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No.508へ返信

all こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505]
Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506]
開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507]
Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508]
開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509]
宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510]
宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511]
宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512]
開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513]
戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523]
戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524]
戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525]
戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526]
宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527]
介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528]


Red・U (No.507 への返信) - アズミ

 「問おう。――……汝が我がマスターか?」

 少女の眼前に立つ男は静かに、だが妙に部屋に通る声で言った。
 印象的な蒼い瞳にざんばらに流した金髪、特徴は大雑把に白人のそれだが、より精緻な人種の別はさっぱりわからない。
 身に纏う白銀の甲冑もまた、然り。
 全身を覆い隠すようなフルプレート型のそれではなく、胸当てと篭手、脛当てといった要所のみ護り動きやすさを重視したもの、
 そういった出で立ちの男の体格は英霊と呼ばれるに相応しく、大きいが引き締まったものだ。ただ無闇に巨大な訳ではなく、ひたすらに実戦の為に鍛え上げられた騎士の身体をしている。
 
 「――――」

 「……どうした?」

 「あ、え、ごめんなさい、ちょっと呆けていたわ」

 少女が呆けるのも無理はない。
 眼前の英霊の勇壮たる姿も勿論だが、それ以上に彼女を呆けさせるのは魔術師である彼女を遥かに凌ぐ魔力量を男が持っているからだ。
 恐らく、少女が50年から一生修行を続けたとしても辿り着けぬ境地。マリナを軽自動車に例えるならば、重油タンカーに匹敵する容量差。
 目前に立たれただけで自覚する。自身が召喚したのは人を超えた存在、英霊なのだと。

(こんなに……凄いなんて―――)

 想像はしていた、理解もしていた、
 それでも尚、目前に立たれて圧倒されるその存在感に少女は惚れ惚れとした。
 だがこれ以上呆けている訳にもいかない。マリナは右手の甲を証として自らのサーヴァントの前に晒した。
 意匠化された血の滴る風車が描かれた、魔術紋様。

 令呪。
 
 サーヴァントのマスターたる証。
 本来は人の手に余る高次元存在である英霊を使い魔の枠に縛りつける束縛。

「マリナ=エレノアール。
 それがあなたと契約する魔術師の名よ。覚えておきなさいライダー」

「ほぉ?」

 マリナの名乗りに、ライダーは興味を引かれたように眉を上げた。
 名は魂を掴む一端である。魔術的には身体の一部に等しい重要な情報だ。
 それを敢えて、初見の相手に晒した。

「共に戦い抜きましょう。聖杯を得るために」

 マリナは、差し出された騎士の手を取った。令呪の刻まれた右手で、だ。
 己の急所を臆することなく晒し、信頼と豪胆を示す。堂々たる振る舞いだった。神話伝承に名を刻まれた英霊を前に、侮ることも侮られることも許さない、主君の所作。

「く、くはっ、はっはっは!」

 騎士がさも愉快げに哄笑する。
 ライダーはこの数瞬のやり取りで、マリナを痛く気に入った様子だった。
 特に好みなのは、この手だ。威風に満ちた態度とは裏腹に小さく、震えを隠す少女の手。
 虚勢!
 それは守るに値するか乙女の弱さであり、剣を捧ぐにたる貴種の誇りである。

「然り、然り!
 それでこそ我が伴侶(ヒロイン)! それでこそ我が主君(マスター)!」

 笑みを収め、ライダーが膝をつく。

「委細承知した。このライダー、我が乙女マリナ=エレノアールに勝利を捧ぐとここに誓おう」

 ――騎士の誇りにかけて。

 そう結ぶライダーに、ようやくマリナは幾分か精神を弛緩させる。
 一先ず、聖杯戦争を戦うにあたって最初の難関は突破したらしい。
 確かにマスターはサーヴァントに対して令呪の強制力を持つが、決して絶対の保証のある主従関係ではない。力関係など何をか況や。
 ゆえに、サーヴァントとの関係構築はマスターの最初の関門となる。過去の聖杯戦争においてはサーヴァントとの関係構築を誤ったがために敗退したマスターもいるぐらいなのだ。
 まして、マリナは最悪己のみで戦い抜けると自負するほど自惚れてもいなければ、実力を備えてもいない。

「じゃあ、まず真名を教えて。それによってこれからの立ち回り方が変わってくるわ」

 英霊とは、神話や伝説の中でなした功績が信仰を生み、その信仰をもって人間霊である彼らを精霊の領域にまで押し上げた抑止力の一端、人類種の守護者である。
 例外なく人智を超越した能力を備えるが、一方で生前……人間であった頃の性質は確実に受け継ぐ。アキレウスは英霊に成り果ててすら、踵を弱点とするように。
 で、あるから真名はクラスに次いで重要な情報だ。得意とする戦術や保有するスキル、殊によれば致命的な弱点も含む。
 敵対者には極力秘匿しなければならないし、逆に自身のサーヴァントのそれは把握していなければ精細な戦術を構築できない。
 が、騎士は首を振った。

「無い」

「――……は?」

 一瞬、その言葉を理解しかねて、マリナは眉をひそめた。
 しかしライダーは気にした様子でもなく繰り返す。

「だから、無い。我が真名は無銘。我が人生は虚構。
 ――――我は“騎士”。それ以外の名など必要としない」

 呆然とする主に、騎士はしかし何一つ気負うところなく名乗りを上げた。





「――うむ、なかなか美味だった。ゴチソウサマ。
 ニホンは食事に関して煩い土地だと聖杯が寄越した知識で見知っていたが、流石だな」

 ハンカチで口元を拭きながらライダーが問う。
 その目の前……と、マリナが未だに啜っているのは、出前のラーメンどんぶりだ。召喚儀式でひどく消耗したので手っ取り早い小魔力の補給として事前に頼んでおいたのだ。
 英霊に食事は本来必要ないのだが一応ライダーの分も頼んでおいたところ、ライダー曰く「主君の厚意を無にはできん」とのことで、黙々とラーメンを食べ始めた。……フォークとナイフで。おまけにマリナより早く完食してしまった。
 あまりのシュールな絵面にマリナが絶句しているのをよそに、ライダーが次の話を切りだす。

「……で、聞く限りの状況からすると、この土地の聖杯は贋作の可能性が高いのだったか?」

 本来ならば魔術師の制御など到底受け付ける存在でない英霊がサーヴァントとして魔術師に使役されるのは、ひとえに彼らもまた聖杯を求めるがゆえだ。
 その彼らからすれば聖杯の真贋は無視できない関心事――――であるはずだが、不思議とライダーはそれを聞いても取り乱すことはなかった。
 まぁ、マリナとしても別に彼を落胆させる気は無いのだが。

「そうとも言えないのよ。
 この湖底の聖杯はある意味であるかどうかも解らない“本物”よりも“真作”なの」

「フム?」

 片眉を上げるライダーに、マリナはラーメンをもう一啜りして続ける。

「冬木の大聖杯は魔術協会のロード・エルメロイ二世とトオサカに解体された。
 彼らは大きな勢力と権勢、そして力を持っていたからその強行を時計塔は止められなかった。
 ――けれど、主流派というわけじゃないわ。だからこそ解体した術式の流出までは防げなかった」

「……成程。流出したのはサーヴァントシステムのみではなかった、ということか。
 “聖杯の本物”ではなくても、“聖杯戦争のオリジナル”ではあるからその機能は保証されると」

「そう――……」

 マリナは頷く。

「……――湖底の聖杯は、修復された“冬木の大聖杯”なのよ」


[No.508] 2013/02/11(Mon) 12:16:45

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