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No.410へ返信

all コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404]
赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405]
赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406]
天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407]
装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408]
天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409]
天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410]
フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411]
天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412]
風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413]
莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414]
夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415]
赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416]
夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417]
夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418]
夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419]
夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420]
赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421]
夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422]
夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423]
夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424]
血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425]
安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426]


天幕模様[ (No.409 への返信) - アズミ

 勇治らのホテルに仮の寝床を設け、約16時間……康一は泥のように眠った。
 そして、聖杯戦争開始の宣言から4日目の、昼。





 ――もともと、手荷物さえ持たない身で転がりこんだのだ。準備は、速やかに終わった。

「行くのか?」

 コートを羽織った康一に、勇治は壁に背を預けたまま言った。
 流石にばつの悪さを感じて、肩を竦めて返す。

「一応、敵に戻ったんだ。敵陣でぐーすか眠りこけてるわけにも、いかんだろう?」

 片手には、月からのメールの本文を表示した携帯電話が握られている。
 内容は、聖杯戦争の再開を期す知らせ。
 ヘラクレスの撃破から16時間が経過して後、月はどういった手段によってか宗造が黒化アーチャーと黒化ライダーを仕留めていたことを突きとめ、黒化英霊全駆逐を一先ず康一、マリナ、勇治らに連絡してきた。追って他のマスターへも連絡が取れ次第、聖杯戦争は正式に再開が宣告されるだろう。
 それは取りも直さず、彼らの同盟が破棄される時が来たことを示している。

「……敵、か」

 勇治の様子は、心底残念そうであった。たった1日半の同盟とはいえ、3度の死線を潜った仲だ。情が沸かないわけではないし――何より。勇治は、ついぞ康一に二度の借りを……命を助けられるほどの借りを作って返すことができなかった。
 借りを作ったまま、命の奪い合いをする仲に戻ろうとしている。それが、無念でならなかった。

「そんな顔するなよ」

 康一は自嘲気味に笑った。勇治の感情は非合理で陳腐であったが、解らないでもない。全く魔術師にあるまじきことであるが、解らないでもなかったのだ。
 だが、なぁなぁで終わらせるわけにはいかない。

「俺もお前も、この戦争を譲るつもりはないんだ。そうだろう?」

「……あぁ」

「なら、これは必要な手順なのさ。通すべき筋なんだ」

 未だ消耗の重い身体のまま勇治らのホテルを出て、七貴邸に戻る。
 ここに来る以前に勇治が指摘した通り、幾許か危険な行為ではあったものの、敵対関係に戻った以上はその懐で甘えるわけにはいかない。
 勇治らが自分を襲うとは康一とて思わないが、それでも宣戦布告の代替として、ここを出ていくのは必要な儀礼だった。

「ランサー、カードを」

 呼ぶと、部屋の外から音も無く騎士は姿を現した。彼女は用件を察していたのか、懐から一枚のカードを取りだす。

「――ここに」

 バーサーカーのクラスカード。死闘の末にヘラクレスを脱落させたランサーの下に、このカードはやってきた。
 だが、康一らにクラスカードは扱えない。ランサーにとって格別の思い入れのあるセイバーのカードはともかく、それ以外は勇治に渡して構うまいと、康一は思った。
 しかし、勇治は首を振ってそれを辞退する。

「……お前たちが持っていてくれ」

「いいのか?」

 そもそも、それを目的として彼らはこの戦争に首を突っ込んだはずなのだ。バーサーカーどころか、本来ならセイバーの引き渡しさえ要求すべきところなのだが。

「お前たちに勝って、戴く。それが『通すべき筋』だ。そうだろう?」

 勇治の言葉に、康一は口の端を上げて肩を竦めた。そう言われては、成程辞退は出来ない。
 あるいは、彼なりに借りを少しでも返そうとしたのかもしれないが。

「……オーライ、預かっておこう」

 康一はランサーを伴って、部屋を出た。アサシンはドアの脇で、何も言わず小さく礼をし二人を見送る。
 そのまま、無言で通そうとお互いが思ったに違いない。重苦しさはなかったが、張りつめた緊張がその場にはあった。
 だが、ランサーだけが去り際に口を開いた。

「また会いましょう、アサシン」

 その言葉に、狐耳のサーヴァントは苦笑した。

「次は殺し合うのに、ですか?」

「だからこそです」

 ランサーは確と頷いた。
 殺し合いなればこそ。相手は見知らぬ敵よりも、一度は轡を並べた相手のほうが良い。
 それが、騎士の情だ。

「……はいな、解りました。
 また、会いましょう」

 アサシンはそんな心理を解する女ではなかったが、仕方ない、といった様子で肩を竦め、承諾した。
 ランサーは満足げに頷くと、主に続いて廊下を進んでいく。


「……厄介な敵を作っちゃいましたねぇ」

 アサシンの吐いた嘆息に、勇治はただ頷いて返した。





 ホテルを出ると、そこにはマリナが待っていた。
 ライダーの姿は見えないが、恐らく霊体となって傍にいるだろう。
 康一は軽く手を上げて挨拶に代える。

「大変だったみたいね」

「お互いにな」

 大方の状況は昨晩の内に既に電話で交換し合っている。
 ライダーがキャスターを退けたこと。加賀円が工房に来訪し、招き入れたこと。
 セイバーが脱落したこと。黒化バーサーカーと、そのマスターを下したこと。
 ……そして、勇治らとの同盟が、解消されたこと。

「……その、部外者を工房に入れたことなんだけど」

 ばつが悪そうに言うマリナに、康一は首を振った。
 恐らく勝手に『自分たちの』陣地に部外者……それも、一応は敵方の人間……を入れたことを、事前の連絡でも彼女はしきりに謝罪していた。
 だが、康一としてはそれを糾弾する気も資格も無い。

「『お前の工房』なんだ、好きにすりゃいい。相応の警戒はしてるんだろう?」

「そりゃ、ね」

 康一を招き入れたように、普通、工房には外部の人間を引き込むことを前提とした領域も当然用意されている。
 円が通されているのも、確かにそこだ。妙なことをすれば即座に対応は出来る。

「なら、いいさ。こっちゃ居候の身だしな。
 ……細かい話は後にしようぜ。まだ疲れが残っててな、さっさと寝たい」

 正直なところ、ほとんど空に等しいほど消耗した魔力は未だ回復しきっていない。今すぐその場に倒れこんでしまいたいほどの疲労となって康一を苛んでいる。
 これから1時間弱もかけて七貴邸に向かうのが億劫でしょうがなかった。

「……そうね。それは全く同意だわ。……でも、一つだけいい?」

「ん?」

 マリナは、康一の傍らにいるランサーに視線を向けていた。
 鎧は消しているが、髪を結い上げたため昨日に別れた彼女とはひどく印象が異なって見えるだろう。
 あぁ、そういえば何故霊体化していないのかも後で説明せねばならないが――。

「そっちの、本当にランサー?」

「あー……」

 康一は頭を掻いた。
 本当に、ランサーか。それは難しい質問と言えた。真名さえ違えた以上、確かに昼間とはある意味で、同一英霊とさえいえないかもしれない。
 だから、康一もまたランサーに問うた。

「どうなんだ、ランサー?」

 ランサーは暫しきょとん、と康一を見返していたが、やがて柔和な微笑みを以って彼に返してきた。

「……ええ、主。
 私は『あなたのランサー』です」


[No.410] 2011/06/02(Thu) 20:25:25

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