コテファテ再録6 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:37:15 [No.427] |
└ 真実T - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:38:05 [No.428] |
└ 空の境界T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:39:50 [No.429] |
└ 狐の見る夢 - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:40:18 [No.430] |
└ 安穏の毒U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:41:05 [No.431] |
└ 空の境界U - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:41:34 [No.432] |
└ 安穏の毒V - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:42:07 [No.433] |
└ 空の境界V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:42:44 [No.434] |
└ 安穏の毒W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:43:19 [No.435] |
└ 幕魔 無聊の理 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:48:17 [No.436] |
└ 空の境界W - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:48:55 [No.437] |
└ 安穏の毒X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:49:28 [No.438] |
└ 安穏の毒Y - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:50:09 [No.439] |
└ デッドエンドT - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:50:43 [No.440] |
└ デッドエンドU - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:51:20 [No.441] |
└ 安穏の毒Z - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:51:52 [No.442] |
└ デッドエンドV - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:52:22 [No.443] |
└ 星界感応T - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:53:07 [No.444] |
└ キツネの見た夢T - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:53:41 [No.445] |
……‥ …… … 天照大神は自分を崇める人間達を見て思った。 あの有象無象の連中は何が面白くて生きているのだろうと。 そして人間を見下しながら、人間の不自由さを知りたくなった。 初めは正義感から、人間が悪い生き物ならば叱ろうと。 ずっと見ていくうちに、尽きない興味が沸いていた。 何一つ幸福な要素がないのに、人間達は楽しそうだから。 楽しくもなく、弱々しいのに、沢山の顔が笑っている。 見えもしない神を、全身全霊で自分を信じて祀ってくれる。 そこで天照大神は思ったのだろう。 自分に尽くす人間達が、それはもう幸せそうだったから。 私も、誰かに仕えてみたい、と――― そして藻女というカタチに、興味本位で転生した。 一人の、人間の少女として地上に降りた。 ……自分が何者であるのかも、全てを忘れたまま。 彼女は美しく成長し、鳥羽上皇に見初められる。 だが、彼女が燃えるような恋をした直後。 ある朝、起きたら狐耳が生えていた。 一ヶ月程は隠し通してきた。 朝起きたら、自分の身体が変わっていた。 朝起きたら、自分が人間ではなくなった。 自分への不審、疑惑、不満。 何時周囲にバレて迫害されないかという恐れ。 なにより、愛した人に、いつか、化け物とそしられる日が来る絶望。 誰にも相談できず、宮廷の奥に閉じこもって、身体を震わせながら、この悪夢が早く覚めますようにと祈りながら。 しかし、安倍の陰陽師に狐精である事を暴かれ。 取る物も取らず奥の院から逃げ出した。 その後、混乱しながらもなんとか那須野まで逃げた。 那須野の荒野でぽつんとただずむ少女の頬には、はらはらと涙が落ちていた。 自分を愛してくれた人々に追われ、自分が愛していたものに決別され。 眷族の狐達に囲まれて、彼女はようやく、自分が何者であったかを思い出す。 “ああ―――私は、なんと愚かだったのでしょう” 集まった狐達に慰められながら、玉藻の前は独白する。 人間に裏切られ、恐れられ、ここまで追い込まれた。 何も害は与えなかった。 ただ富を与えようとしただけだったのに。 "人間ではない"という理由で、桃源の里から追われたのだ――― 妖狐伐倒の軍勢、弁明は誰も聞いてくれず。 応戦して、皆殺しにしたのは、やり過ぎだったかもしれない。 二度目は、なんとか話し合いをしようしたが。 三日三晩矢の雨で、何を言っても聞こえてはいなかった。 降り注ぐ鏃の中で、血にまみれながらも、 “騙す気はなかった。もう立ち去るから忘れて欲しい” と訴え続けた。 けれど追撃は止まず、人間達の一方的な憎しみは消えなかった。 ……その中で、彼女は悟った。 なんて狭量な生き物。 なんて乱暴な憎しみ。 なんて思い上がった独善。 なんて、なんて――― なんて弱々しくも愛おしい、限りある命たち。 人間は神を崇め、神の意識と同一する事によって神域に触れようとする。 だが無駄なこと。 そんな努力をしても、 どんな力を尽くしても、 人が神になれないように。 “―――神が、人になれる筈がなかったのです” ……かくして。 その胸に破魔の矢を受け、玉藻の前は泣くように崩れ落ちた。 人間以上である神様が、人間ひとりにすら成れなかった物語。 ……早い話。 この神様は、人間に憧れた、ただの夢見る少女だった。 ● これはタマモの夢、タマモの過去。 マスターとサーヴァントの間に、このような事が起こりえるとは聞いていた。 だが、これはあまりにも――― 天川とタマモはどこか似ている。 人間に成ろうとした神であるタマモと、混血でありながら退魔である天川。 いや、逆だ。 天川にタマモが似ているじゃない。タマモに天川が似ているのだ。 玉藻の前の眷族である狐、その狐の魔との混血である天川が大本であるタマモに似るのはある意味で必然だったのかもしれない。 そう、混血(狩られるもの)でありながら退魔(狩るもの)であるという矛盾。 人間に仕えようとして、人間ではないと追われた玉藻の前。 それと同じように、血と力が薄まり弱まった近代はともかく、天川の者は退魔としての戦いで死ぬ者よりも、退魔の過程で"己が魔に呑まれ"、天川や他の退魔に"魔として討滅"される者の割合の方が遥かに多かった。 混血の退魔という矛盾は、魔として討たれる最後を迎える退魔という結末を生み出した。 だが、それでも天川の者は今に至るまで退魔を止めていない。 今でもなお、人に仕えたいと願うタマモのように。 それはまさしく、親の似る子の如く。 ならば、天川勇治が玉藻の前を呼ぶことは必然だったのかもしれない。 狐の混血としての身だけではなく、その在り方としても。 そして、だからこそ、俺は己の魔に呑まれてはならない。 タマモの願いは"人間に仕えたい"だ。決して"魔に堕ちた混血に仕えたい"ではない。 混血である事実は曲げられない、ならばせめて人間としての意思を失くしてはならない。 他の天川はともかく、混血の…魔の力が強くなっている自分は、反転する危険性が高い。かつての多くの天川の者のように。 それでも最低でもタマモのマスターである間は人間であることを止めてはいけない。 おそらく、タマモの願いが叶い第二の生を得られれば、タマモは俺の元を去るだろう。それはタマモの真の願いからすれば当然のこと。 だからこそ、それまで俺は堕ちるわけにはいけない。 タマモに、自分の所為で俺が魔に堕ちたなどと思わせない為に。 タマモの心に、新しい傷を負わせない為に。 この聖杯戦争で、どれだけ混血の、魔の力を振るっても。 タマモがいる間は、絶対に己が魔に呑まれてはいけないのだ。 タマモが、いる間だけでも……… [No.430] 2011/06/02(Thu) 20:40:18 |