儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/0 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 00:29:53 [No.470] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/1 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 01:01:34 [No.471] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/2 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 02:16:47 [No.473] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/3 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 11:08:54 [No.474] |
└ 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/4 - 咲凪 - 2011/07/31(Sun) 01:26:08 [No.479] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/1 - アズミ - 2013/07/14(Sun) 21:02:00 [No.551] |
└ 廻る祈りの遺灰(くれめいん) - 咲凪 - 2015/01/31(Sat) 02:00:23 [No.617] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/2 - アズミ - 2015/02/02(Mon) 22:43:47 [No.618] |
└ 一瞬の虹色、永遠の灰色/3 - アズミ - 2015/02/06(Fri) 22:12:06 [No.619] |
理小路細(りこうじ・ささめ)は俺の高校の頃からの友人だ。 最も、友人と言うと向こうは「くらすめいとだし」と、肯定とも否定とも取れる返答を返すので、向こうとしては不本意なのかもしれない。 理小路……このパジャマ姿の少女が俺と同年代だなんて思う人が何人居るだろう。 妖怪には人とは違う時の刻み方をする連中が多く居るが、理小路もまたその1人だった。 同じ高校に通っていた、という事実から同年代だと勝手に思っているが、もしかしたら年上だという可能性も全く無い訳では無い。 だが、彼女の見た目は端的に言えば、少女でしかない。 低い背とあどけなさの残る顔は今も高校生か……中学生くらいか、それくらいの年齢にしか見えない。 理小路は雪女らしい。 らしい、というのはその事実と理小路の印象が、俺の頭の中でうまく結びつかないからだ。 アイツは他の雪女のように、寒波を作り出したり、息を吹きかけて相手を凍らせたりという凄い能力は無いそうだ、昔本人が言っていた。 理小路のとんでもなく可愛い容姿(というと苦笑いしか出てこないが)は彼女が妖怪だからだ、そもそも、人間と同じ理屈で彼女の肉体は成り立っていない。 「相変わらず冷房効いてんなー、涼しー……」 理小路に部屋に通されると、部屋の中に充満した寒気が俺の身体を包んだ、外で多少汗を掻いていた俺には心地良いが、そのうち寒くなってくるのは容易に想像できる、早めに抱えた上着を着直す事にする。 理小路は相変わらず薄いピンクの柄の無いパジャマのまま、「てきとうにすわって」と言うと、自分はテーブルを挟んだ座布団の上に座った。 テレビにゲーム機が繋がれたままの居間は近代的で、人間の暮らしと基本的に差は無い。 彼女に習って向かいの座布団に座ると、まずは買っておいた手土産の入った袋をテーブルに置く。 理小路はその袋を見て「なに?」と小さく尋ねてきた。 薄いビニールのレジ袋は中のビール缶の柄を浮かび上がらせていたので中身は察しているのだろう、視線に僅かな期待の色がある。 コイツは外見に似合わず、結構酒好きだ、煙草は苦手で吸わないそうだが。 やっぱりビールを買って来て良かった、と思って居ると理小路はレジ袋の中のビール以外の存在を目ざとく見つける、あぁ、それは……。 「こーら?」 「あぁ、面白そうなんで買ってきた、ビールは土産だ」 「きゅーかんばー……きゅうり、きゅうりぃ?」 「キュウリ、すげーだろ、つい買っちまった」 胡乱げな瞳で緑色の炭酸飲料が入ったペットボトルを見る理小路を見て、買った甲斐を感じる。 「こんなのおいしいわけないとおもう」 「いや、河童とか好きなんじゃね、キュウリだし」 「それはかっぱをなめてる……いえ、すきかは、わからないけど」 興が沸いて、2人でキュウリのコーラを飲んでみた、味は微妙だった、きっと河童もこれは御気に召さないだろう。 理小路の口にも合わなかったようで、口直しとばかりにビールに手を伸ばす、真昼間だというのに全くの躊躇無し、さすがです理小路さん。 「あ、ちょっと待て、酒飲む前に本題を話したい」 「ほんだい?、あ、そっか、こうすけなにしにきたの?」 「俺が酒をお前に届けに来たとでも思うのか?、えっと、だな……」 理小路は言葉を捜す俺を見て、きょとんとした顔をする。 この様子だとまだ知らないのか、選ぶ言葉が、必然的に重くなる。 ……だが、伝えない訳にもいくまい、俺はうつむきそうになっていた顔を上げて理小路の眼を見た、それだけで理小路は俺が真面目な話をしようとしているのを察したようだった。 「理小路、落ち着いて聞いてくれ」 「うん」 「……えっと……」 面と向かうと、どうしても伝え辛い。 電話で伝えなかった事には理由がある、コイツは昔から人付き合いが苦手で、外出もそんなに好きではない。 電話越しだと断られてしまうような気がして、こうして本人の前に足を運んだのだが、いざ本人を前にして言葉がうまく出てこなかった、どうしても来て欲しいから、彼女の為に一日多く休みを貰ったというのに。 理小路は言葉に詰まる俺を見つめて、俺の言葉を待っていた。 そんな顔にふいに戸惑いの色が挿す。 「……わたしにほれた、とか?」 「いや、それは無い、ありえない」 こっちは即答できます、理小路さん。 いや、だってお前、すごい美少女だけど、俺がお前に恋しちゃったらそれは世間ではロリコンって事になるんだが。 でも年齢的には合法なのか?、理小路は「けっ」と美少女にあるまじき呟きを漏らすと、「なに?、いいにくいこと?」と、俺に言葉を急かした。 確かに、言い難いが、伝えなくてはいけない。 「理小路、落ち着いて聞いてくれ」 「それはさっきもきいた」 「……高崎が、死んだ」 理小路の瞳が揺れる、心の動揺が俺にも見てとれた。 「たかさき……たかさきって、まさか……」 「あぁ、高崎修一……俺達の、友達の」 「どう、して……?」 テーブルに身を乗り出し、問い詰めるような言葉が震える。 動揺する理小路を見るのは、胸が痛む。 だがそれでも、俺は高崎の告別式に理小路も参加して欲しいと思っていた、だからこうして訪れたのだ。 「びょうき?、じこ?、しゅういち、あんなにげんきだったのに、それとも――」 「自殺だ」 「え」と、理小路の声……というより、驚きが吐息に感情の色を与えたような音が聞こえた。 「高崎は、自殺したんだ」 [No.474] 2011/07/28(Thu) 11:08:54 |