コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404] |
└ 赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405] |
└ 赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406] |
└ 天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407] |
└ 装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408] |
└ 天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409] |
└ 天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410] |
└ フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411] |
└ 天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412] |
└ 風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413] |
└ 莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414] |
└ 夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415] |
└ 赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416] |
└ 夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417] |
└ 夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418] |
└ 夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419] |
└ 夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420] |
└ 赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421] |
└ 夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422] |
└ 夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423] |
└ 夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424] |
└ 血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425] |
└ 安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426] |
ずるり。 ずるり、ずるり。 「が――、は……はァ……ひ……」 それは彼が這いずる音であり、同時に彼が削れていく音でもあった。 (こんな――何故、儂がこんな――) 加賀宗造は、生きていた。 肉体の大半は灼かれ、砕かれ、塵に還ったが――そもそも、彼にとって身体の大半は彼の子孫……加賀弓の弟として生を受けたモノの部品である。執着も無いし、切り離したこと自体が彼の命を即座に奪うものではない。 頭部と、脊髄と、腕だった部位のなれの果て。それだけで、彼は生き延びていた。 ずるり。ずるり。ずるり。 「ぎ――ぐゥ……あ、あぁ……!」 だが。ゆえにこそ、身体を捨て去った今、彼にあるのは『己』だけだ。 このずるりという音は取りも直さず、200年以上も営々と保持し続けてきた『加賀宗造』の身体が削れる音。彼の最後の領地が、崩壊していく音に他ならなかった。 (死ん……で……なるものか) 耐え難い苦痛に呻きながら、なおも宗造は這いずる。回復の手段が用意されていない以上、所詮は絶望的な道行ではあったが、それでも彼は生への執着を手放すことが出来なかった。 死んでなるものか。死にたくない。死にたくない。死にたくない。 根源に辿りつくまでは。「」に至るまでは。 「――浅ましい、とは言うまいよ」 彼の前に立ち塞がる者がいた。 一つだけ残った眼球をぐるりと回して、それを見る。 「だが……醜い。因果を弁えぬ輩は主の御許に逝けんぞ、老醜」 異装のサーヴァント。志摩空涯の小聖杯。 「セ――い、ヴぁァァァ……!」 発声器官は既に破壊し尽くされていたが、それでもいずこからか――あるいは、魂の震えか。 宗造は、それの名を呼んだ。 「う――ィ……者ォ……」 「あん?……あぁ、『裏切り者』か。 いよいよ末期(まつご)だな、宗造。貴様がそんな台詞を吐くとは」 セイヴァーは肩を竦める。 「誰も信じていない貴様に、『裏切り』などという概念はあるまい」 それは、今更他者が指摘するまでもないことのはずだった。宗造の魔術師としての起源に拠る志向。それは、誰より彼自身が理解している理のはず。 それさえ忘れて呪詛を吐く姿に、セイヴァーは末期を感じ取った。 「貴様の起源は『侵略』。他者を貶め、己の『物』とするが常道。 故にこそ、貴様は他者の力を拒絶した」 加賀宗造は、他者を拒絶する。 利用することさえしない。況や信頼などなお在り得ない。彼にあるのは、侵略だけだ。打倒し、凌辱し、自我を奪い、己の物とする。そこで初めて使う価値を見出す。 そういう彼だから、サーヴァントにさえ手を出さなかった。システムの構築者である彼は、誰より早くサーヴァントを召喚できたはずなのに、令呪による制御、狂化や黒化による理性の喪失ですら不満とした。 その全てを以って「個」を奪い尽くした最強の駒で、ようやく彼は聖杯戦争への参戦に踏み切ったのだ。 「だから私の制御を奪われなどするのだ、莫迦め。 その様を何故と問うなら、全て貴様のその所作が因よ」 セイヴァーに最初に出会ったのは、加賀宗造であった。 召喚したわけではない。イレギュラーと同じく、彼は聖杯戦争の進行によって反作用的に生み出されたシステムの一端。システムの側から用意された小聖杯。 だが、彼はその存在を良しとしなかった。令呪で縛ることは出来たが、それさえ良しとしなかった。 意志の介在する道具など、断じて認めなかった。況や他者など存在自体が彼には不要だった。 だが、代替の小聖杯を用意するまでの隙は致命的といって差し支えなかったのだ。少なくとも志摩空涯に奪取されるには、充分過ぎた。 「…………」 宗造の動きが、止まる。 それがこの事態の因ということに、宗造は異論なかった。――己の道さえ曲げる魔術師に、根源への道筋など在るはずが無いから。 「……見たいか、根源の渦が。始原の理が」 セイヴァーの言葉に、宗造がびくりと震えた。 最早ロクに思考も出来ない有様であったが、それでも彼は至上目的だけは忘れていなかった。 「た……ィ! ……かラ……こンげん……!」 その対応に、セイヴァーは頷くと、あの聖杯の描かれた旗を虚空から取り出し――ひと振るいした。 「あ――ァ、あ……!?」 アスファルトの地面に、波紋が走る。 瞬間、赤の水面と化したそこに、宗造がゆっくりと呑みこまれていく。 「特等席だ――ゆるりと観て、理解しろ。 ……もっとも、その時にお前は『加賀宗造』ではなくなっているだろうが」 セイヴァーのその通告を結びに、宗造の姿が水面の下に融けて、消える。 セイヴァーが旗をもうひと振るいすると、水面が消えて失せ、その場は元の路地裏に戻った。 「消化に悪そうな爺さんだな。 大丈夫か?あんなの放りこんで」 背後からかけられた声に、セイヴァーは振り向く。 彼の……とりあえずの、であるが……主ではない。 Yシャツに黒のスラックス、そしてワイン色のベストを着た青年。……一見して、それはバーテンダーのような格好に見えた。歓楽街の近くであることを考慮すればそう奇矯な格好ではないが、サーヴァントに相対するにはやや場違いと言わざるを得ない。 「『兎』」 「今は宇佐木安澄で通してる」 「知るか」 この男はしょっちゅう名前を変える。いちいち付き合っていては記憶力がいくらあっても足りないことは、セイヴァーも短い付き合いで悟っていた。 「何ぞ、用か」 「いや、宗造んちでね。これ、見つけたんで」 懐から芝居がかった……さもなければ手品師のような仕草で、『兎』が2枚のカードを取りだす。 ライダーとアーチャーのクラスカード。 「盗んだのか」 「やだなぁ、もともと俺の物だって。……まぁ、一応断り入れようかと思って来たんだけど」 悪びれもせずに言って、カードを懐にしまい直す。 「無駄足だったな」 「まァ、ね。……どうだい、『中身』の溜まり具合は」 「あと二人か三人、といったところだな」 陣中旗を見上げて、セイヴァーが言う。描かれたただの意匠に過ぎぬはずの聖杯には、先刻と違って赤々とした中身が書き加えられていた。 「は――そりゃ、僥倖。概ね予定通りってわけだ」 「うむ」 セイヴァーが首肯する。 『兎』のおどけるような笑顔とは対照的に、その貌は珍しく真面目くさったような無表情。 「……間もなく、聖杯はこの湖底市に顕現する」 [No.408] 2011/06/02(Thu) 20:24:03 |