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No.414へ返信

all コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404]
赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405]
赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406]
天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407]
装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408]
天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409]
天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410]
フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411]
天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412]
風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413]
莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414]
夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415]
赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416]
夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417]
夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418]
夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419]
夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420]
赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421]
夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422]
夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423]
夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424]
血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425]
安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426]


莫逆神王 (No.413 への返信) - アズミ

 湖底市郊外の廃モール。

 魔力、地脈の力の漏れ出る様を見て、橋口凜土はため息を漏らした。

 「ここに魔術師がいますよ。」

 そう知らしめるような行動は、魔術魔法の「神秘性」を損ねるとして、厳に自重すべき事態だ。

 「なんだかよくわからないもの」への畏敬と恐怖が、「なんだかよくわからないもの」への力を与えている。

 魔術師としては、「なんだかよくわからないもの」は表に見せてはいけない。
 うっかり把握され、分析され、「これはこうだ!」と分解(バラ)された日には、それに関する「神秘性(ミステル)」は失われる。
 「人が未知であること」その現象を、その概念を、そのまま集めて煮て漉いて、魔力の根源にしているという土壌があるのだ。

 未知が未知でなくなると言うことは、魔力魔術の根源が弱ると言うこと。それを魔術師は危惧している。


 比して。
 己の道術を秘することもなく、廃モールの防備に使う魔術に(罠を除き)隠匿を行わなかった。
 道術を求める橋口圭司にとって、ミステルの『消費』になど興味はない。
 「人は、至るべきところに至れば、超人となれるはずだ。」
 ただそれだけである。

 全ての人間が、運と努力で人間を超えられる。

 それが圭司の『真理』であった。

 「人に知られていないから力を持つ神秘性(ミステル)の保持」など、圭司には醜悪な既得権益競争にしか見えなかった。
 そんなものが無くとも、人は偉人になれる。
 正しき道を歩めば、それぞれに求めるものが生まれ、意味のある道程が刻まれる。

 その結果として、ミステルが人の科学で解析されることがあろうとも、それは喜ばしいことだとすら考えている。

 つまるところ、彼、橋口圭司は、魔術など知らない普通の人の普通の研究成果が世界を暴くと信じているのだ。

 人が全てを知る「約束の日」を夢見る橋口にとって、魔術師がかたくなに守る神秘性(ミステル)など、無駄な抵抗にしか見えなかった。


 そもそも、廃モール周辺の結界は、半ば他のクラスを呼び込む意味もある。隠さない理由がないこととは別に、あからさまにしておくための理由もあるのだ。


 「とは言え、警戒心を呼び込むのは如何なものか。」

 橋口凜土が、甥っ子の前へと着地する。続いてキャスターがバーサーカーの前に。
 刷いた剣の柄に手を添えるバーサーカーを、橋口圭司はそっと手で制止した。

 「何の用だ。」
 「協力関係を提案しに。」

 小太りの体を揺らして、凜土はにこりと笑った。


――――

 「なるほど?防御が俺らで、攻撃がお前ら。」
 「そういうこと。」

 橋口凜土の提案はごく単純。
 『死者の書』による機動性能とキャスターの遠距離攻撃魔術で、
 バーサーカーの欠点を補おうというわけだ。

 「それが『お土産』か?」
 「んーーーー。」

 凜土はわざとらしく考えて見せたが。

 「そうだね。そう思ってもらって構わない。」

 語弊はあるけれど、ということを言外に含めて答えを返した。

 「……何故だ。」
 「ん?」

 疑問を呈したのは圭司。

 「兄ちゃんにとって俺は親の敵のはずだ。」
 「そんなのどうでもいいよ。」

 凜土はあっけらかんと応える。

 「実際、お父さんは何も知らずに生きている。
  敵も何もない。」
 「でも俺は、」
 「君が爆弾を抱えているのは知っている。
  けれど、これは聖杯戦争だ。
  人質は死ぬか解放しかない。
  その選択肢の中で、お父さんに被害が及ぶ未来はあり得ない。」
 「……。」

