こてふぁて・りろーでっど - アズミ - 2013/02/10(Sun) 21:19:38 [No.505] |
└ Red・T - アズミ - 2013/02/10(Sun) 23:05:21 [No.506] |
└ 開戦儀礼・T - アズミ - 2013/02/11(Mon) 09:02:11 [No.507] |
└ Red・U - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:16:45 [No.508] |
└ 開幕 - アズミ - 2013/02/11(Mon) 12:19:44 [No.509] |
└ 宣戦俯瞰・T - アズミ - 2013/02/13(Wed) 23:44:33 [No.510] |
└ 宣戦俯瞰・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 15:12:32 [No.511] |
└ 宣戦俯瞰・V - アズミ - 2013/02/14(Thu) 21:01:40 [No.512] |
└ 開戦儀礼・U - アズミ - 2013/02/14(Thu) 23:33:43 [No.513] |
└ 戦決の朝・T - アズミ - 2013/02/15(Fri) 21:11:52 [No.523] |
└ 戦決の朝・U - アズミ - 2013/02/16(Sat) 00:04:46 [No.524] |
└ 戦決の朝・V - アズミ - 2013/02/16(Sat) 22:13:58 [No.525] |
└ 戦決の朝・W - アズミ - 2013/02/16(Sat) 23:48:16 [No.526] |
└ 宣戦俯瞰・W - アズミ - 2013/02/17(Sun) 11:41:24 [No.527] |
└ 介悟の庭・1 - アズミ - 2013/04/02(Tue) 19:42:09 [No.528] |
波の打ち寄せる音に、想司は目を覚ました。 そこは薄暗い、四方をコンクリートで囲まれた空間。光の漏れる半開きのシャッターから、港湾倉庫の一つだろうと当たりをつけた。 目の前にある、青い塊だけは何かわからなかったが。 「う――……?」 意識が覚醒するにつれて、茫洋とした視界に焦点が戻ってくる。 思考が緩慢で、前後の記憶さえ曖昧だったが……それも、目の前の青い物体が、ランサーの頭であることに気づくまでの話だった。 「わ、わぁっ!?」 慌てて後退しようとして、コンクリートの壁に阻まれる。 ランサーは特に気にした様子もなく、想司の頭をむんずと掴むと、顔を至近距離からまじまじと見つめた。 「聖杯から渡された知識で知ってはいましたが」 髪と同じ、深い藍色の瞳。 “青”は自然の正常作用、惑星の代弁たる神や精霊の領域を示す。自然界の異端たる魔を象徴する“赤”の真逆だ。 「な、なに……?」 端正だが色気より母性を感じさせる、そんな容貌。 香油だろうか? 甘い薔薇の香りが、鼻をくすぐった。 どぎまぎしながら――同時に、自分で女性への免疫の無さに辟易しながら――、想司が問う。 ランサーはたっぷり数十秒、想司の顔を眺めてから、こう言った。 「……本当に平たい顔をしているのですね」 「はい?」 ● _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ 1st Day. Log in/The opening smeared with blood 英雄譚の開幕は常に血で彩られる。 夢見る愚者よ、剣を磨け。 いつか、全てが虚偽であったと悟る為に。 _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ● 「で、今後の方針はどうする、マスター?」 召喚から一夜明け、マリナも魔力、体力共に万全に戻った。 いよいよ今日から聖杯戦争の勝利に向けて動き出すわけであるが――表社会の戦争ですらあるように、当然、聖杯戦争にも相応の作法というものがある。 「まずは教会に行きましょう。監督役に挨拶ぐらいはしておかないと」 聖杯戦争は人類の常識外の魔術対魔術、神秘対神秘、超現象対超現象の戦いとなる。 必然的にその戦いは激しく、無制限に争いを始めてしまえば一つの街など簡単に滅んでしまうだろう。 そうならない為に、本来は魔術協会とは対立関係にある聖堂教会、その聖遺物管理を司る第八秘蹟会が監督役を務め、その為の人員を送り込むのである。 ……最も、これは建前上聖遺物である聖杯の真贋の見極めと所有権を定める上で、政治的折衝の末に定められた妥協点でもあるが。 「監督役は霊器板でサーヴァントの召喚を把握しているから、ライダーが召喚されたことも知ってはいるでしょうけど…… 開戦の布告や敗者の保護、ある程度の神秘秘匿も彼らの管轄だから、顔ぐらいは通しておいた方がいいわ」 「心得た。決闘(フェーデ)を前に布告を行うのは騎士の作法であるからな」 鷹揚に頷くライダーを見て、マリナは気づく。 「あぁ、それと…貴方、霊体にはなれるわね?、さすがにその格好は目立つわ」 本物の金属製の甲冑とあっては、コスプレというのも苦しい。 彼に限らずサーヴァントは現代社会では総じて目立つし、物体のすり抜けや省魔力化など利点が多いため、有事以外は霊体化するのが普通だ。 「うむ、移動の間は姿を消しているとしよう」 身体を霊体とし、姿を消したライダーを付き従えてマリナは家を出た。 教会は街の中心部。