湖底市の日常・1 - アズミ - 2011/07/26(Tue) 19:34:17 [No.467] |
└ その頃&その頃 - りん - 2011/07/27(Wed) 01:43:34 [No.468] |
└ 人域魔境1 - アズミ - 2011/07/28(Thu) 02:03:38 [No.472] |
└ 尋ね人おらず - りん - 2011/07/29(Fri) 01:22:45 [No.476] |
└ 文絵、かたるかたる - りん - 2011/08/02(Tue) 01:40:33 [No.480] |
└ 珍奇な来訪者1 - アズミ - 2011/08/02(Tue) 01:49:21 [No.482] |
└ 魔女と騎士 1 - 桐瀬 - 2011/08/03(Wed) 21:40:19 [No.485] |
└ 魔女と騎士 2 - りん - 2011/08/04(Thu) 00:09:07 [No.486] |
└ 人域魔境2 - アズミ - 2011/08/04(Thu) 01:59:06 [No.487] |
└ 珍奇な来訪者2 - アズミ - 2011/08/04(Thu) 23:36:58 [No.488] |
└ 人域魔境3 - りん - 2011/08/05(Fri) 01:24:05 [No.489] |
……時間は半日ほど遡る。 「こう言ったらなんなんだけどね、作家さん。あたしの占いって、当たらなくない?」 タロットを机の上でシャッフルしながら、魔女ミレニーは占い師にあるまじき発言を行った。 が、相対する客……安曇厚志は特に気にした様子もなく、締切明けらしいぼう、とした視線で蠢くカードの動きを追っている。 ミレニーは正真正銘、欧州を由来とする魔女である。魔法を習得した女(ソーサレス)、ではない。妖怪としての、魔女(ウィッチ)だ。 疫病を振り撒き、使い魔を使役し、人の生死の垣根を見極める本物の魔女。 が、だからと言って、その占いが当たるかといえばそんなことは全くない。他にどんな超常の力を備えていようとも、妖怪とて予知能力でもなければ……否、備えていたとしても完璧には、未来を見極めることはできない。 占術とはそもそもが、無知無明の人間が無知無明であるがゆえに編み出した経験則を解析し、抽出した要素を類型化することによって今後を予測する『技術』だ。土台が妖怪の使うような代物ではない。 だからして、ミレニーの占いは世間一般の魔女のイメージに便乗しただけの生兵法であり、使っているタロットカードも通販で4000円という甚だいいかげんな商売だった。 にも関わらず、この作家は締め切り明けごとに律義にミレニーに占ってもらいにやってくる。 占う内容は必ず、「今後について」などという漠然としたものだ。内容が漠然としているから、結果も当たりそうなのか当たらなそうなのか、なんとも曖昧ではっきりしない。 そんな結果のために、安曇はわざわざ占い賃3000円を払いにやってくる。 ミレニーにとってはありがたい客であることには違いないが、なにせ占いがいいかげんなのでなんだか悪い気がしてしまうのも確かだった。 「未来を占う、という行為にはランダム性が重要なんだ」 そんなミレニーの心中をよそに、安曇は並べられていくタロットを眺めながら言う。 「はぁ……?」 「ためになるお告げを期待しておみくじを引く奴はいないだろ? 因果に縛られる真っ当な占いじゃあ、『運試し』にはならないのさ」 だったらおみくじでも引いてきた方が安上がりではないかとミレニーは思うのだが、余計なことを言って定期収入のタネが来なくなっても困る。それ以上は突っ込むことをせず、占いに集中し始めた。 「愚者、逆位置の魔術師、逆位置の星、月、教皇、塔……そして恋人。何かを新しいことを始めるのは良くない向きですかねー」 「恋人と教皇は?」 「恋愛相談とか」 「誰からされるってのさ、そんなん……」 と言っては見たものの、担当の栗林嬢は22歳と年頃な上に独り身を嘆いていたことを思い出す。あの性格では当分無理そうだし、そちら方面というのはありそうな気はした。 「まぁ、どっちにしろ当たるも八卦、当たらぬも八卦ですからね」 「占った当人がそれじゃな……まぁ、参考程度にしとくよ。いつも通りね」 嘆息して、くたびれた夏目漱石3枚を広げられたタロットの上に置く。 「それじゃ」 「毎度ありーです」 安曇が立ち去るのを待って、手持ち金庫に3000円を収める 今日は彼を含めて5人も客が来た。かなり幸運な部類に入る。 なにせミレニーの占いが当たらないのは詳しい人間なら周知のことなので、収入源はもっぱら余所者だ。ただでさえ不安定な占い師の収入だが、ミレニーは輪かけて安定しない。 時間も時間だし、今日はここらで閉めるか――と、考えた矢先に、仕切りに使っている暗幕が音もなく開いた。 「いらっしゃいま――」 笑顔で出迎えようとして、思わず呆けたように口を開いたまま止まる。 「失礼、お嬢さん。一つ占っていただきたい」 そこに立っていたのは、上等な金糸のようなプラチナブロンドを緩く流した、長髪の美青年であった。 しかしミレニーは頬を染めるでもなく、表情が引きつるのを我慢するので精一杯であった。 まさしくお伽噺に出てくる騎士か王子ような美丈夫であるが、格好までお伽噺に出てくるような有様なのだ。全身に纏うのは白銀色の、実用性は甚だ怪しそうな豪奢な甲冑。腰に帯びるのは湖の貴婦人から与えられたかの如き神々しく輝く半両手剣。 今日び妖怪でさえこんなトンチキな格好はしない。……というか、こんなあからさまに武器を持ち歩いたら退魔師だって銃刀法所持違反でしょっ引かれる。 「えーっと……何について、占いましょう?」 通報も考えたが、下手なことをして暴れられでもしたらコトだ。一先ずは穏便に済ませて、立ち去ってから考えることにした。 さすがに営業スマイルも引きつらざるを得なかったが、騎士はこれとって気にした様子もなく、律義にミレニーに断ってからがしゃがしゃと音を立てながら座り、微笑んで言った。 「この街に来たはずの許嫁を探しているのです。 彼女とのこれからについて占っていただきたい」 [No.482] 2011/08/02(Tue) 01:49:21 |