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No.437へ返信

all コテファテ再録6 - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:37:15 [No.427]
真実T - 咲凪 - 2011/06/02(Thu) 20:38:05 [No.428]
空の境界T - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:39:50 [No.429]
狐の見る夢 - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:40:18 [No.430]
安穏の毒U - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:41:05 [No.431]
空の境界U - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:41:34 [No.432]
安穏の毒V - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:42:07 [No.433]
空の境界V - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:42:44 [No.434]
安穏の毒W - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:43:19 [No.435]
幕魔 無聊の理 - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:48:17 [No.436]
空の境界W - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:48:55 [No.437]
安穏の毒X - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:49:28 [No.438]
安穏の毒Y - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:50:09 [No.439]
デッドエンドT - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:50:43 [No.440]
デッドエンドU - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:51:20 [No.441]
安穏の毒Z - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:51:52 [No.442]
デッドエンドV - アズミ - 2011/06/02(Thu) 20:52:22 [No.443]
星界感応T - きうい - 2011/06/02(Thu) 20:53:07 [No.444]
キツネの見た夢T - ジョニー - 2011/06/02(Thu) 20:53:41 [No.445]


空の境界W (No.436 への返信) - アズミ

 ランサーは油断なく刃を下段に構えたまま異装のサーヴァント……セイヴァーと対峙した。
 彼我の距離はほんの数m。敏捷性に優れるランサーならば一足一刀の間合いと言っていい。
 だが、ランサーは動かない。

「……主」

「迂闊に仕掛けるなよ、ランサー」

「御意」

 康一の言葉に、小さく頷いて応じる。
 通常、サーヴァントはクラスにより戦術傾向に制限がかかるため、クラスさえ解っていれば大雑把な対処方針は定める事が出来る。
 しかし、セイヴァーというクラスはサーヴァントシステムの正規の枠ではない。必然、その傾向をランサーは知り得ない。
 片手には抜き身の刀をぶら下げているものの、構えは到底、剣で身を立てた者のそれではない。むしろキャスターに近い性質をランサーは感じ取ったし、言葉を交わさぬものの康一の考えもまた同じであった。

 天草四郎時貞。
 江戸時代初期、肥後の国で起きたキリシタンの叛乱を主導した『神の子』。盲目の少女を治療した、水面の上を歩いた、などイエスのそれを模した秘蹟を起こし、絶大なカリスマを以って島原の乱を起こし――そして幕府軍の攻撃に晒され自刃した、と伝えられている。
 実状はともかく、武芸で知られる英霊ではない。むしろ警戒すべきは『秘蹟』。何らかの魔術か、それ以外の超抜能力か。

「……そう脅かしてくれるな、ランサー」

 だが、警戒する二人をよそにセイヴァーは構えを解いて肩を竦めた。

「私は、お前と戦うだけの力は無いし、その気も無い」

「それを信じろと?」

 誠実を信条とする円卓の騎士とて、対峙した敵の言葉を鵜呑みにするほど愚直ではない。
 セイヴァーはそれに自嘲したような笑みを浮かべたまま首を振り、刀を持った手を中空でひと振るいすると、その手には刀に代わって一挺の軍旗が握られていた。

――奴の宝具か?

 ランサーが剣の切っ先を起こすものの、相手の次なる行動は攻撃ではなかった。
 とん、と石突きを地面に落とすと、それに呼応するようにセイヴァーの背後に巨大な影が現れた。
 茫洋としたシルエットゆえに正確な把握は難しかったが、康一には砂時計のように見えた。

「……これが何か解るか、康一」

 攻撃を警戒する康一に、しかし静かに問うたのはサーヴァントではなく彼のマスターだった。
 康一は無言でその旗を観察する。戦国時代にごく一般的な、陣中旗だ。描かれている聖杯の図柄が特異ではあるが、それ自体は彼の真名を知っていれば驚くに値はしない。彼の遺品として最も有名なものだ。
 だがそうした表層的な情報をさておき魔術的な視座から見れば、この陣中旗は異常の極みであった。

「……なんだ、それは」

 ランサーまでもが、思わず訝る。サーヴァントたる彼女にも、その異常は一目で解った。

 魔力。

 尋常でない魔力が、旗に描かれた聖杯から背後の影に向けて流れ出している。
 大気中に常在する魔力(マナ)とはケタが違う。それこそ、湖底市中からかき集めでもしなければここまで濃い魔力は捻りだせまい。まるでサーヴァントが数人、中に入ってでもいるかのような――。



 「       」



「――ぎ……!」


 それらを理解しようとした途端、脳髄が揺れた。あるいは、魂までもが震えた。
 先刻、空涯に心中の墓穴を暴きたてられたのと同じ感覚。何か、康一の手に余るものがあの中にある。
 人の手に余るそれを、構造把握に飛び抜けて長けた志摩の異才が康一の脳髄に突きつけてくる。

(――思考を、統御しろ)

 全神経を以って、乱れた思考を束ね上げ、細密に分割し高速に回転させる。
 逃げてはダメだ。墓穴の底から、康一の中の何かがそう命じた。

(アレは、なんだ)

 渦巻く魔力の向こうにある、編み上げられた術理を解きほぐす。理性を冒す情報の波を受け止め、その飛沫の一つまでを観察する。

 その膨大な魔力の発生源。質。量。構造と経路からその用途を推測。
 無限にも思える時間――実際には、1刻にも満たなかったが――と労力を費やし、康一はその全てを悉く暴き立てた。

「――聖杯か」

「主?」

 訝るサーヴァントに応えず、康一は続ける。口に出すことで、脳裏に充満した情報と不快感を吐き出すように。

「それが、聖杯か。この聖杯戦争の」

「そうだ」

 はっとして虚空に浮かぶ影を見上げたランサーをよそに、空涯は首肯した。

「黒化英霊7騎、正規サーヴァント1騎。内容量としては8割ほどだが、お前が構造把握するのには十分な程度の実体は持っている」

 シルエットが陽炎のように揺らぐ。上下対称な砂時計に見えたそれは――なるほど、見ようによっては杯のように見えなくもない。

「やがて、『根源を映す水鏡』たる湖底の聖杯は機能を発揮する。
 斃れたサーヴァント、その魂と魔力をその杯に受けてな」


[No.437] 2011/06/02(Thu) 20:48:55

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