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No.415へ返信

all コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404]
赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405]
赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406]
天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407]
装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408]
天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409]
天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410]
フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411]
天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412]
風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413]
莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414]
夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415]
赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416]
夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417]
夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418]
夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419]
夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420]
赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421]
夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422]
夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423]
夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424]
血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425]
安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426]


夢城の主T (No.414 への返信) - アズミ

 五日目、夕刻。

 待ち望んだ知らせを受け取り、背を壁についたままパトリツィアは瞼を開いた。

「教会から知らせだ。本日只今より聖杯戦争を再開する」

「ようやくか」

 開いたメールの文面をアーチャーに示すと、彼は待ちくたびれたように一つ伸びをして、愛用の弓に弦を張った。
 狙撃手にしては大胆極まる行為だが、いずれにせよこの距離では如何に英霊とて彼の姿を認識することさえできまい。つまるところ、パトリツィアの対応のほうがアーチャーには奇矯に思えた。まぁ、彼女の場合臆病というよりは、狙撃手はそういうものという定型文に則った行動なのだろうが。

 窓枠に足をかけ、標的を睥睨する。
 既に準備は万端である。
 標的は24時間以上前に捕捉。狙撃地点は充分な距離と魔術・社会両面からの隠蔽を以って確保されていた。
 殺ろうと思えばいつでも仕掛けられたが、それでも今の今まで動かずにいたのは教会への一応の義理だてと、ランサーとライダーの件を教訓とした結果だった。
 念には念を入れなければならない。

「少し風があるな……」

 アーチャーが呟いて、視線の先、遥か彼方。廃モールを視界に収める。

「問題があるか?」

「この距離だからな。サーヴァントの『勘』次第で回避される可能性がある」

 人間の限界を突破し、世界の一部と化した英霊の戦術においては、運や勘といった曖昧な要素でさえ無視はできない。
 特に剛運に護られた英霊は、時として神霊の加護と言って差し支えないほどの防御効果を発揮する。

「構わん。今回は別に首を殺りにきたわけではない」

「そうかい」

 言って、アーチャーは弓に矢を番え、満身の力で引いた。
 彼我の距離は500m。人間の狙撃可能域を大きく凌駕する間合い。況や原始的な長弓で、矢の届く距離ではない。普通ならば。
 だが、アーチャーの眼……障害物や距離を問題にしない『鷹の眼』と、文字通り神域の狩人の腕の前には、問題にはなり得ない。

「第一目標はバーサーカー。弾種『女神の御手(ベテルギウス)』、人質には当てるなよ」

 壁から顔を出さないまま命ずるパトリツィアに、アーチャーは不敵に笑った。

「誰に言っている。俺は弓兵(アーチャー)だぞ?」





 然したる音もなく。
 突如、窓際に立っていたバーサーカーが血煙に塗れた。

「あ――……!?」

 視線がぐるりと下を向く。矢。人間が使うには聊か長大な矢が、バーサーカーの胸を刺し貫いていた。
 霊核は辛うじて外したため英霊として致命傷とは言えないが、さりとて戦闘を継続できるほどの浅い傷でもない。

「バーサーカー!」

「伏せ……て……!」

 駆け寄ろうとした圭司だがバーサーカーの血泡混じりの叫びが押し留められ、手近に居たキャスターと凛土の頭を掴んで伏せさせ、柱の脇に引きずり込んだ。
 次弾が来る。確定的な予感に、圭司の胸はざわめいた。

「かわせ!」

 急いで命ずるが、間に合う速度ではない。
 令呪を使うか――?しかし、その逡巡が実を結ぶ前にバーサーカーの防御も成立し――それに遅れること数瞬、次なる必殺の矢が襲来した。

「李逵!」

 虚空から現れ出でた鉄火肌の巨漢が、弁慶よろしく首魁の前に立ち往生する。バーサーカーはその間に、遮蔽の下を這いずって主の元まで退避した。
 鈍い音を立ててその胸に矢が突き刺さり、黒旋風は兄貴分と慕った天魁星の盾になり続けたまま、二ィと笑ってバーサーカーの宝具へ還った。
 
「くっ……!」

「バーサーカー、傷は?」

「神医殿に診ていただきます……ご心配なく」

 言っている間にも、バーサーカーの傍らに“神医”安道全が召喚され、彼女の治療に当たっている。
 一方、なおも続く矢撃がガラスを粉砕し、薄い壁面に穴を穿っていく中、柱影に引きずり込まれたキャスターと凛土は。

「やられたな……狙撃か」

「フン、こそこそと。仮にも英雄の戦術とは思えんな」

 鼻息荒く吐き捨てるキャスター。戦闘経験に乏しい凛土にとって、このサーヴァントの泰然自若とした態度は幾許か頼りになる。

「キャスター、反撃を」

「敵がどこかも解らないのにか?」

 ……問題は、経験が少ないのはこのサーヴァントも同じということだが。

「解らないのになんでそんな偉そうなんだよ!」

 食ってかかる凛土にキャスターは肩を竦める。

「落ちつけ、マスター。
 この攻撃、たいした強弓だが、この砦を端から崩していくほどの威力はない」

「だから?」

「やり過ごせばよいではないか」

 凛土は呆れたように息を吐いた。
 確かに、矢である以上いつかは尽きるだろうし、降り注いでいる矢の威力は砦の陣によって減衰しているのかせいぜいガラスや薄い建材を撃ち抜く程度。こうして遮蔽を取っている限り有効打にはならない。バーサーカーは単に運が悪かったのか、はたまたあの一撃だけは毛色が違ったのか。
 ともあれ、このまま一先ずやり過ごすのが唯一にして無難な方針だ。情けないのは変わりないが。

