儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/0 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 00:29:53 [No.470] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/1 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 01:01:34 [No.471] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/2 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 02:16:47 [No.473] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/3 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 11:08:54 [No.474] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/4 - 咲凪 - 2011/07/31(Sun) 01:26:08 [No.479] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/1 - アズミ - 2013/07/14(Sun) 21:02:00 [No.551] |
└ 廻る祈りの遺灰(くれめいん) - 咲凪 - 2015/01/31(Sat) 02:00:23 [No.617] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/2 - アズミ - 2015/02/02(Mon) 22:43:47 [No.618] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/3 - アズミ - 2015/02/06(Fri) 22:12:06 [No.619] |
1999年、7月28日。 掲示板サイト『白夜』は閉鎖から復帰した。 とはいえURL、つまりサイトの住所は前と異なり、レイアウトも若干凝った物になっている。 誰かが面白半分で作った“ニセ”二代目サイトというのが大体の見識であり、人間も、妖怪もまた二代目白夜には関心を寄せなかった。 その甲斐あってというべきか、その所為でというべきか、白夜は当初の目的を離れ、無秩序な噂が書き込まれるサイトになっていた。 例えば、人魚の肉を食って不老不死になった小説家が居るだとか、雪女がアイスの食べすぎで腹を壊したとか……そんな根も葉もないような噂が時たま書き込まれているだけの、暇人が暇を潰すのにも使わないようなサイトが、今の白夜だ。 ――東京の殺人事件、妖怪の仕業だってよ ――はんにんつかまってますよ、にんげんだっていってる 件の『二代目白夜』を出掛け前に確認したのだが、新たに加わった根も葉もない噂に、管理人が律儀にレス(返事の事だ)を返していた。 漢字もカタカナも一切使わないひらがなオンリーの文字が読み難い事このうえない。 以前会った時に読み難いので何とかしてくれ、と言ったら「これがわたしのすたいるだからきにしないで」と返された。 その発言さえひらがなで聞こえて頭が痛くなる気がしたが、案外本人もひらがなのつもりで発音していたのかもしれない。 アイツは最寄駅から数分歩いた先にある、湖底市にあるビルの一フロアを棲家として使っている。 元々ビルそのものがアイツの祖母の持ち物だったらしく、それが巡り巡って今はあいつがオーナーになっていて、3っつあるフロアの最上階を独占しているという訳だ。 電車に揺られていた数十分は冷房が効いていたが、一歩車外に出てしまえば真夏の気温と陽射しが容赦なく俺を襲った。 ほんの数分とはいえ、噴出してくる汗と陽射しに少しだけ眉が寄るのを自覚しながら……俺は冷房がキンキンに効いたアイツの部屋を想像した。 前に訪れた時に冷房が効きすぎて寒くなってしまったのを警戒して、少々夏だというのに着込んできてしまったのだ。 着込んでいた上着を脱いで畳んで脇に抱えると、俺はハンカチで額の汗を拭きながらアイツの住むビルへと向かう、時刻は既に午後2時を回っていた、もう少し遅く着いても良かったかもしれない。 湖底市は妖怪特区の一つ、つまり……人間と妖怪が共存する街だ。 生まれた時から妖怪が周囲に認識されていた俺にはよく判らない感覚だが、当時はそれは揉めたらしい。 だが俺は戦争を知らない世代で、“妖怪が居ない世界”を知らない世代だ、この湖底市の空気はむしろ馴染むとさえ思える。 平日の昼間はまだ子供達は学校に行き、大人達は働いている時間の為、ちらほらと見かけるのは老人と妖怪(たぶん、という連中もいるが)、そしてスーツ姿の営業組だ。 俺は今回の用事の為に会社に休みを貰っている為、サボりではない、断じて働いていない訳でもない。 普段の真面目な行いのおかげで、上司も数日の休みを許可してくれた――おっと、途中のコンビニで手土産にビールでも買っていこうと思っていたのを忘れていた、慌てて買ってくる。 ……片手にコンビニのマークが入った袋を提げて、俺は目的のビルの3階にある呼び鈴を押した。 ややあって、「はい?」という声が聞こえる、相変わらず透き通るような声だ、それだけで少しだけ涼しくなったような気がする。 「理小路、俺だ」 「……だれだ」 ひどい。 「宮野川だよ、宮野川幸助!、お前の高校のクラスメイトだった!」 「……あぁ、なんだ、こうすけか」 「この前も会って飯食っただろうが!?」 その言葉に返事は無かった、その代わりにほんの少しの間を置いて目の前の扉がぎぃっ、と重い音を立てて開かれた。 扉の隙間から部屋の中の冷たい空気がすぅっと漏れてくる、どうやら相変わらず冷房を効かせているらしい、まぁ、こいつの場合はそれも仕方の無い話だが……出てきた顔を見て、俺は思った。 「……きょうへいじつだよね、ひまなの?、こうすけ」 「自宅警備員のお前に言われたくねーよ……」 見慣れた白い少女がそこに居た。 肌は穢れの一切を拒絶するように美しく、健康的とはいえないが、儚い物が持つただそれだけで尊いと思わせる雰囲気を持ち、同じく白い髪は老化による白髪とは違い、きめ細かく。男の俺にはどうなってるのかすら判らないさらさらとした質感を感じさせる。 大きな瞳がじっと俺を見つめ、整った唇が俺の名を呼んだ。 「っていうか、お前パジャマかよ、もう昼過ぎてんだぞ、2時過ぎだぞ?」 「いいじゃん、べつに……」 だがコイツなぁ、性格が残念なんだよなぁ……。 [No.473] 2011/07/28(Thu) 02:16:47 |