 橋口凜土は、バーサーカーの逆徒掌握能力を正確に把握していた。

 悪政、侵略を為す輩に対する反感を高め、煽り、自分を頂点に洗脳する。
 統率と支配には、「支配されている者全てが同じ方向を向いている」必要があり、
 それが瓦解した瞬間、バーサーカーの影響力は途切れ、人は正常な判断力を取り戻す。

 人質が死ぬ、とは、バーサーカーの支配下に置かれたまま死ぬことであり、
 人質が解放されるとは、バーサーカーの支配から外れ、意のままにならぬただの人に戻るということだ。

 この過程の中に、義憤の目標である橋口凜吾への襲撃行為は存在しない。
 支配者であるバーサーカーには特に襲撃理由はなく、
 支配を外れた人にも襲撃理由が消える。

 結果、橋口凜吾に実害が及ぶ可能性は限りなく小さい。

 「怒ってはいるけどね。」
 「……すまん。」

 小太りな凜土に、大柄な圭司が頭を低く下げる。

 「だから。
  より効率のいい聖杯戦争の進め方を提案しに来たのさ。」
 「マスター。」

 バーサーカーが口をはさんだ。

 「この話、乗るのですか。」
 「いい話だと思うんだけどねえ?」
 「あなたには聞いておりません。」

 キャスターのマスターにぴしゃりと言い、自分のマスターに向き直る。

 「……もし断ったら?」
 「場所を変えてもらうことになるかな?」
 

 キャスターのマスターの遥か背後、細い声で詠唱が聞こえていた。

 「――――今正に洪に遇(あ)いたり。
  ――――天に三十六、地に七十二、
  ――――恕�助掾iこうさつ)の星、輝くべし。」

 バーサーカーの詠唱はやはり、遅きに過ぎた。


 「――――来たれ、輝く満天の中へ」
 
 キャスターの詠唱が終わると、辺りは白い光に包まれた。


――――

 「驚いたな。地形丸ごとAbductionかよ。」

 ドーム上の光り輝く空間で、橋口圭司が漏らした。
 砦としていた廃モール、集まっていた一般人達の車、その下の地面のアスファルト。
 それら全てをスプーンで掬ったように、機械音と光の空間の中に置かれていた。

 「余り長い間召喚はできないんだ。
  時間が過ぎれば、君らは時間と空間の向こう側へさようならしてもらうことになる。」

 バーサーカーが剣を構えると、いつの間にか背後に立っていたキャスターがウアス杖でその剣身を引っ掛けた。

 「……っ!!」
 「お前らは!」
 「いつでも降りられる。」

 敢えて『死者の書』は見せずに、凜土は言った。

 これはお願いではない、脅迫だ。圭司はそう感じ取り、ため息をついた。

 「分かった、砦を使わせてやる。」
 「主!?」
 「だから、元の場所に戻してくれ。頼む。」

 圭司が頭を下げると、凜土は実に、実に満足そうに笑った。

 「ああ♪」


――――

 気付けば、先ほどまであったままの廃モール。
 電気も点き、欠員も無し。暗闇の駐車場に車が並び、
 魔術的結界も残ったまま。

 「どうかな?」

 頬杖をついて、橋口凜土が訊く。
 答えはわかっている、と笑って。

 「……わかったよ。」

 圭司の返事に、凜土は笑みを一掃に強く深くした。

 「但し。こちらにはこちらが張った罠や計画がある。
  それを壊す真似はやめてもらう。」
 「わかった。
  じゃあ、教えてくれ。」

 マスター同士がノートを介して作戦会議を始める中、
 バーサーカーとキャスターは将棋を指しているのであった。
 

 「……無能の無為の不義の王が。」
 「折れよ砕けよ降参せよ、逆徒め。」

 鼻血を出しながら食らいつくバーサーカーと全身にネバついた汗を流すキャスターの、
 全生涯をかけた戦いが盤上に繰り広げられていたが。
 それはまた別のお話。


[No.414] 2011/06/02(Thu) 20:28:25

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