夢に。 「――立ち上がれるか、卿。 この手を取る、覚悟はあるか?」 差し伸べられた手は、武骨な籠手に覆われていた。 手だけではない。その美しい全身に、乙女は傷だらけの鎧を纏っていた。 ――この手を取る、覚悟はあるか。 王の偽りを纏う覚悟はあるか。彼女の虚構に、追いつく覚悟はあるか。 ■■■■■■に、なる覚悟はあるか。 「……無論です、アルトリア」 少女は、微笑んでその手を取った。 「あなたの言葉を、違えるわけには参りません」 たとえ王たる彼女に忠義を貫き通せなくとも、乙女たる彼女の信義に背く訳にはいかない。 それでよい、と乙女は微笑んだ。 ――そなたは、騎士の華となる人なのだから。 ……かくて、騎士王は目覚めた。 [No.401] 2011/05/24(Tue) 22:52:47 |