コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404] |
└ 赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405] |
└ 赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406] |
└ 天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407] |
└ 装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408] |
└ 天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409] |
└ 天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410] |
└ フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411] |
└ 天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412] |
└ 風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413] |
└ 莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414] |
└ 夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415] |
└ 赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416] |
└ 夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417] |
└ 夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418] |
└ 夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419] |
└ 夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420] |
└ 赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421] |
└ 夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422] |
└ 夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423] |
└ 夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424] |
└ 血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425] |
└ 安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426] |
「退いてろっ!」 アーチャーが建物の影にパトリツィアを突き飛ばすのと、光熱の槌が彼目掛けて殺到するのは同時だった。 「フン――」 鋼さえ溶解させんばかりの猛烈な熱波の只中に晒されながら……しかし、アーチャーは防御姿勢一つ取らない。 そればかりか、いつもと変わらぬ速度と精度で弓矢を抜き放つと、迫りくるメギドの雨の合間を縫って文字通り『一矢報いた』。 「ぐっ!?」 果たして、返ってきたのは呻き声。 一方的に攻撃していたはずのキャスターは、その片腕に矢傷を負って、無傷のアーチャーと相対した。 「……それも、対魔力か」 そればかりでは無いのだが、わざわざこちらの手の内を明かしてやることもない。アーチャーは首肯した。 「応。……英霊同士で闘り合うのは初めてか?」 アーチャーのクラスは大方、セイバーほどでないにせよ高い対魔力を備えている。 儀礼魔術や大魔術を以ってしても傷つけることが難しいそれは、彼と同世代……神代の魔術師でさえ貫くのは容易ではない。 「……正直、不服だ。 王が死せよと命じるのだ。塵に還るが下賤の義務であろう」 「はっ」 アーチャーは鼻で笑った。 この遠き異国の王の口ぶりには、酷く覚えがあったからだ。 「悪いが、俺は生まれてこの方、王とやらを敬ったことは一度もなくてね」 「不遜の輩が」 「褒め言葉だな」 神をも嘲笑う不遜こそ、神代の時代からの彼の個性。神に挑み、神をも魅了する自信と腕こそが彼の伝説。 天に掲げられるほどの、伝説だ。それを知る人の数、かけられた夢、願い、祈り。それらこそがサーヴァントの力の大半を占める。 故に。 神なるか、ならざるかなど問題ではない。 生まれの高貴なるか、下賤なるかも関係ない。 彼は、彼であるがゆえに。ギリシャ最優の狩人、天に上げられた大英雄オリオンであるがゆえに無双なのだ。 「ふんぞり返るだけの王に、俺は殺せんぞキャスター」 矢を番え、引き絞る。 さしたる距離ではない、宝具を使用せずとも命中は容易い。いや、それどころか急所に当たらずとも、彼の剛弓では掠めただけで物理防御力に乏しいキャスターの身体なぞ粉砕されるだろう。 キャスターは、息を吐き――そして認めた。 不本意な戦術を、取るしかないことを。 「野に在っては狩人に劣る、か。 