マリナの家は東側の新市街区であるため徒歩だと少し遠く感じる距離だが、ライダーに街の様子を伺わせる目的もあったのだ。 (どう、街の様子は?) 姿は見えないがライダーがあちこち物珍しそうに見回しているのを感じ取って、念話で話しかける。 マリナは戦う上での地理的条件について尋ねたつもりだったのだが、返答は観光客さながらのものであった。 (知識として与えられてはいたが、やはりこの眼で見てみるものだな。 良い時代だ。洗練された武勲は平和な中にあってこそ生まれ出でる文化。こうした時代は私と相性が良い) (……そうじゃなくて、これから戦場になる場所としてどうかってこと。 真面目にやりなさいよ) 呆れて言うが、ライダーは口を尖らせて――見えないのだが、恐らく――反論する。 (真面目だとも。後で……この時代ならば書店、か。書店を案内してくれ。図書館でも良い) (書店〜?) (これから戦い抜く上で重要なことだ) 訝るマリナも、そう言われては頷くしかない。 そうこうしている内に、丘の上に白亜の壁と十字架が見えてきた。 (あそこが?) (そう、あそこが第八秘蹟会から派遣された監督役の――……?) 思わず念話を中断する。 鼻孔を突く、不快な臭い。鋭く、それでいて粘つくような鉄の臭い。 ……血の、臭い。 「ライダー」 「うむ……用心しろ、マスター」 呼びかけると、即座に傍らに完全武装したライダーが出現する。 腰に差したレイピアを引き抜き、油断なく意識を周囲に巡らせ始めた。 「――――此処は既に、鉄火場だ」 ● 時間は少し、遡る。 ランサーが言うには、船上でキャスターを撃退したあとフェリーが止まってしまったため、救命ボートを調達して湖底港まで想司を運んだそうなのだが。 「あれ、僕の怪我は……?」 「治しておきました。僅かながら、秘蹟の心得がありましたので」 「秘蹟の?」 一般的に言う秘蹟とは、聖堂教会が認める神から与えられる七つの恵みである。すなわち洗礼、堅信、聖体、ゆるし、病者の塗油、叙階、結婚だ。 が、魔術師がそれを言う場合、聊か異なる意味を持つ。 そもそも聖堂教会の教え、聖言は現在世界に存在する人々の信仰……魔術基盤のうち最も強力なものとされる。 しかし、聖言に基づく魔術の行使は主の御技を模倣する行為である。 それは原初の魔術師シモン・マグス以来聖職者にとって禁忌であり、ゆえに教会は唯一、洗礼詠唱のみ習得を許している。 が、もちろんサーヴァントとなる英霊には例外もある。 未だそうした禁忌が定められる以前、原初の聖堂教会に縁の者。……あるいは、信仰の果てに自然に聖霊に力を授けられた者。 「ランサー、ええと、あなたは……」 おそらく想司が所持していたロンバルディアの鉄王冠の破片を媒介として召喚された英霊なのだろうが、事前に予測していたいずれとも異なる英霊に見えた。 英霊の性別が歴史に伝わるものと異なった、という例は幾らか聞いているが、性別を度外視してもコンスタンティヌス帝には見えないし、況やナポレオンやシャルルマーニュにも見えない。 となると――…… 「申し遅れました」 想司の訝りに、ランサーは気づいたようにローマ式の礼をする。 「召喚に応じ、ランサーのクラスで罷り越しました。フラウィア・ユリア・ヘレナ・アウグスタと申します」 「フラ……って、ことは……聖ヘレナ? 亜使徒聖太后?」 「東方教会ではそちらの方が通りがいいかもしれません」 ローマ皇太后フラウィア・ユリア・ヘレナ・アウグスタ。 帝政ローマにおいてキリスト教を初めて公認した聖大帝コンスタンティヌス1世の母。 私財を投げうちキリスト教の為に尽力し、イエス没後200年以上所在が不明になっていたゴルゴタの丘を比定し、聖墳墓教会の下地を作った人物。 その功績から正教会によって亜使徒(十二使徒に次ぐ功績を持つ聖人)に列せられた女性である。 「……そうか、ロンバルディアの鉄王冠を作ったのは聖ヘレナだったっけ。 あんまり英霊、って感じがしなくて失念してたけど……あ、いやすいません」 相手は人類史に名を刻んだ偉人である。礼を失したかと思い謝罪するが、ランサーは苦笑してそれを制した。 「お気になさらず。今はあなたのサーヴァントでしかありません。畏まった態度も結構です」 それから両手を胸の前で組み、思案する。 「実際――……私自身、呼ばれるとは思いませんでした。戦はおろか、武器を取ったことさえない私が。 おそらく、あなたによほど強く私を引きつける縁があったのでしょう」 媒介を使用した場合、英霊はその媒介に強く関わる者が呼ばれる。だが、もし媒介で召喚しうる英霊に複数の該当者がいたら? その結果が、これらしい。“媒介で呼びうる候補者の中から”“最も縁の強い者を引き寄せる”。そういうこと。 「せめて帝国を再統一した息子ならば、もっとお力になれたと思うのですが……。 召喚された以上は微力を尽くす所存です。どうか、お許しを」 「そ、そんなことないって! 」 深く礼をするランサーに、慌てて想司は頭を上げさせる。 「むしろ武張ったサーヴァントが出てくるより安心したよ。 見ての通り僕は覇気の無い男だからね。そういう英霊だったら、あっという間に愛想を尽かされちゃったかも。 ……ともあれ、その、これからよろしく頼むよ。僕は四谷想司。……マスターとかじゃなくて、名前でいいから」 ランサーは想司の差し出した手をしばし不思議そうに見ていたが、やがて優しく握り返した。 「――こちらこそ。よろしくお願いします、ソウシ」 その真っ直ぐな態度に、想司はどうしても言いだせなかった。 この聖杯戦争を、すぐに棄権するつもりだと。 [No.523] 2013/02/15(Fri) 21:11:52 |