コテファテ再録5 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:20:26 [No.404] |
└ 赤色偽剣V - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:21:17 [No.405] |
└ 赤色偽剣W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:22:52 [No.406] |
└ 天幕模様Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:23:31 [No.407] |
└ 装創儀礼T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:24:03 [No.408] |
└ 天橋の口 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:24:38 [No.409] |
└ 天幕模様[ - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:25:25 [No.410] |
└ フランケンシュタインの怪物W - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:26:01 [No.411] |
└ 天幕模様\ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:26:38 [No.412] |
└ 風車の丘、従者の夢T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:27:23 [No.413] |
└ 莫逆神王 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:28:25 [No.414] |
└ 夢城の主T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:29:05 [No.415] |
└ 赤色偽剣X - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:29:43 [No.416] |
└ 夢城の主U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:30:19 [No.417] |
└ 夢城の主V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:31:04 [No.418] |
└ 夢城の主W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:31:43 [No.419] |
└ 夢城の主X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:32:16 [No.420] |
└ 赤色偽剣Y - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:32:53 [No.421] |
└ 夢城の主Y - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:33:29 [No.422] |
└ 夢城の主Z - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:34:04 [No.423] |
└ 夢城の主[ - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:34:51 [No.424] |
└ 血宴の絆Z - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:35:47 [No.425] |
└ 安穏の毒 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:36:25 [No.426] |
かくして扉は開かれた。 開かれた小屋の扉の向こうには、丁度出てくる所だったのだろう、“男”の顔があった。 『――――』 康一は息を呑んだ、夢だというのに――男はその康一の様子を笑ったように口元を歪めると、やはり口笛でG線上のアリアを吹きながら康一の身を通り抜けるようにして去っていった。 『――――馬鹿な』 その男を背後に感じながら、康一はついぞ身動きをする事が出来ない、恐怖では無い、何か特殊な能力を使われた訳でもなかった。 ただ理不尽があったのだ、あまりの不可解に、康一は身動きを忘れたのだ。 『そんな、馬鹿な――』 ありえない、モノを見た。 小屋から出てきた男は“志摩康一”に他ならなかった。 この見覚えの無い景色の中で、本能が忌避する相手を見た。 その相手の姿が自分とまったく同じモノである事に、康一は身動きをする事が……出来なかった。 ● 女性の寝姿を覗き見るなど、騎士である以前に、紳士としてどうかとライダーは思ったが……それでも、主の、マリナの姿を見に来てしまったのは、やはり康一との会話が彼の胸に残っているからだった。 「…………」 マリナは、死んだように眠る女だ。 眠るというよりは停止といった方が似合う、マリナの眠る姿は電源が落ちた機械を彷彿とする――ライダーに機械の類に馴染みはなかったが、凪の時の風車を思い浮かべた。 悪夢を見ているようには見えない寝顔――だが、安眠とも無縁な停止した寝顔。 「……我が姫君は、私の虚構が生み出した幻だ」 ライダーの誰に告げる訳でもない呟きは、部屋に虚しく吸い込まれて消えていった。 ちらりと視線をめぐらせれば、相変わらず散らかったマリナの部屋がよくわかる。 当初は単に散らかった部屋という印象しかライダーは持っていなかったが、今は違う。 マリナは片付ける事を嫌い、無駄な物を置かない……いや、そもそも無駄な物に興味を持つ事が出来ないのだ、だから、無駄など持ちえようが無いのだ。 だがそれに矛盾したこの散らかった部屋は、空虚を満たそうとした抵抗の証だった。 何物にも興味を抱く事の出来ない彼女が、その空虚を満たそうと足掻いた証がこの部屋なのだ。 散らかっているのではない、満たそうとして――――失敗したのだ。 満たされる事など無かったのだろう、だが絶望も無かったのだろう、絶望さえ感じなかったのだろう。 ただ満たされないという結果だけがあった部屋なのだ、これは――――。 「――マリナ、君がたとえ偽りでも」 ベッドの近くに椅子を寄せ、それに掛けていたライダーは眠るマリナの手を取った。 眠る彼女の手は冷たかったが、それを包んで暖めるように、ライダーは両手で柔らかくその手を包み、そっと握った。 「君は私にとっては真実だ――姫君ではない、君こそが――私にとっては」 それは助けを求めているようでもあったし、助けの手を差し伸べているようでもあった。 かつて狂気の中にあったように、マリナを想う事は簡単だ、だがそれはマリナにこれ以上の偽りをかぶせてしまう事になる。 それだけは――――してはいけない。 だからこそ、ライダーはマリナの全てを受け入れた。 感情豊かなマリナを受け入れ、感情の無いマリナもまた受け入れた。 そして――――康一が言ったように、それでも良いと、告げたかった。 それでも、君は赦されると、伝えたかったのだ。 ● 康一は、まだ夢の中に居た。 あれは――あのG線上のアリアの口笛は、確かに聞き覚えがある。 自分を愛してくれた、自分を人間にしてくれた師匠、その人が――――死んだ時にも、聞こえた口笛だ。 『師匠を殺したのは――――』 志摩空涯、自分の父親だ、康一は自らの記憶を辿る。 その時に、自分はあんな――自分の姿など見ていない筈だ。 だが、あの時確かにあの口笛を聞いている、ならば、誰が――――俺が――――?、俺が、あの時、居たのか?、師匠の側に――――?。 『――――違う』 そう、違う、自分の筈が無い。 だって、師匠を殺したのは志摩空涯の筈なのだから。 『違う――――違う』 違う、絶対に、違うというのに――。 『俺は、師匠が殺された瞬間を、見ていない――――』 康一は小屋の中に歩みを進めた。 そこには必然的にマリナの姿があった、小さい頃なのだろうが、マリナだと一目で理解できるのは、これが彼女の夢だからだろう。 『マリナ――』 傍から見る彼女は眠っているようであったが、死んでいるようでもあった。 実際このようになっていたという訳では無いのだろう、これは彼女の夢である以上、“彼女自身”が彼女自身の姿を正確に把握できる筈が無いからだ。 『そうだ――――そうだな』 そう、正確に把握など出来る筈が無いのだ。 だから、あの口笛の男の姿が自分になったのだと、康一は思った。 どうせこれは夢なのだから――そう、夢なのだから、このままマリナを助けても良いのかもしれないと、康一は一瞬そういう考えが浮かぶ、だが――――。 『…………これは、過去だ、しかも他人の……』 だから、無意味だ、もう無意味なのだ。 今この場でマリナをこの小屋の外へと連れ出しても、何の意味も為さないし、康一が介入すべき事でも無い。 康一はこの気の参る夢が早く覚める事を願いながら――――。 『…………これは、過去なんだ』 過去は変える事は出来ない。 だがせめて――――せめて、なんなのだろうかと思いながらも、康一は、夢の中でも眠り続けるマリナの手を握った。 暖かみの感じない手ではあったが、この夢から醒めるまではそうしていようと康一は思った。 それは救いの手を差し伸べているようであったし、あるいは――――救いを求めているようでもあった。 [No.421] 2011/06/02(Thu) 20:32:53 |