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No.432へ返信

all コテファテ再録6 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:37:15 [No.427]
真実T - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:38:05 [No.428]
空の境界T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:39:50 [No.429]
狐の見る夢 - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:40:18 [No.430]
安穏の毒U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:41:05 [No.431]
空の境界U - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:41:34 [No.432]
安穏の毒V - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:42:07 [No.433]
空の境界V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:42:44 [No.434]
安穏の毒W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:43:19 [No.435]
幕魔 無聊の理 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:48:17 [No.436]
空の境界W - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:48:55 [No.437]
安穏の毒X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:49:28 [No.438]
安穏の毒Y - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:50:09 [No.439]
デッドエンドT - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:50:43 [No.440]
デッドエンドU - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:51:20 [No.441]
安穏の毒Z - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:51:52 [No.442]
デッドエンドV - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:52:22 [No.443]
星界感応T - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:53:07 [No.444]
キツネの見た夢T - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:53:41 [No.445]


空の境界U (No.431 への返信) - アズミ

 太陽のように眩く輝く魔術礼装はその輝きを失い、貧相なボールになって宙を舞った。

「――……っ!」

 康一は思わず受け取ってしまってからしまった、と身を強張らせる。これがフェイクで何かの毒なり爆発物なら致命的な軽挙だ。
 しかし、手の中にすっぽりと収まったバレーボールほどの大きさの球体は、爆発することも彼の手を溶解させることもなく、金属でも有機物でもない不思議な光沢を放っている。

「……どういう、つもりだ」

 丘の上に佇む空涯に、憎々しい視線を送る。
 康一はそれが何か知っていた。

――『万能器械』。

 志摩家の最秘奥たる、文字通りの万能魔術礼装。使用者の魔力(オド)、ないしは周囲の魔力(マナ)を吸い上げて65535通りの用途を発揮する。
 志摩空涯、最大の武器。
 それを彼は康一と出会って一番、己を仇と狙う相手にあっさりと渡したのだ。
 康一は困惑した。ランサーも、空涯に明確な敵意を示しながらも攻撃に踏み切れずにいる。

「私が持っていても仕方がない」

「仕方がない、だと?」

 意図は測りかねたが、脅しの意味で康一は『糸』を振るった。
 『糸』は妨害を受けることもなく、狙い通りに空涯の首に絡みつく。
 主がほんの少し力を込めれば、仇敵の首を花のように落とすだろう。

「聖杯戦争から脱落したとしても、アンタは俺の師の仇なんだ。
 このまま『その首を落とせるなら、落としておく』相手なんだぜ?」

「理解している」

 だが、空涯は何も抵抗しなかった。
 恐らく武器は隠し持っているが、戦意が全く感じられない。自然体のまま丘の上に佇み、康一を見ている。

「が、説明ぐらいは聞いておけ。今後の為にな」

「これから死ぬ奴に、語る今後があるのか?」

「私にはある」

 ドスを利かせた康一の言葉もどこ吹く風、空涯は涼やかな様子でそう言った。

 沈黙は恐らく、数刻は続いた。
 仇敵の首に刃をかけたまま、数刻。決定的に追い詰めたまま、しかし動揺しているのは康一のほうだった。
 聖杯戦争を脱落して自棄になっている、という可能性はまずない。空涯ほどの魔術師なら他のマスターを暗殺して令呪を奪うぐらいやってのけるし、それ以前にこの男はその程度の困難で目的を諦めるような性質にない。首を落とされても次の瞬間には残った身体で目的を遂行するのが志摩空涯という男だと、康一はよく知っていた。
 首を、落とされても?

 康一は逡巡を止め、静かに問うた。

「……お前の目的はなんだ、志摩空涯」

「無論、志摩が根源の渦への到達すること」

 根源の渦。
 ゼロ、始まりの大元、全ての原因。この世のあらゆる事象の出発点。
 魔術師の最終到達地点である。
 魔術師とはそも、それを希求する学徒を示す。あらゆる魔術は根源の渦から洩れ出でる神秘であり、その術理を辿ることで魔術師は根源の渦へ至ろうとする。

「それが、何故聖杯戦争に噛んでくる?」

「本気で問うているのか?」

 珍しく、驚いた様子で空涯が問い返す。
 それに少し苛立ち、康一は吐き捨てた。

「冬木で根源の渦が確認されたのは知ってるよ。……聖杯が額面通りの万能の願望機なら、そりゃあ根源への到達も可能だろう。
 ならばなおさら、お前がここで死ぬ理由にはならんはずだ」

「私は根源には至れない」

 空涯は、その一生を否定しかねない一言を何の躊躇もなく口にした。
 康一の手が、ぴくりと震えた。

 ここで殺すべきだ。
 康一の中で、何かがそうざわめいた。

「私が根源に触れれば、抑止力は私を忽ち排除するだろう。
 私に、それに抗う術はない」

 根源への到達は、多くの場合、集合無意識が構築した世界の安全装置――抑止力で以って、排除される。
 根源は人間には過ぎた『完成』であり、無への回帰を誘発してしまうためだ。
 だからこそ、魔術師は最初にこう習うのだ。「お前たちがこれからすることは、全て無駄だ」と。
 一族の血を連ね、営々と築き上げた神秘の全ては、『世界の為に』、最後は全て潰えることになるのだと。

「そんなことは――」

「無論、私はそれでもいい。
 根源に辿りついたならば、その後どうなろうとどうでもいい」

 その、いずれ崩される小石を積み上げ続けるような苦行を受け入れるのが、魔術師だ。
 少なくとも空涯はそれを受け入れた男である。恐らくは、誰よりも真摯に。一族の歴史全てをつぎ込んだ壮大な徒労の終わりに、自分の命を捧げることなどなんとも思わない。

「だが――『その先に行ける』ならば。その方がいいに違いない」

 康一の心が、またざわめいた。
 心の奥底に埋葬した何かが、這い出してくる。
 墓穴から、見てはいけないものが顔を覗かせている。

「――…………」

 殺せ。今すぐ殺せ。聞いてはいけない。

 己の内なる命令に、康一が屈する前に。

「お前ならば到達できる」

 空涯は、言葉を結んだ。



「お前の身体は、「」と繋がっている」


[No.432] 2011/06/02(Thu) 20:41:34

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