宜しい、認めよう」 キャスターは己の主が、何処かで笑っているのを察した。 まさしく、彼の事前に立てた計略通りに事が進んでいる。 「――来たれ、輝く満天の中へ」 掲げたウアス杖が、眩いばかりの輝きを呼んだ。 そして。 ● 「アーチャー!?」 眼前から忽然と消えて失せた己がサーヴァントの姿を探して、パトリツィアは物影を飛び出した。 警戒したものの、周囲にはアーチャー……そして、相対していたキャスターの姿もない。 (瞬間移動――……?) 訝るが、アーチャーの否定を思い起こす。 奴らは今、この世にいない。 字義通りに解釈するならば――。 「結界宝具か!」 現実の空間から幾許かシフトした異界へ、一時的に身を移す。人間の魔術師にはついぞまだ到達できない領域だが、英霊の宝具にはそれを可能にするものがある。 先刻、キャスターらが使用した移動と現在アーチャーらを攫った移動とは異なるものであったが、奇しくもその言葉は両者ともの原理を的確に突いていた。 ゆえに。 凛土は賞賛を送った。 「御名答」 「――ッ!?」 後方から飛んできたナイフを、危うく身を捻ってかわす。 何時の間にそこにいたのか。キャスターのマスター……橋口凛土が、パトリツィアのすぐ後方にいた。 「貴様ッ!」 抜刀、斬撃。しかし凛土はそれを紙一重で再びの転移を以って回避する。 「……怖い、怖い。やはり直接殺すのは危ないな」 口の端を上げて余裕を演出するものの、凛土の背を脂汗が伝っていた。 先日のライダーのマスターとの戦闘で懲りたので、ナイフを直接刺しに行くことは控えたのだが、どうやら正解だったらしい。 「君のサーヴァントはもう戻ってこない。降参をお勧めするね」 それはほぼ確定した未来だった。なので、別に脅しというわけではなく純然たる厚意と無用の戦闘を避けたい思惑から出た言葉だったのだが。 パトリツィアは微塵の逡巡も無く刃を構えた。 「やめときなって。今頃彼は、星の彼方だ。どんな英霊でも戻ってこれるものじゃない」 パトリツィアは、その言葉に初めて不敵に笑んだ。 強がりではない。戻ってくる。その公算と方法はある。だがそれ以上に。 「星の彼方、だと?」 アーチャーは、彼女に繰り返し言っていたのだ。 あの満天の星に浮かぶということがどういうことなのか。英雄の座たる天が如何に退屈な場所なのか。 そんなところに送られて、アレが黙っているはずがない。 そうとも。 「あの助平が、そんな色気のないところで大人しくしていられるものか」 ● 光輝く空間に、響く機械音。 神代の人間たるアーチャーに、その構造と用途を理解するのは当然不可能であったが。 「――船、かな」 勘で述べたそれは、限りなく真実を突いていた。 もっとも、敵陣に誘いこまれた→生活感が乏しい→移動手段→船?という甚だ飛躍した推論であったのだが。 「ようこそ、我が星の船へ」 転移する直前と、全く同じ位置関係でキャスターがアーチャーを見下ろしていた。 「ここがお前の“領地”か、王」 「そうとも。何人にも侵せぬ、我が真なる、そして最後の領土」 キャスターが誇るように手を広げるが、アーチャーは醒めた様子で肩を竦めた。 「王宮というのは――もっと、煌びやかで女や御馳走に溢れているものだと思っていたよ」 「無くもないが、貴様には不要だろう。 これから裁かれる咎人を歓待する道理はあるまい?」 「裁かれる、ね」 「安心するがいい。片割れもじきに後を追おう。いや、先に我がマスターが処断しているやもしれんな」 その言葉に、初めてぴくりとアーチャーの眉が動いた。 余裕一色に塗り固められていた表情に、幾許かの緊張が戻る。 「足掻くな、下賤。最早貴様は檻の中の獅子。恐れる道理はない。 今、貴様に流刑をくれてやる。時と空の狭間に落として――」 言葉を結ぶ前に、アーチャーの姿が消えた。 「では、やってみろ」 頬を撫ぜる風圧と、猛烈な悪寒にアーチャーの攻撃を認識できぬまま、キャスターは飛び退いた。 一瞬――否、半瞬だけ遅れて振るわれた棍棒が、キャスターのいた空間を引き裂き輝く壁を強か叩く。 ぐしゃり、と音を立てて壁が凹んだ。 「――なかなか堅牢だな。これを壊すのは骨が折れそうだ」 「こわ――ッ!?」 壊す。壊すだと? 我が星の船を?宝具を? いや、壊せ――るのか?まさか? 今の今まで、所有者たるキャスターの脳裏には浮かびもしなかった発想に、動揺した。 宝具はそれ自体が高密度の魔力で出来た構造体であり、人類が破壊するのは当然不可能である。――が、さりとて『人類以外になら』破壊が不可能なわけではない。 実際に戦術として実行する英霊はそういないが、宝具を恣意的に破壊すれば『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』と呼ばれる現象が起こり、英霊一人程度なら容易く殺すほどの熱量と破壊が発生する。 然るに、この状況でキャスターの船が破壊されれば、当然両者ともただでは済まない。 「壊す――だと!?我が星の船を!」 「船を狩るというのは流石に初めてだからな……まぁ、いずれはやるつもりだったのだ、構うまい」 アーチャーはそれを理解しているのかいないのか、何のことは無い、と言った様子で言う。 「いずれ星をも狩る腹積もりだったのだ、これが『星の船』というなら練習台にはちょうど良い。 だが、そう時間はかけられん」 英霊が笑った。纏う皮に相応しく、獅子のように。 檻の中の獅子を恐れる道理はない。だが、その檻に共に入ってしまったら――? 必殺を期した策こそが、逆に致命的な事態を招くこともある、としたら? 「俺は女を待たせん主義だ。 さっさと狩らせてもらうぞ、キャスター」 キャスターの背筋を、冷たいものが伝い落ちた。 [No.418] 2011/06/02(Thu) 20:31:04 |