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all 儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/0 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 00:29:53 [No.470]
儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/1 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 01:01:34 [No.471]
儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/2 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 02:16:47 [No.473]
儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/3 - 咲凪 - 2011/07/28(Thu) 11:08:54 [No.474]
儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/4 - 咲凪 - 2011/07/31(Sun) 01:26:08 [No.479]
一瞬の虹色、永遠の灰色/1 - アズミ - 2013/07/14(Sun) 21:02:00 [No.551]
廻る祈りの遺灰(くれめいん) - 咲凪 - 2015/01/31(Sat) 02:00:23 [No.617]
一瞬の虹色、永遠の灰色/2 - アズミ - 2015/02/02(Mon) 22:43:47 [No.618]
一瞬の虹色、永遠の灰色/3 - アズミ - 2015/02/06(Fri) 22:12:06 [No.619]


儚くも在る灰色(ぐれい)のセカイ/4 (No.474 への返信) - 咲凪

 ――1990年10月14日。

 図書室の机を借りて理小路と高崎はオセロに興じていた。
 たまたま本を探しに来た理小路が物珍しくて、面白半分でオセロをやらせて見たのが俺達の付き合いの始まりだった。

 盤上ではいつも白い駒が黒い駒……高崎に追い詰められていた。
 白い駒は当然理小路だ。

 俺はてっきり妖怪にとって人間のゲームは未知の物なのかと思っていたが、「それくらいしってる」と語った理小路の実力は、まぁ、酷いものだった。
 “カドを取るのがコツ”というオセロの定石を知らないのか、連戦連敗、白い駒とは対照的に、黒星ばかりが並んでいる。

 根が素直というか、愚直というか、傍から見ていても理小路の打つ手は判り易かった。
 例えるならばノーガード戦法というよりは、子供の喧嘩だ。
 ボコボコ打って来て、ボッコボコに反撃される、そんな戦い方だ。

「……またまけた」

 がっくりとうなだれる理小路、どうやら決着が付いたらしい。
 初めてオセロに誘った時は、ちっとも興味は無さそうだったのだが、意外と負けず嫌いな所があるらしく、理小路はそれから時々図書室に顔を出すようになったのだ。

「それじゃあ約束通り、名前を貸してもらうよ」
「うん、わかった」

 理小路に勝った高崎は、笑顔で一枚の紙とボールペンを理小路に差し出した、入部届けだ。
 そもそも、俺達が図書室に居たのは俺と高崎が文芸部だからだ。
 とはいえ、文芸部は背部寸前になっており、部員は部の存続を願う高崎と、その願いで名を貸して、文字通り名ばかりの文芸部員になった俺だけだった。
 しかし部として認められるには5人のメンバーが必要になる、2人だけではどうしようもない、と思っていた所に、ひょんな事からこの雪女の少女が出入りするようになった事に高崎は目を付けた。

 俺が3連勝したら、文芸部に入ってくれよ。
 高崎が3連勝する前に言い出した事に、理小路は「いいよ」と悩む素振りも無く頷いた。
 俺は正直意外に思った、理小路とは同じクラスだったが、こいつは人付き合いが嫌いなタイプだと思っていたのだ。
 それとも負ける気が無かっただけだろうかと思ったが、負けた後の潔さを見るに、俺には彼女が勝っても入部を申し出たのではないかと思えた。

「なんか意外だな、お前結構付き合い良いんだな」
「ひとづきあいはきらい、……ほんとうに、にがて」

 俺が思わず言った言葉に、理小路は誤解を解くように静かに答えた、そして。

「でも、ひとがきらいなわけではないから」

 そう付け足して、柔らかく微笑んだ。
 人付き合いが嫌いというのは本当だろう、彼女は今、クラスでも孤立している。
 しかし人が嫌いでは無いので、文芸部の存続に力を貸してくれるという事らしい。

「お前、案外いい奴なんだな」
「…………あんがい?」

 理小路の眉が寄る、なにか問題のある発言だったろうか。

「気にしないで、幸助はこういう奴なんだ」
「うん、だいたい、わかってきた……」
「おいおい、なんだよそれ?」

 俺が抗議の声を上げると、高崎は何が面白いのかニマニマと笑みを浮かべ、つられるように理小路も小さく笑っていた。
 その間にも入部届けを書き終えたらしく、彼女はそれを高崎に手渡す。

「ありがとね、細ちゃん」
「……さんねんかん、だけだから」
「いや、長いだろ、3年間」

 俺のツッコミを他所に、理小路は「さんねんかんだけだよ」と繰り返した。

「がっこうっていいところね、さんねんかんだけの、おもいでだから」

 その言葉の意味を、当時の俺は全く判っていなかった。

 ――1999年、現在。

 高崎の死を知った理小路は涙の一つも見せなかった。
 それが不満という訳ではなく、むしろ心のどこかで安心を感じていた。

「告別式、参加してくれるだろ」
「でも……わたしは……」

 やはり、理小路は告別式の参加を躊躇っていた。
 その理由も俺は知っている、迷うのも理解している、だがそれでも高崎は高校生活を共にした友達だったんだ。
 あの文芸部の仲間達で送ってやりたいと思う気持ちは……たとえこれが俺のエゴでも、強いものだ。

「頼む、気の重い事を頼んでいるのは承知しているが……」
「…………」

 理小路は座布団から立ち上がると、ドアを開けて何処か別の部屋へと行ってしまった。
 気を悪くさせてしまったかと思ったが、すぐに戻って来た事で少し安心する。
 彼女の手には、一枚のオセロの駒が握られていた。
 あの図書室で打っていたオセロの駒だ、俺も一枚持っていて、俺の部屋の引き出しに大切に仕舞ってあるものだ。

「……しゅういちは、わたしがくることなんて、のぞんでないんじゃないかな」

 ぱちん、と音を立ててテーブルの上にオセロの駒が置かれる。
 白い面を上にして置かれた駒を俺はつまみ上げると、裏返して黒い面を上にし、またぱちんと音を立ててテーブルに置いた。

「そんな事は無い、アイツはお前の事が大好きだよ、判ってるだろ」

 それだけは、断言できた。
 高崎修一は理小路の事が好きだった、友達としても、一人の女性としても、好きだったんだ。


[No.479] 2011/07/31(Sun) 01:26:08

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