「……いや、出来ることはやっておこう」

 言って、凛土は懐からタウンマップを取りだした。
 敵のおおよその方向は解る。ならば、廃モールからその方角にある、狙撃に適した建造物のいずれかに敵はいる。
 場所さえ当たりをつければ、死者の書で急襲することも可能だ。
 ……その、はずなのだが。

「これは骨だな……」

 再開発区には建築途中で放棄されたビルが山ほどある。箱としては完成してさえいるものも少なくない。
 そのどれもが、狙撃地点に足る。今や、彼には夕日に照らされるビル群が彼らをねめつける巨人のように思えた。





 そして、アーチャーらがいるのはそのいずれでも無かった。
 再開発区を丸ごと挟んだ反対側。無断で侵入したオフィスビルの屋上こそが、彼らの狙撃地点。

「全員遮蔽に入ったぞ」

「では目標を指定する」

 そこに至って、ようやくパトリツィアは遮蔽から顔だけ出して光学双眼鏡を構えた。しかしこの距離、この光量では文明の利器に頼ってすら目標の捕捉は難しい。手元の携帯端末による衛星からのデータで、ようやくおおよその状況を把握できるレベルだ。

「駐車場のライトを破壊しろ、全てだ。……続いて停まっているバン……そう、白い奴。その後部を破壊。爆発させるなよ、ガソリンを撒くのが目的だ。……次弾、火矢。モールに類焼させるなよ。次……」

 次々と送られるパトリツィアからの指示を違えず、アーチャーが精確無比に矢を放っていく。
 意味もなくモールを破壊しているわけでは、もちろん無い。如何なる陣とて、外縁は必ず外界に接する。パトリツィアが指示しているのはその接触した点だ。

「矢の勢いが殺がれなくなったな」

「あぁ、物理的な障壁を2枚ほど排除した。まだあるぞ、次」

 仙術には明るくないが、しかしそれが魔術である以上、踏むべき要点は変わらない。『それが人の魔術であるならば』、然るべき手段で排除は可能だ。
 正直なところ、バーサーカーにキャスターが合流した時点で、パトリツィアはこの作戦にさほどの効果を期待していなかった。
 キャスターの多くは『陣地作成』というスキルを有しており、彼らが構築、強化した魔術陣地は人間に破壊するのは至難である。いかにオリオンの剛弓でも、矢封じの結界を施されれば『女神の御手』を以ってすら貫けない可能性さえあった。

(だが、予想より容易いな……クラス特性と英霊の技能が一致していないのか?)

 それはバーサーカーが陣を構え、キャスターと合流した時点で考えていたことであった。
 本来、魔術陣地を構築しての籠城戦はキャスターこそが得意とする。一方でバーサーカーはその手の絡め手に最も向かないというか、そもそも狂化で理性を失う以上、そういったことが不可能なのが普通だ。
 しかしあのバーサーカーは普段狂化していないのみならず、砦に引き籠り兵を揃え始めた。他方、キャスターは、恐らく自前で用意すればいいであろう砦を求めてバーサーカーと合流した。
 つまり、考えられるのはバーサーカーは正面戦闘に劣り、キャスターは陣地作成能力を有していない……両者とも、クラス特性を生かせない英霊である可能性だ。

「……ならば、ここが好機か。移動するぞアーチャー」

 あらかた砦の魔術的防備は蹂躙し終えた。
 双眼鏡と端末をその場に放棄して、パトリツィアは遮蔽を取ったまま非常階段へ向かう。

「じきにキャスターとマスターが動くはずだ。そこをお前が仕留めろ」

「それは構わんが、バーサーカーの方はいいのか?」

 アーチャーの問いに、パトリツィアは一度だけ振り向いた。
 己のサーヴァントにではない。その方角にいるはずの、『もう一人の監視者』に対して、だ。

「……それはあちらに期待しよう」





 駐車場に火の手まであげたアーチャーの攻撃は、当然バーサーカーの砦を監視していたアサシンらにも悟られることとなった。

「……ご主人様、あれは」

「あぁ……たぶん、他のサーヴァントが仕掛けたんだ」

 アサシンの言葉に、勇治は首肯する。
 バーサーカーの陣の堅固さゆえに今の今まで攻めあぐねていたが、ことここに至っては慎重を期してまごつくわけにはいかない。あそこにはまだバーサーカーが人質にしたと思しき一般人がいることは調べが付いている。
 サーヴァント同士の戦闘に巻き込まれれば、彼らもただでは済まない。

「いくぞ、タマモ」

 避け得ぬ戦闘を前に、勇治は敢えてサーヴァントを真名で呼んだ。家でさんざ口にしたというのに、やはりアサシンはそれが嬉しいのか、ふさふさとした尻尾がぴょこん、と揺れる。

「はい、お任せあれ!」


[No.415] 2011/06/02(Thu) 20:29:05

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