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all 湖底市の日常・1 - アズミ - 2011/07/26(Tue) 19:34:17 [No.467]
その頃&その頃 - りん - 2011/07/27(Wed) 01:43:34 [No.468]
人域魔境1 - アズミ - 2011/07/28(Thu) 02:03:38 [No.472]
尋ね人おらず - りん - 2011/07/29(Fri) 01:22:45 [No.476]
文絵、かたるかたる - りん - 2011/08/02(Tue) 01:40:33 [No.480]
珍奇な来訪者1 - アズミ - 2011/08/02(Tue) 01:49:21 [No.482]
魔女と騎士 1 - 桐瀬 - 2011/08/03(Wed) 21:40:19 [No.485]
魔女と騎士 2 - りん - 2011/08/04(Thu) 00:09:07 [No.486]
人域魔境2 - アズミ - 2011/08/04(Thu) 01:59:06 [No.487]
珍奇な来訪者2 - アズミ - 2011/08/04(Thu) 23:36:58 [No.488]
人域魔境3 - りん - 2011/08/05(Fri) 01:24:05 [No.489]


人域魔境2 (No.486 への返信) - アズミ

 西三荘を出るとちょうど刻限は13時前。
 暑さもピークに差しかかっていることだし、一行はそこらのファミレスで昼食をとることに相成った。

「いやーすいません、私まで御馳走になっちゃって」

「いい大人が取材料も払わないわけにはいかないからね。こちとら仮にも物書きで飯食ってる身だ」

 それにたかだかファミレスだし、とルームミラーごしに恐縮する文絵に安曇は苦笑した。
 少し視線を移すと、和彦は少し沈んだ様子だった。素直すぎる連中だ、と内心嘆息する。

「今はさ」

「はい……?」

「妖怪法もあるし、異類婚ぐらいで命がどうこうって話にはならないよ。逆に成人すれば親だって少なくとも法的に異論は差し挟めないし――」

 ……それが、良いことかどうかはともかくとして。

「マリーアさんの実家は、結婚に反対しないんじゃないか?」

「……はい、たぶん」

 マリーアの表情は、ミラーの端に途切れて見えない。ただ、その声音はどこか当惑を含んだものだと、安曇は思った。

「そうなんですか?」

「……洋の東西を問わず、水妖は人と交わりたがる」

 きょとんとして言う文絵に応えたのは、助手席で沈黙していた雫だった。

「ダム・ド・ラック、ルサルカ、ローレライ、アプサラス、蛤女房……そして、人魚」

 相変わらず抑揚が無く、説明文を読み上げるような調子であったが……安曇はなんとなく、その表情に視線を送ることを躊躇った。
 他人事ではない。ユーラシア大陸を挟んで西と東、遥かに離れたこの地にあっても。彼女らのその性質は、神の悪意を感じるほどに酷似する。

「ウンディーネには魂がない……というのが、錬金術の父祖パラケルススの言葉だ」

 ウンディーネには魂が無い。
 魂無き木偶人形は死後、ただ塵に還る。だから、彼女らは人と交わりたがる。人と結ばれれば魂を手に入れ、死後は魂のみの存在となり安らぎを得ることができる。

「だからマリーアは結婚したいの?」

 文絵の問いは何気なかったが、しかしナイフのように鋭い。思わず安曇は、継ぐ言葉を詰まらせた。
 しかし、マリーアの回答は素早く、それでいてこれ以上なく素直なものだった。

「そういう事情もなしに、好きだって言ってくれたから……結婚したいんです」

 見えない安曇にも、頬に手を当てて顔を赤らめるマリーアの顔が浮かぶような、そんな蕩けるような惚気だった。思わずハンドルを握りながら破顔する。
 それは文絵も同じだったらしく、声を出して笑いだした。見れば、雫も顔を逸らして肩を揺らしている。

「あまーいっ!
 そっかぁ、本当に好きなんですね、二人とも!」

「い、いやぁ……」

「そういえば、二人はどんな出会いをしたんだい?」

 照れる和彦に、安曇は自分から話を振る。
 自分は二人を別れさせたいわけではないのだ。深刻ぶった話より、どうせなら暖かい話題の方がいい。
 和彦は瞑目し、まるで詩を吟じるように語りだした。

「あれは、去年の夏、修学旅行先のドイツでのことでした。班と逸れて迷い込んだ、森の中の湖。
 ……今でも瞼を閉じれば眼に浮かぶようです。湖面に逆さに突き立った、マリーアの美しい姿……」

 沈黙が車内を支配した。
 和やかな空気は一変、冷たく……は、ならなかったものの、ピタリと静止してしまった。情景がモノクロになったような錯覚さえ覚える。

「え、いや……今、なんだって?」

「え、だから湖面に逆さに突き立った……」

「えっ」

「えっ」


 何それ怖い。


[No.487] 2011/08/04(Thu) 01:59:06

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