湖底市の非日常 - アズミ - 2011/08/02(Tue) 23:21:42 [No.483] |
└ 湖底市の非日常・2 - アズミ - 2011/08/06(Sat) 01:07:36 [No.490] |
└ 日常の裏側・1 - りん - 2011/08/07(Sun) 02:15:48 [No.492] |
└ 非日常の使者 - ジョニー - 2013/02/02(Sat) 01:29:19 [No.504] |
「今日も一日平和で結構なことで結構ですね」 閉館間際で夕日に包まれた図書館内を見ていると、血に染まった戦場と重ならないことも無いが、ここ40年はそんなこともないので、概ね平和だと思っている。 「今日の分の仕事もこれで終わりですし、後は帰ってスーパーで買い物かしら?」 44年前に後に太平洋戦争と呼ばれた醜い戦争が終わって、日本は諸外国、主にアメリカに負けた。 その後、目覚しい発展を遂げて日本は敗戦国とは思えないほどの経済力を持つ国となったが、今じゃ漫画家として有名になったS氏が妖怪を、日本の裏側を表側に持ってきたことは個人的には好ましく思っていない。 裏は裏であり、闇は闇。 あの状態はそれなりに均等が取れていたのだから、表にとって妖怪は幻想であるべきだったと個人的には思っている。 既に起こった事を嘆いてもしょうがないし、そもそも明治以降は退魔業を廃業したつもりで居るのであまり関係ないといえば関係ないのだろうが……。 スーパーでの買い物も終わって、家路に着く。 家のある方角は街の中心から一歩外にでるといきなり田園風景が広がり、防犯灯の明かりだけが目に痛い。 その分、暗がりも多いので防犯灯の明かりを隠せば、星空がきれいでその辺りは葵も気に入っている。 「八岐葵だな?」 突然声がかかる。 声のした方向を見るが、周りは真っ暗で何も見えない。 声から相手が男性であることしか分からなかった。 「人違いだと思いますよ? 私の名前は遠野彩香ですから」 「それは"今の"名前だろう。白を切る気か?」 「そう言われましても、八岐葵と言う名前に心当たりはありません」 「………………」 「………………」 両者に沈黙が横たわる。あちらからはこちらが見えているのだろう。 防犯灯の"明かりすらない"真っ暗闇の中で、こちらを視認できているからには夜目の利く妖怪かそれに準じた能力を持つ人間であるのは確実だ。防犯灯さえ見えないのは、恐らく結界でも張っているのだろう。 軍の人間で暗視スコープを使っている可能性もあるが、それはそれで現実味が薄い。 「まあいい。用件だけ伝えさせてもらう あの方からの伝言だ」 沈黙は金というが、その沈黙に飽きたらしい。 時間をあまり掛ける余裕が無いのかもしれないが。 「私たちはあなた様の復帰を待ち望んでおります。 妖怪法の成立以降、あなた様の足取りを追い続けました。 退魔師が退魔師として生きてゆけないこの世の中を変え、日本の闇を闇として封じれる世を。 妖怪を含め、我らは歴史の裏側に還るべきだと、私は少なくと思っています。 故に、助力を願いたい」 そう、男が言葉を紡いだ後、周りの闇が一瞬にして晴れた。 見慣れた帰り道、空を見ると月が昇り始めていたので、それなりの時間は経っていたらしい。 男の気配も消えたが、おそらくは霊視でもしないかぎりは追いかけられないだろう。 「古巣に見つかっちゃいましたか。また面倒なことになりそうですね」 実を言えば5年以上も前にゲゲゲ同盟の方からもスカウトされていたのだが、退魔業は廃業していることを理由にして断っている。 あちらは、天狗や河童など古い妖怪も多いためある程度名前や外見が知れていたのだろうと思っているが、実際どうやって探し当てたかは聞いていないので知らない。 「明治以降、連絡を絶って隠れたのに………隠遁生活もこれで終わりでしょうか?」 そうならないことを祈りつつ、自衛のための手段を模索し始めた。 [No.492] 2011/08/07(Sun) 02:15:48 |